交換レンズレビュー
Nikon AF-P NIKKOR 70-300mm f/4.5-5.6E ED VR
絞り開放からシャープな写り AFや手ブレ補正も安定感あり
2017年9月4日 07:35
今や200-500mmや150-600mmといったより長い焦点距離の超望遠ズームもあるが、ただ単に被写体をアップにして写真に収めるのではなく、周りの状況も画面に入れつつ望遠効果を出すよう表現するには、まずはこの70-300mm辺りが「長すぎず短すぎず」程よいズーム域になるだろう。
70-300mmレンズは、35mmフルサイズの「FXフォーマット」において、気軽に、しかし本格的に望遠効果が得られるズームレンズといえる。高倍率ズームなら広角から1本でカバーできる範囲ではあるが、望遠域でより良い画質や、素早いオートフォーカス反応を求めるならば、俄然、候補に挙げるべきレンズである。
先代のAF-S VR Zoom-Nikkor 70-300mm f/4.5-5.6G IF-EDは2006年12月の発売。それから11年の歳月を経て、電磁絞りのEタイプに、フォーカス調整レンズの制御にステッピングモーターを採用するAF-Pタイプとなり、最新の駆動機構を搭載した望遠ズームに様変わりした。
ちなみにニコンは7月25日に創立100周年を迎え、デジタル一眼レフカメラ「D850」の開発発表を行ったが、後日の7月28日に世に出たこの70-300mmが100周年の記念日から最も近い日に発売開始された製品となっている。
発売日:2017年7月28日
実勢価格:税込9万1,000円前後
マウント:ニコンF(Eタイプ)
最短撮影距離:1.2m
フィルター径:67mm
外形寸法:80.5×146mm
重量:約680g
特徴
ニコンではこの70-300mmのレンジに近いズームとして、いわゆる「大三元」の1本であるAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR(フィルター径77mm)、同じ焦点距離でF値を4で固定させ一回り小さくしたAF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR(同67mm)、そして超望遠域までを含むAF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR(同77mm)をラインナップしている。
さらに、APS-C版のDXフォーマット用で若干暗くなるが同じ画角表記のAF-P DX NIKKOR 70-300mm f/4.5-6.3G ED VR(同58mm)もある。
フィルター径が77mmとなる70-200mm F2.8、80-400mm F4.5-5.6の2本は全体径も太く、本体はずっしりと重い。重量ではともに1.5kg近くに達する本格派だ。
今回の70-300mm F4.5-5.6は約680gで重量は半分以下と軽量。フィルター径も67mmと小ぶりで、価格も大手量販店で9万円台と比較的手軽に望遠世界への入り口に立てるレンズとなる。
望遠端300mmでの開放F値を5.6とすることで、重量級である前述の70-200mm F2.8などと比べれば外見で一回り以上小さく、望遠ズームとしては小型軽量で取り回しの良さが特筆できる点だ。
また、焦点距離範囲を高倍率ズームレンズに比較して欲張らず、無理のない光学、鏡筒設計を得られるため、メーカーが公表しているMTF曲線では、高倍率ズームレンズと比べ良い評価が出ている。また、ズーム全域で最短撮影距離1.2mが達成されたことで、300mm時に最大撮影倍率が0.25倍あることも注目に値する。
一方、駆動面では絞り羽根の制御をカメラ本体からのメカニカルなレバー操作ではなく、アクチュエーターによる電気的な制御に変更しているので、その動作安定性も向上している。
デザインと操作性
これまでの同社一眼レフカメラ用レンズと同じく、梨地の黒鏡筒をベースとした本体、そしてEDガラスを用いたレンズに与えられる金文字のネームバッジが目に付く。
マウント部に近い根本部分からフードの先端に至るまで、少しずつ鏡筒径を増やしていくような、段差を目立たせないスリムさを演出させ、細みの本体をアピールしながらも、先鋭感のある印象を受ける。
およそ左手でホールドする位置、レンズ本体の前側にズームリングを配し素早くズーミング操作が行える。また、全域に渡り一定のトルクで繰り出せる。そのズームの回転角は大きくも狭くもなくワンアクションで全域を繰り出し/収納が可能で、自然で使いやすい。
望遠ズームレンズながら小型軽量ゆえに、縦位置バッテリーパックを付けずともバランスのいいホールド感が得られ、常に安定、安心するような構えでいられた。望遠レンズといえば少々重い70-200mm F2.8のレンズを多用する私にとって、この小さく軽い感覚を持ってして構える望遠世界が、これまでの機材へのこだわりを打破させてくれそうな気配を感じる。
一連のニコンレンズと同様、マウント側から見てレンズ左側に、フォーカスモードの切り替えスイッチと手ブレ補正モードの切り替えスイッチが付く。従来と同じく小さめのスイッチだが固めのクリック感で、今回の試写ではバッグ収納時などの際に不用意に動くようなことはなかった。
上のスイッチがAFモードスイッチ。左が「A/M」モードで、フォーカスリングに触れマニュアルフォーカス(以下MF)に移る際に少しのタイムラグがあるAF優先のモード。真ん中が「M/A」モードで、AF優先ながらMモードに比重をおき、「A/M」モードに比べてフォーカスリングに触れれば瞬時にMFに移る。右が完全な「MF」モード。
その下のスイッチがVRモードスイッチ。左がVRを作動させないOFF。真ん中が静物撮影に適した「NORMAL」モードで、右が流し撮りなど動きものに適する「SPORT」モードとなっている。
三脚座はなく、オプションでも用意されていないという小型軽量への徹底ぶりは、後述する世代を新しくした手ブレ補正のVR機構の自信の現れとも取れる。
付属のフードは、本体の径より先端に向けてわずかに開くようデザインされ、その長さと細さもあり装着すると凛々しい印象を受ける。バヨネットを介して本体に固定するがAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRのようなロックスイッチはない。
AF
被写体へのフォーカスキャッチは素早く、続く追随性もMTBダウンヒル競技ではカメラ手前の2~3mまで追い続け、見事な達成ぶりを感じられた。ステッピングモーターのAF動作は、AF-Sの超音波モーターと同等、もしくは幾分速く感じられる好レスポンスを体感できた。
ただ、私の使った個体の問題かもしれないが、モーター駆動時に「ピュィー」とでも記すような電子音が若干耳に入ったことが、動画撮影時などで影響が出ないか気がかりである。
ズームリングの後ろにレイアウトされたフォーカスリングの動きはベアリングの組み込みによって非常に滑らかな動きが再現されているが、ステッピングモーター採用のため、MFではメカニカルでダイレクトな動きとはならず、回転角とフォーカス移動の比例関係もなかなか把握できなかった。また、MFでフォーカシングする際はカメラ側の電源をONの状態で、なお半押しタイマーで通電させておく必要もある。
使用するボディによっては半押しタイマーが切れて電源が行き渡らない状態から、再び半押しタイマーで通電させた際に、留まっていたフォーカス位置から無限遠近くに移動する現象が起こるので、半押しタイマーの時間を長めに設定するか、フォーカスを動かす必要がない時などはフォーカスモードスイッチをMFにしておくことが得策だ。
超音波モーター搭載のAF-SレンズによるMFでは、ピントリングを回し、無限遠や最至近の位置まで来ると、指に伝わる抵抗からその地点がわかる。しかし、ステッピングモーター搭載のAF-Pレンズでは常に同じ抵抗感でピントリングを永遠に回し続けられるため、指の感覚だけでは無限遠や最至近に来ているかどうかがわからない。
この現象に対応するため、対応するカメラボディでは、フォーカスが無限遠や最至近にある場合に、ファインダー内表示にある合焦の●マークの左右にある光軸方向の三角マークを点滅させて表すという気配りがなされている。
そしてAF駆動用にステッピングモーターを搭載したことによって、超音波モーターに比べて動作音が無音に近く、録音も行う動画撮影時のAFに適しているとされる。
しかし、ステッピングモーターの採用により、カメラボディのうち旧モデルで使用できないものも出てきた。また現状のラインナップにあるここ数年のモデルでもファームウエアをアップデートしておく必要がある。ここではその詳細を省くので、使用にあたっては装着カメラが問題なく使えるかをメーカーのWebサイトで予め調べておこう。
手ブレ補正
今回搭載された手ブレ補正のVRは最大で4.5段分の補正効果を謳い、また「SPORT」モードが実装されて先代レンズのVRとは明らかに世代が異なるものとなった。
「SPORT」モードが採用された手ブレ補正のVRは、2016年秋に発売されたAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRの「SPORT」モードより、連写時のファインダー像など、いずれの安定度も進化したように感じられる。
流し撮りなどで動く被写体を追いかける際もぎこちない動きとはならず、常にその被写体を画面の任意のポジションに留めることができた。一連の試写で、動かない被写体に対しては「NORMAL」モードと使い分けたりもしたが、結果、VRは「SPORT」モードに入れっぱなしが吉とも思えるほどだった。
作品
宮古空港の展望デッキより737-500型機を70mmの絞り開放で撮った。夏の南国ということや、航空機のAPU(補助動力装置)や地上作業車の熱が発せられるエプロン地区なので、陽炎の出る状態ながら、開放絞りでもシャープな写りとなった。
画面の中央部、特に機体にある日本国旗付近にあるリベットの凹凸でその明瞭さを判断できる。周辺減光を抑えるヴィネットコントロールを「弱め」に設定したが、絞り開放なので効果が足りないようだ。
同じ展望デッキより、300mmの絞り開放で撮影。容赦ない真夏の日差しを避けようと翼の下でプッシュバックを待っていた地上ハンドリングのクルーたち。翼端のナビゲーションライト近辺の写りから、300mm側の絞り開放でも十分な解像を見せているのがわかるだろう。
新石垣空港のエプロンからタキシングを開始し滑走路に向かう737-800型機を300mmの絞り開放となる露出値で撮った。日没直前で環境輝度の低い中、ゆっくりと動き始めた機体に反射する太陽光の一筋が入る。
垂直尾翼下のレジ番号を見ると陽炎の影響でややシャープさに欠けるが、スローに動く機体に合わせるよう、こちらもゆっくりとレンズを振った。「SPORT」モードに設定したVRは、その僅かな「振り」にも対応したようだ。
DXフォーマットのD500で、35mm判換算の焦点距離450mm相当となる300mmで画面一杯に機体が入るように撮影。宮古空港を西に離陸して行く737-800型機の下面に、地上、そして海と空の青が反射する。
頭上を通過する機体に対して、身体を反らしながらレンズを振り抜くが、装着レンズが小さく軽いほど、その振り抜きのやり易さが顕著に現れる。またVRの「SPORTS」モードでは、画面内で被写体像を一定位置に安定させやすいので、ノーズギヤをギリギリに配し、アップにしながら可能な限り機体後部も入れられる。
陽が沈んだがあと、上空では発達を止めた積乱雲の壁がほんのりと淡く照らしだされていた。陽のあるうちでは見ることのできない桃色に染まる雲に向かい、737-400型機が新石垣空港から上昇して行く。
淡い色味をノイズを乗せずに再現しようと、積極的に感度を下げてはスローシャッターを覚悟し、代わりにVRの補正効果に頼ってみた。絞り優先モードとあって、思わぬスローシャッターも予想しないとならないが、試写も後半になると今回のVRに絶大な信頼があったのだと、撮影後に振り返る。
日没後、新石垣空港の北西の山並みの向こうから何本ものピラーが上っていた。感度をISO100に抑え、絞りは開放で絞り優先とし、VRは静物用の「NORMAL」モードで手持ち撮影をした。これも陽炎の影響があり稜線のエッジは少し甘いが、比較的近くにある左下隅の黄色の標識灯火はシャープな写りである。
どこまでのシャッタースピードで流し撮りできるか……。200~300m離れ、時速250kmほどで横切る機体にスローシャッターで臨む。速く動くモータースポーツなどでの流し撮りと違い、30m先を横切るマラソンランナーの動きに近くなる。
横方向へゆっくり動かすパンでは縦ブレが起きやすく、そのパンの中で連写をするのであれば、手ブレ補正レンズの中心点への寄り戻しの動きに自然さがなければ、画面中の被写体位置が安定せず、まともな流し撮りができない。
今回のVR「SPORT」モードで、できる限りの場面を想定して撮影したが、いずれの機会でも自然な動きが達成されており、現状のニコンVRの中では一番進化しているモデルだろう。
なお、この撮影では機首辺りの動きに合わせてパンした結果、速度の相違が垂直尾翼のブレとして現われた。この差を少しでも埋めるには機体がシンメトリーとなる真横が良いだろう。
洋上パトロールを終え、ハンガーで隊員数人による念入りな夜間整備を受けるのは海上保安庁所有のキングエア。静物のためVRを「NORMAL」とし、1/320秒から4と1/3段にあたる1/15秒で撮影。1/焦点距離が手ブレ限界のシャッタースピードという説からすれば、スペック表記の通りに4.5段分の手ブレ補正が得られた結果となる。
この画像では中心部のボケ味がどうなるか、また1段少し絞ることによって絞り羽根の形が影響する丸み度を見ていただく。丸みに関しては少しばかり角の残る形状だが、中央部以外のボケともバランスよく、硬くはない印象だ。
続いて、画面の外周部に「ざわざわ」とするような背景を選んで撮影した際のボケ味を見てみよう。同じく1段少し絞ったF8で160mm相当の焦点距離。僅かに角の残る丸みだが、許容できる範囲。周辺部はその丸みが同心円の弧を描くような丸潰れを少し感じるが、これまでの経験上、ズームレンズとしは上出来の部類に入れられる。
最短撮影距離1.2mを300mm側で試す。装着したD800EのAFの場合、最新のD5のフォーカスポイントに比べ、その1つ1つの面積が大きい。この場面においては、蝶の目にフォーカスを合わせたいのだが、ポイント1つの大きさからマリーゴールドの花弁や蝶の羽にAFが惑わされた。
すかさずMFに切り替えフォーカスリングを指で回すが、ステッピングモーター搭載のシステムゆえにリニアな動きにならず、これまでのようなスクリーンでアウトフォーカスを確認しながらの直観的MFが難しかった。
マクロの世界とまでは行かないが、300mm時で0.25倍となる最短撮影はそれに近い味わいがある。AFのシビアさやMFのレスポンスから、結果的には自身の身体をむくげの花に向け前後させたが、雌しべが陽の光を受けて輝き、絨毛状の形をさらけ出しているのが写し出されていたのには、植物の営みすら感じることができた。
宮古島のサトウキビ畑では所々でスプリンクラーがひっきりなしに散水している。宮古島から伊良部島に伸びる伊良部大橋が架かる海峡を背景に、その水を浴びたキビの葉、そして水滴そのものを写してみた。
AFでは、太陽光の反射が映える水面にフォーカスが行きがち。しかし、水滴やキビの葉にフォーカスを合わせるべくMFとするも、やはりここでもそのレスポンスに泣かされた。指でリングを回すのだが、なかなか動き始めず、動いていてもピントの山を掴む前に通りすぎてしまうなど、なかなかその加減がしっくりしない。こればかりはステッピングモーター搭載レンズの欠点だろうか……。
娘の水泳大会を撮影。観客席から40mほど離れたレーンを泳ぐため、また、その観客席ではおいそれと大きいレンズを持ち出したくない状況だったので、DXフォーマットのD500にこの小型ズームを装着し、望遠効果を期待して撮影してみた。
右側に顔を出すブレスの瞬間を狙うが、DX機ゆえに高感度ノイズを避けるため、できるだけ感度を下げてスローシャッターで臨む。他の選手にカメラが向けられず練習のできない一発勝負だったが、フィニッシュ手前で捉えられた。
MTBダウンヒル競技で、連写時のAFを確かめる。夏シーズンのスキー場では、数々のアクティビティを用意しているスキー場もある。その1つ、多数のMTBコースを常設している長野県の富士見パノラマスキー場では、2017年MTB全日本選手権が行われた。
今回は2kmほどの特設コースが開設され、ジャンプや岩場、タイトコーナーなどテクニカルセクションが豊富に揃えられ、一眼レフカメラを持ったファンがそのセクションごとに詰め掛けていた。
写真はダウンヒル・エリートカテゴリーにて18歳のホープ、井岡佑介選手がジャンプセクションをクリアするシーンだ。選手が向かってくる方向は着地点の向こう側にあって、向かってくることが視覚では確認できない。
選手が飛び出した瞬間にAFをオンにしてキャッチ、立て続けに連写した。はじめ1枚こそ、若干フォーカスが甘いが、後のコマはD5の高速連写に追随し続けた。F値が暗い分、感度を上げる必要があるが、AFレスポンスは大三元レンズに引けを取らない結果だった。
まとめ
望遠ズームレンズといえば、プロカメラマンのほとんどが愛用するのは大三元の1本に数えられる70-200mm F2.8だろう。私もニコンの80-200mm F2.8や他社も含めて7、8モデルほどを使ってきた。F値一定の明るいズームはどんな場面でも使いやすく、ズームしても全長の変わらないインナーズーム方式もあって、激しく使っても壊れ難いプロ用レンズの代名詞的存在となっている。
そんな高性能な70-200mm F2.8よりも目立たないレンズではあるが、小型軽量ボディの感触、そして最新の駆動系搭載を試してみて、頼もしいレンズであることは体験できた。高倍率ズームではなく標準ズームと望遠ズームの2本立てで揃える場合や、収納や運用上、小型軽量で細めの望遠が必要な場合には、必ず良い結果を出してくれるレンズだろう。
今回は特にVRの「SPORT」モードの進化に驚いた。3年程前、当時の手ブレ補正でも最新ではなかったキヤノンISの流し撮り用のモード「2」を試したのだが、その安定感からニコンが追いつくのはまだまだ先のことと思えた。そして今回の試写で、このVRの「SPORT」モードをもってして、流し撮り以外にも対応させ完成度を高めたことで一矢を報いたと感じた。現時点で、最新のVRを体感したければこのレンズしかないのでは、とも思える。
ただ残念なのは、性能が良くなっているとはいえ先代モデルからやや高めの値付けという点。その値段、鏡胴が繰り出すズームなので、その扱いに気を付ければ、実にいいレンズだと思う。
撮影協力:宮古空港
撮影協力:MTB全日本選手権大会