切り貼りデジカメ実験室

海野和男さん自作のOM変換リングを「PENTAX 645D」で試す

今回は昆虫写真とカメラ改造の大先輩である海野和男さんに、貴重な自作変換リングをお借りして、記事を書くことにした。それはPENTAX 645→OLYMPUS OM変換リングなのだが、自動絞りが作動する優れものだ。今回はこのリングを使って「PENTAX 645D」に、銀塩オリンパスOM用「ZUIKO MACRO 38mm F2.8」を装着し、中判デジタルによる超高倍率マクロシステムを組んでみた。マクロストロボは10年以上前に自分で改造したものをアレンジして使用。大先輩と、過去の自分と、最新テクノロジーのコラボレーションである。

カメラ改造の大先輩から自作アダプターを借りる

 この連載で毎度披露しているカメラ改造工作だが、当然のことながらぼくは諸先輩方の影響を受けている。その1人が昆虫写真家の海野和男さんである。海野和男さんは昆虫写真のパイオニアの1人で、市販の撮影機材を改造し独自のマクロ撮影システムを自作することも知られている。ぼくはそんな海野さんの写真やカメラに対する姿勢に、多大な影響を受けている。

 そして今年の8月、長野県の小諸市高原美術館で「海野和男の小諸日記展」が開催され、ぼくも観に行ったのだった。そこでは海野さんの最新の写真と共に、これまで海野さんが使ってきたカメラコレクションの数々がズラリと展示してあったのだった。

 海野さん独自の改造カメラシステムは、これまで雑誌などでたびたび見たことはあるのだが、その実物を目にするのはなかなか感慨深い。その中でもひときわ目に付いたのは、フィルムカメラのPENTAX 645に、オリンパスOM用ZUIKO MACRO 80mm F4と、自作改造ストロボを装着したシステムである。

 オリンパスOM用のマクロレンズはイメージサークルに余裕があり、PENTAX 645に装着しても画面周辺がケラレず高画質で撮影できる。そしてどういうわけか、PENTAX 645マウントとオリンパスOMマウントは自動絞り用の連動レバーの、作動方向とストロークがほぼ同一なのである。

 このことを発見した海野和男さんは、PENTAX 645用とオリンパスOM用の中間リングを改造して合体させ、自動絞りが作動可能なPENTAX 645→オリンパスOMアダプターを自作されたのだ。

こちらは海野和男さんが自作改造された、フィルムカメラ時代の中判マクロシステム。ボディはPENTAX 645で、自作の自動絞り付き変換リングによって、オリンパスOM用ZUIKO MACRO 80mm F4が装着されている。ペンタックス純正品を改造したマクロストロボも装着されている。この夏に開催された海野和男さんの個展会場に展示されていたのを撮影した。

 フィルム時代はフィルムの面積が大きいほど写真も高画質になる。だからライカ判を上回る面積の中判645サイズで撮影可能なPENTAX 645で、純正マクロレンズの等倍を超える高倍率マクロ撮影が可能となれば、昆虫写真家として大きなアドバンテージになりうる。実際、PENTAX 645にオリンパスZUIKO MACRO 80mm F4を装着した撮影システムは、フィルム時代の海野さん一番の稼ぎ頭になったそうだ。

 しかし、デジタルの時代になってから海野さんはPENTAX 645システムは使っていないようで、だからこうして展示してあるのだ、と思ったところでふと、海野さんからこの自作アダプターをお借りして、「切り貼りデジカメ実験室」のネタにしようというアイデアが浮かんだのだった。

 ぼくのこの勝手なお願いに対し、海野和男さんは「いいですよ」と快諾してくださった。そして今やペンタックスの販売元となったリコーイメージングさんからも、PENTAX 645Dをお借りすることができた。

 そんなわけで今回は、偉大な先輩と偉大なカメラメーカーに敬意を表し、自分なりの工夫を加えた記事を作成することにしたのだ。

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レンズの改造とカメラへの装着

これが昆虫写真家の海野和男さん自作のPENTAX 645→オリンパスOMアダプターである。実用一点張りで仕上げは粗いが、PENTAX 645ボディにオリンパスOM用レンズを装着可能で、さらに自動絞りが作動する優れものである。
アダプターを裏側から見ると、このアダプターはもともとPENTAX 67マウントで、さらにPENTAX 645変換リングと組みあわせて使うようにできていることがわかる。ちなみに本来マウント内側にあるはずのフレアーカッターが取り外されている。
PENTAX 67→PENTAX 645変換リング(右)を取り外すと、アダプター本体(左)の内部構造が露わになる。
マウント変換リングの主要部分。PENTAX 645マウントの自動絞りレバーが自作パーツによって延長され、オリンパスOMマウントの絞りレバーと連動するように組み合わされている。この両者は異なるマウントでありながら、自動絞りレバーの方向とストロークがほぼ同一で、このような改造が可能になる。これも偶然の一致だろうが、こうしたことの発見も海野和男さんの才能の1つと言えるだろう。
アダプターを最新のPENTAX 645Dに装着したところ。オリンパスOM用レンズなら何でも装着可能だが、フォーマットもフランジバックも異なるため、マクロレンズの使用が前提となる。
今回の使用レンズだが、自分が持っているOMレンズのうちZUIKO MACRO 38mm F2.8をセレクトしてみた。これは海野和男さんが好んで使っていたZUIKO MACRO 80mm F4を上回る倍率のマクロ専用レンズで、無限遠の撮影はできない。右はぼくがその昔に自作したこのレンズ専用のキャップで、ワンタッチで取り外しが可能。純正キャップはねじ込み式で速写性に劣るのだった。
マクロ専用のZUIKO MACRO 38mm F2.8は、中間リングやベローズとの組み合わせによって高画質が発揮できるように設計されている。そこで同じくオリンパスOMシステムからオートエクステンションチューブ65-116mmをセレクトしてみた。
オートエクステンションチューブ65-116mmは、その名の通り65mmから116mmの長さにワンタッチで伸縮させることができ、なおかつ自動絞りが作動する。ベローズと中間リングの機能を融合させたユニークで優れたアイテムで、デジタル時代の現代において相当する製品は存在しない。
PENTAX 645Dに海野さん自作の変換リングを介して、オートエクステンションチューブ65-116mmとZUIKO MACRO 38mm F2.8を装着したところ。しかしこのままでは実効F値が暗すぎて、ストロボの照明が必要になる。
ストロボは、ぼくが海野和男さんの影響を受けて1990年代後半に自作した改造品を、ひさびさに引っ張り出して使用することにした。ベースとなるのはサンパックB3000DXで、その発光部だけを切り離し、コードで延長している。そのようなマクロストロボの改造方は、海野和男さんの著書である「昆虫スナップマニュアル」(東海大学出版)で明らかにされていた。
改造マクロストロボの発光部は、自作の専用アダプターと49→52mmステップアップリングによって、ZUIKO MACRO 38mm F2.8の先端部に装着する。
このストロボ発光部には、マグライトによるモデリングランプも仕込まれている。そのための電源として、田宮模型の単3電池ボックスも装着されている。ぼくの改造工作の源流の一方は、プラモデルの改造工作にある(笑)。しかしこのストロボシステムは、テスト撮影の結果露出オーバーであることが判明した。フィルムカメラとデジカメでは、いろいろと撮影条件が異なるためだ。
そこで、この連載でたびたび登場する、タッパーを改造したストロボディフューザーにご覧の改造を加えた。まずは底面に、ストロボアダプターのアクセサリーシューに装着するためのプレートをネジ止めする。このプレートはABS板をカットし、半田ゴテで熱しながら45度に折り曲げ製作した。
ディフューザーの裏側はタッパーのフタなのだが、ご覧のような形の穴を開ける。
タッパーのフタの開口部にストロボ発光部がすっぽりはまって固定するようにしてみた。
ディフューザーを加えたマクロストロボをあらためてレンズに装着したところ。
全てのパーツを取り付けるとこのようになる。海野和男+昔の糸崎公朗+PENTAX 645Dが融合した、高倍率マクロシステムだ。
オートエクステンションチューブ65-116mmを最大に伸ばしたところ。PENTAX 645マウントはオリンパスOMマウントよりフランジバックが長く、さらにアダプターの厚みもあって、さらなる高倍率マクロ撮影が可能になる。

テスト撮影

 絞りによる描写の違いを確認するため、簡単なテスト撮影を行った。被写体は千円札のマイクロ文字で、右上の「1000」の数字のすぐ下に印刷されている。肉眼で見えるかどうか、ぜひ確認して欲しい。オートエクステンションチューブ65-116mmを伸ばした最大倍率で撮影している。

 ストロボ光量の都合上、開放からF4までは完全に露出オーバーになっているが、もともと絞り込んで撮影することが前提なので、気にしないことにした。画質はF5.6〜F8あたりがピークで、F11以降に絞り込むと回折現象のため全体にピントが悪くなる。

F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

実写作品と使用感

 例によって自宅近所の藤沢市内にて、植物や小動物を撮影してみた。「夏枯れ」という言葉どおりの過酷な夏がようやく終わり、生き物たちにとっても過ごしやすい季節になってきた。

 カメラの使用感だが、ともかく海野さんにお借りした自作アダプターの威力は絶大だ。PENTAX 645Dボディに、オリンパスOMマウントの高倍率マクロレンズが装着でき、なおかつ自動絞りが作動するのはあらためてスゴイ! と言える。高倍率マクロレンズは実効F値が低く、被写界深度が極端に浅いため、自動絞りでなければ光学ファインダーでピント合わせすることは不可能に近いのだ。

 さらにPENTAX 645Dは、ファインダー倍率が高く視野も広く、ピント合わせが非常にやりやすい。大きくて重量のあるボディも実は持ちやすく設計され、安定してカメラを構えることができる。ぼくはどれだけ倍率の高いマクロ撮影も、三脚を使わず全て手持ちで行なってしまうのだが、そうした撮影にもPENTAX 645Dは意外と適している。

 35mmフィルムはもちろん、中判フィルムを上回る高画質撮影が可能なPENTAX 645Dだけに、撮影には細心の注意が必要で、カメラの重量もあって撮影後はへとへとに疲れてしまう。しかし苦労の甲斐あって、撮れた画像は驚きの高画質が実現されている。もはや顕微鏡写真に迫る視覚世界が実現されていると言っていいだろう。

 これだけの高倍率マクロ撮影ともなると、それだけでは何を撮った写真かわからなくなってしまう。そこで今回は、比較として同じ被写体を「smc PENTAX FA 645 35mm F3.5」で撮影した画像も一部掲載してみた。

 smc PENTAX FA 645 35mm F3.5はPENTAX 645Dに装着すると28mm相当の画角が得られ、かつ最短撮影距離が30cmと短いため、中判デジタルでありながら広角マクロ撮影が可能なのだ。しかしこちらも非常に高性能のレンズであり、マクロ撮影においてはちょっとのピンボケも手ブレも許されない。

 結局はどちらのレンズも気軽に撮影できるものではなく、気合いと根性と精神力が必要になる。今回それが可能になったのも、海野さんに借りたアダプターから発するオーラのせいなのかも知れない(笑)。

雑木林に咲いていたヤブランの花。ピクセル等倍に拡大すると、花粉の形状や細胞の一粒一粒を判別することができる。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
同じヤブランの花を、比較のためにFA 645 35mm F3.5の最短撮影の30cmから撮影してみた。ヤブランは穂に多数の花を付けるが、その季節もそろそろ終わりかけている。FA 645 35mm F3.5 / 1/30秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 35mm
花の形状からシソ科の一種であることはわかるが、ちょっと名前はわからなかった。撮影時には気付かなかったが、花弁に小さなヨコバイが止まっている。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
ツユクサの花の、中心部分のアップ。黄色い部分はおしべかと思って調べたら、生殖能力のない仮おしべという器官だった。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
これも種名を後で調べようと思って結局わからなかったのだが、イネ科の一種の雑草。その花は風媒花で、羽毛のような雌しべが風で運ばれた花粉をキャッチする構造になっているのがわかる。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/30秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
同じくイネ科の、ジュズダマの雌しべ。やはり風媒花のため、羽毛状の構造をしている。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
ハナワラビの一種の、胞子嚢穂のアップ。カプセル状の胞子嚢が開いて、本誌を飛散させる仕組みになっている。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
左の胞子嚢穂をFA 645 35mm F3.5にて撮影。道路に面した雑木林の脇からにょっきり生えていた。FA 645 35mm F3.5 / 1/80秒 / F5 / 0EV / ISO200 / Normal / WB:オート / 35mm
ヒメアカタテハというチョウの顔面のアップ。大きな複眼の間に、口吻がゼンマイのように巻かれているのがわかる。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
同じヒメアカタテハをFA 645 35mm F3.5にて撮影。天気が雲って気温が下がったせいか、草むらに舞い降りて大人しくしていた。FA 645 35mm F3.5 / 1/80秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 35mm
スカシエダシャクというガの一種の頭部。ピクセル等倍に拡大すると鱗粉の形状までもが判別できる。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
正面に4つの大きな目を持つハエトリグモの一種。クモの目は昆虫の複眼とは異なる単眼で、まさに大口径レンズである。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
雑木林で見つけた、緑色の非常に綺麗なハエの一種。画像を拡大すると、生物と言うより高性能なマシンといったように見える。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
アカスジキンカメムシの幼虫の頭部。メタリックな質感が工芸品のような魅力を放つ。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
枯れた竹の表面に集合していたアミメアリ。名前の由来となった編み目状のテクスチャーがはっきりと見て取れる。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
自分の腕にヤブ蚊がとまったので撮影してみた。当然ながらぼくの血を吸っているのだが、その様子が実に見事に写し出されている。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
これは何かといえば、カタツムリの目の先端なのである。ものを見るための目ではなく、光の方向を感じるセンサーといった感じだろうか。ZUIKO MACRO 38mm F2.8 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 38mm
左と同じ個体のカタツムリをFA 645 35mm F3.5にて撮影。FA 645 35mm F3.5 / 1/8秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル / WB:オート / 35mm

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/ Twitterは@itozaki