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特別編:雲台メーカーに聞く「ブレない」三脚の選び方と使いこなし


 デジタルカメラの高画素化はとどまるところを知らない。昨今ではニコンが有効3,630万画素のデジタル一眼レフカメラ「D800」をリリースしたのは記憶に新しい。

D800のような高画素機ではカメラブレ対策が特に重要になると言われる

 カメラが高画素になればなるほど、撮影画像を拡大して見た際にカメラブレが目立ちやすい。実際にニコンでも「D800/D800Eテクニカルガイド」のなかで、三脚を使用したカメラブレを抑えるためのテクニックを紹介しているほどだ。

 今回は、高精度自由雲台やクイックシューで知られる梅本製作所の梅本晶夫氏に“機械屋としての視点”から三脚の選び方と使いこなしを伺った。

三脚のチェックポイント

 「D800はブレに対して非常にシビアになります。ニコンでは三脚撮影の場合、ライブビューによるミラーアップに加えて露出ディレーモードの使用を勧めています。D800/D800Eを購入したけれど、どんな三脚を選んで良いのかわからないといったユーザーは参考にして欲しいと思います」(梅本氏)。

 もちろんD800以外のカメラでも、ブレを押さえ込んで撮影するのは重要なことだ。

 梅本氏によれば、三脚は本来不安定なものだという。「細い棒の上に重い雲台やカメラものが載っていて、そもそもブレるなというのが無理な話。それだけに良い三脚の選び方や使いこなしが重要になる」という。

 まずは、三脚の選び方を説明してもらった。三脚のグレードは脚パイプの太さである程度決まってくるが、梅本氏によると最大パイプ径28mmクラスが万能的に使えて良いのでは無いかとのことだ。

 次に脚のねじれ剛性を確かめる。店頭にある三脚を伸ばした状態で、一番上のパイプ2本を両手で掴んでひねるように動かしてみる。すると同じクラスでも剛性が高いか低いかがわかるという。もちろんねじれが少ない方が良い三脚といえる。

2本のパイプを持ってひねってみるとどのくらいの剛性かがわかる

 また、3本の脚を繋いでいる三つ叉の部分(本体とも言う)にも注意する。三つ叉と脚パイプとのジョイント部分の幅を比較的広く採ってある三脚がおすすめだという。中にはこの部分が狭くなっているものもあるそうなので気をつけたい。

写真の三脚はジョイント部に適当な幅があるが、三脚のサイズに対してここが狭い三脚は要注意

 エレベーターにも見るべきところはある。注目するのはセンターポールのロック機構だ。多くの三脚はラピッド式にしろクランク式にしろ、ロックは横のノブでセンターポールを押さえつけるタイプだ。梅本氏によるとこのタイプは、外側のパイプの一方にセンターポールを押しつける構造ため、接触面積が少なくなりブレの原因になるとのことだ。

 その点、例えば最近のジッツオのようにセンターポールを脚パイプのようなナットロックで固定できるタイプは、パイプの円周を固定できるのでブレに対して有利だという。ただ、この方式には畳んだ際にロックナットの分だけ長くなってしまうデメリットがある。

センターポールのロックが写真のようなロックナット式だとよりしっかり固定できるという

 「このように物理の原理・原則に則ってまじめに作ってある三脚を選ぶのがポイントです」と梅本氏。迷う人も多い段数については、移動手段で選ぶと良いのだそうだ。「自動車での移動が基本なら3段、電車なら4段が良いでしょう」(梅本氏)。

意外なアイテムでブレを軽減

 ここまでで“三脚さえ使えばカメラブレと決別できる”というわけではないことがわかった。そこでどういった対策があるのかをお話し頂いた。

 三脚でカメラブレを抑えるのにまず簡単にできるのが、三脚を立てたときに3本の足の下部を少し外側にずらすということだそうだ。これによってパイプが張り、共振周波数が高くなってブレにくくなるという。「ただし、シャッター速度や特定のカメラの場合は、脚を張ったときの方がぶれやすくなる場合もあります。ちょうどカメラと共振周波数が重なった場合です」(梅本氏)。こういうケースもあるので、できれば事前にテスト撮影で確認しておきたい。

 三脚のブレを軽減するアイテムとしてまず思いつくのがストーンバッグだ。これを伸ばしたパイプの中央付近から提げることで、脚の振動の“腹”になる部分を押さえることができ、ブレ抑制に有効とのこと。

 「でも、ストーンバッグは取り付けるのが面倒ですよね。三脚を展開してから、装着するわけですから。そんな時は、センターポールのフックにバッグを吊す方法が手軽です」(梅本氏)。

 これはよく知られた手法だが、さらに使いこなしの工夫があるという。「バッグのストラップを調節して、バッグが地面からぎりぎりになるようにセットするのです。こうしておくと、もしバッグに自分の足がぶつかってフックから外れても、地面にぶつかる衝撃を最小限にできます。高いところから落ちると金銭面と精神面のダメージが大きいですからね(笑)」(梅本氏)。

バッグを吊り下げるのは有効だが、ひざなどがぶつかってバッグが落下するとダメージが大きい(右)。そこで、ストラップを伸ばしてバッグを地面ぎりぎりにしておくと(左)、万一落下してもダメージが少ない

 しかし、バックパックを背負ったまま撮影したいという向きには、フックにバッグを掛ける方法は面倒だ。そこで、梅本氏がおもしろいアイデアを披露した。

 それは、自転車の荷台に使うゴム紐を使う方法だ。このゴムを適当な長さで輪にしておき、一方をセンターポールのフックに、もう一方を自分の足に掛けて踏むことで固定する。「ストーンバッグより安いし、軽いのも良いですね」(梅本氏)。何しろ、自転車用のゴム紐は100円ショップでも買うことができるアイテムだ。

ゴム紐には輪を作ってフックに引っかけやすくしておく このようにゴム紐を脚で踏むだけで簡単に安定性を高めることができる

 「こうして三脚が安定する原理を専門用語で『予圧によるコンプライアンスの低下』といいます。簡単に言えば、三脚の接続部分に荷重が掛かり固くなる結果、安定するのです」(梅本氏)。コンプライアンスは「剛性」の別の表現で、“硬い”ものほどコンプライアンスは“低く”なる。

 先に“三脚は本来不安定なもの”とあったが、ゴムで引っ張るなど見かけの重量を増せば、石突の位置もしっかり定まり三脚全体の安定感は増す。これは三脚を、橋や鉄塔などに見られる「トラス構造体」と見なせるためだという。「脚には圧縮力のみ働き、石突間には引っ張り力のみが働きます。曲げが掛からないので丈夫になるのです」(梅本氏)。

 ゴム紐方式の注意点は、ゴムの振動が十分収まってから撮影するということ。もちろんケーブルレリーズやミラーアップの併用は必須だ。また、ゴムの張力を強くしすぎるのも三脚などの破損に繋がる恐れがある。三脚の耐荷重の余裕の範囲で行ないたい。

 また特に登山者の中には、短い紐(ゴムではない)をフックに掛けて、手で下に引っ張って安定させる人もいるという。「山岳では荷物が重いと命取りですから、少しでも軽くなるように紐を使うのです。ただ、ゴム紐方式の方が体重を掛けるだけで良いので疲れませんね」(梅本氏)。なお、センターポールを直接手で握るのは手が振動してしまうため逆効果になる。

「ゴム紐でも重くてかさばる」というときには短い紐で下に引っ張る方法もある このように三脚自体を直接持つとかえってブレの原因になる

 センターポールにフックの無い三脚の場合は、三つ叉部分に紐を結んでゴム紐を引っかけるのも1つの方法とのことだ。

センターポールにフックが無い場合は、紐と組み合わせて三つ叉部分にゴム紐を繋ぐ手もある

ストラップもブレ防止に一役

 三脚の安定性が増したところで、今度はカメラ自体の安定性を増す工夫を施す。「カメラが外部と接触する部分は、三脚ネジ穴、マウント、アクセサリーシュー、ストラップホールの4つです。このうち強度が比較的あるストラップホールを利用します。ゴム素材のベルクロテープなどを用いて、ネックストラップとセンターポールの下部を繋ぐことで、カメラがより安定します」(梅本氏)。

ネックストラップをセンターポールに繋いだところ この場合、伸縮するベルクロテープで繋ぐのが適している

 この方法だと、ストラップが風でパタパタして三脚にぶつかることも無い。洗濯ばさみなどでストラップを留めている人も見かけるが、それなら一石二鳥のこちらが良いだろう。「縦位置は無理ですが、フレーミングの自由度も多少あります。ゴム素材のベルクロテープが入手できないときには、ご自分でアウトドア用品として市販されているベルクロテープに、市販のゴムバンドを縫い付けて伸縮できるように加工する、といった工夫も良いかもしれません」(梅本氏)。この場合もストラップの引っ張りすぎには注意したい。カメラ+レンズの重さ程度の力で繋ぐのがポイントだ。

ゴムのベルクロテープを介しているので、横位置ならある程度フレーミングも変えられる

マウントに落とし穴

 さらにカメラを安定させるため、マウントに一手間加えることも使いこなしの1つだという。といっても難しいことは何も無い。

 「今主流のバヨネットマウントは、嵌まっているだけなので動かすとガクガクします。カメラとレンズを三脚に付けた状態でレンズを上から軽く押すことで、レンズマウントの下側にレンズ側のマウントが接触するようにしておくのです。重力に逆らわず、レンズの重さが真下に掛かるようになってより安定します」(梅本氏)。

写真のカメラに限らないが、バヨネットマウントには各社とも遊びがあって多少ぐらつくのが普通だ

 「今回お話ししたカメラブレ対策は、あくまでも打率を上げるための工夫です。ゴムの振動が収まる時間にしても事前にテストしておくと良いでしょう。またセルフタイマーで撮影する場合は、カーボン三脚の場合でミラーアップから4秒、アルミ三脚の場合は同10秒は待って三脚の振動が落ち着いてからシャッターを切った方が良いですね」(梅本氏)。

なぜ自由雲台なのか

 最後に、梅本製作所が自由雲台にこだわる理由を教えてくれた。それは、「アッベの原理」に即した形状だからだそうだ。この原理を発見したのは、カール・ツァイスのレンズ技術者として知られるエルンスト・アッベだ。

 「例えば長さを測るときに、測定対象物の延長線上に目盛りがあると誤差が少ないという原理です。雲台におけるアッベの原理とは、力が真下に落ちるということ。つまり、震動源からエネルギーがストレートに伝わることです。自由雲台は、カメラが発する振動を受ける際にとてもよい良い支え方をしているんですね。その点、3ウェイ雲台はエネルギーが伝わるのに直線にはならず持ってまわるので、同じ剛性を得ようとしたらより重くなってしまいます。カメラブレに対して雲台が重要になるのは震動源(カメラ)に最も近い部材だからです。振動エネルギーを脚や地面に伝達することで、熱エネルギーに変換できます」(梅本氏)。

梅本製作所の高精度自由雲台の一部。カメラネジを回す部分は支持体が左右に分かれているが、左右均等なので「誤差の相殺」という原理でアッベの原理が成り立つという

 同社の自由雲台やクイックシューは、雲台の上面に硬い「剛性体」と柔らかい「コルク」があるため、雲台の共振を防ぎつつ、振動エネルギーを逃がすことができるのだという。コルクだけでは、コルクより共振周波数の高い振動が三脚に伝わらないためだ。

同社製クイックシュー。雲台も同様だが、黒くて丸いオリジナルパーツ「剛性体」があることで雲台の共振が防げるのが特徴だ

 また、自由雲台はアングルを一発で決められるのも梅本氏が自由雲台を気に入っている理由とのことだ。

「皆さん今は車をいじることも少なくなり、機械のことには余り関心が無いかもしれません。機械屋からの一アドバイスでしたが、参考にして楽しく撮ってもらえたらと思います」と梅本製作所 代表取締役の梅本晶夫氏。「D700」を愛用中の同氏だが、D800もいずれ手に入れたいと話していた





本誌:武石修

2012/5/15 11:30