【新製品レビュー】ニコンD800E
去る4月12日、ニコンD800Eが発売された。先行して発売されたD800と同一のスペックとしながらも、ローパスフィルターの効果を無効とした高解像仕様モデルである。
D800のレビューについては、すでに3月19日に掲載しているため、今回はD800EとD800との描写の違いに重きを置くことにする。
本テキスト執筆時におけるD800Eの店頭価格は、ボディ単体税込み34万8,000円前後となる。
■両者の違いはローパスフィルターの効力のみ
D800EのD800との違いは1つ。前述のとおりローパスフィルターを無効としたことだけだ。ローパスフィルターは多くのデジタル一眼レフカメラに搭載されるもので、イメージセンサーの構造的な要因で発生するモアレや、それに伴う偽色を低減するものである。しかし、解像感が低下するという欠点を持つため、近年ではローパスフィルターを省略し、解像感の向上を図るデジタルカメラがいくつか登場している。D800Eもローパスフィルターの効果を無効とすることで、解像感をより追求したモデルなのである。
D800(左)と。両モデルの性能的な違いはローパスフィルターの効力だけだ。ニコンユーザーにとって、どちらを選ぶか悩ましいところだろう。 | D800EとD800を外観上、唯一違いを見極められる部分といえば、カメラ前面部の機種名ロゴ。D800Eが今後ユーザーにどのように評価されるか、注目したい。 |
取り扱い説明書はD800と共通。総ページ数は450ページ近くもある。 |
ちなみに、D800Eはいわゆるローパスレスではない。ローパスフィルターは従来どおり搭載するものの、その効果を敢えて無効とする手法を取っている。これは、D800のイメージセンサーからローパスフィルターを取り払ってしまうと、ハードおよびソフトとも新たに開発し直さなければならない部分が増大し、コストアップに繋がってしまうためだ。なお、本テキストでは表現上、ローパスレスと同一に扱っていることをご承知おき願いたい。
今回、D800Eの解像感およびモアレなどの発生の様子を見るため、D800と比較撮影を行なってみた。
撮影に際しては、カメラの設定はすべて同一とし、特に仕上がり設定であるピクチャーコントロールに関しては「スタンダード」を選択。シャープネスなどの微調整は行なっていない。
三脚にはジッツオ製の3段カーボン(3シリーズ)を使用。ピント合わせはライブビューでの拡大表示を見ながらマニュアルフォーカスで行なっている。画像の確認はナナオColorEdge CG243Wを使用し、解像感では拡大率50%と100%(等倍)、モアレは等倍で確認したときの評価としている。
使用したレンズは、D800Eメーカー推奨レンズのうち、AF-S NIKKOR 24mm F1.4 G ED、AF-S NIKKOR 35mm F1.4 G、AF-S NIKKOR 85mm F1.4 G、AF-S NIKKOR 24-120mm F4 G ED VR、AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED VR IIの5本。
推奨レンズとは、D800Eの発売にあたり、「特に解像感を楽しみたい場合」としてメーカーがおすすめするレンズのことである。いずれもナノクリスタルコートの施された高級レンズで、現時点では16本が推奨レンズに指定されている。
■確かに違うが、その差は決して大きくない
まずは気になる解像感だが、50%拡大では、D800EとD800の違いは、ほとんどない。両者とも鮮鋭度は高く感じられる。筆者はD800にことあるごとに触れる機会を得られているが、その度に感じているのが他のデジタル一眼レフにくらべるとローパスフィルターの効きが弱い、つまり解像感が高いことである。50%の拡大では、そのようなこともあって両者の違いは現れにくいのだろう。さらに画像全体をモニターに表示できるまで拡大率を落とすと、両者の解像感の違いはますます見極めにくくなる。D800ユーザーは安心といったところだが、D800Eユーザーにとっては期待はずれに思えるかも知れない。
等倍表示となると、D800Eで撮影した画像の鮮鋭度が増してくる。エッジが際立ち、よりスッキリしたものとなる。大気の水分やそれに伴う揺らぎが影響している画像でもその違いは認識できてしまうほどである。ピントの少しの緩さや、わずかな三脚ブレもD800より見極めやすく、撮影ではそれらに気を使う必要があることも改めて知らしめるものといえる。
ただし、劇的にD800と解像感が異なるかというと、その差は今回撮影した作例を見る限りそれほど大きいとはいい難い。あくまでもモニターに両モデルの作例を表示させ、比較してみて認識できるレベルである。とはいえ、解像感を重要視する被写体などであれば、この違いは少なくないだろう。シャープネスで調整するのと異なり画質の劣化などなく、ナチュラルに感じられるからだ。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- JPEGファイルは撮影画像をそのまま掲載しています。
- RAWファイルはView NX 2.3で現像しました。パラメーターは変化させず、そのままJPEGに変換しています。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
※等倍に切り出した一部を表示しています。クリックすると全体を表示します。
モアレ、偽色の発生については当然ながら見受けられる。特に絞りF4からF8までの現れ方は顕著で、格子状のモアレのほか縞状のものも見受けられ、じっと見ていると何か動いているような錯覚にさえ陥りそうである。
解像感との引き換えとするモアレの発生はローパスレスでは致し方ないところであるが、実は程度の差こそあれ、D800もこのモアレは発生している。こちらも絞りF4からF8までが特に目立つ。両者ともF16まで絞ると、回折限界を越してしまうため大きく低減する。掲載した他の作例のなかにもモアレが発生しているものがいくつかあるので、探してみていただきたい。
D800Eを検討しているカメラ愛好家にとって、推奨レンズ以外の描写も気になるところだ。そこで、それらのニッコールでも解像感を検証してみた。もちろん、すべてのニッコールレンズを試す訳にはいかないので、現行ニッコールの代表としてAF-S NIKKOR 50mm F1.4 G、フィルム時代のAi Nikkor 50mm F1.8 S、DXフォーマット用のAF-S DX NIKKOR 35mm F1.8 Gの3本を持ち出してみた。
AF-S NIKKOR 50mm F1.4 Gは画面周辺部までしっかり解像しており、D800Eで使用しても何ら問題のなさそうな1本。色のにじみもわずかで、推奨レンズに本レンズの名が見当たらないのが不思議に思えるほどである。
AF-S DX NIKKOR 35mm F1.8 Gについては、画面周辺部の解像感の低下がハッキリ認識できる。ちなみにD800E/D800にDXフォーマットのレンズを装着すると自動的に同フォーマットに切り換わる。そのときの画素数は約1,540万画素となる。
意外だったのがAi Nikkor 50mm F1.8 S。発売から30年近く経つものだが、最新のAF-S NIKKOR 50mm F1.4 Gと遜色ないものである。解像感も高く、“使える”レンズである。今回はレンズのレビューではないのでこの程度に留めておきたいが、結果として素性のよいレンズならD800Eとの描写的な相性も悪くはなく、推奨レンズにそれほどこだわる必要はないように感じられた。
■両者とも素晴らしい解像感
今回の撮影では、先に述べたとおり三脚にカメラを固定し、ライブビューの拡大表示を見ながらマニュアルフォーカスでピント合わせを行なっている。これは、同社の「D800/D800Eテク二カルガイド」にも掲載されている方法で、より正確にピントを合わせることができる方法だ。
しかし、D800EもD800もライブビューでピント合わせを行なうには、その都度絞りを開放値に設定し直さなければならず何気に面倒だ。できることならカスタムメニューなどに、ライブビューを起動させても絞り値が開放のままとなり、シャッターボタンの半押しで絞り込まれるような設定が搭載されると便利に思える。
今回、撮影した画像を見るかぎりD800Eの解像感は素晴らしく、3,600万画素の解像度と相まって、デジタル一眼レフカメラ随一といえる品質を確認できた。
一方D800の解像感も他のデジタル一眼レフカメラにくらべると圧倒的といえるもので、D800Eに肉薄しているのも正直なところ。モアレに関していえば、D800のほうがやはりアドバンテージは高いが、その違いは少ないといってよい。
D800EとD800のどちらかを手に入れるか決め兼ねているカメラ愛好家にとって、最終的に予算(D800Eのほうが5万円ほど高い)も含め、その選択は容易ではなさそうだ。じっくりと両モデルの画像を比較し、自分なりの結論を導き出してもらえればと思う。
2012/5/16 00:00