おもしろ写真工房

「宙玉レンズ」で遊んでみよう!

いろんなバリエーションにチャレンジする応用編

 水中写真、星景写真、タイムラプスなど、「宙玉(そらたま)レンズ」はいろんな技法と組み合わせることが可能。お菓子の筒じゃなくて、もう少しかっこよく作る方法も紹介!

現在、宙玉工作界でナンバーワンのクオリティーを誇る岩本朗氏の「宙玉 for iPhone & 微速度撮影用2軸電動雲台」


宙玉をカッコよく作る!

 宙玉レンズを思いついてから4年経った。このデジカメWatchなどで紹介していただいたおかげもあり、世界中で楽しんでくれている人達がいるようだ。宙玉風のスマホアプリなんかもけっこうあるから、Web上で宙玉写真に遭遇する機会も増えてきた。本人も思いつかなかったような工作法や撮影法も出て来ているので、今回はそんな写真をまとめて紹介してみたい。

 まず工作について。初めに私が作ったのは透明なビー玉を塩ビの薄い透明シート2枚に穴をあけて挟み込む方式だった。なかなか面白い描写になったので、ガラスアーティストの知り合いに依頼してガラスフィルターに穴を空け、透明球を接着してもらった。なかなかクオリティーの高いものができたのだが、他の人達にも気軽に楽しんで欲しいと思い、チップスターの箱につける方法を考えた。

 チップスターの筒には直径70mmのアクリル円板がピッタリ合い、底には67mmのステップアップリングがピッタリはまった。「チップスターじゃ嫌!」という人もいるけど、筒の長さが調整しやすいし軽く工作できるから、これはこれでオススメの組み合わせです。

 ただ、「もうちょっとカッコ良く!」という人にケンコーのメタルフードを紹介したい。この製品のいいところはフードの先端にもネジが切ってあり、筒を連結させて長くすることができる点。私がその前に使っていたのは、ニコンの古い接写リングや「K.P.S. PRO. LENS SHADE」なのだが、どちらも製造中止になってしまっている。

 連結するごとにワンサイズずつ太くなるのだが、宙玉レンズにつけるのには何の問題もない。フィルターのガラスをはずして宙玉をはめれば、このメタルフードの先端にネジで留めることができる。まあ、これだったら街中で撮影するのにも恥ずかしくないでしょう。

 宙玉にピントを合わせるためには、近いところにピントが合わないといけない。接写リングを使うと最短撮影距離が短くなり、筒の長さも短くできるのだが、その場合はデジタル接写リング(ケンコー)が便利。これは電子接点のついた接写リングなのだが、絞りリングのついていないカメラでも絞りを連動させることが可能だ。

―注意―
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ケンコー製のメタルフード。62mmと67mmを連結したところ。一回りずつサイズが大きくなっていくが、延長筒として使用可能。
左が「K.P.S. PRO. LENS SHADE」で、右がニコンの古い接写リング。どちらも現在は販売されていないので中古で入手。
ケンコー製のデジタル接写リング。キヤノン EOS EFEF-S用、ニコン一眼レフ用、ソニーα用、ソニーNEX用、マイクロフォーサーズ用などがある。
左がケンコー製のデジタル接写リング、電子接点がある。右のような電子接点のないタイプでは絞りが連動しない。
GREEN.LのMC UVフィルター(72mm)のガラスを外して宙玉レンズをはめた。フィルターによりガラスが外しやすいものや外しにくいものがある。これはカニ目タイプだったので、デバイダーを使って簡単に外すことができた。
フィルターの枠に入れた宙玉をメタルフードに取り付けたところ。チップスターの箱よりも重たくなるが、強度は当然増す。
ニコンD5000、ケンコーデジタル接写リング、AF-S Nikkor 18-55mm F3.5-5.6 G、52→67mmステップアップリング、ケンコー メタルフード(KMH-67)、72mmのフィルター枠、宙玉。
OLYMPUS PEN Lite E-PL1、ケンコーデジタル接写リング、M.ZUIKO DIGITAL ED 14-42mm F3.5-5.6 L、40.5→52mmステップアップリング、52→67mmステップアップリング、ケンコー メタルフード(KMH-67)、72mmのフィルター枠、宙玉。


タイムラプス動画に挑戦

 宙玉レンズはムービーと相性がいい。球の内側は天地左右が反転した像が映るので、球の内側と外側で動きも逆になるのだ。たとえば人が右から左へ通過すると、球の外側ではそのまま右から左へ動くが、内側では左から右への動きとなる。これは上下でも一緒で外側で上から下への動きは、内側で下から上への動きとなる。

 だから単純にカメラを左右や上下にパンさせながら撮っただけでも、ムービーだと不思議な感じの映像になるのだ。動きのあるものであれば、カメラを固定して撮るだけで構わない。イルミネーションを撮影すれば、背景の光源が丸くボケるし、動きのあるイルミネーションならさらに面白い映像になる。

 あるいはタイムラプス撮影での宙玉ムービーもなかなか面白い。タイムラプスというのは微速度撮影のことで、たとえば5秒間に1回とか撮影した写真をつなぎ合わせたコマ撮りムービーのこと。最近はデジタルカメラの機能として搭載されるようになってきたので、後からパソコンでつなぎ合わせる必要なく、ムービーファイルとして記録することができる。

宙玉レンズを使ってイルミネーションを撮影したムービー。ニコンD5000、Ai AF Nikkor 28mm F2.8 D、ケンコーデジタル接写リング

ニコンD600の微速度撮影機能を使ってタイムラプスに挑戦。35mmフルサイズ機にAPS-Cサイズ用のレンズを使っているが、かなりの接写になっているのでケラれない。ニコンD600、トキナーAT-X M35 PRO DX、ケンコーデジタル接写リング

 このタイムラプスの手ほどきをしてくれたのが岩本朗さんだ。岩本さんの本業は料理写真家だが、撮影道具を自作してしまうことでも有名な人。ステディカムのようなスタビライザーやモータードライブ・デスクトップドリーなども自作してしまうのだが、市販のものよりもクオリティーが高いというのが凄いところ。今回は宙玉で遊んでみて欲しいとリクエストしたところ、想像していなかったようなものを作ってくれた。

 岩本さんが作ったのはペットボトルを使った宙玉レンズ。透明な筒を使ったため、透明球の表面にキラメキが入り立体感が出た。私は反射が入ると画質が下がると思っていたので、球にハイライトを入れることを思いついたという発想に脱帽。やっぱり料理写真家としてふだんから光のコントロールをしている人は違うね。

これが岩本朗製作宙玉レンズ。おれがチップスターで作るのとは、まるでクオリティーが違うな。
透明球にキラメキが入ってるでしょ。チップスターや金属製の筒だと、これが入らないんです。太陽やそのゴースト、さらには周りの風景を写り込みませるための工作だそうです。
iPhoneの場合センサーサイズが小さいため、宙玉の輪郭がけっこうハッキリ写る。かつ、バックもきれいにボケるから、宙玉に向いているとも言える。
製作に使ったペットボトルまでちゃんとブツ撮りしていただきました。こういうブツへの映り込みをふだんからコントロールしているから、今回のような工作を思いついたんでしょうね。
キャップのスクリューの部分を切断してiPhoneに脱着が可能なように自作のクリップを制作し、両面テープで接着してある。
レンズはスチレンボードをくり抜いて接着。レンズの清掃ができるように3本の爪とプラスチック製のビスを使用して脱着が可能にしてある。

DIY宙玉レンズ 2(iPhone用)

 さらに凄いのは微速度撮影用2軸電動雲台に取り付けたこと。この2軸電動雲台というのは、2方向に回転する雲台のこと。これにカメラを取り付けてタイムラプス撮影をすれば、上下左右の動きが加わるという代物。これももちろん岩本さんの自作です。

微速度撮影用2軸電動雲台。きちんと設計図を作り、金属の切断、穴あけ、曲げなどの加工も自分でやってしまうのだから恐れ入る。

DIY Time lapse and Motorized tripod head。2軸でカメラを動かしているので、斜めの動きなども可能。


さらにさまざまなバリエーション

 宙玉レンズを使って星景写真を撮っている人は何人かいるようだが、たぶん1番早かったのが山本勝也さんじゃないだろうか。2010年12月にオリオン座や北斗七星を宙玉に閉じ込めることに成功している。私はやりたいと思いつつも、まだ星景写真にチャレンジしていない。長時間露光で星の軌跡を宙玉の中に写し込むというのは、ぜひやってみたい。

 以下はご本人からの解説です。

 「撮影は全て固定撮影です。赤道儀を用いた追尾は行なっておりません。宙玉部分を大きく入れるために、レンズの最短撮影距離ギリギリに配置。こうすると、ある程度絞り込んだほうが深度がほどよくなるのですが、絞り込むことにより、デジタルカメラにおける一般的な星景色写真とくらべ露光時間が長くなります。目安として、一般的な星景写真をF2.8、ISO1600、20秒程度で撮影する暗い環境でF5.6、ISO1600、1~2分程度の露光が必要となる感覚です。露光時間が長くなることにより、星の流れが気になることを懸念される方もいらっしゃるかもしれませんが、宙玉の中で星の光を目立たせることに繋がっています。小さいサイズで鑑賞するならば、これで程よい具合のようにも思います」

宙玉_オリオンと冬の天の川。「宙玉背景の丸ボケがオリオン座であることを示すためにセオリーに反して、撮影データを180度回転していません。さらに、宙玉をセンターから外すようにトリミングして浮遊感を狙っています。宙玉の中には冬の大三角とオリオン座、淡い冬の天の川が逆さまになって閉じ込められています」。リコーGXR + GR LENS A12 50mm F2.5 Macro、Mモード、F5.6、120秒、ISO1600
宙玉_富士山と冬の大三角とオリオン。「本栖湖から富士山を望む観望からの撮影。富士山の上に冬の大三角とオリオン座が昇っています。宙玉背景の丸ボケはシリウスの光です」。リコーGXR + GR LENS A12 50mm F2.5 Macro、Mモード、F5.6、60秒、ISO1600
宙玉_北斗七星。「精進湖、湖畔から北北東方面に上る北斗七星(おおぐま座)を宙玉に閉じ込めました。宙玉下方にスワンボートも入れてみたのですが、深度が浅く形状がいまいち判りませんね(笑)」。リコーGXR + GR LENS A12 50mm F2.5 Macro、Mモード、F5.6、120秒、ISO1600

 水中写真にチャレンジしている人もいるようだが、その中でもきれいだと思ったのが、松下満俊さんが写したサンゴの写真。色鮮やかな魚とか、水中というのも被写体の宝庫ですね。だけど星景写真よりさらにハードルが高いな。この分野はお任せします!

 この水中宙玉の場合は宙玉ごとハウジングに入れるのがポイント。ダイレクトに水中に宙玉を入れた場合、空気と水の屈折率の違いから、思ったような効果は得られません。空気中だと宙玉に映るイメージは天地左右反転しますが、水中だとそのままになります。

「AFで撮っています。フォーカスエリアは中央1点にしました。このレンズに宙玉レンズを装着した場合、レンズが繰り出すと最大でレンズの長さが18cm弱になります。最大に繰り出した場合でもハウジングのポートに内部から宙玉が当たらないようにするため、ポートをかなり伸ばしています。有効長6cmと4.3cmのエクステンションポートをつなげた上にドームポート(高さ7.8cm)を装着しました」(松下氏)。キヤノンEOS 5D Mark III、SIGMA Macro 50mm F2.8 DX DG + 宙玉レンズ

 最後にご紹介するのは、宙玉サーフィン! これは考えつかなかったなあ。そして私が試すことも絶対にないでしょう(笑)。撮影したのはフォトグラファーの広瀬睦(シーピックスジャパン)さんだが、初めてのサーフィンに宙玉を持っていってくれたそうだ。サーフィンだけでも大変なのにね。アブストラクトな水のイメージと宙玉の相性がいいですね。波打ち際で撮影しても面白そう。ハウジングは買えないけど、ビニール袋かなんかに入れて試せないかなあ。

サーフボードの先に波がかぶってるところですね。ニコンD70、AF-S DX Zoom-Nikkor 12-24mm F4G IF ED
この写真はやはりハウジングに入れないと撮れないですね。でも水中仕様のコンデジというのも試してみたい。ニコンD70、AF-S DX Zoom-Nikkor 12-24mm F4G IF ED
波打ち際でサーフボードを抱えているところ。球の内側と外側で天地左右が反転しているのがよくわかります。ニコンD70、AF-S DX Zoom-Nikkor 12-24mm F4G IF ED
ハウジングに入った宙玉カメラ。ボディ:ノーチラス製ニコンD70用、ポート(筒の部分):アンティス製ニコンマクロ用、ベースポート(ドーム部分):アテナ製ガラスドームポート。
「24-85mmのズームだと、105mmマクロ用の筒形ポートに入ってちょうどいいのですが、いかんせんAFが合いません。標準から広角寄りのズームで、あまり鏡胴が太くなく、マクロポートにちょうど入るレンズが見つかれば、水中にピッタリだろうなと思います。ドームポートよりマクロポートの方が遥かに扱いやすいですし、その状態で宙玉で広い世界が写れば最高です」(広瀬氏)。
宙玉仕様:マルミ製スポットフィルター72mmのガラス部分を外して、宙玉と差し替え。ステップダウンリング77→72mm、77mmフィルター枠3枚を使って延長。ケンコーデジタル接写リング(一番薄いものを1個)。

 今回はいろんな宙玉写真のバリエーションを紹介しましたが、興味を持っていただいた方はぜひチャレンジしてみてください。もちろん普通に撮ってもいいけど、“それは思いつかなかった”というようなアイディアを披露していただければ嬉しいです!

上原ゼンジ写真実験室 in 九州」を開催します

  • 内容:宙玉レンズ、万華鏡写真、手ぶれ増幅装置などを紹介。撮影も体験できる。
  • 開催日:6月15日(土)
  • 時間:13時30分~16時30分(12時30分受付開始)
  • 会場:九州産業大学15号館 15104教室
  • 住所:福岡県福岡市東区松香台2-3-1
  • 受講料:3,000円(学生無料)

上原ゼンジ

(うえはらぜんじ)実験写真家。レンズを自作したり、さまざまな写真技法を試しながら、写真の可能性を追求している。著作に「Circular Cosmos―まあるい宇宙」(桜花出版)、「写真がもっと楽しくなる デジタル一眼レフ フィルター撮影の教科書」(共著、インプレスジャパン)、「こんな撮り方もあったんだ! アイディア写真術」(インプレスジャパン)、「写真の色補正・加工に強くなる レタッチ&カラーマネージメント知っておきたい97の知識と技」(技術評論社)などがある。
上原ゼンジ写真実験室