ミニレポート
「ファインシャープネス」徹底研究
(PENTAX K-3)
Reported by 大高隆(2014/4/17 12:00)
K-3の画質はK-5 IIsと較べてシャープさに欠けると言われる。しかし、デジタルカメラが出力するJPEG画像のシャープネスは設定でかなり変えることができ、この点でK-3も例外ではない。
先日までの長期レポートでは、シャープネスは敢えてデフォルトのまま使ってきた。それは、レビュワーとして、まず標準設定での画質をしっかりと把握したかったからだ。しかし、そろそろいいだろうと思い、シャープネスをプラス方向に振って撮り始めたところ、画質についての印象は一変することになった。今回のレポートでは、シャープネス設定でどれくらい絵柄が変わるかを実際にみていただこうと思う。
ファインシャープネスの違いを確かめる
最初の実験は、純粋にシャープネスの違いだけが反映されることを意図し、RAWファイルからカメラ内現像でJPEGファイルを出力し、その際にシャープネス設定を変えて画質の変化を見ることにした。
ペンタックスのデジタル一眼レフには、3種類の性格が異なるシャープネスが備えられている。「ノーマルシャープネス」「ファインシャープネス」「エクストラシャープネス」だ。
ノーマルシャープネスは一般的な画像処理ソフトのシャープネスと同様に線が太くなる傾向があり、強く効かせることが難しい。それに対して、ファインシャープネスはAdobe Photoshopのスマートシャープに似ている。
ディテールのエッジに繊細にシャープを効かせていくので、線が太ってしまう欠点が目立ちにくい。エクストラシャープネスは、細かいディテールではなく、コントラストの高いエッジを強く強調する。ちょうどファインシャープネスと正対の効果を持ち、主に風景撮影用と説明されている。
この3つの中でもっとも使いやすく、一般的な意味での“画質”の範疇にあるのはファインシャープネスなので、ここではファインシャープネスの設定を最小から最大(-4から+4)まで与え、その違いを見てみよう。
結果を見ると、まず当然ながらピントが来ている部分はファインシャープネスを強くするほど切れ込みが鋭くなる。しかしそれだけではなく、前後の微妙なボケが目立たなくなるとともに、視覚的なコントラストも高くなり、見かけ上のピントが深く感じられるようになるのがわかる。
K-3の画の特徴は、被写界深度が浅く見えることだ。本来、被写界深度という言葉の意味は、A4程度の大きさのプリントを、明視の距離で見た時にピントが合っているように見える被写体距離の深さという意味であり、ピクセル等倍観察で被写界深度を云々を言うのは厳密には正しくない。
しかし、とりあえずピクセル等倍でみると、K-3が作り出す絵は、一般的なAPS-C機の水準と較べて微小ボケの領域が柔らかく、ボケが大きいかのように見える。言い方を変えれば、ボケの繋がりが良いとも言える。
シャープネス設定で変わることから、この要素はJPEG生成時のエッジ強調に関係する考えていいだろう。エッジ強調が強過ぎるとボケのよさが充分に生かされず、どんな名レンズをつけてもあまり意味がない。ユーザー設定でシャープを強くし過ぎてはいけない事はもちろん、撮像素子から画像エンジンに渡される元データのエッジ強調も穏やかである方が有利だ。つまりK-3のようなチューニングの方がレンズの味は引出しやすいのだ。
K-5 IIsとの違いは?
その一例として、K-5 IIsとK-3でシャープネス設定による画質変化を比較してみよう。同じくファインシャープネスを-4から+4までを与えて、同じ被写体を撮影した。
これを見ると、K-5 IIsはファインシャープネス -4と+4を較べてもほとんど差がないのに対し、K-3のほうは-4ではK-5 IIsより遙かに柔らかく、+4ではわずかながらK-5 IIsより描写が鋭く感じられる。
K-5 IIsの画質が設定にあまり影響されないのは、画像エンジンに渡される前の段階で既に、強めのエッジ強調を受けているせいだと推察できる。しかしいずれにせよ、K-3はK-5 IIsよりもシャープネス調整の効果が大きいことは間違いない。
仮に、K-5 IIsの調子を好むユーザーがK-3の絵をそれに合わせたいなら、おそらくファインシャープネス +2くらいが適当だろう。ただK-5 IIsの絵は多少硬過ぎるきらいもあり、画素数が違えば写真機としての用途も若干変わるので、両機の画質をそろえることにあまり意味はないように思う。K-3の持ち味の柔らかさも残したいので、私の設定は、このところファインシャープネス +1に落ち着いている。
銀塩カメラに近い自由度を得たK-3
銀塩の時代には、フィルムの銘柄を変えることで好みの画の調子を選べるのが当たり前だった。しかしデジタルカメラは撮像素子がカメラに固定されているため、コマ速度あるいはAFスピード・画素数などのスペックを優先する場合、画の調子に関しては二の次にならざるを得ない面もあった。
しかしその点、K-3はシャープネスの調整で画質を大きく変えることができ、ローパスセレクターによる尖鋭性の調整とも組み合わせれば、1台のカメラで幅広い表現が可能だ。
つまり銀塩カメラに近い自由度を得たことになる。ユーザーが自分の好みに合わせた設定を見つけてやれば、最新の撮影機能・スペックと、好みの画質とを兼ね備えた自分仕様のカメラとして、充分に期待に答えてくれるはずだ。