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パナソニックDMC-GH2が実現した「0.1秒AF」の秘密


 パナソニックが10月に発売したレンズ交換式デジタルカメラ「LUMIX DMC-GH2」は、コントラストAFで“0.1秒”という高速合焦を謳うモデルだ。従来、合焦速度面で位相差AFよりも不利とされていたコントラストAFを採用しながらもこのようなAF速度を実現できた秘密はどこにあるのか? 今回はDMC-GH2におけるAFの秘密をお聞きした。(インタビュアー:小倉雄一、本文中敬称略)

右から友澤泉氏(商品企画)、中島英和氏(本体設計)、山根洋介氏(AF開発) DMC-GH2

 話を伺ったのは、商品企画を担当したパナソニックAVCネットワークス社ネットワーク事業グループDSCビジネスユニット企画グループ グループマネージャーの友澤泉氏、LUMIX Gシリーズの設計を担当した同DSCビジネスユニット一眼カメラカテゴリー主担当の中島英和氏、AFの開発を担当した同デジタルイメージング先行開発グループ グループマネージャーの山根洋介氏。

コントラストAFの高速化を見込んだ一眼レフカメラ参入

――オリンパスとパナソニックがマイクロフォーサーズを始めるとき、コントラストAFの速度についてどのような見通しを持っていたのでしょうか。

中島:マイクロフォーサーズシステム規格は、位相差AFではなくコントラストAFでいくと決める方向で、オリンパスさんと検討しておりました。当然コントラストAFで位相差AFに勝つという目標を最初からずっと持ち続けて開発を進めています。

山根:マイクロフォーサーズでカメラボディが小型軽量化されても、AFが遅くなってしまったら意味がない。AFも速くなければいけない。「課題はAF」だ、という出発点から、コントラストAFでどこまで高速化を目指せるかを徹底的に議論して、「この段階でここまでいく」、「この部分の進化があればさらに高速化できる」と構想を描きながら高速化を進めてきました。

中島:もともとコントラストAFは遅いというイメージがありました。でもマイクロフォーサーズでは一眼レフカメラのミラー構造をなくすわけで、コントラストAFに行かざるをえない構造になっています。逆にいえば、コントラストAFで絶対に他社のAFに勝てるという確信を持っていたからこそミラーをなくすことができたのです。マイクロフォーサーズの最初の機種「LUMIX DMC-G1」で位相差AFと同等のAFスピード、次のステップで位相差AFを超えると決めていました。「LUMIX DMC-G1」でも位相差AFに負けていないと考えています。

――マイクロフォーサーズ機を手がける以前に、フォーサーズのカメラを出されました。

中島:はい、「LUMIX DMC-L1」、「LUMIX DMC-L10」の2機種です。

LUMIX DMC-L1(2006年7月発売) LUMIX DMC-L10(2007年10月発売)

――これらの機種は位相差AFを搭載していたのでしょうか。

中島:DMC-L1は位相差AFのみですが、DMC-L10には一眼レフカメラでありながらコントラストAFを搭載しました。ミラーアップした状態でコントラストAFをしています。ただそのAFはかなり遅い。DMC-L1、DMC-L10で位相差AFの仕組みを学び、フォーサーズ規格のままでコントラストAFを行なうには、レンズとの通信において課題があると気づきました。ですので、われわれはミラーレスカメラを開発する際にマイクロフォーサーズという新しい規格によって、高速なコントラストAFができる仕組みを作り上げることができたのです。

――DMC-L10でフォーサーズ規格でのコントラストAFの課題が見えてしまった?

中島:もともとフォーサーズは一眼レフカメラの位相差AFに適した規格で、コントラストAFのことを十分に考慮されていなかった部分が多かった。

――なるほど、フォーサーズのカメラを開発して、一眼レフカメラの仕組みを学びながら、一方では「このミラー邪魔だなぁ」と漠然と思ってらっしゃったのですね。

山根:漠然とではなく、かなり……(笑)。

中島:デカイし、重たいと(笑)。

――それはフォーサーズのカメラの開発当初からでしょうか?

中島:われわれが最後発でデジタル一眼レフカメラの世界に入っていくにあたり、カメラを小さく軽くしたかった。ですが、ミラーを含めたミラーボックスやバッテリーを考えると、どうしても他社機と同等サイズにしかならない。ネックはなにかというと、ミラーを必要とするミラーボックスが大きな体積を取っていたわけです。これをどうにかなくさないことには、小さく、軽くならないと考えました。

――では、DMC-L1やDMC-L10の開発にはどういった意味があったのでしょう。

山根:それまでパナソニックはシステムカメラをやっていませんでしたから、技術なり知識がまったくなにもなかったのす。ですから、この2機種の開発で、システムカメラっていうのはこういう課題があるのだな、ということを学ばせてもらったと、いま振り返ると本当にそう思いますね。

中島:ミラーをなくそうとすると、位相差AFや光学ファインダーなど、なくさねばならない要素が多いんですね。ほかにもシャッターなどの新規開発も必要になる。それらに関して山根の部署で要素開発を行なったのですが、それにだいたい数年を費やしています。

友澤:今思えば、DMC-Lシリーズの開発を行なったからこそ、パナソニックとしては次世代のミラーレス機を開発しようという確信が持てたのです。

中島:DMC-L1、DMC-L10の2機種を出したことで、お客さまの声をたくさんお聞きすることができ、すごく勉強になりました。お客さまの求めているものはこういうカメラだというデータがたくさん集まり、それをマイクロフォーサーズ初代機のDMC-G1に盛り込んだことで、DMC-G1は非常に完成度が高いという評価をいただきました。技術者としてはDMC-L1、DMC-L10の2機種をやったことが、結果的にはミラーレスシステムの開発に関してものすごく勉強になっています。

――確認なのですが、パナソニックが最初にフォーサーズに参入する際、はじめからマイクロフォーサーズを頭に描いていたのですか。

友澤:そうではありません。まずはデジタル一眼レフカメラをキチンとやらなければいけない、きちんとカメラ事業として成り立たせるためには、コンパクトカメラだけでは厳しく一眼レフカメラを開発できるメーカーブランドになる、というところが発端で、その最初がDMC-L1、DMC-L10でした。

 したがって、あの2機種には当時われわれが持ち得るすべての技術を全部注ぎ込んで、最高のモノを出せたと思っています。その結果、われわれが思っていた以上に、従来の一眼レフカメラとは違う世界のニーズが多いことが分かりました。その世界をさらに拡大するために、最後発のブランドとしてどうすべきか考えたとき、従来の一眼レフカメラとは違う、、新しい世界を切り拓いていこうという意志決定を下し、マイクロフォーサーズという道を選んだのです。

 繰り返しになりますが、最初からマイクロフォーサーズがあったのではありません。最初は純粋に一眼レフカメラの世界にキチッと入っていこうという思いがあったということです。

友澤:LUMIXを一流のカメラブランドにしようというのが、事業発足時のいちばん根本にある大目標であり、コンパクトカメラだけのブランドではない、一眼レフカメラも視野に入れることは最初から意志として持っていました。その当時はマイクロフォーサーズとかフォーサーズというのではなく、レンズ交換式カメラの世界にキチッと入っていこうというビジョンがまずあったわけです。

中島:もう1つの大事な点として、DMC-L1の開発を進めるなかで、この先にデジタル一眼レフカメラの世界は、静止画だけではなく、このスタイルで動画も撮れたらいいねという思いがめぐってきました。動画の撮影は位相差AFだと非常に厳しい部分があるので、なにがいちばん最適かというのを並行して考えていたわけです。

山根:先々に動画を考えていかねばならず、そこには必ずAFがリンクする。それが現在のコントラストAFにつながっていくのです。

中島:そこでまずはそれをDMC-L10でやってみようということになりました。

今回インタビューを行ったパナソニックAVCネットワークス社(大阪府門真市)

――位相差とコントラストのハイブリッドAFですね。

中島:そうです。AFをハイブリッドでやるにはどうしたらいいんだと。それを要素検討しているうちに、コントラストAFをやるには従来のフォーサーズの縛りのなかでの課題が見えてきたのです。ではどうしたら求めるAFや動画が「普通にできるか」を練って練って、こういうカタチに拡張しましょう、進化させましょうという動きになりました。パナソニックがデジタル一眼レフカメラの開発をやっていくなかで、課題を突破し、われわれの目指したいモノを実現させるためにマイクロフォーサーズという進化した規格の中で、現在のLUMIX Gシリーズが実現できているわけです。

――マイクロフォーサーズは、フォーサーズをちょっと小型化して、サブセット、簡易版みたいな印象ってありますよね。マウント径も小さくなって。

中島:名称についてもずいぶんオリンパスさんと検討しました。マイクロとかいうと、小さいというイメージが強すぎるとか……。

友澤:規格的な側面だけで見ると、実際に一眼レフカメラの世界に参入してみて、キヤノン、ニコンという大先輩の市場をわれわれが同等レベルでシェアするのはかなり厳しいと見ました。この2メーカーは当然レンズ資産もありますし。となると、これからレンズ交換式カメラに入ってこようというお客さまに認知していただき、なおかつ選んでいただくためには何をすべきかについて考えました。

中島:当時考えたのは、フィルムのコンパクトカメラがデジタルになったときにすごい進化があったわけです。フィルムが要らなくなって、どんどん小さくなった。一方、一眼レフカメラを見た場合、フィルムの一眼レフカメラとデジタルの一眼レフカメラはほとんど変わらない。フィルムがなくなって液晶モニターがついただけの世界です。将来のことを考えると、このレンズ交換式カメラという世界を大幅に進化させないといけないのではないかと。それを進化させるのがマイクロフォーサーズという規格に結びついているのです。

友澤:パナソニックは最後発だからこそ、そういう思いきった決断ができたというのはあるのではないかと思います。

コントラストAFをいかに高速化するか

――位相差AFと比較してコントラストAFはなぜ速度の面で不利とされていたのでしょうか。

山根:ご存じの方も多いと思いますが、位相差AFというのは、専用センサーによってピントのズレ方向とズレ量を瞬時に検出できるのが大きな特徴です。一方、コントラストAFは撮像センサーの出力信号から得られるピント情報となるコントラスト情報を算出しますが、このコントラスト情報が最大となるレンズ位置がピントの合う位置になりますので、常にレンズを動かしながらコントラスト情報を確認をするというフィードバックの動作が必要となります。その過程を経る必要があるために、位相差方式のAFに比べて速度的に不利となってしまいます。

デジタル一眼レフカメラ(左)とマイクロフォーサーズ(右)の構成の違い デジタル一眼レフカメラ(左)は位相差センサー式を、マイクロフォーサーズ(右)はコントラスト検出式AFを採用している

――マイクロフォーサーズの開発に関し、コントラストAFの高速化で取り組んだ大きなポイントは?

山根:1つは前にも述べた規格に関する話です。システムカメラは、ボディとレンズが通信をしなければいけませんから、通信の工夫がいちばん大きなポイントになります。その工夫とは、ボディがレンズの情報を今欲しいほしいと命令したときにリアルタイムにレンズからデータをもらえるように、素早く精度のいい情報をやりとりできる要素を規格に組み込んだのです。そのためにレンズとボディの通信のためにマウント部に設けられた信号ピンをフォーサーズの時より2本増やしています。

 高速化の2つ目のポイントですが、いくら通信が速くてもフォーカス用のレンズ(AF合焦に使われるレンズ)の動きが遅ければAFの速度を改善することができませんので、フォーカス用のレンズを速く動かすことが可能な交換レンズを開発しました。

 3つ目は、AF情報を抽出する撮像センサーのサンプリング(フレームレート)を上げ、AF制御フィードバック系のループをより速くしました。以上の3つの取り組みがマイクロフォーサーズのAFの高速化を実現したポイントになります。

中島:1つめですが、従来のフォーサーズのボディとレンズとの通信は一定間隔でしかできなかったのです。どんどんボディ側の処理速度が速くなり、レンズに「いま情報をちょうだい!」と言いたいのですが、レンズと一定間隔でしか通信ができないという規格の制約があったのです。それをマイクロフォーサーズで、いつでもレンズ側からボディに情報を伝達できるように変更した、ということです。

――フォーサーズではそれで足りていたということですよね。

中島:従来のフォーサーズでは足りていました。位相差AFが基本ですから、ボディがレンズに「行け!」と命令してレンズを目的の位置まで即座に動かすだけですから。コントラストAFの場合、逐一レンズからの情報がほしいんです。ですが、比較的ゆっくりでしか情報の更新ができなかった。

――なるほど、位相差AFは基本的に一度のやり取りですむので、それでよかったわけですね。でも高速のコントラストAFだとボディとレンズで何度も何度も情報をやり取りしないといけない……。

友澤:カーナビと似ているかもしれないですね。自分が今いる場所を正確に把握していないと地図上に表示できないですからね。

中島:むかしのカーナビはポコッ、ポコッ、ポコッと飛んでいましたが、いまのカーナビはスーッとなめらかに移動します。イメージ的にはそんな感じですね。

DMC-GH2は「0.1秒AF」を打ち出した(フォトキナ2010での発表会から)

――ボディがAFのためにレンズからすぐにほしい情報というのはなんですか。

中島:フォーカスレンズの位置情報です。

山根:フォーカスレンズの位置によって、どこにピントが合っているかの距離と実際にフォーカスレンズが動いている物理的な位置は1対1で対応します。ですから、そのレンズ位置がどこかという情報でボディ側が判断をします。

中島:要は、被写体のコントラストの山をいかに早く見つけるか。情報のやり取りをゆっくりやってると、山があっても行き過ぎてしまってから「あ、わかった、山があった」という感じになってしまう。そこを細かく、ちょっとでも下がれば「山だ」と早く見つけたい。そのためには常にレンズの正確な位置情報がほしいのです。

――2つめのレンズ駆動を速くしたという部分ですが、もう少しご説明をいただけますか。メカ的な要素なのか、アルゴリズムの部分なのか。

山根:メカ的な要素が大きいですね。DMC-L1、DMC-L10で使っている標準レンズはフォーカスレンズ(AF合焦に使われるレンズ)が10g以上という重さがあるので、カムを介して駆動する方式を採用していましたが、フォーカスレンズをダイレクトで駆動する方式に変更しました。駆動するアクチュエータは、主にはステッピングモータを用いているのですが、特に「LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.」では、フォーカスレンズをさらに速く駆動できるよう電動のリニアアクチュエータを採用しています。むろん単に速く動作させるだけではなくAFに必要なレンズの位置決め精度も保有した駆動系としています。

LUMIX GにおけるコントラストAFの性能向上ポイント

カメラシステムの小型化がAFの高速化に寄与

――マイクロフォーサーズの場合、35mm判などに比べてレンズを小型にできます。その辺りも関係あるのでしょうか。

山根:もちろんあります。レンズを高速に駆動することは、いかに「フォーカスレンズを小さく軽くできるか」、「フォーカスレンズの移動距離を短くできるか」がポイントとなります。マイクロフォーサーズは、35mm判に比較してセンサーサイズが小さくなる分、フォーカスレンズそのものも小さく軽くすることが可能になりますが、その中でもさらにフォーカスレンズを小さくできるか、フォーカスレンズの移動距離を短くできるかに注力して光学設計を進めてきました。

――コントラストAFは精度の点では位相差AFと変わらないのでしょうか。

山根:位相差AFは「ここに行け」とレンズに命令するだけなのです。たとえていえば、上司が部下に一言「最後しか確認しないけど、自分でやっておけよ!」というのと、常に部下の管理をしながら、あなたの仕事はどうですかと管理して結果を目標値に持っていくのとでは、仕事の完成度もちょっと精度が違うじゃないですか(笑い)。

中島:一度だけアドバイスして提出されたレポートの質と、何回も打ち合わせして出てきたレポートの質は絶対に違いますよね。

――普通の位相差AFだと修正が効かないということですね。

山根:ちょっと誇張して言ったかもしれませんが、わかりやすくいうと、そういうことかなと思います。

中島:とくに明るいレンズの開放値になると、位相差AFでは精度が出にくい。だからほとんどマニュアルフォーカスで合わせないといけないと聞きます。

山根:そのあたりは位相差センサーの精度によって決まってしまいます。それに対してコントラストAFは確実に絵にピントが合っているかどうかの情報を使ってフィードバックしますので、最後の最後までピントを追い込めるという優れた特徴があります。

中島:位相差AFはAFセンサーが別にありますよね。撮像センサーとは別物なので、そこの誤差はなかなかゼロになることは無いと思います。

――物理的にミラーを経由していますからね。マニュアルフォーカスでピント合わせをする場合も同様ですが。

山根:コントラストAFは精度の面では有利だなというのは最初に検討していて確信していました。あとは速さだな! と。

位相差AF対応レンズでコントラストAFが遅いわけ

――従来の位相差AF対応レンズでコントラストAFが遅いのはどういった理由なのでしょうか。

中島:いちばんの問題は、位相差AFというのは一方向でピントを合わせるのが基本です。コントラストAFというのは行って戻らないといけない。先ほどあったように、位相差レンズのAF駆動はカムを使ったメカが一般的で、一方向だとスピーディに行くのですが、反対方向に回したときにガタが出てしまいます。だから1秒先に行ったのを1秒戻したら元のところには戻らない。ギアで連結していると、戻すときにカムが動き出すまでに若干の遊びが生じます。位相差AF用を基本として作っているレンズでは、その遊びがすごく大きいわけです。

――それは位相差AFを前提にしていれば全然問題ないわけですよね。

中島:原理的には、位相差AFではまったく問題ないですね。

――それがコントラストAFの細かい行ったり来たりの動きに対応しきれないことにつながるわけですね。

中島:コントラストAFでは、車に例えるとハンドルを45度回して45度戻したら、タイヤはまっすぐにならないとダメな構成です。。

山根:ハンドルを45度回して45度戻したのに、タイヤは15度しか戻ってなかったら事故につながりますよね。位相差AFのレンズだと、その15度を戻すためにさらにまた時間がかかってしまうのです。

DMC-GH2ではどこをどう工夫したのか?

――いよいよDMC-GH2ですが、DMC-GH2のAF高速化のポイントはどこでしょう。

山根:ポイントは3つあります。ひとつはセンサーのフレームレート(読み出し速度)を上げたことです。120fpsという高速なセンサー読み出しでAFを行なっています。つまり1秒間に120枚の画像を読み出し、それをコントラストAFに利用していると。そこが高速化の第一のポイントです。DMC-GH2以前の機種は60fpsでした。

 2つめは、その速度、フレームレート(サンプリング)に合わせて、LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.のレンズ駆動を高速化しました。先ほども申し上げましたが、LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.のフォーカスレンズの駆動アクチュエータは「リニアアクチュエーター」という、ダイレクトに動く駆動装置なのです。ただ、これは非常に高速に動くのですが、ボディから最高速度はここまでと決められたら、それ以上の動きはしません。ところが今回フレームレートを上げて、より高速なAF制御ができるようになったので、「もっと速く動いていいよ」とリミッターを解除し、ボディとレンズとの協調によってレンズはさらに高速に動くことができるようになったのです。

ピント位置に合わせたアルゴリズムで精度を維持しつつ速度をアップさせた

――これまでは?

山根:出し惜しみしていました(笑)。コントラストAFを行なう際、レンズがサーッと速く動いてしまうと、コントラスト検出のポイントがまばらになってしまうのです。コントラストのいちばんの山のところ(ピントの合ったレンズ位置)の精度を上げるためには、一定の密度のあるサンプリングをしてやらないといけない。ボディが高速化し、サンプリングの密度がアップしたら、たとえば60fpsが120fpsになったらポイントが埋まりますよね。そうなるとレンズはもっと速く動いていい。同じ精度を要求するのであれば、要は2倍速く動いていいということになります。

――LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.は、センサーのフレームレート高速化を見越したスペックで作っていたのですか?

山根:交換レンズはボディーに比較して長く使っていただく場合が多いですので、将来的なボディー側の進化を見越して、一定以上余裕を持たせた設計にしてあります。

――たしかに交換レンズは長く使うものですからね。ほかにも高速化のポイントはありますか。

山根:できるだけ速くAF制御ができるように、徹底的にソフトウェア処理のなかのムダな時間を排除しました。これは非常に泥臭い作業でしたので、お伝えすることは難しいのですが。

――それはレンズのほうですか、ボディと両方ですか。

山根:両方です。

――世界最速という「0.1秒AF」を謳っていますが、これはどのような性能なのでしょうか。

山根:0.1秒AFを実現する条件ですが、DMC-GH2にLUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.を装着して、焦点距離が広角側の18-30mmあたりで、被写体がカメラから2mの距離にあった場合、無限遠からそこにAFを合わせるのに要する時間」というものになります。

LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S. フォーカスレンズを軽量化する試み
フォーカスレンズ駆動方式の変更を実施 各レンズに応じて駆動方式を使い分けている

――DMC-GH1は同じ条件で0.2秒くらいだった?

山根:DMC-GH1は0.2秒弱はかかっていたと思います。

――DMC-GH1以降のDMC-GF1やDMC-G2も同じでしょうか。

中島:そうですね。でもDMC-GF1よりDMC-G2の方が若干速くなっています。

AF速度はVARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.が突出

――LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.以外のレンズを装着しても高速化は図られているのでしょうか。

山根:はい。超高速のリニアモーターはLUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.のみの搭載ですが、それ以外のモーターを使用したレンズでもフォーカスレンズをダイレクトに動かしているレンズがほとんどですので、高速化の効果は出ています。

中島:LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.以外のレンズに関しては、従来の2〜3割は速くなっていますでしょうか。

――LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.の速さが突出してるのですね。

山根:0.1秒ほどの速さになるとレンズの駆動速度の効果がかなり顕著にでてきていますね。

AF合焦時間の比較

――もともとポテンシャルとして、高速AFを実現する余裕の性能を持たせていたということですね。

中島:はい、そのとおりです。LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.はパナソニックLUMIX Gシリーズを代表するレンズだと考えています。

――LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.のファームウェアアップデート(12月7日公開。Ver.1.4)が実施されましたが、なにがどのように改善されたのでしょうか。アップデートしないと0.1秒AFは実現しないと聞きました。

山根:それは先ほど申し上げた、これだけの速度で動いていいよというリミッターを緩めたところです。

中島:もっと速く動けと。

――ファームウェア上でリミッターがかかっていたんですね。

山根:レンズはもっと速く動きたかったところを、少し緩めてやったわけです。120fpsというDMC-GH2のサンプリング速度でうまく動けるように最適化するカタチで。

中島:LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.のファームウェアは山根のグループで開発を行ないました。当初われわれがDMC-GH2の製品化を進めるなかで、LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.との組み合わせでAFが0.12秒まで実現できました。さらに0.1秒を切るにはLUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.レンズのファームウェアを修正するしかないと考え、山根に「すでに発売されているレンズだけど、このレンズのファームウェアを修正してほしい」と依頼したのです。当時、山根のグループは、この秋に発売された「LUMIX G 14mm F2.5 ASPH.」や「LUMIX G VARIO 100-300mm F4-5.6 MEGA O.I.S.」レンズの開発をすごい勢いで進めていたのですが「もう1本、LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.のファームウェアも修正して」というお願いして、やってもらった経緯があります。

山根:そのあたりは言えないような泥臭い部分もたくさんあったのですが、ボディとレンズを組み合わせて0.1秒AFを実現させるというのが非常に明確かつ意欲が出るターゲットだったので「よし、やってやろう」と。

中島:商品化の後半に差し掛かるくらいの時でしたかね。

山根:あのころ、LUMIX G 14mm F2.5 ASPH.とLUMIX G VARIO 100-300mm F4-5.6 MEGA O.I.S.、この2本の開発が進んでいて、もう最後の追い込みのときに中島から「もう一本やって」と。

――やりがいがありますよね。

山根:いま思えば、本当にやってよかったと思いますね。

――「0.1秒AF」というのは、キャッチコピーとしてはものすごく強いですね。

中島:そうなんです。「0.12秒AF」とかだとちょっとインパクトが弱いですよね。ガクッときてしまう。

山根:0.12秒だったら「あと0.02秒なんとか速くして、とにかく0.1秒を切って!」って中島に言われるに決まってますから。

センサーの120fps読み出しも高速AFには必須の技術

――センサーの120fps駆動というのは、どのくらいの粗さで読み出しを行うのでしょうか。

山根:数字自体はお伝えできないのですが……。

――AFに必要十分な、ということですよね。

山根:もちろん必要十分だからこそ、120fpsをセンサーの仕様に盛り込んだわけです。

――従来の60fpsと信号の精度は同レベルなのでしょうか。

山根:信号の量は、基本に考えるのはAFの精度として得られるかどうかというのを基準にしながら、フレームレートを速くするという仕様を入れました。当然フレームレートが速くなるとそれだけ露光する時間が短くなります。短くなるということは、暗い条件になると信号量が少なくなってS/N比の影響が出やすくなります。S/N比が悪くなるということは、コントラストの山が乱れやすくなり、それだけAF精度の悪化につながります。

 そのギリギリのところを検討しながらセンサーの仕様に入れました。ですので闇雲に速くすることはできず、センサー読み出しの速さとS/N比のバランスが取れたところにもっていかなくてはならなかったのです。

――従来の60fpsと単純に信号が多い少ないを論じても仕方がなく、そのつどAFに必要十分な信号量というところで決めていくということですね。

山根:そうですね、そこを見ながらやらないとAFの精度と応答性(速度)は両立できないことになります。

――なるほど、センサーを設計する最初の段階から、このセンサーは120fps駆動でAFをやるんだというのがあるわけですね。

山根:目標値としては持っていましたね。

中島:いまでもやってみれば、もっと高速なAFは可能でしょう。ただ、AF精度が犠牲になる可能性があります。それでは意味がない。

――コントラストAFの進化は、一面、ノイズとの戦いでもあるわけですね。

中島:撮影シーンでは、画面内に遠近あわせてコントラストの山がいくつも出てきます。どこに合わせるのがいちばんいいのか、どの山をチョイスするのかというのもアルゴリズムの話で、コントラストの低いところ(小さい山)に対しても、合わせるための仕組み作りやノイズとの区別、そのあたりも難しいところですね。

――ノイズをノイズと見破るのが難しい?

中島:ノイズにピントを合わせてしまうと本当の被写体はボケてしまう。そうならないように、いかに低照度かつ低コントラストでもAFを合わせられるかに腐心しています。

山根:被写体のコントラストや照度の違いによって、山の形状はなめらかでなくギザギザになったり、高さもまったく変わってしまうのです。そのどれが被写体のコントラストとして確からしいかを見分けるのが難しいわけです。

中島:低コントラストの場合、いかに低い山でもピントを合わせに行こうとすると、ノイズとの戦いになるんですね。信号とノイズのレベルに大きな差があれば間違わないのですが、山がうんと低くなってくるとノイズをピント位置と誤認しやすくなるのです。

――120fpsというのはざっと0.01秒以下、0.1秒AFでは約10画面を読むことになりますが、無限遠から2mまでAFを駆動する際、その10画面からの情報はどのように活かされるのでしょうか。

山根:コントラスト検出の山を描くポイントが、無限遠のレンズ位置からピントの合う2mの位置まで点々と10コあるということです。

――その10コの点でAFが合わせられるということですか?

山根:はい、できます。

――もっと少なくてもできるんですか。

山根:そうすると、先ほどの精度の話になります。点が10コあれば山だとわかりますね。でもその点の数が減っていくと、山の正しいカタチが描きづらくなってしまうのです。

中島:いまこのシステムでは10回やればピントの山が見つかります、ということです。

――やはり10回と決まっているんですか。

中島:120fpsで0.1秒AFですからね。

山根:その10回というのは、ほかのレンズでも同じなんですか。

中島:LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.は0.1秒という速度が出ているのですが、ほかのレンズはそこまでは速くないので、ボディ側は待たされている状態なのです。ボディ側は余力を持ちながら、レンズがもっと速く動いてくれないかなぁ、とちょっと居眠りしているような(笑)。

山根:ほかのレンズだと、コントラストの山に到達するまでの時間が、もうちょっとかかりますね。トロトロしてるヤツ(レンズ)に、「やれ! やれ!」といってもそんなに速くはできないので……(笑)。

中島:だからボディはイライラしているんです(笑)。

――LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.だけ逆転現象があるわけですね。

中島:はい。

――LUMIX G VARIO 100-300mm F4-5.6 MEGA O.I.S.は速くないのですか。

中島:それなりに高速ですが、0.1秒でできるかというと、そこまでは速くない……。

――ということは、LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.だけ、よほど特別なんですか。

中島:はい、特別仕様です。

動体予測は最初のモデルから搭載していた

――動きモノに対するAF追従スピードは向上しているのでしょうか。

山根:センサー読み出し、コントラスト検出の速度が速くなっていますから、そのぶんだけ精度は上がります。

――連写時のLVF(ライブビューファインダー)や液晶モニターの表示についてはいかがでしょうか。

中島:DMC-G1では連写時はLVF表示が止まっていました。DMC-GH2では、連写にH/M/Lの3種類があるのですが、中間の速さのM(ミドル連写)まではLVFや液晶モニターが追従するように実現できています。H(ハイ連写)の5コマ/秒では、まだ追随するにはちょっと苦しいです。ただそこは、デバイスの改良などをしていけば改善できるレベルだと思っています。

――デバイスの改良とはLVFや液晶モニターなどひとつひとつのパーツの性能向上ですか?

中島:そうです。LVFの表示レスポンスがボトルネックになっているので、そこを速くしていけば改良できると思います。

――動体予測AFというのは、まだこれからなのでしょうか?

中島:いえ、搭載していますよ。

山根:徐々に進化させています。

――最初のDMC-G1から載っているのですか?

中島:はい、載ってます。

――あまり高らかには謳われていないですね。

中島:まだ残念ながら「位相差AFを超えた」と高らかに手を上げられないレベルです。現時点では、動体予測AFについてはAFセンサーを別に持っている位相差AFのほうがまだ早い。

山根:修行中です(笑)。

――けっこういい勝負ですよね。

中島:AF-C(コンティニュアスAF)にしていただければ動体予測が効きますので、電車くらいでしたら撮れます。

――コントラストAFにおける動体予測AFは、これからも改良の余地はあるのでしょうか。

山根:もちろん、改良していきます。

中島:位相差AFをなくしてコントラストAFにいく際に、ひとつの弱みは速度と考えましたが、速度はDMC-G1で同等になり、DMC-GH2で0.1秒AFになりましたので高らかに謳いました。もうひとつ動体予測に対して、まだ「ほぼイコール」までしかこれていないレベルかなと。だから高らかに言えない部分があるのですが、いずれ超える、と研究はずっとしています。具体的にどうやるんだ、というのは位相差AFを超えた段階でお話しさせていただこうと思います。

――そこはやはりコントラストAFの弱点ですか?

中島:原理的に、コントラストAF自体の弱点といえば弱点です。でもそれは技術とアイディアで克服できると考えています。

山根:位相差AFだと「行け、行け」でOKですが、コントラストAFだと必ず山を越えてどこに山があるかを見ないといけないので、それだけ回り道をする確率が高くなるわけです。それを位相差AF並み、位相差AF以上にするには、さらに速く動かすという方法もあるでしょうし、いろんな情報を持ってきて「行け!」という目標値を素早く設定できれば、より速く追従できるということにもなりますね。

モーターの種類も影響

――望遠域やマクロ域ではコントラストAFの高速化はなかなか難しいと聞きましたが、それはなぜなのでしょうか。

山根:どうしてもレンズの移動する距離が増えてしまうためです。

中島:でも他社の位相差AFよりは速いと思いますよ。

――LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.よりも、LUMIX G 14mm F2.5 ASPH.やLUMIX G 20mm F1.7 ASPH.パンケーキのほうがAFの高速化はたやすいような気もするのですが……。

中島:レンズの焦点距離や明るさ、性格づけによって、内蔵モーターの種類などを総合的に検討した結果になります。

――モーターの種類によってもAFの速度は変わるのですね。

山根:はい、かなり変わります。LUMIX G VARIO HD 14-140mm F4-5.8 ASPH. MEGA O.I.S.に内蔵のリニアモーターは非常に高速ですが、一般的なステッピングモーターだと、そこまでの高速化は難しい方向になります。

動画のAFは速ければいいというものではない

――動画のAFについても高速化されているのでしょうか。

山根:動画中のAFは必ずしも速度優先で考えてはいるわけではありません。AF動作中はすべて記録をされてしまいますから、「品位」や「滑らかさ」も重要なポイントとなります。センサー読み出しの高速化によってパフォーマンスが向上した分で、素早くコントラスト検出を行ない、それを安定したAF駆動に利用するところにアルゴリズムの考え方の基本があると考えています。

――スピードとしては十分であると。

中島:体感的にはDMC-GH1よりDMC-GH2のほうが速く体感できると思います。

――でも動画のAFは闇雲に速くすればよいというわけではない。静止画とはそこが違う、ということですよね?

中島:そうですね。かつて試作検討中にそれを経験しました。実は、DMC-GH1を開発している頃、とにかく速いのがいいんだと、動画のAFもめちゃめちゃ速くしたら再生画面を見ていられなかったのです。0.2秒でAFを動かしたら、ビューンって(笑)、目が回りました。そこで、動画には動画なりのAFがあることを学んだわけです。

――AFのためのセンサー読み出しは、これからも240fps、480fps、960fpsと高速化していくのでしょうか?

山根:先ほど申し上げたように、フレームレートは感度とのトレードオフで、フレームレートを上げれば上げるほどS/N比が悪くなりますので、低照度時のAF精度をどうやって維持できるかが今後フレームレートを上げていく際の課題になると思います。

――ではセンサーとしてのポテンシャル、高感度性能を上げていく方法はどうでしょうか。

山根:そうですね、センサーは進化するというのが方向としてありますから。というより進化させなければいけないのが開発の役目ですね。

――今後もセンサー読み出しのフレームレートは上がり、AF速度もどんどん向上していくと考えて良いですか。

中島:はい、現状の0.1秒にはまだ満足していません。

――では将来的にはシャッターを半押しした瞬間にAFが合ってる、というところまで行くのでしょうか?

中島:ぜひそうしたいですね。

――コントラストAFが位相差AFを完全に凌駕する日は来るのでしょうか。

山根:すでに一部では凌駕していると思うんですね。精度と速さは超えましたよね。

中島:総合的な速度でみても、ほかのシステムは当社の倍は時間がかかっていると思います。われわれの測定した範囲の結果からいうと、0.2秒よりも高速な位相差AFはまだ存在していないのです。そこに対してわれわれは0.1秒でAF合焦を実現しているので、ここは確実に超えています。

――それはごく一部の特殊な例ということではなくて、ひとつの象徴的な点での比較であると。

中島:はい、それは自信を持っていえます。


(小倉雄一)

2010/12/24 13:50