特別企画

デジタル時代の“新ディスタゴン”現る!!

新ツァイスレンズ「Distagon T* 1.4/35 ZM」をライカMとα7 IIで試す

ライカM(Typ 240)に装着したところ

ディスタゴンT* 1.4/35 ZMは、コシナとカールツァイスのコラボレートによるツァイスZM(Mマウント互換)レンズシリーズでは久しぶりの新製品となる注目の大口径広角レンズである。

ZMレンズシリーズは当初、同社のツァイス イコンやライカMシリーズをはじめとするMマウントレンジファインダーカメラのために開発された。とくに広角系レンズでは、一眼レフ用のそれと異なり、ミラーの駆動距離を考慮する必要ないため、バックフォーカスに余裕がうまれ、設計の自由度が増すことが大きな特徴となっており、このため多くの広角レンズ系では対称型設計を基本としたレンズに与えられる名称「ビオゴン」名が主に冠された。

ビオゴンはツァイスの名設計者ルードヴィッヒ・ベルテレによる発明で、もはやこの名称は神格化されているほどだ。

撮影時の天候は曇天。鈍い光をうまくつかまえて澄んだ光に変換させる力のあるレンズだと思う。コントラストもよく、合焦点の線の細さもいい。線のにじみもなく大口径広角レンズらしさをまったく感じさせない。α7 II / 1/500秒 / F1.4 / 0EV / ISO200 / マニュアル / 35mm
被写体とカメラを正対させれば広角らしさを抑制することがでできる。壁や葉の再現も見事で、画像の平坦性が非常に優秀な証であろう。ライカM(Typ 240) / 1/250秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / 35mm
窓からスポット的に弱い光が当たっているのを生かしてみた。至近距離でかつ明暗差が大きい条件だけど、美しい再現だ。光の厳しい条件ほどツァイスらしさが光るように思う。α7 II / 1/1,000秒 / F1.4 / 0EV / ISO400 / マニュアル / 35mm

なぜ“ディスタゴン”なのか?

本レンズの名称はこの“ビオゴン”ではなく、“ディスタゴン”T* 1.4/35 ZMとなっていることにまず注目してみたい。

「ディスタゴン」の名称はディスタンス(距離)とゴン(角度)を組み合わせたもので、主にハッセルVシステムやヤシカ・コンタックスなど一眼レフ用のレトロフォーカス(逆望遠)タイプの広角レンズ名に冠されており、ツァイスの設計者、エルハルト・グラッツェル博士が最初に開発したものだ。

窓からの光を主光源にした逆光撮影。性能変化はほとんど感じられず、優れた描写を示す。より繊細な表現が欲しい場合はもう少し絞り込めばいい。α7 II / 1/160秒 / F2.8 / 0EV / ISO400 / マニュアル / 35mm
本来はこれだけの明暗差があるとどこかに破綻が出てきてしまうものだが、それがまったくないのはすばらしい。デジタルの高繊細な描写に対応した設計なのであろう。α7 II / 1/160秒 / F2.8 / 0EV / ISO400 / マニュアル / 35mm

初期のレトロフォーカスタイプのレンズは、大口径化には有利で、周辺光量も比較的豊富だが、ディストーションが残存しやすく、とくに大口径レンズでは至近距離においての周辺部の性能低下の懸念が指摘されたこともある。

このため各社とも工夫をこらし、今では光学設計の進化に伴い新硝材の採用や非球面レンズが容易に使えるようになったこと、フローティングシステム(遠近距離収差補正)機能の採用によって、これらのリスクは解消されている。

したがって、本レンズは旧来の概念にとらわれることなく、デジタルレンジファインダー機とミラーレス機のために新たに設計された、新時代の“ディスタゴン”という解釈をもってみたほうがよいだろう。

やや中庸な距離をとり、窓からの光のみで撮影。階調のなだからな繋がりがいい。開放絞りでもコントラストが高くシャープな描写。前後ボケは標準、望遠系レンズより小さいが自然な再現である。ライカM(Typ 240) / 1/500秒 / F1.4 / 0EV / ISO200 / マニュアル / 35mm
絞り開放で白い壁を背景にするとわずかに周辺光量落ちがあることがわかるが、プリントでいえば、周辺を意図的に焼き込んだような感じになり、画面を締める効果を発揮する。至近距離なのでEVFを用いてフォーカシングしている。ライカM(Typ 240) / 1/250秒 / F1.4 / 0EV / ISO400 / マニュアル / 35mm

レンズ構成は7群10枚と贅沢なもので、非球面レンズとフローティングシステムが採用され、撮影距離や絞りによらず、行き届いた収差補正が行われていることが特徴である。外観はZMシリーズ広角レンズとしては大きめで全長も長めだ。重量は381g。

MFレンズならではの高い品位

シルバーとブラック仕上げがそれぞれ用意され、モノとしての存在感が重視されているのがいい。小型化を追求するよりも光学性能を重視した考え方で設計されているのがいかにもツァイスらしい思想だが、カメラに装着した時のバランスがよく、撮影時には重さを感じさせない。

第1面の凹レンズの存在も個性的で、引き込まれるような艶があるのがいい。絞りのクリック感や、フォーカスリングのロータリーフィーリングもMFレンズならではの品位がある。

ストロボを壁にバウンスさせ、絞り込んだ条件での描写をみてみた。さすがにスキのない高い描写をみせる。収差補正が行き届いているので、素直な描写だ。ライカM(Typ 240) / 1/60秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / マニュアル / 35mm
大口径広角の開放絞りではもっともフォーカスを外しやすい条件の距離。ライカMは画面中央しかフォーカシングできないが、それでも問題のない安定的な合焦をみせた。ライカM(Typ 240) / 1/360秒 / F2 / 0EV / ISO400 / マニュアル / 35mm

レンズの鏡胴が長くなるとレンジファインダーカメラでは、ファインダーの右下のケラれの心配が出てくるが、手元にあるM型ライカ数種とツァイス イコンに装着してみたところ、ファインダー右下が少しケラれる程度で、実用上はほぼ問題のない程度だ。

専用のフードにもスリットが入っているため視認性も問題ない。もっとも最新のライカM-P(Typ240)やM(Typ240)では、EVFやライブビューが使用できるので、厳密なフレーミングを行いたい場合やケラれが気になるときはこちらを利用すればより確実になる。

余裕のあるシャープな描写力

実際の描写性能をみると、像は開放から非常にシャープネスが高く、繊細な描写をすることがわかる。合焦点のソリッドな再現、コントラストの高さには驚かされるほど。画像の平坦性もよく、チカラのあるレンズという印象を受ける。

遠距離での描写力をみてみたが、非常に秀逸であり、高画素機でもそのポテンシャルを生かすことができ、緻密な再現性が期待できるだろう。ライカM(Typ 240) / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / 35mm

開放時の周辺光量落ちも軽微で、このあたりにディスタゴンとしての特徴を感じさせる。ただ、あまりにも高性能なため、ポートレートなど軟らかめの写真を得たいという場合はカメラ側のコントラストやシャープネスなどパラメーターをやや弱めに設定したほうがよい場合も出てくるかもしれないが、これはレンズのチカラに余裕があるからこそできる技でもある。

絞りによる性能変化は、ほとんど感じないので、絞りは光量調整と被写界深度のコントロールのためのみに存在すると断言してよい。歪曲収差はほぼ0に等しく、建築物での撮影にも不自然さを感じさせない。

大口径レンズということでボケ味も評価要素になるが、標準、望遠系のレンズと異なり、前後ボケは小さくなるが、非球面レンズを搭載した広角レンズにありがちな巻き込んだようなクセはなく良好である。コーティングは最新のT*。逆光時の性能低下も小さい。

絞り込んだ時の繊細な描写も魅力的だ。解像力とコントラストのバランスがとれ、画質の均質性も見事である。風景写真にも向いたレンズといえる。ライカM(Typ 240) / 1/250秒 / F5.6 / 0EV / ISO200 / マニュアル / 35mm

是非使いたい「クローズフォーカスアダプター」

今回は使用カメラにライカM(Typ240)とソニーα7 IIを選択した。

前者は正攻法のレンジファインダーで使用してみたが、速写性がよく、街のスナップや風景にも重宝した。レンジファインダーによるピント合わせの精度も問題ないが、より確実性を上げるため、至近距離、かつ絞りを開き気味に設定した撮影の場合のみEVFやライブビューを使い、拡大表示を併用することによってフォーカスを厳密に追い込んでみた。撮影方法をフレキシブルに選択することができ、合理的に結果を追求することができるのが最近のライカ撮影術というものであろう。

後者ではコシナのマウントアダプター「VM-Eクローズフォーカスアダプター」を併用して使用したが、アダプター側のフォーカスリングのロータリーフィーリングも完璧な仕上がりで、この種のアダプターの中では突出した操作性だ。

VM-Eクローズフォーカスアダプターを使用してα7 IIに装着

ほぼ純正のEマウントMFレンズと変わらない使用感が得られたことに驚かされた。また、0.7mという最短撮影距離よる制約がなくなり、実質的には0.4m程度まで寄れる。このため簡易的なクローズアップ撮影も可能になるので、撮影領域はさらに拡大する。

コシナのVM-Eクローズフォーカスアダプターを繰り出して、レンズ本体の0.7mの最短撮影領域を超えた簡易的なクローズアップ撮影。性能低下もないし、ボケはさらに大きくなる。α7 II / 1/250秒 / F2 / 0EV / ISO400 / マニュアル / 35mm

またα7 IIの大きな特徴であるボディ内手ブレ補正も使用できるので、微量光下の撮影ではたいへん重宝する。α7 II装着時には忘れないようにカメラに焦点距離を設定したい。

3本の35mmレンズが揃った

ツァイスZMシリーズの35mmレンズは本レンズのほかにビオゴンT* 2.8/35mm ZM、ビオゴンT* 2/35mm ZMがラインアップされている。この2本のレンズには「ビオゴン」名が冠され、対称型設計をさらに発展させたもので、硝材には異常分散ガラスは使われているものの、非球面レンズは採用されていない。

球面レンズでも対称型とすることでディストーションに対する補正に優れていること、レンズの味わいを残しつつ高性能化に成功している。

ここに今回ディスタゴンT* 1.4/35 ZMが加わったことで、ZMシリーズは“35mmの目”を3種持つに至った。撮影目的や予算に応じて選択することができるほか、それぞれの微妙な描写の違いを楽しんでみるのも面白いだろう。

コシナ・ツァイスのZMレンズシリーズはもはやライカをはじめとするMマウント互換のレンジファインダーカメラのためだけにあるのではなく、各種ミラーレス機の登場によって、ユニバーサルマウントとしての性格を持ちつつあるわけだ。

協力:株式会社コシナ
モデル:紗々

赤城耕一

写真家。東京生まれ。エディトリアル、広告撮影では人物撮影がメイン。プライベートでは東京の路地裏を探検撮影中。カメラ雑誌各誌にて、最新デジタルカメラから戦前のライカまでを論評。ハウツー記事も執筆。著書に「定番カメラの名品レンズ」(小学館)、「レンズ至上主義!」(平凡社)など。最新刊は「ズームレンズは捨てなさい!」(玄光社)。