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富士フイルムのメタバースで感じる“写真・カメラ愛”/リニューアルしたショールーム「愛おしさを哲学する写真機店」をレポート
新ブランドタグライン誕生の背景とは?
- 提供:
- 富士フイルムイメージングシステムズ株式会社
2025年10月31日 07:00
富士フイルムが運営しているメタバース「House of Photography in Metaverse」(以下、HoP)では、写真展の鑑賞、イベントへの参加、機材選びや修理の相談、写真プリントなどのサービスの申し込みなどをアバターで行うことができる。
◇第1回の記事はこちら◇
HoP内の主要コンテンツのひとつである「X/GFXショールーム」では、アバターのコンシェルジュスタッフに機材購入や修理の相談ができるが、このたび2025年3月に代官山で開催され話題を呼んだポップアップストア「愛おしさを哲学する写真機店」の世界観を踏襲してリニューアルされた。
その狙いや新たに追加された取り組みなどを紹介するとともに、実際にコンシェルジュに相談をしてみての所感などをレポートしていく。
ブランドタグライン「愛おしさという哲学。」誕生の背景
2025年2月に富士フイルムが新たに発表したブランドタグライン「愛おしさという哲学。」は、X/GFXシリーズの従来のブランド打ち出しとは異なり、写真を撮る喜びやカメラを持つことの意味などに軸足を置いた展開だ。かつてナチュラクラシカが登場したときのように、「印象」や「気持ち」を大切にしており、その背景にはデジタルカメラ市場を取り巻く変化があったのではと推測できる。
富士フイルムイメージングシステムズの三上寿和さんに話を聞いた。
「現在のデジタルカメラ市場は、機能競争だけでは差別化が難しくなってきています。そんな中、富士フイルムの強みはフィルムを感じさせる色の良さなどをはじめとした『情緒』に訴える部分が大きく、ユーザーの気持ちに寄り添う共感こそが大切であり、感情をベースにしたファン作りを目指すべきだということに辿り着きました。
その中で生まれたのが『愛おしさという哲学。』だったんです。発案から1年以上におよぶ長い議論を経て、フィルムの素晴らしさを言語化したものが『愛おしさという哲学。』というキーワードで、この言葉をブランド共通言語として社内外に発信していく動きがはじまりました。
本年3月に開催したリアルポップアップイベントは非常に好評(来場者約1万6,000人)だったことを受け、運営から1年半が経過していたHoPの更なる再活性化を目指し、ショールームをリアルポップアップ『愛おしさを哲学する写真機店』の空間デザインと世界観で再現しようということになりました」
リニューアルされたHoP内の「ショールーム」は、リアルポップアップ「愛おしさを哲学する写真機店」が忠実に再現されている。壁は「愛おしさ」を感じさせる温かみのある写真で埋め尽くされており圧巻。ざっと見渡すだけで「写真って良いものだな」と思わせるが、写真に混ざり「愛おしさ」の正体を探る言葉も掲げられている点も印象に残った。
「リニューアルしたHoPのショールームでは、一部を除いてほぼ完全に代官山の会場を再現しています。コンセプトは『自分にとっての愛おしさを考える空間』というもので、写真とともに言葉をちりばめているのも、訪れた方が自分にとっての『愛おしさ』を感じるきっかけとなることを目指しているからです。カメラを持っていない人にも共感していただける、人としての感情を大切にした構成だと思います」(三上さん)
ショールームの中央には最新のX/GFXシリーズが並び、奥のスペースにはフィルムシミュレーションの解説、富士フイルムの色作りの原点、X/GFXシリーズの設計思想などが解説されている。感情的な部分から入り、ハードへと繋げていくという導線が垣間見える。
特に目を引くのはフィルムシミュレーションに関する展開。フィルムシミュレーションは、フィルムを作り続けてきた富士フイルムだからこその色や階調を、フィルムを選ぶかのように切り替えて使うことができる。
フィルムシミュレーションによるJPEG画質を味わいたいがためにX/GFXシリーズを手にする人も多い。リニューアルされたショールームでは、フィルムシミュレーションのそれぞれの色の解説や作例展示に大きなスペースが取られており、色の特徴などを知ることができる。
ビジュアルと解説、そしてカメラが違和感なく溶け込み、写真が趣味な人はもちろん、カメラの初心者にとってもわかりやすい空間になっていると感じた。
そして何より、HoPに滞在する時間が圧倒的に長くなるのではないだろうか。新たなショールームは、写真やカメラについて学び、考えることができる「空間」としての魅力が俄然増している。
「手前の空間で、写真と言葉とカメラを見ていただき、奥の空間ではカメラ哲学の体験をしていただく。その後また手前の空間に来てカメラを見ていただく、という流れが新しいショールームにはあります。最初と最後で見え方や感じ方が変わるような設計になっているんです」(三上さん)
体験レポート:コンシェルジュへの機材相談
ショールームの主要コンテンツであるコンシェルジュへの機材相談・修理相談はリニューアル後ももちろん継続されている。写真業界に身を置いていると、メーカーの対応がとても親切だったから使い続けている、というような声をよく耳にする。カメラは高価な買い物。メーカーの方に教えていただけるという安心感はとても重要なのだ。
そんな体験を気軽に得られるのがコンシェルジュという機能。ショールーム内のコンシェルジュカウンターには10時~19時(年末年始除く。サービス受付は終了30分前まで)、アバターのコンシェルジュが常駐しており、音声機能を使い話しかければ、予約などは不要で機材相談をすることができる。
いくら匿名とはいえ、なかなかメタバース内で音声通話で話しかけるというのも勇気がいる行為かもしれない。そこで、筆者が実際に購入相談をしてみた結果をレポートする。
ショールームに入ると「CONCIERGE & REPAIR」と書かれたカウンターがある。ここにコンシェルジュのアバターがいれば話しかけることができる。操作ウィンドウの「マイク」を有効にし、コンシェルジュに近づいて話しかけてみよう。リアルと同じく、「こんにちは」などと言えば返答してくれるはずだ。
音声機能は現実世界と同じく「距離感」という概念があり、近づけば音声が聞こえ、遠ければ音声は聞こえない。つまり他にアバターがいても会話を聞かれることは滅多にないし、逆に近づけば会話を共有できるため知人を誘って相談に行くこともできる。
オンライン会議などと似た感覚で話せばOKで、最初はメタバース内で音声通話で話しかけるというのも勇気がいる行為だと感じていたが、会話がスタートすればその不安はすぐに解消された。
筆者は日常的に撮る写真が好きで、これまでXシリーズはオフィシャルカタログの編集を手がけてきたこともありほぼ全機種それなりに使った経験がある。それでいて個人的に最も愛用してきたのは、X-T2とXF35mmF1.4 Rという「往年の」と呼びたくなる組み合わせ。
そこで、いま瞬間的にスナップやスナップポートレートを撮るのなら、どのようなレンズがオススメかを相談してみた。
「XF35mmF1.4 RはXシリーズの象徴のようなレンズだと捉えています。写りに独特の空気感があり、完全に代わりとなるレンズは正直存在しないかもしれませんが、操作性、AFスピード、描写の安定性という点では、XF33mmF1.4 R LM WRがオススメです。開放からシャープで逆光にも強く、開放F1.4の味を残しながら、より信頼性が高いレンズです」(コンシェルジュ)
たしかにXF35mmF1.4 Rの描写は独特で、デジタルでありながら味わいを感じさせてくれるレンズ。ただ、やはり全群繰り出しによるAFの速度と駆動音はトレードオフで、希に瞬間を逃すことがあったかもしれない。
「鈴木さんがサッと人物を撮るのが好きということであれば、画角を変えるというのはすごく良い選択肢かもしれません。XF23mmF2 R WRは小型軽量でAFも速く、人物スナップに最適です。絞り開放でもシャープで、切り取りすぎない画角も魅力です。そして、レンズが小さく相手に威圧感を与えないので、自然な表情を引き出せるはずです。X-E5などフラットなデザインのカメラと組み合わせると、とても鈴木さんのスタイルに合う気がしますね」(コンシェルジュ)
たしかに、XF35mmF1.4 Rは35mm判換算53mm相当で少し画角が狭いと感じることもしばしば。このアドバイスを聞き、俄然35mm相当の23mmレンズに興味が沸いてきた。気になったカメラ・レンズは、HoP上では製品画像を見ることができるのみ。実際の使い心地などを知りたい場合は、リアルのショールームや販売店に行く必要がある。
ちなみに、今回対応してくださったコンシェルジュは、富士フイルムフォトサロン大阪の大島健貴さん。HoPで相談を受け、後日リアルのショールームで相談の続きを受けるということも頻繁にあるという。HoPから現実のショールームでの再会という流れは、オフ会に参加したかのような、ちょっとしたわくわく感も得られそうだ。
リファービッシュ品のHoP限定販売スタート
ショールームのリニューアルに際して新たにスタートしたのがリファービッシュ品の販売だ。いわゆるメーカー認定中古商品の販売。陳列などに使われていた未使用に近いカメラやレンズをチェック・メンテナンスして販売している。
ここで扱うのは、富士フイルムモールなどでは取り扱いがないHoP限定商品とのこと。メンテナンスは富士フイルムテクノサービスが担当し、修理対応期間内(製造終了後7年)の機種であれば旧型のものも取り扱われる。気になる価格帯は中古市場と同等で、認定中古商品だから割高という設定にはしていないという。通常販売製品と同じく、1年間のメーカー保証も付帯する。
注文方法はユニークだ。在庫商品はなんとコンシェルジュに話しかけて口頭で聞くというシステム。中古カメラ店に行き、掘り出し物がないかを聞くという行為にあえて似せたアナログなシステムを採り入れている。そして、気になる商品があればオンライン接客ツール「LiveCall」へと移行し、中古商品の状態確認を映像などで行うことができ、気に入ればそのままオンライン決算で購入するという仕組みだ。
記事執筆時に1度コンシェルジュにリファービッシュ品の在庫を聞いてみた。そのときはX-T200の美品を在庫。傷はほぼなし。いま、極上のX-T200を入手できる機会はそうそうない。そして、個人的にはX/GFXシリーズは、製造終了品にも多くの名機があると思っている。
歴代のXシリーズカメラはもちろん、プレミアムコンパクトデジタルカメラなども含めて、長く使い続けたいという気持ちになる富士フイルム製品は多い。家電的なデジタルカメラとは異なる立ち位置を示す意味でも、オフィシャルでのリファービッシュ品販売はとても価値のあるものではないだろうか。
コンシェルジュの役割の変化と、メタバースでの交流の楽しみ
ショールームが「愛おしさという哲学。」のコンセプトに基づく空間にリニューアルされたことで、HoPはメタバースであることの意味、メタバースの可能性を進化させるものになるはずだ。
だからこそ、コンシェルジュの役割も今後は変化をしていくと考えられる。「愛おしさ」を感じさせる写真を目にしたら、やはり写真について感想を語り合いたくなるし、カメラ・レンズ選びも、もっと観念的になっていくはずだ。
つまり、HoPの中で相対するコンシェルジュはアバターではあるが、その裏では生身のスタッフが対応しているわけで、それぞれに個性というものが出てくると思うし、コンシェルジュ自身の感性を会話やアドバイスに反映させる空間になるはずだ。ゆくゆくは、推しのコンシェルジュに会いに行く、という流れすらできそうではないか。
「『愛おしさという哲学。』は十人十色であり、コンシェルジュ自身の個性や感性を反映させることも大切だと思っています。会話や相談の内容も、製品以外の写真や人生観の話まで広がっていってもよいのかもしれないですね。各コンシェルジュが自分らしい接客をすること自体が「愛おしさ」の表現ではないでしょうか。コンシェルジュ目当てにHoPに来ていただく、というようなことが起こってもいいなと思っています」(三上さん)
今回お話を聞いたコンシェルジュの大島さんは、ご自身もX-S10とXF16-80mmF4 R OIS WRを愛用し、鉄道や旅行の写真を撮影しているそうだ。そして、大島さんは「何十年後に見返しても、感動できる写真」を「愛おしさ」だと個人的には捉えてて、そんな写真を残そうと休日は出かけているという。そんな話をHoPでできれば、きっと楽しいはずだ。
「BAR」などユーザー同士が交流できる場がHoPには設けられているが、まだまだ日本ではメタバースで楽しむという文化は根付いていない。HoPの数々の取り組みを見て、少なからずメタバースの進化に影響を与えるものになればいいなと感じた。
週末、写真展やカメラ店を周遊するという楽しみ方をしている写真好きは多いと思う。その中のひとつに、「愛おしさという哲学。」というコンセプトで進化したHoPも入れてみてはどうだろう。


















