交換レンズレビュー

K-1に合わせて登場した標準ズーム

HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

量販店での価格は7万6,580円前後。PENTAX K-1(Ver1.00)と組み合わせてテストを行った。

HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WRは、PENTAX K-1と同時に発売された35mmフルサイズ用のコンパクトな標準ズームレンズだ。

K-1は上級機市場の製品なので、いわゆるレンズキット販売の設定はないが、このレンズをキットレンズとみなすこともできなくはない。当初の実売価格から「キットレンズのくせに7万円もするのか」などと揶揄されることもあったが、果たしてこのレンズの実力はどれ程のものだろうか。

K-1に装着してフードをつけた様子。

外形寸法は73×86.5mmで、重量は440g。フィルター径は62mmというPENTAXにしては珍しいサイズを採用している。67mmにすれば他のPENTAXレンズとフィルターやキャップを共用できるのだが、そうした利便性をとるより、少しでもコンパクトにしたかったのだろう。

鏡筒はプラスチック製だがとてもしっかりしており、安物感は微塵も感じさせない。
マウントはAFカプラーが省略されたKAF3マウント。簡易防滴のWR仕様のため、赤いシーリングが施される。
バヨネット式花形フードと前後のキャップが付属する。普及価格を狙ったシンプルな構成だ。
正面から見ると、APS-C用のレンズと錯覚するほどスリムなレンズだ。

広角端28mmの時が最もコンパクトで、望遠側にズームすると比例的に鏡筒が繰り出され、105mm時には2倍ちかくまで伸びる。フォーカシングによる全長の変化はない。

広角端28mm
望遠端105mm

このレンズの全体的な構成はAPS-C用のHD PENTAX-DA 16-85mm F3.5-5.6 ED DC WRとよく似ている。ただし、DA 16-85mmの方が広角端が一層ワイドなのでフードが大きく、ズーム比も5.5倍を超えるために鏡胴の伸縮が大きい。

ホールド感の上ではK-1にこのレンズをつけた時よりもK-3 IIにDA 16-85mmズームを付けた時のほうが一回り大きく、バランスもフロントヘビーに感じられる。それに比べると、このD FA28-105mmはとてもコンパクトなレンズだ。

焦点距離は28-105mmで、ズーム比はおよそ3.5倍になる。K-1との組み合わせでは長焦点寄りの標準ズームだが、APS-CのPENTAXと組み合わせるとフルサイズ換算の43-161mmに相当し、標準から中望遠をカバーするズームとしてなかなか便利に使える。

光学系は11群15枚で、そのうちに非球面レンズを2枚、特殊低分散ガラス(EDガラス)と異常低分散ガラスを各1枚ずつ取り入れた凝った構成になっている。

(実写テストは回折補正、色収差補正、歪曲補正をON。周辺光量補正とフリンジ補正をOFFで撮影しています)

パースの変化

※共通設定:K-1 / F11 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 28mm

28mm
35mm
50mm
70mm
90mm
105mm

開放F値は広角端F3.5、望遠端F5.6の間で変動し、最小絞りはF22-F38となる。開放、最小絞り以外ではボディから補正制御されるため、ズーミング中にF値は変動しない。9枚羽根の円形絞りを採用する。

最短撮影距離はズーム全域で0.5mで、最大撮影倍率は望遠端105mmの最短撮影距離において0.22倍となる。ほぼ1/4倍まで接写できるので倍率としては十分なのだが、0.5mという最短撮影距離は少々長めであり、例えばテーブルの上の料理を撮ろうとするときに、腰を浮かせないと撮影できないことがある。

この点については0.45mないしは0.4m辺りまで寄れた方が、まちがいなく使い勝手がいい。持ち歩いて日常を記録するのに適したレンズであるだけに、玉に瑕といったところだ。

幅広のズームリングがレンズの先端近くにあり、ボディに近いマウント寄りの位置にフォーカスリングがある。最近のPENTAXズームレンズはこのレイアウトが多く、当初は戸惑いもあったが、私自身はもう慣れてきた。フォーカシングのタッチは少し軽すぎるきらいもあるがスカスカというわけではなく、MFの操作性も良いと思う。

AFはレンズ内モーター方式で、DCモーターによって静かに高速に駆動される。他社に比べ遅いと言われるPENTAXのAFだが、ことこのレンズに関しては遅さを感じることはないだろう。クイックシフトフォーカスにも対応し、AF合焦後、スムーズにMFに移行してフォーカシングの修正を行うことができる。

内面反射防止には高性能なHDコーティングが採用され、このレンズに優れたコントラストを与えている。前玉には水分や油をはじくSPコーティングが施され、汚れを防ぎ、クリーニングも容易にすることで、そのコントラストを常に保つことができる。

防滴性能は簡易防滴のWR仕様だが、多少の雨くらいなら恐れることはない。アウトドア撮影にも強いレンズだ。

ボケについて

コンパクトさを優先した開放F値変動のズームレンズなので大きなボケは期待できないけれど、105mm側の開放で撮影すれば中望遠らしいボケを生かした表現もできる。

スナップの距離では後ボケに輪郭がつきやすい傾向が認められるが、シャープネスを求められる最近のレンズとしてはよくあることで、気になるほどではない。ポートレート撮影の距離ではその傾向も和らいでくる。

ボケ(広角端)

※共通設定:K-1 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 28mm

F3.5
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

ボケ(望遠端)

※共通設定:K-1 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 105mm

F5.6
F8
F11
F16
F22
F32
F38

APS-C撮像素子のカメラは1,600万画素ならばF11、2,400万画素ならばF8を超える辺りから回折の影響でピントが悪くなることが知られており、APS-C慣れしているPENTAXユーザーはあまり絞らない癖がついているかもしれない。

結果として、パンフォーカスを狙う場合でも、どっちつかずの絞りを選んでしまいがちだ。フルサイズの撮像素子を持つK-1の場合、絞るなら思い切って絞ったほうが、中途半端なボケ写真を作らずに済む。

パンフォーカスを生かすなら、F16以上まで絞ったほうが被写界深度の面で有利だし、画質の低下もごらんの通り微々たるものだ。絞ってシャッター速度が低下するなら感度を上げればよく、K-1で高感度性能が上がった事も、こうした撮影を可能にする要素だ。

ディストーションについて

広角側で軽い陣笠タイプのディストーションがあるが、3倍を超える標準ズームレンズであることを思えば止むをえない。望遠側はわずかな糸巻型を示すが、いずれもよくしつけられており大きな問題ではない。

ディストーションは歪曲収差補正機能を使って打ち消すこともできる(歪曲収差補正を使うとファインダーで見えている範囲よりわずかにトリミングされることに注意は必要だ)。

※共通設定:K-1 / F8 / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 28mm / ディストーション補正OFF

28mm
35mm
50mm
70mm
90mm
105mm

カメラの収差補正を利用する以外に、レンズプロファイルによる補正に対応したRAW現像ソフトを利用することで、この陣笠タイプのディストーションを補正することもできる。

現時点でこのレンズのプロファイルモジュールを持っているのは純正のDigital Camera Utility 5のほか、SILKYPIXシリーズ、Adobe Lightroom/Photoshopファミリーなどがある。DxOシリーズは2016年10月のリリースでK-1とこのレンズに対応するという発表をしている。Capture Oneは残念ながら今のところその予定がないようだ。

逆光耐性について

標準ズームとしてはやや構成枚数が多い光学系だが、反射防止性能に定評があるHDコーティングの恩恵によって非常にヌケが良く、逆光に強いレンズに仕上がっている。

フレアやゴーストの発生がよく抑えられているだけではなく、一般撮影での色の濁りの少なさや、シャドーディテールの正確さも印象的だ。

太陽が画角内にある場合。K-1 / 1/2,000秒 / F9 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 37mm
太陽が画角のすぐ外にある場合。K-1 / 1/500秒 / F9 / -1EV / ISO100 / 絞り優先AE / 37mm

なお、2枚目の写真で真鯉の尾の辺りにうっすらと大きく現れている白いムラは光源の位置が変わっても同じ場所に現れていることから、ゴーストではなくレンズ内のホコリが光って写り込んだものと思われる。

作品

暗いバーの情景も雰囲気を生かして写し止めることができる。ボケた部分はノイズリダクションで質感を失ってしまっているが、ピントをきっちりと合わせれば、開放でも十分にディテールを捉えられる。

K-1 / 1/50秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO25600 / 絞り優先AE / 95mm

軽く絞り込んでフォーカスはボンネットのエンブレムに合わせた。前後のボケのつながりがよく立体感がある。

K-1 / 1/30秒 / F8 / -0.7EV / ISO400 / プログラム / 95mm

泳ぎ回るペンギンが水面に現われた瞬間を高速シャッターで捉えた。

K-1 / 1/3,200秒 / F9 / +0.3EV / ISO3200 / 絞り優先AE / 105mm / 撮影協力:野毛山動物園

強力な手ブレ補正とK-1の高感度性能があれば夜景も手持ちで十分に撮影できる。

K-1 / 1/6秒 / F8 / -1.7EV / ISO20000 / 絞り優先AE / 48mm

遠景もすこぶるシャープに写る。高いコントラストでも色飛びやシャドウ部の潰れはよく抑えられている。

K-1 / 1/500秒 / F9 / -1.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 105mm

ポートレート撮影の距離では前後共にボケは柔らかく、解像力も硬すぎずゆるすぎず好ましい描写が得られる。

K-1 / 1/25秒 / F7 / -1.3EV / ISO1250 / 絞り優先AE / 58mm

画面内に強い光源があっても見苦しいフレアは生じず、シャドウのディテールも崩れない。

K-1 / 1/30秒 / F7 / -2EV / ISO1250 / 絞り優先AE / 58mm

F22に絞り込んでプライヤーの質感を狙った。少し回折の影響を受けているが、こういうシーンは思い切って絞って撮るほうがいい。

K-1 / 1/125秒 / F22 / 0EV / ISO500 / 絞り優先AE / 105mm

絞り込んで都市風景を切り取る。ディストーション補正をオンにすれば直線の歪みは全く現れない。

K-1 / 1/125秒 / F16 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 105mm

接写でもシャープネスは高く、鉱物の輝きや工具の削り跡、剥落した紅の質感もリアルだ。

K-1 / 1/250秒 / F11 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 105mm

まとめ

このレンズには特筆するようなスペックはないが大きな弱点もない。描写はなかなかシャープでAFも静かで速く、軽快な撮影が楽しめる。

私自身、K-1とのコンビでこのレンズを使いながら半年ほど経っている。最短撮影距離の長さが気にかかる時がたまにあることは間違いないが、10cm違うかという程度なので自分が動ける状況なら我慢できる範囲だ(カフェのテーブルでいちいち立ち上がるのは少し恥ずかしいけれど)。

K-1のために用意された2本のD FA標準ズームのうち、大口径F2.8のHD PENTAX-D FA 24-70mmF2.8ED SDM WRは大振りでかなり重いレンズなので、標準ズームというよりはHD PENTAX-D FA 15-30mmF2.8ED SDM WRやHD PENTAX-D FA★70-200mmF2.8ED DC AWとのセットで「大三元トリオの真ん中担当」と考えたほうがしっくりくる。

ボディ+レンズ1本で持ち出すなら、このD FA28-105mmのほうが使い勝手はいいだろう。冒頭で述べた通りにキットレンズというものはK-1に設定されていないが、まず最初に組み合わせるべき1本という意味では、このD FA 28-105mmこそがK-1のための「標準ズームレンズ」だと言っても間違いではないだろう。

大高隆

1964年東京生まれ。多摩美大グラフィック卒業後、メディアアート/サブカル系から堅い背広のおじさんまで幅広く撮影して四半世紀に。最近は、レンズシステムにFAレンズやD FAレンズを追加していくためのテストをしたり、建築写真絡みの仕事が増えてきたのでNikonのシステムも細々と増強中。日本荒れ地学会正会員。

http://dannnao.net/