【新製品レビュー】キヤノンEOS Kiss X5
キヤノンの人気エントリーシリーズの最新モデル。撮像素子やエンジンなどの基本スペックは先代のEOS Kiss X4と同じだが、バリアングル液晶モニターを新搭載。全自動モードをより進化させた「シーンインテリジェントオート」に加えて、上位モデルのEOS 60Dに搭載された「表現セレクト」、「マルチアスペクト」、「クリエイティブフィルター(EOS 60D発売時は「アートフィルター」だった)」などの新機能も数多く盛り込まれている。
大手量販店の店頭価格は、ボディ単体が8万9,800円、EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS II付きのレンズキットが9万9,800円、EF-S 55-250mm F4-5.6 ISも同梱のダブルズームキットは12万9,800円となっている。
■ライブビューや動画で便利なバリアングル液晶モニター
外見上でのEOS Kiss X4との大きな違いはバリアングル液晶モニターを搭載していること。3:2比率の3型で104万ドットというスペックは変わっていない。その影響はサイズと重さにあらわれていて、EOS Kiss X4に比べて幅で4.3mm、高さは2.0mm、奥行きは4.4mm大きく、40g重くなっている。ちなみに、デジタル化以降のEOS Kissシリーズでボディ単体の質量が500gを超えたのはEOS Kiss Digital X(510g。2006年9月発売)以来である。
前面左手側にも滑り止めのゴムが貼られているほか、小さな膨らみも追加されている(これはリモコン端子と外部マイク入力端子のせいかもしれないが)。背面側では、EOS Kiss X4では「DISP」ボタンがあった位置に「INFO」ボタンが新設され、「DISP」ボタンは上面に移動。ファインダー接眼部のすぐ下にあったディスプレイオフセンサーがなくなった(代わりにシャッターボタン半押しで液晶モニターをオフにするなどの設定が追加されている)。モードダイヤルのデザインもちょっと高級感のあるものに変更されているし、ファインダー倍率は0.87倍から0.85倍にわずかながら下がった。
撮像素子は22.3×14.9mmサイズの有効1,800万画素CMOSセンサー、画像処理エンジンはDIGIC 4。感度の設定範囲も初期設定でISO100からISO6400、感度拡張時は最高ISO12800まで利用可能となる。連写のスピード、連続で撮れるコマ数もEOS Kiss X4と同じだ。
個人的には、レンズキットに同梱されている新標準ズームのEF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS IIのレンズ取り付け指標がプリントになってしまっているのにびっくりさせられた。前モデルでは白色のプラスティック部品が出っ張りになっていて、指で位置確認ができたが、プリントだと手探りでは判別できなくなる(まあ、見てればいいんですけどね)。正直、そこまでやっちゃうんだ、ふーん、って感じである。
記録メディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカードで、もちろんEye-Fiカードにも対応している。実写でのファイルサイズはJPEGのラージ/ファインで約7.7MB、RAWが約25.5MB。同時記録だと1画像あたり約33.2MBとなる。動画も撮るなら16GB以上のカードを用意するのがおすすめだ。
電源は容量1,120mAhのリチウムイオン電池LP-E8。CIPA基準の撮影可能コマ数は440枚。ライブビュー撮影(ストロボ50%使用)時は約180枚。実写ではライブビューもけっこう使ったが(内蔵ストロボは使っていない)、350枚以上撮って残量表示が1コマ欠けた状態となった。静止画中心かつファインダー撮影中心であれば、バッテリーは1本でもいけそうだが、ライブビューや動画も楽しみたいなら予備を買っておいたほうが無難だろう。
EOS 60Dに続いてバリアングル液晶モニターを搭載。その分、少しだけ大きく重くなったが、ライブビューや動画は便利になる | 背面左手側には従来どおりの「MENU」ボタンと、情報表示などの切り替えを行なう「INFO」ボタンがある |
「DISP」ボタンは背面から上面に移動してきた。こちらは「設定状態表示」のオンオフを行なうためのもの | 液晶モニターの「設定状態表示」の設定の画面。たぶん、「半押し連動」がいちばん便利。節電好きには「半押し/DISP」が良さそう |
背面の操作部はバリアングル液晶モニターになった分、EOS Kiss X4よりも窮屈になった感じ | キットに同梱のEF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS II。画面下の白い四角マーク(レンズ着脱指標)がプリントに変更された |
EOS Kiss X4よりも高級感のあるデザインになったモードダイヤル。全自動モードが「シーンインテリジェントオート」に進化した | 背面右手側肩にある「AEロック」ボタンと「AFフレーム選択ボタン」は新しい「動画デジタルズーム」の操作にも利用する |
「ライブビュー撮影/動画撮影ボタン」は従来どおり。バリアングル液晶モニター化したので使用頻度も上がりそう | 記録メディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカード。電源はリチウムイオン電池のLP-E8。CIPA基準で440枚の撮影が可能だ |
内蔵ストロボにトランスミッター機能が追加されたのも新しい点。「簡単」モードと「詳細」モードが用意されている | こちらは「詳細」モードの設定画面。外部ストロボを用意するだけでワイヤレス多灯撮影ができる。調光補正や光量比設定も可能だ |
■柔軟な設定が可能な「表現セレクト」
最新の「EOSシーン解析システム」によって、露出やピント、オートホワイトバランス、ピクチャースタイルオート、オートライティングオプティマイザを最適にコントロールする「シーンインテリジェントオート」モードの搭載もトピックのひとつだが、筆者個人としては、EOS 60Dにも採用されていた「表現セレクト機能」の「雰囲気を選んで撮影する」のほうが面白そうに思えた。
EOS Kiss X4の「クリエイティブ全自動」は「背景をぼかす/くっきりさせる」と「写真を暗くする/明るくする」を5段階で調整できるようになっていたが、本機ではさらに進化。「クリエイティブオート」以外の「ポートレート」や「風景」などのシーンモードでも「雰囲気を選んで撮影する」と「背景のボケ具合」が設定できる(「クリエイティブオート」と「夜景ポートレート」以外ではホワイトバランスを設定できる「明かりや状況にあわせて撮影する」機能も有効となる)。
「雰囲気」のほうは、「標準設定」のほか「くっきり鮮やかに」、「ふんわりやわらかく」、「暖かくやさしく」、「しっとり深みのある」、「ほの暗くひっそりと」、「明るく」、「暗く」、「モノクロ」の9種類が選べ、それぞれ3段階で強弱が設定できるようになっている。選択した「雰囲気」に合わせてホワイトバランスや彩度、コントラスト、露出レベルなどもまとめて変わるので、ライブビュー画面を見ながら選ぶのがいいと思う。
「背景のボケ具合」は5段階で調整できるが、ライブビュー映像では被写界深度は変化しないようだった。同様の機能は多くのミラーレスカメラにも搭載されていて、そちらでは当たり前にボケ具合を変えて見せてくれるので、ちょっと物足りなく感じられた。
新開発の「シーンインテリジェントオート」モード。エントリーユーザーには強い味方になってくれそうだ | 全自動モードから“進級”したい人向けの「クリエイティブオート」モード。「表現セレクト」や「背景のぼかし具合」機能が利用できる |
「雰囲気を選んで撮影する」の内容を選択する画面 |
「表現セレクト」機能で選べる「雰囲気」は「標準設定」を含めて全部で9種類ある |
ライブビューなら、選んだ「雰囲気」がどんな仕上がりになるのかを見ながら設定できる | 「くっきり鮮やかに」は彩度、コントラストが高めで風景向きの設定 |
「ふんわりやわらかく」は少し明るめの露出で、あっさり系の仕上がり | 「暖かくやさしく」にするとやや暖色系のホワイトバランスで、少し明るめの露出になる |
「しっとり深みのある」は少し暗めの露出で、彩度は高め。こってりと色がのる感じ | 「ほの暗くひっそりと」はやや寒色系のホワイトバランス。露出もやや暗めになる |
「明るく」はプラスの露出補正を行なうもので、「少し」は0.7EV、「もう少し」は1.3EV、「さらに」は2EV補正する | 「暗く」はマイナスの露出補正。こちらも「少し」は0.7EV、「もう少し」は1.3EV、「さらに」は2EV補正する |
「モノクロ」は普通の白黒のほか、「青」と「セピア」の調色風の選択肢がある | こちらは「背景のぼかし具合」の設定画面。5段階で被写界深度を変えられる |
「ぼかす」方向に設定すると、絞りが開いて背景のボケは大きくなる | 「くっきり」方向に設定すると、絞り込まれて被写界深度が深くなる。手ブレを防ぐため感度を上げてシャッター速度をキープする |
ライブビュー画面では被写界深度は変わってくれないらしい。ミラーレスカメラでは絞りを変えて見せてくれるので、ちょっと残念 |
EOS 60D同様、画面の縦横比を変えられる「マルチアスペクト機能」や「クリエイティブフィルター」も搭載している。前者はライブビュー時のみ有効となる。選択肢は標準の「3:2」のほか、コンパクトカメラで一般的な「4:3」、ハイビジョン動画と同じ「16:9」、ミラーレスカメラなどでも人気のある正方形の「1:1」の4種類。単純なトリミング方式なので、「3:2」以外の比率では画角が狭くなる。
画面上には太めのラインで撮影範囲を表示するが、画面に写らない部分まで普通に見えてしまう仕様は、個人的には好きにはなれない(動画モード時は画面の上下を黒でマスクしてるので、それと同じでいいのでは)。
ちなみに、JPEG撮影時は指定したアスペクト比でトリミングした画像が保存されるが、RAWはトリミング情報を付加した状態で保存され、DPPで現像する際にトリミングを解除することもできる。もしかしたら、そのために画面外表示を残しているのかもしれないという好意的解釈も成り立たなくはないが、だったら黒マスク表示にも切り替えられるオプションがない理由にはならないと思う。
後者はEOS 60Dでは「アートフィルター」として搭載されたもので(現在の同社のWebサイト上の表記は「アートフィルター機能(クリエイティブフィルター)」となっている)、「ラフモノクロ」、「ソフトフォーカス」、「トイカメラ風」、「ジオラマ風」に新しく「魚眼風」が増えて5種類となった。
撮影済みの画像に対して画像処理を行なうタイプで、オリンパスの「アートフィルター」のように効果を見ながら撮影することはできないし、DPPなどのソフトウェア上で「クリエイティブフィルター」を適用することはできない。反面、効果を3段階で調整できるうえに、重ねて適用することもできるので、幅広いバリエーションが楽しめる。
「アスペクト比」の設定画面。選択肢は定番的な4種類。当然だが、「3:2」比率以外では画角は狭くなる | 「4:3」比率の画面。撮影範囲は太めのラインでの表示で、画面が今で普通に見られる |
「16:9」比率の画面 | 「1:1」比率の画面 |
「1:1」比率で撮ったRAW+JPEGの再生画面。RAWはトリミング情報が付加されるだけなので、画面外まで見える | こちらはJPEGのみで撮った画像。画面外は黒でマスクされる。RAWもこれでいいと思うんですけどねぇ |
「クリエイティブフィルター」の選択画面。EOS 60Dに搭載されていた4種類に、新しく「魚眼風」が加わった | 「ラフモノクロ」はコントラストを「弱め」、「標準」、「強め」から選べる |
「ソフトフォーカスはぼかし具合を変えられる | 新しい「魚眼風」はゆがみ具合(鼻デカ度合い?)を変えられる |
「トイカメラ風」は色調を「寒色」、「標準」、「暖色」から選べる |
「ジオラマ風」はシャープに見える位置を動かせる。また、縦位置方向に切り替えることもできる |
効果の適用や保存はわりと速いので、液晶モニターを見ながら悩むよりいろいろ作って、あとで選ぶほうが効率がいい |
■まとめ
画素数や感度、連写スペックといった基本的な部分ではEOS Kiss X4と大差はない一方、エントリーユーザー向けには「シーンインテリジェントオート」や「機能ガイド」、「表現セレクト」を装備。ヘビーユーザーにも「マルチアスペクト」や「クリエイティブフィルター」は楽しめるだろうし、バリアングル液晶モニターの装備も注目だと思う。EOS Kiss X4よりも少しばかり大きく重くはなったものの、トータルでの魅力度は間違いなくアップしており、選んで損はしないカメラに仕上がっている。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
・雰囲気を選んで撮影する(表現セレクト機能)
選べる「雰囲気」は全部で9種類。わりとはっきりした効果の違いがある。ライブビューで見比べながら設定するのがわかりやすくていいだろう。ここではそれぞれ「標準」のカットを掲載する(「モノクロ」のみ「青」と「セピア」も掲載)。
雰囲気:モノクロ(雰囲気の効果:セピア) / EOS Kiss X5 / EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS II / 5,184×3,456 / クリエイティブオート / 1/200秒 / F10 / 0EV / ISOオート(ISO100) / WB:オート / 49mm |
・背景のぼかし具合
プログラムラインを中心に、絞りを開くほうに2ステップ、絞るほうに2ステップずつから選べる。ただし、ライブビュー撮影時でも効果を見ながらの撮影はできない。なので、とりあえず5段階全部シャッターを切って、撮った画像をあとで見比べるのが手っ取り早いと思う。
背景のボケ:もっともくっきり / EOS Kiss X5 / EF-S 60mm F2.8 Macro USM / 5,184×3,456 / クリエイティブオート / 1/80秒 / F10 / 0EV / ISOオート(ISO125) / WB:オート / 60mm |
・ピクチャースタイル
画づくり機能の「ピクチャースタイル」は、従来からの6モードに加えて、新しく「オート」が追加。撮影状況や画像の内容などによってパラメーターが変わると考えればよさそうだ。試写した条件では「スタンダード」と「風景」の中間くらいの仕上がりになった。
「ピクチャースタイル」は新設の「オート」が初期設定になった。「ユーザー設定」は3種類用意されている |
ピクチャースタイル:モノクロ / EOS Kiss X5 / EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS II / 5,184×3,456 / 絞り優先AE / 1/200秒 / F8 / 0.3EV / ISO100 / WB:オート / 18mm |
・感度
感度の設定範囲などはEOS Kiss X4と同じ。感度オート時は「1/35mmフィルムカメラ換算焦点距離」秒を基準に感度がアップしていくところも同じだ。
感度設定範囲はISO100からISO6400。「ISO感度拡張」で最高ISO12800までとなる。1EVステップでの設定となる | 感度オート時の上限感度の設定画面。初期設定はISO3200で、これはEOS Kiss X4と同じだ |
試写は「高感度撮影時のノイズ低減」を初期設定の「標準」で行なったが、傾向としてはEOS Kiss X4と同じ。ISO1600から暗部のノイズが目立つようになってくるが、発色の崩れも気にならないので十分に常用できそうだ。夜間や室内といった暗いシーンでの撮影であれば、ISO3200やISO6400でも不満は感じにくい。ISO12800も小さなサイズのプリントであれば使えなくはない。
・アスペクト比
EOS 60Dと同じく「マルチアスペクト機能」を搭載。標準の「3:2」のほか、「4:3」、「16:9」、「1:1」が選べる。ただし、利用できるのはライブビュー撮影時のみとなっている。
・クリエイティブフィルター
撮影済みの画像に対して適用する方式で、EOS 60Dよりもひとつ増えて5種類となった。効果を見ながら撮れるのがベストだと思うが、後処理方式は撮影後に時間をかけて効果の強弱を選べるのが便利だし、複数のフィルターの重ねがけができるのもいい。
・動画
スペックは1,920×1,080ピクセルのフルHD解像度で約30fps(24fpsにも切り替え可能)。内蔵マイクはモノラルだが、外部マイクを利用することでステレオ音声にも対応している。EOS Kiss X4に採用されていた、撮像素子中央部のみを使う「動画クロップ」機能は省略され、代わりに3倍から10倍までの「動画デジタルズーム」機能を装備した。
さすがに10倍になると粗い画になってしまうが、3倍ならそれほど画質劣化は気にならない。EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS IIでも264mm相当の望遠撮影が可能になるので、それなりに使いでのある機能だと思う。
動画撮影時の画面。電子ダイヤルで動画の解像度の選択、十字キーの左右キーでデジタルズームのオンオフが選べる | 「DISP」ボタンと「拡大」、「縮小」ボタンでデジタルズームの倍率を3倍から10倍の範囲で変えられる |
なお、EOS Kiss X4では動画の撮影情報などは別ファイル(拡張子が「.THM」のファイル)に保存されていたが、本機では動画ファイル内に保存されるようになり、同梱のブラウザーソフトのImageBrowserで撮影データが確認できた。
【動画】マニュアル露出、マニュアル感度設定が可能なので、ボケ具合や動感をコントロールできる。また、外部マイクにも対応している。EOS Kiss X5 / EF-S 18-55mm F3.5-5.6 IS II / 1,920×1,080 / マニュアル露出 / 1/30秒 / F11 / ISO200(高輝度側・階調優先オン) / WB:オート / 45mm |
【動画】「動画デジタルズーム」を使ってみた。3倍でスタートして10倍までズームアップしている。3倍ならそこそこ使えそうな感じだ。EOS Kiss X5 / EF-S60mm F2.8マクロUSM / 1,920×1,080 / マニュアル露出 / 1/125秒 / F11 / ISO200(高輝度側・階調優先オン) / WB:オート / 60mm |
・作例
2011/3/2 00:00