APS-C単焦点レンズのススメ(ペンタックス編)

Reported by 大浦タケシ


 ペンタックスブランドには魅力ある単焦点レンズがいくつかラインナップされている。APS-C専用のDA Limited(リミテッド)シリーズもそのひとつで、全長を従来よりも大きく抑え、鏡銅に削り出しアルミニウムをマテリアルとするなどこだわりのあるつくりが特徴だ。

 現時点では、マクロレンズを含む超広角から望遠まで5本がリリースされ、いずれも同ブランドのデジタル一眼レフカメラユーザーから高い支持を得ている。そのようなDA Limitedシリーズの中から、今回DA15mmF4 ED AL Limited、DA 40mm F2.8 Limited、DA 70mm F2.4 Limitedの3本をピックアップして単焦点レンズの魅力を紹介したい。

 まず、3本の共通する魅力といえば、前述したように鏡銅の大きさとその造りの良さだ。全長をギリギリまで詰めた大きさは、一眼レフカメラ用のレンズでもこんなに小さくなるのだと驚かされる。特にDA 40mm F2.8 Limitedのコンパクトさは特筆すべきもので、15mmの全長はいわゆる“パンケーキ”の名に恥じないものである。

 同様にDA 70mm F2.4 Limitedも26mmの全長で広義的にパンケーキといっても差し支えない。カメラに装着した印象は、当然のことながら全長の長いズームレンズにくらべ素っ気なく、シンプル。押しの強いスタイルを好む一眼レフカメラユーザーには敬遠されることだろう。反面、スマートで軽快なスタイルを好むユーザーや、取り回しを優先させたいユーザーにとってはこれほど適したレンズはないはずだ。

パンケーキとまではいいがたいが、それでも全長を抑えたDA 15mm F4 ED AL Limited。引き出し式のフードを備える。以下、すべてK-7との組み合わせ例デジタル一眼レフカメラ用のレンズで最薄を誇るDA 40mm F2.8 Limited。前玉がなければ、まるでボディキャップのようだ
DA Limitedシリーズの中では一番明るいDA 70mm F2.4 Limited。中望遠レンズとは思えないほど全長は短い

 アルミニウム削り出しによる質感の高いつくりで、所有する楽しさも味わうことができる。ローレットは細かく刻まれ、使い込むうちに角の塗装が剥がれアルミニウムの地がところどころ見えてくるのも良い雰囲気。距離目盛りなどエングレーブされているのもうれしい仕様だ。コンパクトな鏡銅ながら、手に持つとグッとくる重量感は、プラスティック主体のレンズではなかなか味わうことはできない。これだけでもいい写真が撮れてしまいそうな気がするほどである。いずれのフードも金属製で、こちらも高い質感を誇る。

 操作性で特筆すべきところは、今回の3本も含めDA Limitedレンズにはクイックシフトフォーカスシステムが搭載されていることだろう。これはAFから切り換え操作なしにMFによるピント調整を可能とするもの。鏡銅内にAF駆動用の超音波モーターを搭載するレンズではよく見かける機能であるが、カメラ側のモーターで駆動するレンズではあまり見当たらないものである。画角の狭いレンズであればあるほどピント位置がシビアになるが、今回のDA 40mm F2.8 LimitedとDA 70mm F2.4 Limitedの撮影では高い頻度で使用し大変使いやすく感じた。

 また、フォーカスリングの動きは、重厚なトルク感こそないものの、いずれもスムースで節度あるものであった。余談とはなるが、このクイックシフトフォーカスシステムを搭載するレンズは、DA Limitedシリーズ以外にも同ブランドのレンズに多数搭載されている。まだ試したことのないユーザーはぜひ使ってみてほしい。

 それでは3本それぞれを見てみることにする。

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DA 15mm F4 ED AL Limited

DA 15mm F4 ED AL Limited

 DA Limitedシリーズのなかでも比較的新しいレンズだ。35mm判に換算して、焦点距離22.5mmの画角に相当。レトロフォーカスタイプの光学系ながら鏡銅全長は39.5mmと短く仕上がっている。フードは花型で組み込み式を採用。鏡銅より引き出して使用するが、効果は高そうだ。

 描写に関しては、開放値における画像周辺部の光量は大きな不足はない。像の流れや画像のにじみに関してもまったくないわけではないが、ズームレンズの描写に比べれば良く抑えられている。開放値がF4と少々暗めであることなど無理のない設計の光学系がよい結果を生んでいるのだろう。ヌケのよさとコントラストの高さは、単焦点レンズらしいところ。広角レンズでは現れやすい歪曲収差も極端に目立つようなものではない。


K-7 / DA 15mm F4 ED AL Limited / 約9.5MB / 3,104×4,672 / 1/400秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 15mmK-7 / DA 15mm F4 ED AL Limited / 約9.5MB / 4,672×3,104 / 1/250秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 15mm
K-7 / DA 15mm F4 ED AL Limited / 約10.0MB / 4,672×3,104 / 1/160秒 / F8 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 15mmK-7 / DA 15mm F4 ED AL Limited / 約9.3MB / 3,104×4,672 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 15mm
K-7 / DA 15mm F4 ED AL Limited / 約9.1MB / 3,104×4,672 / 1/800秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 15mmK-7 / DA 15mm F4 ED AL Limited / 約10.3MB / 4,672×3,104 / 1/1,000秒 / F4.5 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 15mm

DA 40mm F2.8 Limited

DA 40mm F2.8 Limited

 DA 40mm F2.8 Limitedの特長は、繰り返しになるが何と行ってもその薄さだ。パンケーキレンズの例えとしてよく“ボディキャップのような”という言い表し方があるけれど、まさにそのとおりである。カメラに装着した印象はどことなくユーモラスで親しみが持てる。質量も90gしかなく、スナップ撮影でのカメラの取り回しもたいへんしやすい。

 操作性も、フォーカスリングの幅は極端に細いものとなるものの使いづらく感じることはほとんどなかった。フードはネジ込み式のドーム型のものを採用する。

 気になる描写は、概ね満足できるレベル。解像感が思ったより少々低いように思えるが、それは単焦点レンズとしてシビアに見たときのこと。良好なコントラストと諸収差をよく抑えた描写で、不足のないレンズといえる。35mm判換算で焦点距離60mm相当のちょっと長めの標準レンズとして画角的にも使い勝手はよい。


K-7 / DA 40mm F2.8 Limited / 約9.2MB / 3,104×4,672 / 1/80秒 / F11 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 40mmK-7 / DA 40mm F2.8 Limited / 約9.6MB / 4,672×3,104 / 1/80秒 / F8 / +0.3EV / ISO200 / WB:オート / 40mm
K-7 / DA 40mm F2.8 Limited / 約9.7MB / 3,104×4,672 / 1/1,000秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 40mmK-7 / DA 40mm F2.8 Limited / 約8.9MB / 3,104×4,672 / 1/640秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 40mm
K-7 / DA 40mm F2.8 Limited / 約8.1MB / 4,672×3,104 / 1/200秒 / F3.5 / +1EV / ISO100 / WB:オート / 40mmK-7 / DA 40mm F2.8 Limited / 約9.0MB / 4,672×3,104 / 1/30秒 / F11 / +0.3EV / ISO100 / WB:オート / 40mm
K-7 / DA 40mm F2.8 Limited / 約8.9MB / 3,104×4,672 / 1/640秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO800 / WB:オート / 40mmK-7 / DA 40mm F2.8 Limited / 約10.2MB / 3,104×4,672 / 1/160秒 / F5.6 / +1EV / ISO400 / WB:オート / 40mm

DA 70mm F2.4 Limited

DA 70mm F2.4 Limited

 DA 70mm F2.4 Limitedは、35mm判で105mm相当のレンズだ。得られる画角を考慮すると、26mmの全長は驚異的。スナップ撮影などでは、望遠レンズらしからぬハンドリングの高さを誇る。また、開放F値はDA Limitedシリーズの中では最も明るい。フードは別体の引き出しタイプを採用する。鏡銅と同じ金属製で、遮光効果も十分だ。

 もちろん描写特性にも不足はない。画面中央と周辺部の解像感、光量などの違いの差は極端に少なく、画面全体平均的に高い描写を誇る。収差による色のにじみなどもそれほど感じられず、シャープネスも十分である。クイックシフトフォーカスシステムを活用したときのフォーカスリングのフィーリングも良好だ。


K-7 / DA 70mm F2.4 Limited / 約8.6MB / 4,672×3,104 / 1/1,250秒 / F2.4 / +0.3EV / ISO200 / WB:オート / 70mmK-7 / DA 70mm F2.4 Limited / 約8.3MB / 4,672×3,104 / 1/2,500秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 70mm
K-7 / DA 70mm F2.4 Limited / 約10.7MB / 4,672×3,104 / 1/500秒 / F2.4 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 70mmK-7 / DA 70mm F2.4 Limited / 約8.9MB / 3,104×4,672 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 70mm
K-7 / DA 70mm F2.4 Limited / 約8.4MB / 3,104×4,672 / 1/500秒 / F2.8 / -1.7EV / ISO100 / WB:オート / 70mmK-7 / DA 70mm F2.4 Limited / 約9.6MB / 3,104×4,672 / 1/640秒 / F4 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 70mm
K-7 / DA 70mm F2.4 Limited / 約10.7MB / 4,672×3,104 / 1/200秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 70mm


 今回の企画では時間的な都合もあって、撮影はすべて都内で行なった。しかし撮影中、このレンズたちを携えどこか知らない街をブラブラと歩き回りたい衝動に強くかられることがしばしばあった。

 コンパクトでハンドリングがよく、描写特性も満足、しかもモノとしてのつくりも卓越したレンズとなら、どんなに楽しい撮影旅行となるだろうか。DA Limitedシリーズはそんな夢の抱ける数少ないレンズである。





大浦タケシ
(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。

2010/4/26 00:00