新製品レビュー

Nikon Z 50(実写編)

小型ボディに秘められた実力を検証

発売は11月下旬を予定。店頭予想価格はボディのみが税込11万9,900円。レンズキットは税込13万9,810円、ダブルズームレンズキットは税込16万9,840円。

DXフォーマット初のZマウントモデルとして10月10日に発表された「Z 50」。センターファインダーで本格的なカメラらしいスタイルと、カメラ本体やレンズを含めた超軽量なシステムは、ニコンZシリーズの新たな1ページを飾るにふさわしい1台に仕上がっている。

見た目は昨年発売のZ 7/6に瓜二つのZ 50だが、軽さは驚くほど違う。例えば675gのZ 7/6と500gのNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sの標準ズームセットは1,175g。対して450gのZ 50と(F値のスペックは違えど)同じく標準ズームのNIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRが135gで、合わせても585gしかない。まさかのほぼ半分の重量なのだ! あまりにもぴったりすぎて狙ったのかと勘ぐってしまう。実際に撮影中にうっかりZ 7を持ち上げる気分でZ 50を手に取ったら、想定より遥かに軽くて腕が浮かび上がるような錯覚があった。

今回はそんなZ 50の、軽量さだけじゃない確かな実力と魅力を実写画像からレポートしよう。

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解像度・画質

紅葉しはじめた日光の山々。晴れ渡っているが遠景は白く霞み、空気の層を感じられる描写となった。Z 50の画素数は現在においては高画素とは言えない2,088万画素だが、フルサイズのZ 6が2,450万画素であることを考えればAPS-CセンサーのZ 50としては十分な画素数ともいえる。解像力としては無理なシャープ感がなく扱いやすい印象だ。

Z 50・NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR・F8・1/60秒・ISO 100

高感度

Z 50の常用感度はISO 100~51200。また、そこから2段上となる最高ISO 204800相当までの拡張感度も選べる。星空の撮影をISO 6400、12800、25600で行ってみたが、一般的な星空撮影ではISO 6400程度までが良い結果を得られるだろう。以降の高感度では色ノイズが増え面の部分に色ムラが見え始める。ただしシャープネスは崩れにくくISO 25600でもエッジの崩れは最小限に感じる。

ピント合わせはマニュアルフォーカスで行っているが、-4EVに対応するローライトAFでも明るい星があればAFで合わせられた。暗所でのライブビュー性能はZ 7と同等に感じるほど星がしっかりと確認できた。

共通データ:Z 50・NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR・F5(高感度ノイズ低減:標準)

15秒・ISO 6400
8秒・ISO 12800
4秒・ISO 25600

発色・自然光オート

キチョウが花の蜜を吸っている様子を撮影。Z 50の発色の方向性はZ 7/6と差がほとんどない。またiメニューからピクチャーコントロールの各パラメーターを調整できるので、EVF内で一番印象に近い色を現場で作り出せる。

さらにホワイトバランスにはDX機として初めて「自然光オート」が搭載されている。オートで判定する光源を自然光に限定することで自然風景環境に最適なホワイトバランスが得やすいモードで、場合によっては「晴天」よりもきれいな色に仕上がることがあるため重宝している。

Z 50・NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR・F5.6・1/800秒・ISO 100

Z 50のサイズ感とベストマッチの標準ズーム「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」

Z 50のキット標準ズームレンズとして登場したのがNIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VRだ。このレンズの特徴は飛び抜けた小型軽量性。Zレンズの定番ともなりつつある沈胴式の鏡筒を採用し、収納時のサイズは長さ32mm。収納時のルックスがパンケーキレンズの銘玉Ai Nikkor 45mm F2.8Pに少し似ているのも好感が持てる。サイズも驚きだが、重さも135gと信じられないほどの軽さ。この小型軽量性で35mm判換算24-75mm相当のズームレンズだから使い勝手も抜群だ。

木の根元でまるまると育ったキノコ。広角側の最短撮影距離は25cmと標準ズームとしてはとても短く、ワイドマクロ的表現を積極的に狙える。またZ 50はボディ内手ブレ補正を搭載しないが、本レンズはシャッター速度4.5段分の手ブレ補正機構を搭載している。このシーンはミニ三脚でも難しいローアングルから狙ったため1/25秒の手持ち撮影だが、像はピタリと止まりシャープな描写が得られた。

Z 50・NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR・F11・1/25秒・ISO 1100

花の蜜を吸いに来たアブ。口や手に黄色い花粉をたくさん付けてかわいらしくホバリングしている姿を高速連写で捉えた。Z 50は高速連続撮影(拡張)で最高11コマ/秒の連写ができるので、瞬間的な撮影にも対応しやすい。本レンズは望遠側の最短撮影距離も30cmと短く、最大撮影倍率は0.2倍だ。

Z 50・NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR・F6.3・1/500秒・ISO 1400

森の中でひっそりと咲くヒガンバナをローアングルから撮影。太陽を入れて画面に方向性を出している。強い光源を入れるとゴーストが発生するが、数自体は多くないので光源の位置を変えるなどすれば目立たないように撮影できる。また背景を写し込むためと光条を出すためにF16まで絞り込んでいるが、Z 50には回折補正機能が搭載されているので1段分程度の失われたシャープネスを復元してくれる印象だ。

Z 50・NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR・F16・1/13秒・ISO 220

シラカバとオリオン。シラカバは建物の灯りで照らされている。本レンズは広角側が開放F3.5のため、夜の撮影にもチャレンジできる。画面周辺部ではコマ収差が見られるが、沈胴式でこれだけサイズダウンしたレンズであるからこの程度は十分大目に見られる範囲内に感じる。周辺光量落ちも開放では顕著だが、1段絞ればほとんど気にならない程度にまで解消する。

Z 50・NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR・F3.5・6秒・ISO 6400

携行性と描写力の好バランス「NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR」

上の標準ズームレンズがあまりにも小さいため、同じくキットレンズの望遠ズーム「NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR」はややインパクトが小さいかもしれないが、このレンズの描写力は侮れない。重量は405gと数値的にはそれほど軽く見えないが、手に取ってみるとやはり相当軽いと感じる。気になる描写はかなりの優等生だ。ズーム全域においてピント面のシャープネスが極めて良好で周辺光量落ちも少ない。F値が明るくないこともあってボケ量は少ないが、非球面レンズを採用しない光学系のためか、いわゆる玉ねぎボケのようなうるささがなく扱いやすい。

湯ノ湖を背景にシラカバのシルエットを描いた。望遠端の250mmは35mm判換算で375mmの画角となるので、感覚としてはほぼ400mm。約400mmのレンズを付けていてもボディと合わせて855gしかないことにあらためて驚く。重たい超望遠レンズを使う際には、シャッタースピード的にブレる可能性がなくとも、手持ちでフレーミングを作るのが難しいために三脚を使うことがある。Z 50とZ DX 50-250mmのコンビなら、大抵のシーンでサクサクと手持ち撮影できるのが非常に楽しい。

Z 50・NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR・F5.6・1/800秒・ISO 100

温泉が流れ込む湯ノ湖。グレーの湖底に鮮やかな落ち葉の色が映えていた。風が吹いて波が立つ瞬間を狙った。広角側80mmでの撮影だが、線が細くシャープネスの高い立体感のある描写が心地いい。本レンズの手ブレ補正効果は5段分で、ニッコールレンズ史上最高という補正段数だ。画角を固めてタイミングを待っているときなども、フレーミングにブレがなく安定して撮影できる。

Z 50・NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR・F11・1/80秒・ISO 100

池にホテイアオイが浮かんでいた。アイレベルでは池の反射がうまく入らなかったので、チルトモニターを開いて水面ギリギリまでカメラを下げることで背景の森をボケとして取り込むことができた。水面のゆらぎもあってどこか浮遊感のある不思議なカットになった。カメラ、レンズともに軽いシステムだったからこそ手持ちでチャレンジできた写真だ。

Z 50・NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR・F5.3・1/125秒・ISO 110

アキアカネの真正面。つぶらでカラフルな瞳やちょこんと木を掴む前足などかわいらしい姿が撮れた。解像力は極めて良く複眼や毛の質感など見事に描写されている。最短撮影距離は50mm時に50cm、250mm時に1mと変動するため、望遠マクロ的な撮影は少し慣れが必要に感じる。個人的におすすめは160mm前後。F値が5.6で撮れることと、ワーキングディスタンスが70〜80cmとなり扱いやすいためだ。

Z 50・NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR・F5.6・1/250秒・ISO 100

まとめ

Z 50のレベルは入門機ではない。たしかにカメラの小ささや軽さ、プラスチックマウントのキットレンズといった部分だけに注目すれば入門機のようにも見えるが、実際に触れて撮ってみると、そのレベルに収まる機種ではないことがわかるはずだ。特に画質とレンズ性能は非常に満足いくものだった。

使い勝手の部分に関しては、フルサイズ機のZ 7/6に慣れてしまっているとサブセレクターがないことや防塵防滴仕様ではないといったハードウェア面での差や、フォーカスブラケット機能の非搭載、ソフト面にも制限があったりと上位モデルとは違いを感じてしまうところもある。しかしそれは望みすぎというもの。もちろんそういったDX機の登場も待ち望んでいるが、Z 50とはまた別の話だろう。

10月23日10時追記:ニコンイメージングジャパンへ追加取材したところ、Z 50の環境耐性は「防塵防滴」ではなく「防塵防滴に配慮した設計」であり、レベルとしては一眼レフカメラのD5600と同等であるとの回答が得られました。

とにかく、Z 50の魅力はシステムとしての圧倒的な小ささと本格派のルックス、表現力に富んだ画質だ。きっとZ 50はフルサイズユーザーのサブ機としても、スマホからの一眼デビュー機としても最適な1台となるだろう。

今浦友喜

1986年埼玉県生まれ。風景写真家。雑誌『風景写真』の編集を経てフリーランスになる。日本各地の自然風景、生き物の姿を精力的に撮影。雑誌への執筆や写真講師として活動している。