ビクセンというメーカーは、天体望遠鏡メーカーとして長い歴史のある老舗である。そのビクセンより発売された「星空雲台 ポラリエ」は、雲台といっても三脚に装着してカメラを載せるだけの雲台ではない。夜空を巡る星々を追尾する小型な赤道儀だ。
ポラリエの使用例 |
一般的な被写体と比べると極端に暗い夜空の星を写真に捉えるには、カメラを三脚に据え付け、長時間露光で撮影する必要がある。レンズの絞り値をF2.8にしてISO感度を1600にした場合、およそ15~30秒間の露光をすれば冬の星座で有名なオリオンやシリウスといった明るい星は比較的簡単に撮影することができる。しかし天の川など暗い星々を撮影するにはもっと長時間の露光が必要だ。しかしそのまま単純に露光時間を延ばせばよいというわけにはいかないのが星の撮影。そう、星が線を書くように流れてしまうからだ。
カメラを三脚に固定して1分露光。地上の景色は止まっているが、星は動いてしまい流れている。E-5 / ZUIKO DIGITAL ED 12-60mm F2.8-4 SWD / 約3.8MB / 3,024×4,032 / 60秒 / F3.5 / 0EV / ISO800 / 12mm |
ご存知のとおり天空の星々は時間とともに刻一刻と移動する。およそ一日をかけて空を一周(360度回転)すると考えると1時間あたりに約15度、1分に約0.25度移動することになる(実際はもう少し速い)。これを日周運動と呼ぶ。長時間露光で星を撮影するにはこの日周運動を追いかけるようにしてカメラも回さなければいけないのだ。その為に必要な機材が「赤道儀」というものだ。
一般に赤道儀は天体望遠鏡とセットで使用するものが多い。もともと星の撮影は天体観測の一環だったからだ。しかしこの「星空雲台 ポラリエ」はカメラ単体で使用することを想定した小型のものとなっている。三脚も天体望遠鏡用ではなく写真撮影用のものに取り付けて使用することを想定しており、ネジ穴はカメラと同じUNC1/4インチとなっている。本体サイズは片手で持って少し余る程度。そのデザインからも、少し大きめのカメラといった印象だ。重量も740g(電池別)と、キヤノンEOS 60Dのような中級デジタル一眼レフカメラのボディと同程度の重さであることを考えると、ちょうどカメラボディ1台分を想定して設計されたのだろう。
本体形状はカメラをイメージさせるデザインとなっている。そのままカメラバッグに入れても違和感がない。ちなみに本体前面の北斗七星とカシオペア、背面の南十字星と小マゼラン雲の図柄は、それぞれが雲台中心部を北極星、天の南極とした場合の位置関係をレイアウトしたものだそうだ |
電源は単3電池2本を使用。アルカリ乾電池、ニッケル水素充電池、ニカド充電池に対応する。約2時間動作(気温20度、2kg搭載時:アルカリ乾電池使用)。USB-mini B型対応の外部電源も利用可能だ。電池室下部の「S/N」スイッチは、北半球/南半球のモード切り替えスイッチ | 本体裏蓋には方位磁石を内蔵。ポラリエを北に向けて設置する際に、本体から取り外して使用する |
今回使用した「ポラリエ」も含め、赤道儀の設置には本体回転部の回転軸を正確に北極星に向ける必要がある。赤道儀の回転軸と地球の自転軸を平行に揃えることで、星の日周運動に合わせてカメラを回転させなければいけないからだ。カンタンにイメージするには、天空の星々が時間の経過と共に北極星を中心として半時計回りに回ることを思い出すとよい(北半球の場合)。つまり、星が回る方向に合わせてカメラも一緒に回せば星が線状に流れず点として写るわけだ。超スローな流し撮りだと思ってほしい。
(イメージ)赤道儀を使用せず、北極星を中心に周回する星々を撮影 | (イメージ)赤道儀を使用し、星々を追いかけて流さずに撮影 |
・星空雲台 ポラリエ三脚セット
今回はベルボン製専用三脚がセットになった「星空雲台 ポラリエ三脚セット」を使用した。ベルボン製自由雲台2セット(QHD-33、QHD-43)も付属する | 三脚「M-178V」はベルボンとのコラボレーション製品で、全高1,780mmの4段三脚にベルボンの三脚「VS-443Q」でも採用されている「バーサタイルスイングセンターコラム」方式のエレベーターを装着したもの |
「バーサタイルスイングセンターコラム」方式エレベーターは自在にエレベーターの角度を変えられ、また軸と一体化したグリップを回すことでロック/解除もできるので角度の微調整が容易だ |
・ポラリエ設定手順
なお、露出時間は撮影地の空の明るさで違ってくる。街灯りがまったくない山奥などではISO1600、F2.8で3~5分といった長時間露光でも空は暗いままだが、街灯りで空が明るい場所では1分程度を目安にしてテスト撮影を繰り返して加減するようにしたい。
「ポラリエ」には星の日周運動に合わせた速度でカメラを動かす「星追尾モード」のほかに「星景撮影モード」も搭載されている。「星追尾モード」で撮影した場合、星々の移動速度に合わせてカメラを動かすので星は線上にならずに点で撮影できるが、反面、山や樹々など地上のものは時間と共にブレて写ってしまう。そこで「星景撮影モード」では日周運動の1/2の速度でカメラを動かすことで、星を追いかけながらも地上の風景も1/2のブレで抑えようというものだ。
ポラリエ使用(星景モード)。拡大してよく見ると星も地上の風景も少しずつブレているが、鑑賞サイズによってはどちらもブレずに止まっているように見える。EOS 5D Mark II / 24-70mm F2.8 IF EX DG HSM / 約6.6MB / 5,616×3,744 / 60秒 / F8 / 0EV / ISO1250 / 24mm |
いずれの作例も24mmの画角で1分間露光したものだ。拡大して厳密に見ると星景モードでは星も地上の景色も両方ブレていることが判ってしまうが、鑑賞するサイズによってはどちらもほぼ止まって見える。地上の景色と星空を同時に表現したいときなどには効果的だろう。
また、ポラリエには太陽および月の動く速度に合わせた「太陽追尾モード」、「月追尾モード」も搭載されている。どちらも星の日周運動とは速度が異なるために設けられたモードだ。これらは日食や月食の撮影時に力を発揮してくれるに違いない。
「ポラリエ」に搭載できる機材は、雲台ベースに取り付ける機材の総重量が約2kgまでとなっている。「星空雲台 ポラリエ三脚セット」に付属する自由雲台QHD-33の自重が130gだということを計算に入れると、カメラとレンズの組み合わせは約1,870gまでとなる。
今回撮影に使用したEOS 5D Mark IIとシグマ24-70mm F2.8 IF EX DG HSMの組み合わせが1,753g(実測)、EOS 5D Mark IIとシグマ12-24mm F4.5-5.6 II DG HSMの組み合わせが1,580g(実測)と、重量級のズームレンズでも問題なく装着できた。広角から標準ズーム域ならばほぼ問題なくクリアできそうだ。重量だけで考えればキヤノンEF 70-200mm F4 L USMまでも装着できそうだが、メーカーが使用を推奨するのは標準域までの焦点距離のレンズとなっているので注意が必要だ。
実際、今回の撮影のなかでも撮影途中から極軸がずれてしまうケースが何度かあった。原因は自由雲台を取り付けてある雲台ベースの固定が緩んでしまったことだ。取り付けた際には十分に固定ネジで締め付けていたのだが、長時間の撮影によるカメラ重量のバランス移動によって緩みが出てしまったように思える。決してポラリエの造りが弱いとは思わないが、小型化による精度の違いについては大型の赤道儀と別物だと理解する必要があるだろう。
また今回は、「星空雲台 ポラリエ三脚セット」の専用三脚「M-178V」を使用したが、極軸セッティングの容易さはさすが専用三脚だと感じたものの、三脚自体の強度は少し心もとないところがあるように感じた。特に斜め出しのエレベーターを延ばしてしまうと、ポラリエとカメラの重量バランスが少し不安になる。加えて、付属の自由雲台でカメラを固定した場合、カメラを縦位置にする際にポラリエ本体と干渉してしまうことがある。EOS Kiss X4のような小型のカメラでは干渉することもないので、大型のカメラを使用する場合にはもう少し大きめの自由雲台を使うとよいかもしれない。
私が作品撮影として行なっている風景撮影のなかには、昼間の光景だけではなく夜の光景を捉えた作品撮影がある。それは日頃見慣れた明るい風景だけでなく、夜の月や星明かりの下でこそ得られる表情を捉えんとするものだ。したがって星景撮影は私にとって欠かせない大切なモチーフのひとつとなっている。三脚に固定して撮影する固定撮影だけでなく赤道儀を使用した追尾撮影を行なうことで、通常では目にすることの難しい星々の輝きを捉えることができるのだ。
今回使用した「星空雲台 ポラリエ」は非常に小型軽量でセッティングもとても容易にできるように工夫された製品だ。北極星を探すといったことに不慣れな方でも、方位磁石と傾斜計を使用すればおおよそのセッティングを行なうことができ、比較的簡単に見つけることができるだろう。手頃な価格設定も魅力的なので、まずは気軽に赤道儀を用いた星空の追尾撮影を行なってみたいという方にはお勧めできる製品だ。
■作例
星景モード。撮影地:千葉県君津市 片倉ダム周辺。SD1 / 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM / 約7.6MB / 4,704×3,136 / 30秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / 10mm |
2012/1/6 00:00