切り貼りデジカメ実験室
海野和男さん自作のOM変換リングを「PENTAX 645D」で試す
Reported by 糸崎公朗(2013/10/2 12:00)
カメラ改造の大先輩から自作アダプターを借りる
この連載で毎度披露しているカメラ改造工作だが、当然のことながらぼくは諸先輩方の影響を受けている。その1人が昆虫写真家の海野和男さんである。海野和男さんは昆虫写真のパイオニアの1人で、市販の撮影機材を改造し独自のマクロ撮影システムを自作することも知られている。ぼくはそんな海野さんの写真やカメラに対する姿勢に、多大な影響を受けている。
そして今年の8月、長野県の小諸市高原美術館で「海野和男の小諸日記展」が開催され、ぼくも観に行ったのだった。そこでは海野さんの最新の写真と共に、これまで海野さんが使ってきたカメラコレクションの数々がズラリと展示してあったのだった。
海野さん独自の改造カメラシステムは、これまで雑誌などでたびたび見たことはあるのだが、その実物を目にするのはなかなか感慨深い。その中でもひときわ目に付いたのは、フィルムカメラのPENTAX 645に、オリンパスOM用ZUIKO MACRO 80mm F4と、自作改造ストロボを装着したシステムである。
オリンパスOM用のマクロレンズはイメージサークルに余裕があり、PENTAX 645に装着しても画面周辺がケラレず高画質で撮影できる。そしてどういうわけか、PENTAX 645マウントとオリンパスOMマウントは自動絞り用の連動レバーの、作動方向とストロークがほぼ同一なのである。
このことを発見した海野和男さんは、PENTAX 645用とオリンパスOM用の中間リングを改造して合体させ、自動絞りが作動可能なPENTAX 645→オリンパスOMアダプターを自作されたのだ。
フィルム時代はフィルムの面積が大きいほど写真も高画質になる。だからライカ判を上回る面積の中判645サイズで撮影可能なPENTAX 645で、純正マクロレンズの等倍を超える高倍率マクロ撮影が可能となれば、昆虫写真家として大きなアドバンテージになりうる。実際、PENTAX 645にオリンパスZUIKO MACRO 80mm F4を装着した撮影システムは、フィルム時代の海野さん一番の稼ぎ頭になったそうだ。
しかし、デジタルの時代になってから海野さんはPENTAX 645システムは使っていないようで、だからこうして展示してあるのだ、と思ったところでふと、海野さんからこの自作アダプターをお借りして、「切り貼りデジカメ実験室」のネタにしようというアイデアが浮かんだのだった。
ぼくのこの勝手なお願いに対し、海野和男さんは「いいですよ」と快諾してくださった。そして今やペンタックスの販売元となったリコーイメージングさんからも、PENTAX 645Dをお借りすることができた。
そんなわけで今回は、偉大な先輩と偉大なカメラメーカーに敬意を表し、自分なりの工夫を加えた記事を作成することにしたのだ。
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テスト撮影
絞りによる描写の違いを確認するため、簡単なテスト撮影を行った。被写体は千円札のマイクロ文字で、右上の「1000」の数字のすぐ下に印刷されている。肉眼で見えるかどうか、ぜひ確認して欲しい。オートエクステンションチューブ65-116mmを伸ばした最大倍率で撮影している。
ストロボ光量の都合上、開放からF4までは完全に露出オーバーになっているが、もともと絞り込んで撮影することが前提なので、気にしないことにした。画質はF5.6~F8あたりがピークで、F11以降に絞り込むと回折現象のため全体にピントが悪くなる。
実写作品と使用感
例によって自宅近所の藤沢市内にて、植物や小動物を撮影してみた。「夏枯れ」という言葉どおりの過酷な夏がようやく終わり、生き物たちにとっても過ごしやすい季節になってきた。
カメラの使用感だが、ともかく海野さんにお借りした自作アダプターの威力は絶大だ。PENTAX 645Dボディに、オリンパスOMマウントの高倍率マクロレンズが装着でき、なおかつ自動絞りが作動するのはあらためてスゴイ! と言える。高倍率マクロレンズは実効F値が低く、被写界深度が極端に浅いため、自動絞りでなければ光学ファインダーでピント合わせすることは不可能に近いのだ。
さらにPENTAX 645Dは、ファインダー倍率が高く視野も広く、ピント合わせが非常にやりやすい。大きくて重量のあるボディも実は持ちやすく設計され、安定してカメラを構えることができる。ぼくはどれだけ倍率の高いマクロ撮影も、三脚を使わず全て手持ちで行なってしまうのだが、そうした撮影にもPENTAX 645Dは意外と適している。
35mmフィルムはもちろん、中判フィルムを上回る高画質撮影が可能なPENTAX 645Dだけに、撮影には細心の注意が必要で、カメラの重量もあって撮影後はへとへとに疲れてしまう。しかし苦労の甲斐あって、撮れた画像は驚きの高画質が実現されている。もはや顕微鏡写真に迫る視覚世界が実現されていると言っていいだろう。
これだけの高倍率マクロ撮影ともなると、それだけでは何を撮った写真かわからなくなってしまう。そこで今回は、比較として同じ被写体を「smc PENTAX FA 645 35mm F3.5」で撮影した画像も一部掲載してみた。
smc PENTAX FA 645 35mm F3.5はPENTAX 645Dに装着すると28mm相当の画角が得られ、かつ最短撮影距離が30cmと短いため、中判デジタルでありながら広角マクロ撮影が可能なのだ。しかしこちらも非常に高性能のレンズであり、マクロ撮影においてはちょっとのピンボケも手ブレも許されない。
結局はどちらのレンズも気軽に撮影できるものではなく、気合いと根性と精神力が必要になる。今回それが可能になったのも、海野さんに借りたアダプターから発するオーラのせいなのかも知れない(笑)。