交換レンズレビュー

Otus 1.4/55

カールツァイス入魂のモンスターレンズ

 コシナから発売されるカールツァイスブランドの「Otus 1.4/55」は、国内ではInterBEE 2013で参考出品された注目のレンズだ。35mmフルサイズ対応のレンズで、キヤノンEFマウント用(ZE)とニコンFマウント用(ZF.2)を用意する。

今回はニコンD800Eで使用した。発売は5月29日。価格は税別42万5,000円

 Otus 1.4/55の注目すべきは、カールツァイス120年のレンズメーカーとしての歴史の集大成となるレンズということだろう。一切の制約と妥協を排除して作られたというレンズは、非球面レンズや異常部分分散性の特殊光学ガラスを採用した10群12枚のレンズ構成になっている。

 ディスタゴンタイプの光学設計により、絞り解放からレンズ周辺まで画質の劣化がほとんどないという。また、大口径レンズの宿命である歪曲収差や色収差など想定できる弱点をほぼ克服しているという。それにより、どのシーンにおいてもカラーフリンジや色にじみのないシャープな画質を得られるとしている。公表されているMTFなどの性能表を見ても絞り開放から圧倒的な描写力のレンズであるということがわかるだろう。

 今回は様々なシーンでテスト撮影を行ったので、実写を見てこのレンズの実力を堪能していただきたい。

デザインと操作性

 デザインは今までコシナが発売してきた一眼レフ用カールツァイスレンズのような鏡筒ではなく、カールツァイスTouitシリーズのような外観だ。

シンプルなレンズ名の入り方でセンスがある。フィルター経は77mmを採用

 フォントやZeissのロゴの入り方は映画用のレンズMaster Anamorphicレンズのような印象を受ける。全長は、119.6mm (ZE) 、117.1mm(ZF.2) 、最大経は92.4mmとなっている。質量は1,010g(ZE) 、960g(ZF.2) とこの焦点距離のレンズとしては圧倒的に重い。ずっしりしたレンズはガラスの塊といった印象だ。

鏡胴の刻印はカールツァイスの映画用レンズを思わせる

 お世辞にもコンパクトとは言えないので、D800やD4など大きめのカメラと組み合わせる方がバランスが良いだろう。鏡筒のZEISSの青いロゴがカールツァイス好きの心をつかむに違いない。

大きなレンズではあるが、D800Eとのバランスは良い印象だ。フォーカスリングはラバー製で滑りにくい。鏡筒にはZEISSのロゴが目立つ
絞り羽根は9枚を採用。真円ではないがとてもきれいな絞りだ。レンズにはT*コーティングが施されている

 本レンズは一見AFレンズ見えるが、MF専用レンズだ。フォーカスリングはムラのないスムーズなトルク感でピントをスムーズに合わせることができる。MFが苦手なユーザーや慣れていないユーザーはカメラのフォーカスエイドなどを使えば問題ないだろう。また、ニコン用は絞りリングも搭載している。

マウントは金属製で高級感がある。写真のニコン用は絞りリングを備えている
金属製のフードが付属する

遠景の描写は?

 遠景描写では香港のビル群を撮影した。世界最高品質のレンズの描写力を早速見てみよう。驚くべきは絞り開放からレンズ中央はもちろんのこと周辺まで圧倒的な描写をしている。

 同等スペックのほかのレンズであれば、絞り開放ではレンズ周辺に粗が目立ちやすいはずだが、本レンズは絞り開放から十分使える印象だ。残念ながら撮影日は曇天だったが、天気が良ければさらにコントラストが高くなるはずだ。

 また、回折ボケに関してもほとんど気になることはなかったが、細かく見ればF11~F16まで絞るとF5.6やF8の時に比べて画質が劣化しているようだ。また、周辺の光量落ちはF4まで絞れば目立たなくなる印象。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F1.4
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
以下のサムネイルは四角の部分を等倍で切り出したものです。
F1.4
F2
F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
共通設定:D800E / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 55mm

ボケ味は?

 ボケ味に関しては流石だ。ピント位置のシャープな部分からアウトフォーカスにかけて素直で柔らかいボケが美しい。線も細く主被写体を素直に浮き立たせてくれる。

 口径食の影響もほとんどなく、玉ボケは美しい。玉ボケのエッジも柔らかく強調しすぎていない点も評価できる。絞り開放では口径食の影響で玉ボケがレモン型にはなるが、他の同等スペックのレンズと比べ圧倒的に口径食の影響は少なく実用になるだろう。

絞り開放・最短撮影距離(50cm)で撮影。美しい植物に最接近して狙った。ピントの合う範囲は数cmではあるが、葉脈までしっかり解像している。ボケは素直で玉ボケは口径食の影響は受けてはいるがほぼ球状だ。D800E / 1/3,200秒 / F1.4 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 55mm
絞り開放・距離数mで撮影。2mほど離れておしゃれな消火栓を撮影。被写体と適度な距離があっても十分なボケを得られるのでポートレート撮影では圧倒的なボケを期待できる。D800E / 1/3,200秒 / F1.4 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 55mm
絞りF2.8・距離数mで撮影。浜辺においてあったライフガード用のサーフボードを撮影した。距離は3~4mほど離れたが、ボケは大きくサーフボードを際立たせることができた。砂浜の前ボケ感も好印象だ。D800E / 1/5,000秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 55mm
絞りF4・距離数mで撮影。香港の路地に止めてあったスクーターを撮影した。距離は約3mだったが適度なボケを得ることができた。スクーターに塗られた塗料のムラなどもしっかりと確認できる。D800E / 1/125秒 / F4 / -0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / 55mm

逆光は?

 レンズには、定評のあるT*コーティングが施してあるため、逆光時や街灯などの点光源を撮影してもゴーストやフレアなどで悩まされることはなかった。

 実際にハワイの強い日光で撮影してみたが全く気になることはなかった。逆光時でも高いコントラストを保持できておりコーティングの優秀さが伺える。

太陽が画面内に入る逆光で撮影。レンズフレアやゴーストは確認できない。非常に優秀だ。D800E / 1/2,500秒 / F6.3 / -0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / 55mm
太陽が画面外にある逆光で撮影。こちらもフレアやゴーストは確認できない。コントラストも高くまったく不満はない。D800E / 1/800秒 / F6.3 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 55mm

作品

ハワイの有名な夜景スポット、タンタラスの丘からワイキキを撮影。F7.1まで絞って撮影したが圧倒的な描写力に驚かされた。画像等倍で見るとフィールドにいる人の姿まで確認することができた。フレアやゴーストも確認できない。D800E / 13秒 / F7.1 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 55mm
寝ている猫を撮影。ピント位置の目を見てみると猫の目のディテールまでしっかりと表現できている。ピント位置からアウトフォーカスにかけてのナチュラルなボケ具合がとても素直で美しい。D800E / 1/200秒 / F2.2 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / 55mm
直射日光の当たるバイクを撮影。メタルの部分にはパープルフリンジなど収差が発生しやすいが、全く収差が見当たらない。本当に優秀なレンズと言えるだろう。D800E / 1/1,000秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 55mm
街中で点光源の多くある場所を背景にバスストップの看板を撮影。口径食の影響はあるが絞り開放ということ考慮すると優秀だと言える。ちなみに、1段絞れば口径食はかなり改善される。D800E / 1/125秒 / F1.4 / -0.7EV / ISO800 / 絞り優先AE / 55mm

まとめ

 発表以来気になっていたレンズではあるが、実写してみて本当に優秀なレンズであることを体感することができた。

 MF専用でありながら重量は約1kg、価格は40万円以上もする。スペックも価格もモンスター級レンズではあるが他のレンズとは一線を画すレンズであることは間違いないだろう。

 絞り開放から圧倒的な描写力が発揮できるのでポートレートやスナップユーザーで最高のボケと解像感を求めたいというユーザーにはオススメできる究極のレンズだ。

 特に高い描写力が求められるD800EやD800など高解像度のカメラをお持ちのユーザーには一度使っていただきたいレンズと言えるだろう。

上田晃司

(うえだこうじ)1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして世界中の街や風景を撮影している。現在は、カメラ誌やWebに寄稿している。
ブログ:http://www.koji-ueda.com/