カシオEXILIM EX-ZR20「HSナイトショット」を試す

〜“ISO12800+連写合成”の暗所撮影に挑戦
Reported by 本誌:折本幸治

 コンパクトデジタルカメラが一般的なアイテムとして市民権を得てから、15年以上が経つ。画素数の増加はもとより、手ブレ補正、高感度、顔認識など、市場のニーズを取り入れながら進化を繰り返してきたのはご存知の通りだ。さらに昨今ではズームレンズの高倍率化や、カメラらしさを追求した高級路線への動きが目立つ。その背景には、スマートフォンのカメラ機能との差別化が求められていることが考えられ、特徴のないコンパクトデジタルカメラでは生き残れない時代が迫りつつあるといわれている。

 そうした中、カシオが以前より力を入れているのが、“連写性能”だ。小誌の読者なら「HIGH SPEED EXILIM」(ハイスピードエクシリム)というシリーズ名を聞いたことがあるだろう。2008年発売の「EX-F1」の時点でCMOSセンサーをいち早く採用。一眼レフカメラをしのぐ高速連写や、超スローモーションの動画「ハイスピードムービー」の衝撃は大きかった。その後、2009年発売の「EXILIM EX-FC100」で、一般的なコンパクトデジカメのような小型ボディを実現。高速連写やハイスピードムービーといった他社モデルにない機能が、一気に身近な存在になったのは画期的だった。

 また最近のカシオは、“サクサク撮れる”あるいは“快速シャッター”というキーワードをカタログなどで使っている。AF速度や撮影間隔の短さなど、撮影時のレスポンスの良さを表したフレーズで、確かにカシオ製品はキビキビと動作するため、撮影のテンポがすこぶる良い。下手なレンズ交換式カメラよりも軽快に撮影できるのだ。

 そうした流れを汲む現行のHIGH SPEED EXILIMが、「EXILIM EX-ZR200」(以下EX-ZR200)と「EXILIM EX-ZR20」(以下EX-ZR20)になる。

EX-ZR200EX-ZR20

 ともに、1/2.3型有効1,610万画素の裏面照射型CMOSセンサーを搭載。主な違いはレンズのズーム倍率で、それにともないボディの重さも異なる。

 光学12.5倍ズームレンズを搭載した上位機種「EXILIM EX-ZR200」は、海外旅行など大型イベントで使用したいカメラ。EX-ZR20より40gほど重くなるが、広角から超望遠まで、カバーできる撮影シーンは幅広い。

 一方、光学8倍ズームレンズのEX-ZR20は、一般的なコンパクトデジカメと同等のサイズのため、日常的につきあえる気軽な高性能機という印象。連写性能などもEX-ZR200と同等だ。

 しかも最新機種だけあって、EX-ZR20にしかない新機能もいくつか搭載されている。そのうち面白いのが「HSナイトショット」だ。高速連写と高感度撮影を組み合わせることで、ほとんど暗闇でも明るく撮影できるという機能だ。

 今回はHSナイトショットをはじめ、EX-ZR20の新機能をいくつか試してみた。すでにEX-ZR20の新製品レビューは掲載済みだが、コンパクトデジカメの付加機能がいま、どういう進化をしているのかお見せできればと思う。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

コンパクトなボディに30枚/秒の連写機能を装備

 その前に、EX-ZR20のスペックを簡単に紹介しよう。撮像素子に1/2.3型の裏面照射型CMOSセンサーを採用。有効画素数は約1,610万。裏面照射型CMOSセンサーだけあって、最高感度は通常撮影でISO3200とすでに高い。

 レンズは焦点距離25-200mm相当(35mm判換算)F3.3-5.9の光学8倍ズーム。ズーム倍率は上位モデルEX-ZR200に引けを取るものの、一般的な撮影シーンでほぼ問題になることはないだろう。広角端が25mm相当からなのも使いやすい。ズーム倍率を下げたことで、ボディの重量がEX-ZR200より約40g抑えられているのも前述した通りだ。ちなみに、手ブレ補正はセンサーシフト式を採用する。

 液晶モニターは3型46万ドット。記録メディアにはSDXC/SDHC/SDメモリーカードを採用する。HDMI端子も備えており、動画は最大でフルHDでの記録が可能。圧縮方式はH.264。もちろん、カシオお得意のハイスピードムービー(最大480fps)も楽しめる。

 連写性能は最大30枚/秒。一度の連写で1秒間=30枚しか撮れないが、ほとんど動画を撮っているかのような分解能で記録される連写性能は圧巻だ。この連写性能と裏面照射型CMOSセンサー、そして画像処理エンジン「EXILIM ENGINE HS」の力を組み合わせた機能のひとつが、HSナイトショットになる。


暗いシーンを明るく写し出す「HSナイトショット」

 HSナイトショットは、カシオのデジタルカメラでおなじみのBS(ベストショット)ボタンから呼び出す。BSボタンを押すとベストショットの一覧が表示されるが、そのうちHSナイトショットは、最上段の左から2番目というなにげに良い位置にある。

BSボタンを押すとベストショット一覧が現れるEX-ZR20から新設されたHSナイトショット

 HSナイトショットを一言で説明すると、「高感度で高速連写した画像を合成してノイズを低減する機能」となる。その力は、ほとんど暗闇でも被写体を浮かび上がらせるほどだ。もちろん三脚は必要なく、手持ちでの撮影を想定した機能になっている。

 プロセス自体は従来からEXILIMに備わっている「HS夜景」と似ているが、HS夜景よりもISO12800など高感度で撮影するのが特徴。そのためHS夜景では暗めに仕上がるシーンでも、驚くほど明るい写真が得られる。

通常撮影HS夜景
HSナイトショット

 最高でISO12800の高感度で撮影するため、画質はどうしてもHS夜景より劣る。ノイズが目立つというよりは、輪郭や色に切れがない仕上がり。また、暗いところで撮るほど1枚1枚の感度が上がり、それに伴い画質も劣化する。仕組み上、仕方がないだろう。

 とはいえ、いままで撮る気にならなかったほど暗いシーンを撮影できたり、真っ暗な場所の細部を昼間のように浮き上がらせる面白さを評価したい。デジタル技術により、また写真の常識が変わってしまった瞬間だ。

 この機能に限らず、連写や合成を利用したEX-ZR20の機能は、画像処理エンジン「EXILIM ENGINE HS」の力が大きい。同エンジンはデュアルCPUを採用しており、例えば撮影動作と画像処理を分担するなどの並行処理が可能だ。さらにデータは、「リコンフィギュラブルプロセッサ」にも導かれる。

 リコンフィギュラブル(再構成可能型)プロセッサとは、回路の構成を必要にあわせて変化させて演算し直せるもの。こうしたハードウェアをデジカメ用として作り出せるのもカシオの底力だし、コンパクトデジカメでデュアルCPUを駆動させる省電力技術もカシオが得意とするところだ。

HSナイトショット撮影中の画面表示

 正直いって、HSナイトショットの使いどころは難しい。そもそも肉眼で視認できる程度の明るさで撮りたいなら、HS夜景でもほぼ問題ない。さらに暗いシーンを撮りたい場合や、あるいはHS夜景では明るさが足りないと感じるときに使う機能なのだろう。また、連写合成系の機能なので、動く被写体を止めて写すのは基本的に無理。記録画素数も約1,000万画素に固定されてしまう。撮影後に連写した画像を合成するため、連写数が多いほど(=撮影シーンが暗いほど)撮影後の処理に時間がかかるのも難点だ。

通常撮影HS夜景
HSナイトショット
通常撮影HS夜景
HSナイトショット

 制約はいくつかあるものの、普段気にも留めず通っている夜道などをHSナイトショットで撮ると、意外な発見があって面白い。もちろんそういう用途なら、プロ用のデジタル一眼レフカメラにもISO12800相当の高感度撮影が可能な機種があり、そちらの方が画質が良いのは間違いない。しかし、いつも持ち歩いているコンパクトデジカメで、気軽に暗所撮影が楽しめることこそ、本機のポイントだ。一見飛び道具的な機能だが、これまたHIGH SPEED EXILIMの思想を受け継ぐものだとも考えられる。


遊べる新機能「アートショット」

 もうひとつの独自機能「アートショット」は、写真にエフェクトをつけて表現を変化させるもの。他社のカメラにも似たような機能はあるが、EX-ZR20は後発だけに効果のつけ方が上手く、さらに3段階の「アート効果」(エフェクトの強弱)を設定できるなど凝っている。

 なおEX-ZR20のアートショットは、撮影時にエフェクトのかかり具合が液晶モニターに反映されない。もちろん撮影後、再生モードにすれば確認できるが、何となく釈然としない印象も受ける。その代わり撮影後に待たされることがないため、この手の機能としては珍しい部類に入る。他機種だと撮影時の液晶モニター表示がコマ落ちしたり、撮影後に数秒待たされれがちだが、EX-ZR20なら通常撮影とまったく同様、ストレスフリーだ。これもまた、快速シャッターを謳うEXILIMらしい方向性といえるだろう。

アートショット:トイカメラアートショット:ソフトフォーカス
アートショット:ライトトーンアートショット:ポップ
アートショット:セピアアートショット:モノクロ
アートショット:ミニチュア

 比較的大げさに効果がつくため、アート効果を選べるものは、あらかじめ最弱の「LEVEL 1」にしておくとよいだろう。「LEVEL 1」で物足りなければ「LEVEL 2」や「LEVEL 3」に上げていけば良いだろう。なお、設定したLEVELは電源をオフにしても維持される。

 ちなみに、EXILIMシリーズですでにおなじみの「HDR」や「HDRアート」も健在。こちらも効果としては良く練られており、いまだ研究のしがいのある機能だと感じる。

アートショット:トイカメラ1アートショット:トイカメラ2
アートショット:トイカメラ3

アートショット:ソフトフォーカスLEVEL1アートショット:ソフトフォーカスLEVEL2
アートショット:ソフトフォーカスLEVEL3

アートショット:ライトトーンLEVEL1アートショット:ライトトーンLEVEL2
アートショット:ライトトーンLEVEL3

アートショット:通常撮影アートショット:ポップLEVEL1
アートショット:ポップLEVEL2アートショット:ポップLEVEL3

アートショット:セピアLEVELアートショット:セピアLEVEL2
アートショット:セピアLEVEL3

アートショット:モノクロLEVEL1アートショット:モノクロLEVEL2
アートショット:モノクロLEVEL3

アートショット:ミニチュア

通常撮影HDR
HDRアートLEVEL1HDRアートLEVEL2
HDRアートLEVEL3

サクサク撮れる「快速シャッター」

 最後に、カシオが謳う「快速シャッター」は、どのくらい本当なのかを動画でお伝えしよう。

 リンク先はオートモードで焦点距離を望遠側に固定。レリーズごとに半押ししてAFを合わせている。連打に近い速度でシャッターボタンを押しているので、少々カメラがブレ気味になってしまっているのはご容赦いただきたい。

 公称では、起動時間=1.4秒、AF=0.13秒、レリーズタイムラグ=0.015秒、撮影間隔=0.26秒となっている。実感としてもレスポンスはすこぶる良く、はっきりいって一部のレンズ交換式カメラをしのぐ操作感だ。

 ただし上記の撮影間隔については、「撮影レビュー」を「切」にすることで実現しているようだ。この状態だと撮影した直後、どんな写真が撮れたか確認できないのだが、その代わりすぐに次の撮影に移れる。EX-ZR20をはじめ、最近のカシオ機はこの設定がデフォルトになっている。他メーカーとは異なる考え方だ。

 そもそもコンパクトデジカメは、液晶モニターで構図や露出を確認して撮っているはず。さらにレリーズタイムラグが少ないEX-ZR20なら、よほど高速に動く被写体でない限り、失敗は少ないだろう。それでも撮影した写真を毎回確認したい場合は、「撮影レビュー」を「入」にすれば良い。


まとめ

 今回EX-ZR20を試用してみて、改めてコンパクトデジカメならではの面白さを発見した。扱いやすいボディサイズやボタン配置、明るい液晶モニター、高速レスポンス……いずれも撮影を楽しくしてくれる要素だ。スマートフォンのカメラ機能も便利だが、こうした撮影そのものの楽しさを考えると、デジタルカメラにもまだ分があると思う。少なくとも本機のサクサク感は、店頭でちょっと触っただけでもすぐわかるレベルだ。

 そしてHSナイトショット。コンパクトデジカメで撮れなかったシーンを撮れるようにした功績は大きいし、実際使ってみると発見も多い。クセが強いながらも新しい可能性を感じさせる機能だ。





本誌:折本幸治

2012/3/21 01:03