特別企画

夜景写真家の仕事をみてみよう

EOS 5D Mark IVとカーボン三脚で撮る豪華客船

川北茂貴さんと愛用のEOS 5D Mark IV

夜景写真家の川北茂貴さんに、夜景撮影の実際とテクニックを執筆してもらいました。横浜と川崎、2箇所で撮影した作品を公開します。記事の最後にはキャンペーン情報もあります。[編集部]

夜景写真を仕事として専門に撮影するようになってから長い年月が経ったが、写真撮影と同様に昔から興味があるのが「乗り物」。船や飛行機それにトラックまで動く機械は何でも好きで、仕事とは別に趣味でも撮影しているが、夜景に乗り物が加われば商売にもつながり一石二鳥。そのような機会は逃さず撮影するように、常にアンテナを張って情報を集めている。

さてそんな折、横浜港に豪華客船セレブレティ・ミレニアムが入港するとの報を受けて、さっそく夜景に絡めて撮影しに行くこととした。

どうやら出港は日が暮れてからの19時とのことで、うまくいけばみなとみらいの高層ビル群を背景に、全長約300mの巨体を組み合わせて撮れるかもしれない。

夜景撮影で使う機材

あれこれ撮影のシチュエーションを考えて胸が躍るが、ここは一呼吸入れて落ち着いて機材の準備をしよう。ここで間違えて忘れ物でもすれば、せっかくの撮影チャンスを逃すことになる。

この日の主な機材を紹介しよう。

カメラ

キヤノン EOS 5D Mark Ⅳを選択。現在は本機とEOS 5DsRで夜景撮影を行っているが、夜景撮影における私のニーズを満たしてくれる5Dシリーズには本当に満足している。

キヤノン EOS 5D Mark Ⅳ

レンズ

私のレンズは、構図を細かく調整したいので単焦点レンズよりもズームレンズ。都会やジャンクションの夜景で利用価値が高い16mmの超広角から、富士山や月などを入れて撮るのに便利な400mmまで、高解像度のカメラに応えられるようキヤノンの新しいLレンズで統一している。

また手持ち撮影の機会は少ないので、値段や大きさを考えて開放F値はF4でも十分。

具体的には「EF16-35mm F4L IS USM」「EF24-70mm F4L IS USM」「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」、この3本が私の主力レンズだ。

EF16-35mm F4L IS USM
EF24-70mm F4L IS USM
EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM

三脚

夜景撮影に重要な役割を果たす三脚。日中より暗い撮影環境である夜景撮影では、どうしてもスローシャッターで撮ることになる。カメラをしっかりと保持する三脚は、夜景写真家の商売道具ともいえる必須アイテムだ。

三脚にも様々な製品があるが、ブレのない良い夜景を撮るには、しっかりしたものが欲しい。今回はベルボンのカーボン三脚「プロフェッショナル・ジオV630」を使用。最大パイプ径28mmの3段三脚で、推奨積載重量は4kg。EOS 5D Mark IVのような本格的な一眼レフカメラと一緒に使っても、安心して撮影できる性能を持つ。

プロフェッショナル・ジオV630

これに同じくベルボンの雲台「PHD-65Q」を組み合わせた。

PHD-65Q

まずは豪華客船に挑戦!

さて機材の準備はできた。被写体となるセレブレティ・ミレニアムは入港済みで、ライブカメラによれば大桟橋のみなとみらい側に停泊している。ということは、海を越えた北側から撮ればその全容が収められるだろう。

秋晴れの日曜日ということで、横浜港は各地でイベントなどが行われて大賑わい。駐車場と撮影場所が混雑で確保できなければどうしようかと心配したが、幸いにもそのどちらもうまくいき、日没頃に無事三脚を設置することができた。

目の前には大桟橋を目いっぱい使って停泊しているセレブレティ・ミレニアム。乗客向けの英語の船内放送が、海を渡ってこちらでも聞こえる。

日は暮れたが夜景撮影にはまだ少し早い時間帯なので、ここで簡単だが私の三脚を使った撮影手順を紹介しておこう。

カメラの性能が上がり、今では手持ちでもきれいな夜景写真が撮れるようになったが、画質では三脚を使った長時間露光にはかなわない。私の場合は作品を大きく伸ばして各種媒体に使われる機会があるので、撮影の基本は今でも三脚を使った長時間露光だ。

川北流|三脚の脚はどう伸ばす?

私は三脚の足を先端の細い方から伸ばし、中間の段で全体の高さを調整することが多い。

撮影の教本などではその逆に真ん中の段は全部伸ばして、細い方は伸ばしきらずに高さの調整程度にとどめておくようにとの指導も多いが、それだと全体の長さの調整を前かがみかしゃがんで行わなければならないので、私は自己流で行っているのだ。

今回の三脚「ジオカルマーニュV630」はカーボン製なので軽く、広い公園内を持ち歩いても苦にならないのがうれしい。電車移動なら一層そのありがたさが実感できるだろう。

また、エレベーターの上下操作がスクリューギヤ式なので微調整が行いやすく、ストッパーが緩んでいてもストンと下まで落ちる心配もないのがうれしい。

と、ここまで話しているうちに、そろそろあたりが暗くなってきた。さて私も撮影を始めるとしよう。

私が好んで撮る、空が残照でわずかに明るい「トワイライト」の夜景は、気象条件にもよるが日没から30分前後が撮影に適した時間帯。肉眼ではかなり暗くなって空と被写体の明暗差が揃う頃が狙い目だ。

ところで私が撮影現場でよく見かける情景として、まだ日没後それほど時間がたってなく、その明暗差が大きい頃に撮影を始めるアマチュア諸氏が多いことが気にかかる。

その後もっと暗くなって私が撮影を始める頃にはそれぞれ撮影を終えて機材を片付け始めるので、ああもったいないなあといつも思っているのだ。

もし思い当たるようなことがあれば、次の撮影ではあと5分から10分、撮影を開始する時間を遅らせてほしい。

さて私も早く撮りたい気持ちを抑えて、肉眼では周囲がかなり暗くなってから撮影したのがこの1枚。

EOS 5D Mark IV / EF24-70mm f/4L IS USM / 絞り優先AE / 4秒 / F11 / 露出補正±0 / ISO 200 / 30mm / ホワイトバランス:オート / ピクチャースタイル:風景 / 三脚使用

船、海面、そして空の明るさが揃っているのがお分かりいただけると思う。何枚かバリエーションを撮影したのち、空は本当に真っ暗になったのでここでの撮影は終了。

このあと19時に出港なので、大黒埠頭に先回りして本船をみなとみらいの高層ビル群とともに撮ることにする。長時間露光が基本の夜景撮影だが、遅い船とはいえ移動する乗り物をはたしてきれいに撮ることができるのか!

みなとみらいを背景に

さてここはベイブリッジを渡ってやって来た大黒埠頭。ここから撮る夜景は絶景だ。海辺に三脚を立てて、出港するセレブレティ・ミレニアムをしばし待つことにした。

さてその時間を使って、ここでの撮影手順をイメージトレーニングしておく。本船が遠くの時は望遠で、目の前を横切るときは広角で撮ろうと考えているため、素早いレンズ交換が求められるのだ。レンズ交換だけならまだいいが、私の望遠ズームレンズ(EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM)は三脚座を備えているために、レンズ交換とともに雲台への乗せ換え作業も必要となる。

ただし今回の雲台はクイックシュー式のため、カメラの脱着はとても簡単。被写体に応じて機材を素早く換えなければいけない状況では、そのありがたみが身に染みる。あとは本番で慌てることなくその作業を淡々とこなすのみだ。

さてそうするうちに出港の時間が過ぎ、肉眼ではわかりづらいものの望遠レンズを通してセレブレティ・ミレニアムを見ると、わずかだが動いている。舫は解かれ横浜港内を微速前進しているのだ。

その船速は徐々に増し、瑞穂埠頭の手前で南東に回頭し、ベイブリッジの下を潜る進路をとった。

そのあたりがちょうど船の背景にみなとみらいの高層ビル群が写る場所。船は遅いとはいえISO32000まで上げて絞りは開放、これで1/100秒で撮れるので被写体ブレの心配はまずない。

EOS 5D Mark IV / EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM / 絞り優先AE / 1/100秒 / F5 / -1EV / ISO 32000 / 234mm / ホワイトバランス:白色蛍光灯 / ビクチャースタイル / 風景 / 三脚使用

さすが最新のEOS 5D Mark Ⅳ、高感度時の画質と暗い夜でのピントの合焦精度はものすごい。望遠ズームEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMのキレのある描写と相まって、船の構造物のひとつひとつがシャープに描写された。

ベイブリッジを絡める

さてこの後は先ほど案じたカメラとレンズの付け替え作業。これもクイックシューのおかげで簡単に短時間で換装作業は終わり、今度はベイブリッジと本船を標準ズームEF24-70mm F4L IS USMの広角域で切り取る。

その前にレンズ交換作業の後には必ず行う自動センサークリーニングを設定して、カメラを乗せ換える作業中に自動で清掃が行われるようにし、その後撮った写真がこれだ。

EOS 5D Mark IV / EF24-70mm F4L IS USM / 絞り優先AE / 1/15秒 / F8 / -2/3EV / ISO 32000 / 33mm / ホワイトバランス:白色蛍光灯 / ピクチャースタイル:風景 / 三脚使用

こちらは構図の隅々までシャープに描写したいのでF8まで絞り、感度は同じくISO 32000。1/15秒でシャッターが切れたので、被写体がブレることなく撮影できた。

川崎工場地帯にも立ち寄る

さあ船は行ってしまったので撮影は終了。このまま家路に就きたいところだが、せっかく横浜まで来たので、帰りに川崎の工場夜景を撮ることにする。

工場夜景は時間帯にそれほど左右されることなく、眠気さえ我慢できれば朝まで撮ることができるので、こういった別の撮影に絡めて撮ることが多い。

今回行ってみたいのは川崎の浮島地区。何か所かある川崎の有名工場夜景スポットのうちの一つだ。

大黒埠頭から距離にして約20km、車で約30分で川崎の浮島地区に到着。この先は東京湾アクアラインで、その川崎側の埋め立て地といえばおおよその地理が思い浮かべられるだろうか。北側には多摩川の河口があり、その先は羽田空港だ。

この一帯は国内有数の石油や化学工場が立ち並び、休むことなく夜中でも操業している。撮影は公道からフェンス越しに行うので間違って私有地に入ってしまう心配はないが、道路につながっている一部の駐車場は厳密には工場の私有地なので、知らずに入り込んでしまわぬように注意したい。

この晩は月がきれいだったので、まずは月を入れて1枚撮影。

EOS 5D Mark IV / EF16-35mm F4L IS USM / 絞り優先AE / 15秒 / F11 / +2/3EV / ISO 200 / 26mm / ホワイトバランス:白色蛍光灯 / ピクチャースタイル:風景 / 三脚使用

ちょうど雲にかかっておぼろ月になってしまったが、これも風情があって良いだろう。

石油工場の明かりがきれいだったので、マルミのクロスフィルターDHG 6× CROSSを付けて撮ってみた。

EOS 5D Mark IV / EF24-70mm F4L IS USM / 絞り優先AE / 30秒 / F11 / +2/3EV / ISO 100 / 50mm / ホワイトバランス:白色蛍光灯 / ピクチャースタイル:風景 / 三脚使用 / クロスフィルター使用

6本の光芒が夜景写真を効果的に演出してくれるので、イルミネーションがきれいなこの季節なら夜景撮影用にカメラバックに入れておけば役に立つアイテムだ。

最後に1カット、ガスタンクを背景に光跡夜景を撮ってみる。

EOS 5D Mark IV / EF24-70mm F4L IS USM / 絞り優先AE / 15秒 / F11 / -2/3EV / ISO 500 / 37mm / ホワイトバランス:白色蛍光灯 / ピクチャースタイル:風景 / 三脚使用

この場所は車で通う夜勤の人が多いので、夜でも案外交通量がある。と言っても5分に1台ぐらいだが、少し待てば光跡を入れた工場夜景も撮影可能だ。道路は街灯がなくて暗いので、車との接触事故にはくれぐれも気を付けよう。撮影は必ず道路の端で行うことが鉄則だ。私は念のためにライトの光を反射するベルトを身に着けて撮影に挑んでいるが、用心に越したことはない。

さて全ての撮影は終了。今はセレブレティ・ミレニアムの出港と工場夜景を滞りなく撮り終えたので、心地よい満足感に包まれているが、撮影は家に着くまでが撮影。気を抜くことなく、安全運転で家路に就くとしよう。

キャンペーン実施中!

ベルボンでは「2016ベルボンカーボン三脚祭」を10月1日〜12月31日に開催しています。ベルボンのカーボン三脚を購入すると、マルミのフィルターやKANIのバッグがもれなくもらえるキャンペーン。

川北さんが今回使った「プロフェッショナル・ジオV630」も対象製品のひとつ。工場夜景で使用したクロスフィルターは、プレゼント品のひとつになっています。

応募方法など詳しくはこちらの記事で。
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/campaign/1022636.html

協力:ベルボン株式会社

川北茂貴

1967年3月京都市生まれ。大阪芸術大学卒業。ストックフォトや海外旅行の書籍の撮 影で世界中を巡る中で各地の夜景写真に触れ、レインボーブリッジや都庁が建ち始め た東京で自分も夜景を撮るようになり、夜景写真家として今に至る。日本写真家協会 会員。キヤノンEOS学園東京校講師。