デジカメアイテム丼

光軸を動かさず横位置←→縦位置にできる便利な雲台

ベルボン「PHD-66Q」

風景、夜景、マクロ撮影、望遠撮影に活躍するカメラと関わりの深い機材「三脚」。三脚といえば「雲台」である。雲台には実にさまざまなタイプがあるが、今回採り上げる「PHD-66Q」も今までになかったユニークな雲台だ。

PHD-66Q

雲台を使う上で悩ましい点がある。それは縦位置と横位置の問題だ。皆さんも三脚を使った撮影で、横位置と縦位置を切り替えた瞬間、カメラが横倒しになってしまうため写る範囲が変わり、被写体がフレームアウトしてしまったり、あらためて構図を直した経験があるのではないだろうか?

そうした際、構図を修正するため三脚の位置や高さを調整し直すのだが、花火撮影のように頻繁に縦位置と横位置を繰り返したい場合、あるいは望遠レンズやマクロ撮影のように僅かなカメラ位置の違いで撮影範囲が大きく変化してしまう場合など、調整は非常に手間のかかる作業となり、せっかくのシャッターチャンスを逃したり、場合によっては縦位置横位置を切り替えるのを断念して不本意な構図での撮影になってしまうことがある。

そんな苦労を解決するべくベルボンから登場したのが、リボルビング雲台「PHD-66Q」だ。実勢価格は税込1万9,580円前後。

一般的な雲台に対する優位点は?

ロボットアームのような見た目のPHD-66Q最大の特徴はそのリボルビング機構にある。このリボルビング機構によって、光軸のズレを最小限に抑えながら、素早く縦位置撮影に移行できるようになっている。

縦位置撮影をするにはまずカメラを載せるクイックシューの下にあるサイドティルトストッパーを一旦緩め、カメラを左側へ倒しつつアームを伸ばすように起こし、再びサイドティルトストッパーを締めることで縦位置で固定される。言葉にすると分かり辛いかも知れないが、実際にやってみると、ものの2、3秒で縦位置に切り替えることができた。

横位置の状態
リボルビングは再度ティルトストッパーを緩め、リボルビングさせたのち再度ティルトストッパーを締めることで固定される

光軸のズレは全くないわけではないが、従来の雲台に比べればはるかに少ない。これならシビアな構図決めで修正が必要であったとしてもほんの少しの修正で済む。もちろん三脚の脚やセンターポールを伸ばして高さを修正したり、ヨッコイショと三脚ごと動かす必要などない。驚くべき簡単さだ。

縦位置にしたところ

また縦位置撮影でもカメラが三脚の中心軸からズレず、重心が三脚直上に位置するため安定感が高いのも大きな特徴。カメラやレンズが重くなるほどその差は歴然で、重心が偏ることによる三脚の転倒のリスクも軽減できる。

「スイング機構」で水平も確実

斬新なリボルビング機構にばかり目を奪われがちだが、PHD-66Qは横位置撮影での水平にも新しい試みが見られる。

一般的な3ウェイ雲台や自由雲台では水平をとるためにノブやパン棒を緩めて行うが、微調整が難しい場合がある。PHD-66Qには水平をとるための「スイング機構」が備わっており、微妙な水平出しが簡単に行えるようになっている。

前後のティルトはパンハンドルで行い、水平方向の調整にはスイングストッパーを緩めカメラ台を左右にスライドさせることで簡単に水平をとることができる

あらかじめ水平をとってあれば、縦位置撮影に移行した際も水平が保たれるためより使い勝手が良くなるというわけだ。

似たようなシステムを持つアルカスイス互換L型ブラケットと比較した場合、固定力や雲台側の互換性ではアルカスイス互換の機種専用L型ブラケットが勝る部分もある。

しかしPHD-66Qの場合、クイックシューがカメラ底面だけで済む点や、カメラを一旦雲台から取り外して縦位置に付け替える必要がないため、より素早い縦位置横位置の切り替えが行えるという点で軍配があがる。

対応するカメラや三脚は?

PHD-66Qの推奨積載質量は3kgとなっており、マグネシウム製の本体重量は650gとなっている。複雑な機構を持つ雲台であることを考慮すればかなり軽量に作られており、高さも125mmと一般的なこのクラスの3ウェイ雲台と比較して妙に嵩張るといったこともない。今回の撮影で使用したカメラとレンズの組み合わせは総重量は1,690gであったが、安定して扱うことができた。

クイックシューは大型のQRA-35Lシューが同梱されており、35mmフルサイズ一眼レフなどでもカメラ底面との設置面積は十分なものとなっている。

シュープレートには背当てが内蔵されており、背当てを起こしてカメラ背面にあてがうことで、縦位置撮影時にレンズの重さによってカメラが前倒れすることを防止できる

シューベースはスイング機構の関係で滑落防止のために取り外しができないが、カメラ側につけるQRA-35LシューはベルボンのQRAシステムを採用しており、ベルボンの多くのQRA搭載雲台にも使用可能。QRA-35Lシューはワンタッチで雲台への着脱が可能で、その感触も硬さや渋さは感じられず良好であった。

クイックシューベースには2ウェイタイプの水準器が装備されており、前後ティルト方向と水平出しが縦位置撮影・横位置撮影ともに可能となっている

細かい部分にも配慮されており、リボルビング機構稼動時に各部のストッパーは干渉しあわないように小さくまとまっているが、ストッパー自体を手前に引いて初期位置をずらせるようになっている。このため可動範囲にある程度の制限はあるが、各人の使いやすいストッパーのロック位置を選ぶことができるようになっている。ストッパーにもう少し固定力があればと思う。

ストッパーは位置調整が可能

PHD-66QはUNC1/4とUNC3/8両対応となっており、いわゆる細ネジにも太ネジにも対応可能なため基本的には三脚を選ばないが、折角の良い雲台だけに三脚もしっかりしたものを選びたいところ。

横位置→縦位置で画面の変化はどうか?

ズームレンズの120mmで撮影

3ウェイ雲台
一般的な3ウェイ雲台では縦位置撮影に移行した瞬間、被写体が右上に大きくズレてしまった
PHD-66Q
一方、PHD-66Qでは上下左右ともにほとんど動いていない

35mm判換算90mm相当のマクロレンズで撮影

マクロ撮影のためより大きく画角がズレてしまい、3ウェイ雲台では青いクマが完全にフレームアウトしてしまった
PHD-66Qでは、やや右方向に人形がズレるものの、フレーム内には収まっており、少し右にパンする程度の修正で撮影できる

実際に撮影してみるとリボルビング機構の効果は絶大で、特に望遠撮影やマクロ撮影のようなわずかなカメラ位置の違いで構図が大きく変わるような撮影ではPHD-66Qがその威力を発揮する。

全く動かないというわけではないが、構図のズレは大幅に少なくなり、再調整を加える場合もわずかな調整で済むため撮影が非常にスムーズに行えるばかりでなく、縦位置にした瞬間被写体がフレームアウトしてしまい改めて被写体を探してカメラを動かすということもなくなるわけだ。

縦横無尽に世界を切りとろう

筆者は毎年必ず花火撮影に行くのだが、縦位置と横位置を頻繁に切り替えて幾つものパターンを撮りたくなる。

しかし構図の再調整という手間に泣かされ、次々あがる花火を逃したくない一心で結局縦横の切り替えを途中で断念するのだが、PHD-66Qがあれば来年の花火大会はもらったも同然だと今から1人ほくそ笑んでいる。

皆さんも素早い構図の切り替えでお悩みの際には、検討してみてはいかがだろうか。

ブリリアント山崎

(ぶりりあんとやまさき)フリーカメラマン、写真講師。カメラメーカーの講師や作例集制作を経て現在に至る。写真とカメラの事ならネジ一本に至るまで、ありとあらゆることを知りたいと思っている。都市風景写真が好き。将来は壮大なスタジオを経営したい。フォトマスター検定エキスパート(総合)。家電製品アドバイザー(総合)。「ブリリアントの写真教室」主宰。Webサイト:Amazing Graph
※山崎の「崎」の字は本来異なりますが、環境により表示されないことがあるため「崎」で代用しています。