ミニレポート

Ver.2.0からの新機能「デジタルシフト」を解説

(OLYMPUS OM-D E-M1)

オリンパスのミラーレスカメラ「OM-D E-M1」のファームウェアがVer.2.0にアップデートされた。細かな改善が為されると同時に、いくつかの新機能が追加されている。

その中のひとつ「デジタルシフト」を実際に使用してみた。

ファームウェアVer.2.0が公開されたOLYMPUS OM-D E-M1

まず「デジタルシフト」とはどのような機能なのか。

オリンパスのホームページの説明では「シフトレンズを使用しているかのように撮影可能」と書かれているが、そもそも「シフトレンズって何?」という方も少なくないはずだ。簡単に説明するならば「撮影画像を縦方向もしくは横方向へ台形に歪ませるレンズ」とでもいえば伝わるだろうか。

実際にどのような効果が得られるのかをご覧いただきたい。壁に貼付けた方眼マットを、デジタルシフトを使って撮影した。

デジタルシフトOFF:真正面から
デジタルシフトON:画面右側を最大値まで拡大
デジタルシフトON:画面左側を最大値まで拡大
デジタルシフトON:画面上側を最大値まで拡大
デジタルシフトON:画面下側を最大値まで拡大

画面中心を軸として、横および縦方向へ台形に歪ませていることがわかる。すべてカメラ内にてデジタル処理しているものだ。

さて、このように画像を歪ませて記録できる「デジタルシフト」だが、実際にはどのようなシーンでの使用が想定されるのだろうか。

まず最初に考えられるのが建物の外観撮影だ。大きな建物の全体を近くから捉えようとすると、広角レンズで仰ぎ見るようなアングルになってしまう。すると、建物の下側が大きく写り上部がすぼまって写ってしまう。これは広角レンズの特性で、カメラから近いものは大きく、遠いものは小さく写るという特性によるものだ。

このような場合に「デジタルシフト」を利用することで、建物を真っすぐな形で記録することができる。

デジタルシフトOFF:店舗の外観を24mm相当(35mm判換算)で撮影。画面全体に建物を入れようと少し低目のアングルから撮影した。それにより建物が上に向かってすぼみ柱や壁が斜めになっている。E-M1/M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO/ISO200/F6.3/1/100/0EV/WB:オート/12mm
デジタルシフトON:同じ位置から撮影。上下方向のデジタルシフトで建物上部を拡大した。建物中心部扉の柱が垂直になるように調整。E-M1/M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO/ISO200/F6.3/1/100/0EV/WB:オート/12mm
デジタルシフトOFF:30mm相当(35mm判換算)で撮影。建物から少し離れて撮っているが、やはり上すぼみで塔も傾いて見える。E-M1/M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6/ISO200/F7.1/1/200/0EV/WB:オート/15mm
デジタルシフトON:同じ位置から撮影。上下方向のデジタルシフトで建物上部を拡大した。建物の柱が垂直となり、教会の塔もまっすぐに立つ。全体にすっきりとしたフォルムとなった。E-M1/M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4-5.6/ISO200/F7.1/1/200/0EV/WB:オート/15mm

このように、建物を垂直方向にまっすぐに見せることができるととても気持ちよい。

建築写真の世界では、撮影時にきっちりと建物の水平垂直を合わせておくのが基本となる。その際に使用するのがシフトレンズなのである。

つまり、E-M1 Ver.2.0の「デジタルシフト」は、カメラ内でシフトレンズに似た効果をデジタル処理にて得ることができるのだ。

建物の室内撮影においても「デジタルシフト」は効果を発揮してくれる。ここからは室内撮影での効果と、E-M1における設定画面をご覧いただこう。

まずはE-M1の[メニュー]→[カメラ設定1]→[デジタルシフト撮影]から、デジタルシフト撮影をONにする。事前にモニター画面に方眼の罫線を表示させておくとよい。

次に水平を確認し、デジタルシフトをメニューから呼び出した。まだ調整はしていない状態で、床面を入れるためカメラは少し下向きにしている。それにより壁面が下すぼまりとなっている。

後ダイヤルを回して縦方向を補正。壁面や鏡台、椅子などが垂直になったことでとても安定した構図になった。

補正をかけると本来の画像の周囲が引き延ばされる分、写る範囲はひと回り小さくトリミングされる。

縦方向に補正すると、画像の上下に余裕のある状態でトリミングされる。その状態は画面右下の図形で確認が可能。必要に応じてトリミングする枠を、カメラの4方向ボタンで移動できる。

トリミング枠を下にずらし、天井をカットする代わりに床の面積を多くした。天井を見せるか床を見せるかで室内の印象が変わるので、この機能が使えるのはありがたい。

いったん縦方向のデジタルシフトを初期状態に戻し、今度は横方向にデジタルシフトをかける。

ちなみに、縦方向と横方向を同時に補正することはできない。

前ダイヤルを左方向に回して画面左側を拡大した。壁面の手前側を拡大してより遠近感を誇張した。同じカメラアングルのままでもこれだけ印象をかえることができる。

その状態で、トリミング枠を右端から左端に移動させてみた。

広角レンズの特性により、手前側端の像が一番大きく写る。デジタルシフトでさらに拡大し誇張することで、極端なパースのついた写真とすることもできる。

室内では限られた空間内での撮影となるため、どうしてもカメラ位置を後ろに引いて撮ることができないケースがある。そのようなときに広角レンズとデジタルシフトを活用することでできるだけ傾きを補正した撮影が可能となる。

これを逆手に取って、遠近感を誇張した撮影も可能だ。コツとしてはできるだけ広い範囲をレンズの画角で捉えておき、トリミング枠調整を最適な位置に合わせて切り出しを行なうことだ。

E-M1にて撮影したデジタルシフト画像は、RAWデータとして保存された画像にも反映される。

「OLYMPUS Viewer 3」でRAWデータを開き、RAW現像パネルで表示させてデジタルシフト「適用」にチェックマークを付けるとE-M1で行ったデジタルシフト設定が反映される。もちろんここから設定を変更することも可能だ。

また、撮影時にデジタルシフト設定を行っていない画像に対しても、デジタルシフトを適用できる。E-M1のデジタルシフト設定よりも細かいステップで調整が可能。具体的には、強度200ステップ、トリミング130ステップ。E-M1では強度40ステップ、トリミング最大26ステップとなる。

「OLYMPUS Viewer 3」でのデジタルシフト設定画面

Ver.2.0で加わったデジタルシフトは、限られた空間での室内撮影や、建物の外観撮影などで便利な機能だ。また、あえて歪みを強調するような撮影方法を作風として取り入れるのも面白いだろう。

ただし、本来のシフトレンズ(正確にはチルト機能を兼ね備えるティルトシフトレンズ)が得意とするピントが合う面の操作や、逆アオリによる前後ボケといった効果は生み出せない。こういった特徴をきちんと理解して使用すれば、デジタルならではの手軽でクオリティの高い撮影に活かす事ができるだろう。

他にもVer.2.0では、新しいアートフィルター「ヴィンテージ」や、E-M10に搭載されていた「ライブコンポジット」など、多くの新機能が搭載された。Ver.1.0からの改善も施されている。

すでにE-M1を使用しているユーザーが、これらを追加料金なく使用できることは、とても歓迎できる点だ。今後もVer.2.0にて追加された機能について機会を作ってレポートしていきたいと思う。

ロケ地:芦別カナディアンワールド公園 アンの教会

撮影協力:plage misa

礒村浩一

(いそむらこういち)1967年福岡県生まれ。東京写真専門学校(現ビジュアルアーツ)卒。広告プロダクションを経たのちに独立。人物ポートレートから商品、建築、舞台、風景など幅広く撮影。撮影に関するセミナーやワークショップの講師としても全国に赴く。近著「マイクロフォーサーズレンズ完全ガイド(玄光社)」「今すぐ使えるかんたんmini オリンパスOM-D E-M10基本&応用撮影ガイド(技術評論社)」Webサイトはisopy.jp Twitter ID:k_isopy