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特別編:古いカーボン三脚が蘇る“ワンコイン・チューンナップ”

 今回は、古くなったカーボン三脚の剛性を強化するチューンナップについて、梅本製作所の梅本晶夫氏にお話を伺ったのでレポートしたい。

梅本晶夫氏。「自分手でを加えると、より愛着がわくのがおもしろいところですね」。

 話は前回の「特別編:ニコンD800Eで検証する三脚ブレテスト」に遡る。このときの実験では、ジッツオの旧1型三脚「G1128 M2(改)」がある改造により高い剛性を持つとされた(○型というのは、ジッツォ三脚のグレードで、数字が大きいほどパイプが太く剛性が増す)。

 ではなぜ、昔の1型が現在の2型に相当する程度の剛性を得ているのか? その秘密は“(改)”とあるように梅本氏が独自に改造(チューンナップ)を行なったためだ。前回はこのチューンナップには触れていなかったので、今回詳細にお伝えする。

 今回のチューンナップをズバリ言えば“脚の根元の金属部品とカーボンパイプとの間を、接着剤で補強するワザ”だ。アルミ三脚ではそもそも両方共に金属だからこの必要はない。カーボン三脚のみで可能なウラワザなのだ。

 ところで前回の記事の三脚の写真をよく見ると、本体部分に何か白っぽいもの付いているのに気づいたかもしれない。読者中にはこれが“(改)”の正体だと思った方もあることだろう。しかしこれは別の試みで、“本体部分を強化すると剛性が上がるのか?”という実験を行なったときのものだ。

水中ボンドを付ける実験は、効果が無いことが確認できたとのこと。

 本体の裏側に水中ボンドを盛って、剛性が変化するか試したという。「効果は無いだろうと思って確認のためにやってみたのですが、やはり全く効果はありませんでした。これは絶対にやらないでください。盛った部分は引っ張られる方向に力が掛かるのですが、水中ボンドは圧縮には強いものの引っ張りにはある程度追従してしまうのです。本体の部分には手を加えない方がよいですね」とのこと。

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三脚のポテンシャルを引き出す

 梅本氏は現行のGTシリーズではない以前のGシリーズを修理したことがあったそうだ。Gシリーズはパイプの接続部分にネジを切って、さらに接着剤で接着してあるが、接着剤はサヤ部分(パイプと接着されている金属部品)の端ぎりぎりまでは来ておらず、少し内側までしか来ていなかったことを確認したという。これは、接着剤がもしはみ出てしまうと外観不良になってしまうために、少し内側で止めているのだろうとのことだった。

 今回のチューンナップは、その隙間に接着剤を流し込んでより強固に固定しようというものだ。「接着剤の無い隙間があるということは、その部分のサヤは無いのと同じ。三脚は長いパイプを片側で押さえているのですから、接続部分はより長い方が剛性は高まるということです」。

 さて、このチューンナップはできる三脚とできない三脚がある。

 できる三脚はサヤとパイプの間に隙間があるタイプ。梅本氏はジッツオで実験しているが、他のメーカーの三脚でも隙間があればチューンナップは可能だろうとのこと。一方チューンナップできないタイプは、既にサヤの端ぎりぎりまで接着剤が来ているタイプで、これ以上接着剤が入らないためチューンナップはできない。

チューンナップできる三脚の例。パイプとサヤの間に隙間がある。
チューンナップできない三脚の例。隙間が既に埋まっている。

 なお、現行のジッツオGTシリーズ(6Xカーボン)に対してはこのチューンナップは効果が無いとのこと。梅本氏が実際に「GT1543T」で試したものの、剛性に変化が無いことがわかったそうだ。「設計がよりうまくなったんでしょうね。新しい三脚はメーカー保証もありますし今回のチューンナップは古い三脚限定ということです。中古で手に入れたり、自分で使っていて古くなった三脚で試してみてはいかがでしょうか」。

 今回のチューンナップを施した場合、セッティングで気をつけなければならないことがある。1つは脚を開く際に乱暴にバーンと開くこと。これをやるとパイプが楕円形に変型し、サヤの中で接着剤が割れてしまう可能性があるということ。

 さらに同じ原理で、ローポジションにセッティングするなど通常以上に開脚させた状態で上から手で押さえつけるようなことをするとこれも接着剤の割れに繋がるとのことだ。通常の撮影機材を載せて使用するぶんには、接着剤が割れるといった心配は無いそうだ。

チューンナップした三脚を開いて上から押さえつけることをしてはならない。

 「例えば自動車のチューンナップと同じで、シビアな特性になりますが、元から持っているポテンシャルは最大限に引き出せると言えます。ただ、もともとカーボン三脚の根元は接着なので、改造の有無にかかわらず乱暴に開いたりするのは良くありません。丁寧に扱うようにしたいですね」と梅本氏。どんな三脚を使っていても、これは心がけたいところだ。

接着剤は少しずつ……

 では、実際のチューンナップの説明に入る。特に難しいことは無いと思うが、いくつか注意点もあるので最後まで読んでから行ないたい。

 使用する接着剤は「アロンアルフア 一般用」。数百円なので、“ワンコインチューンナップ”というわけだ。「アロンアルフアは水よりも粘性が低いので隙間にスーッと入っていきます。なお、ネジ止め剤は素材を犯すものがあるので使用してはいけません」。

アロンアルフア 一般用。付属の細いノズルは、時間を置いて使うと詰まってしまう場合があるので今回は使用していない。

 作業は湿度の低い、できるだけ乾燥した日に行なうのがポイントだ。こういった瞬間接着剤は湿度が高いと固まった部分が白化して見た目が悪くなる。また、余分な接着剤をティッシュで拭き取りながら作業するが、湿度が高いとティッシュに付いた部分が発熱する場合があるからだ。「除湿器を使っても接着部分の湿気まで取るのは難しいですね。梅雨に入る前に作業を行なってください。梅雨に入ってしまったら梅雨明けを待ってトライするのが良いでしょう」。

 今回は、三脚を分解せずに1番上の接着部分のみ強化する方法を紹介して頂いた。

 接着部分は事前に清掃しておく。スプレータイプのブロアーで噴くのも良いし、掃除機の吸い込み口を当てながら歯ブラシなどで払う手もあるという。ただし、湿気の問題から濡れ布巾で拭くのは駄目。「濡れ布巾を使ってしまったら、2〜3日乾燥させる必要があるでしょう」。

 接着剤は飛び散る可能性があり、三脚の別の部分に付着すると故障の可能性もあることから、事前にテープや紙を巻いて十分にマスキングをしておく。「接着剤はノズル先端に空気が入っており、押し出したときに飛散する場合があるので注意が必要です。できれば保護のメガネをしておくと安全ですね。手袋はしないのが鉄則です。手袋にしみこむと発熱するので、素手で行なってください」。

机には紙を敷き、パイプも紙でくるむなどして保護する。

 机などの上に三脚を寝かせた上で、接着する1本の脚を上に上げる(当然だが、溝の底が下を向くようにする)。接着の前に、2段目のパイプを少し上に伸ばしておくのを忘れてはならない。これを忘れて万一接着剤がサヤの底部にまで達してしまうと、2段目より下のパイプが中でくっついてしまう可能性があるためだ。

接着前に2段目のパイプを少し伸ばしておく。作業中に倒さない様に気をつける。

 接着剤を流し込む際は、接着剤を持った手が宙ぶらりんにならないように、もう一方の手などに添える形でおこなう。接着剤の流し込みは1カ所当たり、3〜5回繰り返す。1回の量は僅かで良く、にじませる程度にする。

 1回流し込んだら1時間ほど時間をおいて乾燥させる。「この接着剤は乾くと体積が収縮するので、何回かに分けて隙間が完全に埋まるまで繰り返します。このとき、3倍程度のルーペで確認すると良いですね。1回に多くの量を流し込まないのが最大のコツです」。

接着剤のノズル先端には気泡があり飛散の原因になることから、ティッシュを当てつつあらかじめ気泡を押し出しておく。
左のように手が宙ぶらりんだとノズル先端が安定しないので、右のように手を別の部分に付けるなどして安定させる。このまま隙間に沿って一周させる。

 乾燥中はエアコンなどの風を静かに当てるのがポイントで、白化を防げるという。接着作業中は特に風を当てる必要はないとのこと。

乾燥中に必要なのわずかな風を確認するには紙切れを利用する。

 3カ所とも接着剤が上まで来て乾燥すれば完成だ。なお、ロックナット部分も同様にチューンナップしたいと思われる方もあると思うが、ロックナット部分は複雑で却って故障させてしまう可能性もあるため、十分に構造を理解したユーザー以外は手を出さないことだ。「一番上を強化するだけでもかなり効きます。それから今回のチューンナップは、今は接着剤が十分付いている三脚でも、例えば10年後に隙間が空いてしまったという場合には使える手だと思います」。

接着作業中の様子。まだ隙間はある。
このように接着剤が上まで来て固まれば完成。

「愛着がわけば撮影に持って行くでしょう?」

 ここで誤解無きよう繰り返すが、古いジッツオの三脚は手を入れなければ現代では通用しない、というようなことでは決して無い。今回のチューンナップは高品質なジッツオ三脚の潜在力をさらに引き出すためのもので、元々が高性能だからこそ通用するワザだといえよう。これがヤワな三脚では、手を入れたところでどうにもならないはずだ。

 「ジッツオは、アルミの三脚も接続部分の内側を削らずに外側に膨らませるといった独自の工夫がありましたし、昔から随所にフランス人らしい理屈っぽさが出ていて作りが良いのです。世界で初めてカーボン三脚を作ったのもジッツオで、前例が無いからこれは相当大変だったはずです。僕はずっとジッツオを使っていて、このメーカーを尊敬しているんです。それだけに、古い三脚であっても少し手を入れてあげて長く使えればよいと考えたのです」。

チューンナップを施して生まれ変わったG1128 M2。「以前に紹介したゴム紐を使う方法も有効ですし、今回のチューニングも組み合わせてぜひ三脚で良い作品を撮って欲しいですね」。

 梅本製作所は自由雲台やクイックシューのメーカーであり、三脚は作っていないが、なぜ三脚使いこなしのノウハウをここまで披露するのか?

 「僕の考えは一貫していて、とにかく“三脚を現場に持って行って欲しい”ということに尽きるんです。雲台だけで機能するなら三脚の話はしませんよ。雲台は三脚があって初めて1つのものになるからです。しかし、三脚は持って行くのもセッティングも面倒なもの。三脚を買ったはいいけれど、持って行かないのでは意味がありません。自分で手入れをすることで三脚により愛着が沸けば、三脚を持って行くようになるでしょう。三脚を使えば構図も安定するし、いい絵も撮れる。今回のチューニングで一番言いたかったのはそこなんです! テレビでも見ながらちょっと手を掛けてもらえば」と梅本氏。

 取材の最後に「今回は雲台の話が出てきませんでしたが?」と聞くと、「無くて良いんです」との答え。「鮨屋の親父はビジネスというより、お客さんが喜ぶ顔を見たくてやっているんじゃないでしょうか。僕もそれと同じなんだと思います。皆さんに楽しく写真をやって欲しい。だから、がっついてビジネスをするつもりは無いんですよ」と話していた。

 三脚が家で眠っているという人は居ませんか? チューンナップをするとしないにかかわらず、たまには持ち出して傑作をものにしてみては如何だろうか。

(本誌:武石修)