切り貼りデジカメ実験室

リコーGXR用「フレネルレンズユニット」を作る

最近、新ユニットの発表が途絶えたかのようなリコーGXRシステムだが、「フレネルレンズユニット」を自作してしまった。フレネルレンズとは平板状の特殊レンズで、一眼レフのファインダースクリーンやストロボ発光部によく使われている。ところが撮影レンズに使われた例は聞いたことが無く、これでどんな写真が撮れるのか実験することにした。四角四面の外観は“レンズは丸い”と言う常識を覆してインパクト大である(笑)。

フレネル博士の「フレネルレンズ」で撮ってみる

 フレネルレンズというものをご存じだろうか? 商品としては「カード型ルーペ」などと称して、文具店や100円ショップなどで売っている。

 このレンズは通常のレンズを同心円状に細分し、平面上に配列した特殊構造になっている。これによって薄型軽量が実現できる。フランスの物理学者オーギュスタン・ジャン・フレネル(1788-1827)によって発明され、それが名前の由来になっている。

 カメラに詳しい人ならご存じだろうが、フレネルレンズは一眼レフのファインダースクリーン使われ、周辺光量アップの役を果たしている。またカメラのストロボ発光部にも、光の拡散用にフレネルレンズはよく使われている。

 このように、フレネルレンズはカメラの各部に利用されているにもかかわらず、写真用レンズとして利用されているという話を聞いたことがない。

 ということにふと思い当たり、今回は100円ショップで売られていたフレネルレンズを使い、どんな写真が撮れるか実験してみた。

 カメラボディはリコー「GXR MOUNT A12」を使用し、工作用紙でレンズ鏡筒を制作した。図面の代わりに各パーツのスキャン画像も掲載したので、興味のある方はちょっと遅い“大人の夏休み工作”としてチャレンジして欲しい(笑)。

―注意―
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レンズの改造とカメラへの装着

100円ショップで購入したフレネルレンズ。通常はカード型のルーペとして使用し、文庫本の文字も大きくして読める。
フレネルレンズそのものを拡大して見ると、同心円状の溝が刻んであるのがわかる。通常のレンズを同心円状に分割し、平面に再配置した構造になっているのだ。
さて工作だが、まずフレネルレンズの余計な部分をカットする。このフレネルレンズはアクリル製で、カットするにはPカッターと定規を使う。
余計な部分をカットしたフレネルレンズ。サイズは約5.5×7.5cm。
工作用紙からレンズ鏡筒のパーツを切り出す。工作用紙とは方眼が印刷されたボール紙で、画材屋さんで購入した。各パーツは鏡筒外側(上)、鏡筒内側(下左)、鏡筒先端(下右)という構成。
各パーツの内側は内面反射防止のため、太いマジックで黒く塗る。
次にレンズマウントの製作だが、まずカッターナイフの刃をコンロで熱する。これがいわゆる「ヒートナイフ」で、機動戦士ガンダムに出てきたジオン軍のモビルスーツもこの手の兵器を装備していた(笑)。
ヒートナイフでジュワッと溶かしながら、GXR MOUNT A12に付属のレンズキャップに穴を開ける。ヒートナイフはすぐ冷えるので、また熱して溶かして切る、という作業を何度か繰り返す。ちょっと野蛮な手法だが、お手軽なのが利点。よい子は保護者と一緒に作業しよう(笑)。
ヒートナイフで開けた穴はカッターナイフで綺麗に形成する。リコーのレンズキャップは軟質のABSなので、作業は比較的楽だった。これでレンズマウントが完成する。
完成したレンズマウントを鏡筒内側パーツの穴に接着する。接着には両面テープを使う。
鏡筒の各パーツを全部組み立てるとこのようになる。接着には両面テープを使用した。左から、鏡筒内側、鏡筒外側、鏡筒先端、である。
鏡筒先端パーツの内側に、フレネルレンズを接着する。
フレネルレンズを装着した鏡筒先端パーツを、鏡筒外側パーツに接着する。
鏡筒内側パーツを、鏡筒外側パーツに接着せずに差し込む。これでレンズが完成する。
完成したレンズをカメラ本体に装着。前代未聞? の四角四面のレンズである。計算すると焦点距離は約150mmと言ったところ。APS-Cサイズ撮像素子のGXR MOUNT A12に装着すると、35mm判換算で約225mm相当の画角となる。
ピント合わせは鏡筒のスライドによって行なう。結構長く伸びるので、無限遠からマクロまでピントが合う。
参考までに、組み立て前のパーツをスキャニングしたデータを掲載する。各パーツのサイズは次の通り。鏡筒外側(上):幅80mm、高さ60mm、長さ120mm。鏡筒内側(左下):幅78mm、高さ58mm、長さ120mm。鏡筒先端(右下):幅82mm、高さ62mm、長さ15mm(開口部は幅60mm、高さ40mm)。
実は追加工作なのだが、撮影中にレンズマウントの接着が外れたため、セロハンテープを貼って補強した。いちおう実用になったが、もっとちゃんとした固定方もあると思うので、各自工夫して欲しい(笑)。

実写作品

 さて実写だが、その結果には自分でも驚いてしまった。「ソフトフォーカスにも程がある」といった描写で、何もかもがファンタジックな濃霧に包まれた写りになってしまう。

 もちろん、取り立ててシャープな描写を期待しているわけではなかったが、ここまでスゴイとは思わなかった。あらためて調べてみると、フレネルレンズは原理的に回折現象により画質が低下し、撮影レンズには向かないらしい。

 実は、画質向上のため絞りを入れる実験もしてみたのだが、描写はほとんど変わらなかった。そこでヘタな小細工はせず、絞り開放だけで撮るシンプル仕様にしたのだ。

 この描写はピンホール写真に似てるとも言えるが、フレネルレンズの方が圧倒的に明るく、手持ち撮影が可能な点に違いがある。

 ともかくフレネルレンズが描く視覚世界は思いのほか奇妙で、これはこれで面白いと言えるかも知れない。

今回のレンズはマクロに強い。ということで、チョウマニアの友人と長野県池田町にチョウの写真を撮りに行ったのだが、こんな写りでビックリしてしまった(笑)。かろうじて種類がわかる程度の写りだが、これはキタテハ。
これはヒカゲチョウだが、ソフトフォーカスにも程があるという描写である。ピントの山が見づらいのはもちろん、そもそもファインダー内で被写体のチョウを探すのさえ苦労する。
ムモンアカシジミという非常に珍しいチョウの、これまた珍しい交尾シーンなのだが、そう言われても何が何だかわからない、まさに幻のチョウの写真になってしまった。
スジボソヤマキチョウが2匹飛んでいるところをキャッチ! 望遠マクロで撮るチョウの飛翔写真は、広角レンズで撮るより難易度が高いが、なぜか成功してしまった。いや元々ボケボケのレンズなので、“成功”の許容範囲も広いレンズだと言えるのだが。
ロープに止まるノシメトンボ。羽根の先端の模様でかろうじて種類がわかる。ピント合わせにはGXR MOUNT A12に搭載されたフォーカスアシスト機能も使ってみたが、レンズのコントラストが低すぎて使い物にならなかった。しかし意外なことに、スライド式のピント合わせはなかなか操作しやすい。
視点を移して、山から麓の家並みを撮ってみたが、見事に何も写っていない! このレンズは形がハッキリしたもの以外、何も写らないのだ。
池のコイを撮影してみたが、これはなかなか良く撮れた。濁った水中にいるコイは肉眼で見てもぼやけていて、このレンズで撮った印象とさほど差がないのだ。
ドバトもちょっと近付けば、けっこうなアップで撮ることができる。
横断歩道の前で信号待ちをする少女の人形。背中に子供が横断用に使う黄色い旗を背負っている。昔は色んなところに似たタイプの人形が設置されていたが、数年ぶりに見た気がする。
実は、この人形は顔がものすごく怖く、近所でも評判なのだそうだ(笑)。このレンズの描写のせいで、怖さは和らいでいるのか、かえって強調されているのか、ちょっとわからないところがある。
実家のある長野市内。夕暮れの1コマでなかなか味わいのある写真になった。
鉄道マニアではないが、長野電鉄を撮ってみた。いや、マニアだったらこの写真で長野電鉄だとわかるものなのだろうか?
ところ変わって新宿の雑踏で人混みを撮影してみた。肖像権でとやかく言われる昨今だが、このレンズで撮ると全ての人にボカシが入るのである。
新宿の街を行き交う人びと。まぁ、真夏のうだるような暑さは表現されているような、気がしないでもない。
都会の夕暮れ。ブルーな色調の中、赤いランプのにじみがキレイ。
小田急線のホームに入る電車を撮ってみたが、ライトの光がかなり特徴的な形に滲んで写った。撮影が難しく被写体選びが困難なレンズだが、いろいろな可能性が考えられるだろう。

糸崎公朗