写真展

池本喜巳写真展「近世店屋考」

(ニコンサロン)

多くの撮影は困難を極めた。店主の撮影許可がもらえないのである。「なぜこんな古い店を撮るのか、ざまが悪い」というのである。時には「帰れ!」という罵声と同時にお茶をぶっかけられたこともあったという。しかし、ひたすら頭を下げ、くらいつくしかなかった。

最初の撮影は1983年、鳥取市青谷町にある散髪屋からだった。その後、靴屋、苗屋、粉屋、たどん屋など、約60業種100軒の店を撮り、30年以上経った。細部までの記録を求め、8×10から4×5、そして体力の衰えと共にデジタルへと変化をよぎなくされたが、現在もなお店を探しては撮り続けている。

作者がなぜ、ここまでして個人商店にこだわるのか…。それは、かたくなに自己の生き方に固執する個人商店には、主人独特のにおいがしみ込み、奇怪な魅力があるからだ。さらに興味を覚えるのは、六本木ヒルズに代表される高層ビルの建ち並ぶ大都会を、スマホ片手に会話を楽しむ若者と同じ時代に、これらの商店が存在し、同じ時間を共有していることの不思議さである。

経済至上主義の日本では、人々は目新しい最先端の方向にしか目を向けない。しかし山陰に住む作者は、不器用に生きてきたこれらの商店と主人に強く惹かれるのだ。残念ながら、個人商店は急激に姿を消している。

(写真展情報より)

会場・スケジュールなど

  • ・会場:銀座ニコンサロン
  • ・住所:東京都中央区銀座7-10-1STRATA GINZA(ストラータ ギンザ)1・2階
  • ・会期:2015年5月20日木曜日~2015年6月2日水曜日
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

  • ・会場:大阪ニコンサロン(追記)
  • ・住所:大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
  • ・会期:2015年8月20日木曜日~2015年8月26日水曜日
  • ・時間:10時30分~18時30分(最終日は15時まで)
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

作者プロフィール

1944年鳥取市生まれ。67年日本写真専門学校卒業。70年鳥取市にて池本喜巳写真事務所設立。77~96年植田正治氏の助手を務める。82~98年日本写真家協会会員。

主な写真展(個展)に、84年「そでふれあうも」(銀座ニコンサロン)、86年「近世店屋考1985~1986」(ポラロイドギャラリー/東京)、87年同展(ピクチャーフォトスペース/大阪、アムステルダム・ロッテルダム/オランダ、ローマ・ミラノ/イタリア)、93年「ジェームスの島」(銀座ニコンサロン)、2000年「近世店屋考」(JCIIフォトサロン/東京)、01年「写された植田正治〈天にある窓〉」(植田正治写真美術館/鳥取、JCIIフォトサロン/東京)、13年「素顔の植田正治」(ブルームギャラリー/大阪)などがあり、グループ展に00年「21世紀に残したい自然」(東京都写真美術館)、04年企画展「現代の表現 鳥取VOL.2 平久弥・池本喜巳 Painting & Photography -Presence-」(鳥取県立博物館)などがある。

主な写真集に、『そでふれあうも』(93年 G.I.P. Tokyo)、『大雲院 祈りの造形』(96年 大雲院)、『池本喜巳作品集 鳥取百景』(99年 鳥取銀行)、『池本喜巳写真集 三徳山三仏寺』(02年 新日本海新聞社)、『近世店屋考』(06年)、『そでふれあうも 2』(14年 以上合同印刷㈱)、『因伯の肖像』(14年 今井印刷㈱)などがある。

その他の活動に、2005年愛知万博の瀬戸会場「愛知県館」にて海上の森を撮影した作品を上映、13年NHK日曜美術館「写真する幸せ植田正治」にゲスト出演がある。

なお、「写された植田正治〈天にある窓〉」での展示作品は、日本カメラ財団(JCII)に収蔵されている。

(本誌:河野知佳)