トピック

誰でも開催できる“仮想空間の写真展”――富士フイルムのメタバースに感じた可能性とは?

筆者が体験した実際の展示からギャラリートークまで

HoPの「パノラマギャラリー」で開催した筆者の写真展「Me (the music between us) A photographic record of an actual life」の様子

富士フイルムが運営しているメタバース「House of Photography in Metaverse」(以下、HoP)では、写真展、トークイベント、撮影会などが開催されているほか、機材選びや修理の相談、写真プリントなどの各種サービスの申し込みなどをアバターで行うことができる。

そして、これまでHoP内で行われる写真展は企画展や公募展が主だったが、2025年10月から一般へのギャラリー貸し出しサービスが開始された。筆者も10月24日~11月7日まで、このサービスを使いHoP内の「パノラマギャラリー」にて写真展を開催した。

今回は、写真展応募から開催の流れ、実際に体験してみての感想をまとめてみた。

◇第1回・第2回の記事はこちら◇

レンタルギャラリーはサービス開始記念価格 22,000円/2週間!

HoPには、現実世界のギャラリーのような落ち着いた雰囲気の会場「クラシックギャラリー」、メタバースならではの開放的な空間「パノラマギャラリー」の2種類がある。

どちらのギャラリーもレンタル料金は同一となっており、22,000円/2週間(サービス開始記念価格)。前回の記事で取り上げたが、HoPには月額550円(税込)のVIP会員制度があり、VIP会員の場合は50%OFFの11,000円/2週間(サービス開始記念価格)となる。

執筆時に開催されていたクラシックギャラリーでの写真展「New Products Exhibition -2025 autumn-」。オーソドックスな雰囲気があるギャラリーだ
クラシックギャラリーは作品点数を絞り込みたい人にも向いている
パノラマギャラリーは青空のもとにある会場。まさにバーチャル空間という雰囲気がユニーク

データの提出だけでオーケー。気軽に写真展を開催できる

リアルの写真展の場合、プリント、額装、マットなどにそれぞれ代金が発生する。スペース料と合わせると個展の場合はかなりの予算が必要となるが、HoPのギャラリーの場合はデータを送付するのみで完結する。

データサイズは長辺が1,920ピクセル以上あれば問題なし。そして展示期間中はギャラリートークなどのイベントも自在に開催できる。オンライン会議システムなどと異なりメタバース空間のため、日時だけ告知をしておけば、そこにアクセスした人が自由に出入りでき、発言や交流も可能な極めてリアルイベントに近い感覚で実施できる。

レンタルに関する詳細な情報はギャラリーの応募ページで確認できる。そして、このページ内の「エントリー」からレンタル申請をすることが可能だ。

通常のギャラリーと同じく展示内容についての審査があり、エントリー時にも10枚の作品提出が義務付けられている。エントリーをする際には、事前に2つのギャラリーを見学して、展示内容や作品の準備をしておくのがオススメだ。

ギャラリーの応募ページで応募要項を確認できる。応募時点から3~6カ月後の開催となる。写真だけでなくアート作品の展示も可能だ
エントリーページでは希望するギャラリーや開催時期などに加えて、写真展タイトルや企画内容なども入力する。応募時点で構想が練られていることが必須だ
エントリーページ下部には作品アップロードフォームがある。また、展示期間中のスタッフサポートなどが必要かなども選べる。こちらは開催30日前までに追加で申し込むこともできる

【実録】レンタルギャラリーでの写真展開催

ここからは筆者がパノラマギャラリーでの写真展を開催するまでの流れや感想などをまとめていく。

エントリー後、オンライン会議システムを使い、ギャラリー担当者などとのミーティングがあった。その際、作品の提出期限、告知で使用する画像の送付、プロフィール・告知文の制作などのスケジュール感を話し、以降はメールでのやり取りという形へ。

最優先だった告知用画像と文章、プロフィールを送ると、数日で告知ページのサンプルが送られてきた。今回は5枚ほどを事前に送ったが、そこからのセレクトなどはギャラリー担当者任せで進んだ。筆者のWebサイトへのリンクなども貼られており、とてもしっかりと作ってくださったという印象を持った。

筆者の写真展「Me (the music between us) A photographic record of an actual life」の告知ページ

ギャラリートークの開催

HoPでの写真展ではギャラリートークを行うのが定番となっている。筆者も会期中に、今回は特別にHoP館長の上野隆さんとのギャラリートークを開催することに。

トーク内容については事前に上野さんとオンライン会議とメールにてやり取りしたものの、内容について決めすぎてしまうとライブ感がなくなってしまうため大枠しか取り決めはしなかった。開催日は土日でも可能だが、今回は連休明けとなる11月4日の19時からとした。

ここまで決まってしまえば、当日の19時に会場へと向かうだけ。ギャラリートークがここまで気楽に行えるのはメタバースならではだと感じた。

“写真展の空間”の完成チェック

担当者から、パノラマギャラリーに作品が陳列され、チェックできる状態になったというメールをいただいた。

写真の展示順について細かく指定することもできるが、筆者は多めに写真データを渡し、ざっくりとした並びは決めたものの入れ替えや削除はオーケーという方向でお願いをした。

特にそれぞれの写真に解説は付けていなかったものの、撮影地ごとにほぼまとまっていたり、内容的に連続性があるように並べられていたり、とても満足のいくものとなっていた。おそらく、壁を何面使うかなどは点数と内容によって変わってくるはず。細かくコントロールしたい場合は、ギャラリーの特徴を把握して要望を伝えられるようにしておきたい。

ただ、ギャラリー担当者の視点を通して構成するのもおもしろく感じたし、リアルの会場と異なり導線というものが曖昧なため、あまり自分で決めすぎなくてもよいのではと思ったのも率直な感想だ。

メタバースであっても、写真展の大きな看板が掲げられるのはとても気分が高揚する
青空の下に並ぶ自身の作品。40〜50点ほどをじっくり見ていくと意外と時間がかかりボリューミー
作品を左クリックすることで拡大表示ができる。スマホよりもPCで楽しみたいサービスだ

HoPでの写真展を実体験して感じたこと

やはり身体を動かして設営するのとは違い、気が付いたときには「あ、公開されていた」という感じだった。

日ごろからSNSなどで自身の作品を発信している人にとって、HoPでの写真展開催は確実にプラスアルファになるはず。撮り溜めている写真があるのなら、それをただ寝かせるのではなく、HoPでテーマを絞り発表してみてはいかがだろう。フォロワー以外の人に見てもらうチャンスにもなるし、写真を組んでいくという点でのスキルアップにも繋がるはずだ。

手焼きプリントやラボプリントをすることなく、データ提出だけで完結するのは、写真展開催という意味でかなりハードルも低くなる。リアルの個展に挑戦する前の腕ならし的に使うのもいいかもしれない。

ギャラリートークを開催して

SNSでギャラリートークの開催を告知した

リアルのギャラリーを巡るかのように、会場内をみんなでぞろぞろと移動しながら解説をする。この操作感は良好で、思う存分作品について語ることができた。

おもしろい話題だと思ってもらえたりすると、参加者のアバターは拍手など意思表示をして応えてくれる。匿名なのでそんなやり取りも恥ずかしくないのも良い点。1度メタバースを体験すると、想像するよりもカジュアルに楽しめることに気付くはずだ。

ギャラリートーク中の画面。参加者からの質問なども受け付けながら進行することができる
みんなでぞろぞろと移動しながら写真を鑑賞。リアルのギャラリーのようでおもしろい

写真展をメタバースで開催すること

遠方であっても展示を疑似体験できる。設営費がかからない。イベントなども開催可能で双方向の交流も可能。といったように利点の多いHoP。

メタバースというオープンスペースで、移動も参加も自由という点を考えると、やれることは多いはずとも感じた。未知の分野だからこその伸び代などを考えて、ギャラリーのレンタルを検討してみてはどうだろう。

例えばSNSで大きな影響力を持つ人が、交流の場として展示とギャラリートークを定期開催してみたり、リアルの写真教室とリンクするイベントを企画してみたりなど、さまざまな使い方が模索できるはず。

HoPに可能性を感じた方は、ぜひ写真展などを企画してみていただきたい。

鈴木文彦

フィルム写真専門誌『snap!』を創刊したのち、『フィルムカメラの教科書』『中判カメラの教科書』『チェキit!』『オールドレンズの新しい教科書』『FUJIFILM画質完全読本』など、趣味の写真にまつわるムックや書籍を企画/編集/執筆/撮影。現在、『レンズの時間』『FILM CAMERA LIFE』を定期的に刊行中。