インタビュー

衝撃!ニコン社員が踊る100周年ムービーを君は見たか?

俺たちのニコンがなぜ? 何があったのか聞いてきました

100周年記念サイトで公開されたムービー、Oz [Nikon Version]。ニコン社員がMrs. GREEN APPLEのメンバーと共演する!

今年の7月25日に創立100周年を迎えたニコンは、それに伴うさまざまなイベントを用意しており、その一部はすでに動き出している。「創立100周年記念サイト」は、そうした一連の記念事業を紹介していくための情報プラットフォームとなっているので、ご覧になった方も多いだろう。

その中でひときわ異彩を放っているのが、「Nikon 100th anniversary × Mrs. GREEN APPLE」と題されたコンテンツ。その内容は、ニコンの社員がMrs. GREEN APPLEのメンバーとともに不思議な世界で一緒に踊るというオリジナルのダンスムービーだ。その名もOz [Nikon Version]という。

実際に視聴してみると、確かにたくさんの人たちが元気に踊っている。ぐあっ! 明るい! 若い! 本当にこれ、あのニコンなの?

100周年とどんな関係が? 踊っている人たちは本当にニコンの社員なの? そもそもなにゆえダンス? といろいろな疑問が湧き出てきてしまう。

Mrs. GREEN APPLEとは、2015年にメジャーデビューした若手バンド。中高生を中心とした若者に人気が高く、今年始めに2ndアルバムを出してから、テレビドラマの主題歌に取り上げられるなど人気に拍車がかかっている。Mrs. GREEN APPLEの起用は一見すると、若年層向け一辺倒のマーケティング施策に映り、われわれニコンファンが住む世界との大きな隔たりを感じる(決めつけ)。

Mrs. GREEN APPLE

とにもかくにも謎が深まるばかりなので、ニコンに直接聞いてみることにした。インタビューにお答えいただいた4名がこちら。

左から、

豊田陽介さん(株式会社ニコン 経営戦略本部 広報部長)
原荘子さん(株式会社ニコン ヘルスケア事業部 マーケティング統括部 マーケティング部 第一営業課)
小島明日美さん(株式会社ニコン 産業機器事業部 事業企画部 商品企画課)
安部宏さん(株式会社ニコン 経営戦略本部 広報部 広報課)

になります。

"100周年"は全社をあげてのスペシャルイベント

――このムービーが制作された経緯を教えてください。

豊田:当社が創立100周年を迎えるにあたって、まず2015年9月に「創立100周年記念委員会」が発足しました。委員長は牛田一雄(株式会社ニコン 代表取締役 兼 社長執行役員)、副委員長は岡本恭幸(同 取締役兼常務執行役員)です。

――そうそうたるメンバーですね。

豊田:創立100周年記念委員会の下にPR/イベント分科会という組織があり、我々は本業の傍らそこに属しています。PR/イベント分科会とは、その名のとおり、創立100周年に関わるあらゆるイベント・コンテンツ・記念製品の制作、およびPR活動を担当しています。

PR/イベント分科会のリーダーが創立100周年記念委員会の副委員長である常務の岡本であり、
サブリーダーを私が務めております。安部と小島、原は実働部隊として活動してお
りまして、安部には実質的に現場を仕切る監督の役割を担ってもらっています。

――PR/イベント分科会は、Webコンテンツの制作のほかにどのような活動をしていますか?

豊田:ニコンがスポンサーシップをしている世界水泳、協賛している全英オープンゴルフなど、世界のイベントに記念ロゴを掲出して創立100周年をアピールしていますが、その創立100周年記念ロゴを制作・提供しているのも私たちです。

安部:グローバルに100周年記念のPRやイベント活動をサポートしています。例えば、世界中の販売子会社で使用できる100周年のキービジュアルを制作し展開することで、積極的な100周年PRの要請なども行っています。

――なるほど、われわれが展示会や雑誌などで目にする「Nikon 100th anniversary」のロゴやイメージ画像は、PR/イベント分科会の皆さんが手掛けているのですね。

安部:そうです。この記念ロゴは我々分科会と弊社デザイン部が一緒に制作しました。また、創立100周年記念サイトでも公開しておりますが(創立100周年記念サイトメニューの「スペシャルムービー」)、そのうちのひとつが今回お話しさせていただくOz [Nikon Version]なのです。

重要なのは「社員が参加するコンテンツ」

――そもそも、どのようにしてダンスムービーの企画が決まったのでしょうか?

豊田:せっかくの100周年なので何か効果的なコンテンツが作れないかと、本社だけではなく海外を含むニコングループ各社からもアイデアを募りました。その結果、324件のアイデアが寄せられ、それをPR/イベント分科会の中で検討し、創立100周年記念委員会に報告しながら、何度も議論を繰り返したうえで決定しました。

――決定プロセスは普通の仕事と変わりないですね。

安部:それはもちろん(笑)。通常業務でプロジェクトを決めていく過程と何ら変わりなく、目的、納期、予算、実現性などを慎重に検討しています。

――ニコン社員が躍るオリジナルダンスムービーというのは、どちらの部署から提案されたのですか?

原:小島の部署(産業機器事業部 事業企画部 商品企画課)が提案した企画です。

小島:私が所属する部署の若手の中から、社員が参加して踊るというアイデアが出て、それを皆で相談して形にしたものです。

――決まったときは皆さん喜ばれたのではないでしょうか?

小島:私自身はとても驚きました。何年もニコンに勤めていますけど、真面目というか硬派なのが今までのニコンのイメージでしたので、こうした斬新なアイデアが決まるというのがポジティブな意味でとても驚きでした。若手メンバーも素直に喜んでくれました。

豊田:小島は測定機や工業用顕微鏡など産業機器を扱う事業、原は生物顕微鏡などバイオサイエンス製品を扱う事業と、2人とも普段は比較的硬いイメージの部門に勤務しています。

安部:社内でアイデアを募った時点で「社員が参加するコンテンツであることが最も重要」という認識が分科会の中でも強くなり、そこから小島と原が中心となって若手社員の声が集まり、この企画がまとまっていったのです。

――企業の社員によるダンスコンテンツといえば、他の業界でも数年前によく見かけました。カメラ業界では見られませんでしたが、ここに来てニコンが新しい形で実現してくれたのは画期的だと思います。

安部:ありがとうございます。そこはPR/イベント分科会リーダーの岡本からも「やるんだったらニコンらしくしっかりやろう」と理解してもえたことが大きかったです。他社さんのダンス動画なども研究して、ニコンらしいクオリティを目指しました。

――Mrs. GREEN APPLEさんとコラボした経緯は、どのようなものだったのでしょうか?

豊田:社員が踊るためには楽曲が必要なのですが、その曲にしてもオリジナルを作るのか、それともミュージシャンにお願いするのか、初めから決まっていたわけではありません。結果的にミュージシャンにお願いすることに決まりましたが、タレント選びにしても初めからMrs. GREEN APPLEさんに決まっていたのではありません。

――では、実際にはどのようにしてMrs. GREEN APPLEさんに決まったのでしょう?

安部:その辺は小島の力が大いに発揮されましたね。

小島:ミュージシャンを起用するなら、ビジュアル先行ではなく、歌って踊れる実力のあるバンドにしたいと考えていました。実は私、プライベートでもバンドが大好きなんです。

――するとMrs. GREEN APPLEさんは小島さんの推薦だった?

小島:企画に合いそうなバンドをできる限りリストアップした上で、私たちと広告代理店が一緒に検討を重ねました。候補の中から、若者に人気があり、かつニコンの企業イメージに合うクリーンで爽やかなイメージのバンドが選ばれました。それがMrs. GREEN APPLEさんだったのです。

原:ただ、Mrs. GREEN APPLEさんは中高生には人気ですが、中高年にはあまり知られていませんでした。ダンスムービーはあくまで創立100周年事業の一環ですので、役員の承認を得るために私たちも彼らについて何度も社内プレゼンをしています。

――(自分のことは棚に上げて)それは大変そう……

豊田:正直なところ、私や安部も彼らを知らなかったのですが、実際にライブに行くと、演奏が上手いことはもちろん、会場を盛り上げ楽しんでもらおうとする熱心な姿勢に感心しました。若者のバンドと言われて抱くイメージとは全然違う真剣な想いは、むしろニコンの社風に通じるのではないかと思うようになったのです。Mrs. GREEN APPLEさんに決める際も、ダンスムービーの企画が決まったときと同じく、常務の岡本からは「やるからにはしっかりやるように」と激が飛びました。

――数ある楽曲から「Oz」が選ばれた理由は?

小島:こちら側の趣旨を説明したところ、それならということで、彼らの方から提案がありました。Ozという既存の曲を今回の企画に合わせてアレンジしたのがOz [Nikon Version]です。

――ダンスムービーを観ると「出演:ニコン社員選抜チーム」とありますが、ダンスのメンバーはどのように決めたのでしょうか。

小島:本社と製作所に勤務する国内のニコン社員から募集しました。オーディションはしていませんし定員も設けませんでした。ただ、ダンス経験のある方には難しいパートを選んで出演してもらっています。

――希望者は全員なのですね。何名の方が参加されたのですか?

小島:全部で90人です。もっと多くの社員が希望してくれましたが、事業所が遠方だったり通常業務の都合があったりで、撮影日に来られなかった方もいて結果的に90人になりました。

――若い方の参加が多いようですね。

原:若手が中心ではありますが、年齢層は幅広く下は22歳から上は64歳の方もいます。

小島:勤続年数の長い方の中には「100周年という節目にお世話になった会社に恩返しをしたい」と理由で参加表明してくれた方も多くいました。

――練習や撮影は大変だったのではないでしょうか?

安部:始まる前は私もそう思っていましたが、蓋を開けてみたら合同練習も本番撮影もとてもスムーズに進みました。皆さんこちらが事前に配布した資料を参考にして、しっかり個人練習してきてくれたのです。

小島:資料を配ってから1カ月程度で本番撮影でしたけど、つまらないミスや撮り直しもほとんどなく、予定した時間ちょうどで終わることができました。

――強制ではなく志望しているから、皆さんの笑顔が楽しそうなのですね。それにしてもさすがは優秀なニコンの社員さん、やるときはやりますね。

安部:ある意味ボランティア的なところもありますが、大切なのは100周年記念事業でこういうことをするという呼びかけに応えてくれた社員の意気込みだったと思います。それぞれの業務を兼ねながらも、目標に向かって皆で努力することができました。

飛行船が向かう先は「ニコン城」

――オリジナルのOzとニコンバージョンのOzの間には、何か関連性があるのですか?

原:オリジナルのOzとニコンバージョンのOz は、使われたCGの素材や、
ダンスの振り付けが共通で、一貫したストーリーで制作しています。

――世界観を共有しているということですか?

小島:世界観を共有というよりは同じ世界といったほうが正しいと思います。両方のPVを観てもらうと分かると思いますが、オリジナルバージョンでは飛行船がお城に向かうところで終わり、ニコンバージョンでは飛行船がお城に向かうところから始まります。つまりニコンバージョンはオリジナルバージョンの続きで、向かっていたお城というのは実は"ニコン城"だったという仕掛けです。

飛行船が向かったのは……
ニコン城(というか工場)だった!

――"ニコン城"ですか?

小島:はい。でもニコン城とは言っても、入ってみると中は未来をイメージしたニコンの工場です。工場にはニコンの社員がたくさんいて、Mrs. GREEN APPLEさんと一緒に楽しく元気に踊っています。

――ニコンバージョンでは小島さんと原さんがダンスしているパートもありますね。お2人とも黒のスーツ姿で眼鏡をかけているところ。

小島さん、原さんの登場シーン。
頼み込んでキメポーズを再現してもらった。

原:ここもダンス経験者ということで選抜されています(笑)

小島:ここは秘書が擬人化されたカメラの間を抜けて未来工場のコントロールルームでさっそうと踊るという設定でして……。ここも制作会社と広告代理店と一緒に検討した後、ちゃんと創立100周年記念委員会への報告をして承認を受けています。

――トップページでMrs. GREEN APPLEのメンバーがとっているNikonの「Nポーズ」をダンスムービーの中で探すのも面白いですね。最後に皆でビシッ!とポーズ決めるのも爽快。

小島:「Nポーズ」はオリジナルバージョン中でもMrs. GREEN APPLEの方たちがやってくれているのでぜひ探してみてください!

これが「Nポーズ」。みなさん無理をいってすみません(汗)

――帰ったら一生懸命探してみます(笑)でも参加された社員さんは本当に努力されたのですね。ダンス終了後のシーンでも皆さんが心から喜んでいるのが伝わってきます。

安部:ありがとうございます。本格的な大きなスタジオでの撮影だったので、最初は固くぎこちなかったのですが、カットを繰り返すうちに「もっと声出していこう!」といった雰囲気になり、最後には本当に盛り上がりました。動画内にはそんな歓喜の生声をそのまま入れています。

――あれは生の声なのですか!?

原:はい、臨場感があるのであえて使おうということになりました。

小島:最後のグリーンバックのシーンは長いあいだ歓声が止まなかったんですよ。

小島:Mrs. GREEN APPLEさんの考え方や活動方針も今回の企画にマッチしていて、例えばライブ会場での撮影はOK、「撮った写真はSNSなんかで拡散してね」という方向性なので「写真や映像を楽しむ」という私たちの趣旨ともよく合います。

安部:ネットの使い方に慣れた世代がもともとのファンですので、オリジナルバージョンを観るとスムーズにニコンバージョンも観てくれて、ニコンバージョンを観た後にはまたオリジナルバージョンを観るということを繰り返す流れができました。

豊田:「Nポーズ」も折に触れてステージ上でやってくれるなどとても協力的、というよりは楽しんでくれています。Mrs. GREEN APPLEのメンバーもステージ上で写真を撮っていて、嬉しいことに使っているカメラは当社のD810です。

――これからニコンの製品をリアルに使っていく世代にも想いが届いていそうですね。

小島:先日、日比谷でのライブに立ち会ったときは、来場していた若いお客さんもニコンのカメラで写真を撮っている人が増えているように思えました。早くも効果が出ているのかな?

安部:そうした相乗効果もあって、今回のダンスムービーは公開からわずかな間にもかかわらず、私たちの予想を上回る視聴回数になっています。私たちの期待通り、中高生を始めとした若い世代にも届いて、Twitterの「ニコンちゃん」アカウントにもいままでとは違った層が来てくれるようになっています。

"100周年"から先の明るい未来を表現したかった

――それにしても、100年の歴史をもつカメラメーカーたるニコンが、社員参加のダンスムービーを披露したというのは驚きです。

安部:100年の歴史は大切なことですが、反面、固くて保守的なイメージがあるのも確かだと思います。

豊田:今回のダンスムービーの狙いのひとつが、従来からのお客様だけでなく、ニコンをあまりよく知らない特に若い世代にニコンをアピールしたいというものがありました。楽しさの中でニコンを知ってもらいたい。よくよく知ったらニコンってすごいカメラを作っている会社じゃないか、最先端の露光装置も作っているんだ、といったような認知を徐々にでも形成していきたいと願いました。

――確かに、ニコンという会社名は誰でも知っているでしょうけど、ニコンの製品をこれから実際に購入して使っていくのは若い世代ですものね。

豊田:若手を中心に明るく元気な社員が積極的に集まって、100周年を盛り上げてくれたことが、社内の活性化にも繋がってくれることを期待しています。踊りながら見せる彼らの表情こそが、明るく元気にこれからを進んでいくというメッセージです。

――なるほど。今回のダンスムービーは創業100周年を迎えたニコンが、全社一丸となって社会に向けて抱負を伝えたということなのですね。これからもよろしくお願いいたします!

これまでの100年を振り返り、次の100年を見据えたイベント。でもやっぱり新しいカメラにも期待したい!

ニコンの創立100周年ともなると、われわれカメラファンとしては、ついついどんな凄いカメラが登場するのかだけに躍起になってしまう。が、ニコンにしてみれば、カメラ開発だけではなく、次の100年に向けた企業としての姿勢を世間に示す必要もある。

それに気づかずダンスムービーを観るなり「踊っている場合じゃない! カメラまだ?」などとわずかながらに思ってしまった自分が恥ずかしい。

この前向きなパワーで、近い将来、期待する夢のカメラづくりを実現して欲しい(やっぱりここになる)。

※編集部注:この取材の後日、プロ・ハイアマチュア向けの一眼レフカメラ「D850」が開発中であると発表されました。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。