交換レンズレビュー
SIGMA 50mm F1.4 DG HSM
開放から高い解像力と自然なボケ。最強の50mm登場
Reported by 礒村浩一(2014/5/12 08:00)
シグマから発売された「50mm F1.4 DG HSM」は、35mmフルサイズ機対応の開放F1.4の大口径単焦点レンズだ。2008年に発売された同社の「50mm F1.4 EX DG HSM」の後継機となる(記事執筆時点では併売)。このレンズは高品位なレンズシリーズと位置付けられた同社「Artライン」に属する。
デザインと操作性
手にしてまず感じるのは、そのズシリとくる重さだ。815gという質量は単焦点の標準レンズとしては特筆に値するが、それを納得させられる大きな前玉は圧倒的な存在感を放ち周囲の光を集めて輝く。
鏡筒は上品な艶消しの黒塗装からマウント部に繋がる鏡面仕上げ、そして左手の指がホールドする位置に刻まれた直線のパターン(滑り止め)とで構成されており、それはあたかもフォーカスリングのローレットパターンをそのまま延長したかのようにも見える。高級感と実用性が高いレベルで融合したデザインである。
レンズ構成は8群13枚。SLD(Special Low Dispersion:特殊低分散)ガラスレンズ3枚とグラスモールド非球面レンズ1枚が含まれている。9枚の絞り羽根による円形絞りを採用しており最小絞りはF16。最短撮影距離は40cmと前モデルより5cm短くなっている。
今回はキヤノンの35mmフルサイズデジタル一眼レフ「EOS 5D Mark III」と組み合わせて撮影を行ったが、フルサイズ機の大きなボディと合わせても十分に存在感がある。カメラとレンズを合わせた質量は1,800gほどにもなるが、実際に手にすると重量バランスはすこぶる良い。
手ブレ補正機構は搭載されていないが、この組み合わせならばその重さゆえ慣性の法則により安定してしまう。確実なホールドと明るいレンズによる速いシャッタースピードを活かせば手ブレはかなり抑制することができるだろう。
いざ撮影と、カメラのファインダーを覗くと開放F1.4の明るい世界が目の前に広がる。日常的に使用している開放F2.8やF4のズームレンズレンズとは明らかに明るさが違うことを再認識する。
カメラのシャッターボタンを半押ししてAFをスタートさせると、ファインダースクリーンに投影される像が50mmレンズの画角のなかでアウトフォーカスからインフォーカスへと遷移し、遠近という空間の中に意識が引き込まれる。これは光学ファインダーカメラならではのものだ。
HSM超音波モーター搭載のこのレンズは、AFも十分に速く動作音も静かだ。しかしあえてMFに切り替えてフォーカスリングを指で回しながらフォーカスの移ろいを目で楽しみたくなるレンズでもある。
遠景の描写は?
まずピントを合わせた画面中心部に注目する。開放絞りであるF1.4からF2、F2.8、F4と1絞りごとに木々の枝がシャープに描写されていくことがわかる。F4~5.6でシャープさがピークに達し、F8、F11と絞るにつれ緩む。F16では回折の影響で像の分解能力が低下している。次に画面周辺部ではF4がシャープさのピークとなるがF8まではほぼ変わらず、F11~16で像の分解能力が低下している。
ただしこれらは各絞り値の画像を比較した結果であり、一般的な他の50mmレンズと比べると格段に分解能力が高い。開放絞りF1.4でも画面全体の描写力は非常に優れている。
周辺減光が発生してはいるものの、程度は非常に軽微だ。また最小絞りF16でも回折による解像力の低下が非常に少ないことに驚く。被写界深度を得るためであれば迷わず絞り込み撮影しても良いだろう。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
最近のカメラはレンズの諸収差や周辺減光を画像処理で補正する傾向がある。ただしEOS 5D MarkIIIではキヤノンの純正レンズ以外は補正することができない。それにもかかわらずこれほどまでに収差や周辺減光が少ないことは驚き以外のなにものでもない。
ボケ味は?
ポートレート撮影において最短撮影距離まで近づき人物の目元にピントを合わせた。F1.4という明るい絞り値により極端に浅い被写界深度となる。ピントが合った箇所は驚く程シャープに、その前後はおおきくボケる。とくに後ボケが柔らかく背景の色に溶け込むような描写となっているのが印象的だ。
また絞り開放F1.4で人物から2mほど離れてバストアップを撮影したものでは、遠景である背景が大きくボケて色のグラデーションとなり人物がきれいに浮き立つ。
50mmレンズは、人物との距離感がとても自然になる画角を持つ。加えて本レンズはリアルな描写となるおかげで、まるで手が届くところに人物が存在しているかのような写真となる。人物の存在感とその場の空気感を同時に活かすことができるレンズだ。
このレンズの魅力は開放絞りでの撮影だけではない。F2.8~F5.6まで絞ると描写力がグンと高まる。これは被写体からすこし離れた位置からの撮影でも同様だ。
同時に被写界深度も深まるので、程よいボケ度合いを得ることができる。とくに前ボケ後ボケを被写体の前後に配置しての撮影はとても効果的で魅力的だ。ピントを合わせた箇所はあくまでもクリアに、その前後のボケを狙い通りにコントロールして写真を演出する。そのメリハリこそがこのレンズの大きな武器だ。
逆光は?
画面内に太陽をそのまま写し込み撮影することで、レンズの逆光に対する性能を確かめた。
太陽が隠れた状態での描写に対し直接太陽を写し込んだ画像では、若干ではあるがフレアが画面内に生じている。しかし2つの画像を比較してもコントラストの低下は非常に少ない。
これはレンズ内での不必要な光の反射が最小限に抑えられていることによるものだ。レンズ表面のコーティングも含め徹底的な対策を講じた設計であることがわかる。
まとめ
かつて50mmの単焦点レンズは標準レンズとして一眼レフカメラには欠かせない位置を占めていた。そのなかでも開放F1.4のレンズは各カメラメーカーが自社の技術力を発揮する看板的な存在であったという。
いまやズームレンンズが単焦点レンズに取って代わってしまったが、そのなかで、あえて高級と呼べる50mm F1.4レンズを世に送り出すシグマというメーカーの矜持を示すには、十分過ぎるほどの性能を持ったレンズだと言える。
大口径ゆえに“ボカすレンズ”という面が取り上げられやすいが、ひと絞りふた絞りしたときの痺れるようにクリア描写は、風景でもスナップ撮影でも間違いなく最高の画質を引き出してくれるはずだ。間違いなく現代の至極の1本と呼べるレンズである。
(モデル:夏弥)