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重視するのは“とにかく信頼性”…スポーツ写真家・奥井隆史氏に訊く「なぜAngelbirdのメモリーカードを使うのか」

ほぼすべての写真家はカメラやレンズにこだわりをもっているが、メモリーカードとなるとどうだろう? 特定のブランドにこだわりをもつ写真家は少ない気がする。

そこで、少量生産でハイクオリティーな製品を提供するAngelbirdのメモリーカードにこだわるスポーツ写真家・奥井隆史さんに、「なぜAngelbirdなのか?」を訊いてみた。

あわせて、ネット検索では知り得ないスポーツ写真の世界や現場の裏話なども紹介。

これを機に、Angelbirdとスポーツ写真に興味をもっていただければと思う。

奥井隆史

1968年東京都生まれ。1992年日本写真芸術専門学校卒業後、スポーツフォトエージェンシー「フォート・キシモト」に在籍。1996年よりフリーランス。陸上競技を中心にアウトドアスポーツやスポーツフィッシングを含め様々なスポーツを撮影。AJPS(日本スポーツプレス協会)、AIPS(国際スポーツプレス協会)会員。「think TANK photo」のAmbassadorフォトグラファー。Angelbird Creative(Ambassador)。

Instagram:
https://www.instagram.com/takashi.okui/

撮影:奥井隆史
EOS R3/EF400mm F2.8L IS III USM/マニュアル露出(1/2,000秒、F2.8)/ISO 4000
撮影:奥井隆史
EOS R3/EF400mm F2.8L IS III USM/マニュアル露出(1/2,500秒、F2.8)/ISO 640
撮影:奥井隆史
EOS R3/EF70-200mm F2.8L IS III USM/135mm/マニュアル露出(1/2,500秒、F2.8)/ISO 3200

トッププロが語るスポーツ撮影の裏話は面白い

キヤノン「EOS R3」に「EF400mm F2.8L IS III USM」を装着し、テーブルにドンと乗せる。

4kgに迫る重量級のシステムだが、撮影のときはさらに2台のカメラを首や肩に掛け、計3台のシステムで現場を回るのが奥井さんのスタイルだ。

がっしりとした体格によく通る声。

その印象は写真家というよりも運動部の顧問、もしくは格闘技のコーチといったほうがしっくりする。

とはいうものの、厳つさは感じず。終止にこやかな笑みを浮かべ受け答えしてくれるギャップがユニークで、おのずと言葉に耳を傾けてしまう。

奥井隆史さんは、日本を代表するスポーツ写真家だ。

光陰を巧みに操り、スポーツというダイナミックなシーンを繊細に、そしてフォトジェニックに写し取っている。奥井さんの作品を目にすると、スポーツもアートになるのだと実感することだろう。

撮影に使用するレンズは、単焦点の400mm F2.8を中心に、撮影するシーンやイメージに応じて70-200mm、24-105mm、16-35mmなど、さまざまな焦点域を使い分ける。

奥井:400mmの単焦点はほぼ付けていますね。一脚が使えない現場では、軽量な「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」で撮ることもあります。あと、スポーツ撮影は自由に場所が決められないことが多いので、イメージする画角を作り出すズームレンズと、自由に移動して撮れる単焦点レンズで、400mmの焦点距離を重複して用意したりもします。

大まかなレンズの使い分けとしては、作品を撮るときは400mmの単焦点、しっかりと選手を捉えた記録的な撮影をするときは100-500mmのようなズームレンズ、となるようだ。

お話を伺い、気になったのは撮影する場所について。

風景でも鉄道でもスナップでも、よい場所から撮ろうとすると早い者勝ちだったり、順番待ちをしたりするのだが、スポーツ撮影の現場にはどのようなルールがあるのだろうか?

奥井:たとえば世界陸上のような大きな大会の場合、いちばんよいポジションは大手の通信社しか入れない。でも、それ以外は早いもの順なんですよ。場所取りもしちゃダメ。動いたらほかの写真家に入られても仕方がないというルールで、先にいるひとが優先されます。

日本の大会だと場所を確保して撮影できる場合もあるとのことだが、世界陸上やオリンピックのような大規模な大会となると、撮影する場所選びも難しいらしい。

単にどの競技(選手)を撮るのかを決めるだけでは上手く行かないし、それ以外の競技さえ撮り逃しかねないという。

奥井:たとえば5時間後の競技を撮りたい場合、5時間前から待っているひとがいますし、競技が始まる直前になるとズラっと並んでいて入れない。だから、何時間も前から様子を見に来て、2時間くらい前には現場に入って待つしかない。

桐生:そうすると、待っている2時間はほかの競技が撮れないのでは?

奥井:そうですね。だから、どっちを撮るかという(悩ましさがある)。撮りたい現場の様子を見ながら、もう行ったほうがいいかな、まだ大丈夫かな、と状況判断をして。あとは、ほかの競技で強い選手が出るとみんなそっちに行ったりするので、その隙にこっちに入っておこうとか。いろいろ考えながら撮らなくてはなりませんね。

広い競技場における撮影ポイントの決め方についてもお聞きしてみた。

スタートやゴールのような定番の位置だけでなく、奥井さんならではの「見極め方」のようなものがあるのだろうか?

奥井:競技の時間と光が入る状況を考えて撮影します。屋根があっても、すき間が開いているスタジアムもあるんですよ。そうすると、そこから太陽の光が入ってくるじゃないですか。その光が射す時間を、太陽の方向や角度が分かるスマホのアプリで確認します。そして、そのときどの競技をやっているのかを調べて撮影に臨んだり。作品性の強いものはそんな風に撮ってます。

これは、本格的なスポーツ写真だけでなく、お子さんの運動会や屋内外のイベントを撮影するときにも役立つアイデアだと思う。

もし上手く場所取りができなかったら、太陽の光を読んで自分ならではの写真を狙ってみるのもよいのではないだろうか。

撮影:奥井隆史
EOS R3/RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM/363mm/マニュアル露出(1/2,000秒、F5.6)/ISO 640

「撮り漏らさない」ためのAngelbird

フィルム時代からスポーツを撮影している奥井さん曰く、昔と今では撮り方が変わったという。

フィルム時代は「瞬間」を捉えるために技術を磨いていたが、現在はというと「押しちゃうじゃないですか」と照れ笑い。

奥井:秒間30コマの連写なんていらないと最初は思いましたけど、今までは撮れなかった“間のコマ”が撮れたりしますから。たとえば100m走のスタートを撮るとき、手と足がパッと伸びていちばん格好のよい瞬間があるんですけど、秒間30コマならそれが撮れちゃう。昔は息を止めて瞬間を撮ってましたけど……。撮り方が変わりました。

「ここ」で「こういう画」が撮りたいと思ったときに、高速な連写でほしいシーンを撮り漏らさないようにしているという。

連写する時間は1秒程度。撮りたい瞬間を狙ってシャッターを切るため、カメラのバッファが一杯になるような連写をすることはない。

また、狙った瞬間だけ撮影するのではなく、「保険」として撮るシーンも大切なのだそう。

奥井:たとえば100m走のゴールシーンを撮る場合、ゴール直前で選手同士が被るときがあるので、(狙う選手が)見えているときに撮っておこうみたいな。見えているときに1秒連写して、ゴールシーンで1秒連写して、という感じです。100m走って9秒から10秒弱くらいなんですけど、その間ずっと連写するということはないですね。

無茶な連写をしたいため、「スペックを活かせていないと思う」といいながら所有するメモリーカードを見せてくれた。

堅牢そうなケースに収められたメモリーカードは、Angelbirdの「AV PRO CFexpress MK2」と「AV PRO CFexpress SE」、そして「AV PRO SD MK2 V90」の3種類。

AV PRO CFexpress MK2
Angelbird AV PROシリーズ比較
AV PRO CFexpress MK2AV PRO CFexpress SEAV PRO SD MK2 V90
容量1TB / 2TB / 4TB512 GB / 1TB64GB / 128GB / 256GB / 512GB
最大書込速度1,550MB/秒1,550MB/秒(1TB)
850MB/秒(512GB)
280MB/秒
持続書込速度1,300MB/秒1,300MB/秒(1TB)
800MB/秒(512GB)
260MB/秒
最大読出速度1,785MB/秒1,785MB/秒300MB/秒
持続読出速度280MB/秒
特徴 高ビットレートでの動画記録に適した持続速度と容量 持続速度と容量のバランスがよいオールラウンダー。コストパフォーマンスも高い UHSスピードClass3(U3)のハイスペックなSDXCカード

奥井:EOS R3はCFexpressとSDカードのダブルスロットなので、それぞれにAV PRO CFexpress MK2とAV PRO SD MK2 V90を入れてます。CFexpressにはC-RAW(サイズの小さなRAW形式)、SDにはJPEG形式と振り分けて保存していて、主に使うのはRAWですね。作品性の強い写真を撮ろうとすると、逆光で撮ったりとかが多くなるので、RAWで撮ってLightroomで仕上げという流れで作業してます。

桐生:連写というとJPEG形式で撮るイメージでした。RAW+JPEGで連写する場合、速度は低下しないのですか?

奥井:ないですね。1秒程度の連写なので、AV PRO CFexpress SEでも速度低下を感じません。AV PRO CFexpress MK2はハイスピード、AV PRO CFexpress SEはオールラウンダーという違いがありますが、僕が使う範囲ではどちらもなんの問題もない。というか、不満がない。

Angelbirdのメモリーカードというと、「物理的に壊れても復旧してみせる」とCEOが熱く語るほど手厚いサポートも魅力の1つだ。それに関して伺ってみると……

奥井:書き込みエラーすら出たことがないので、復旧サービスは使ったことがないですね。なにかトラブルが出たときには安心だと思ってはいるんですけど、なにもない(笑)

信頼性>速度で撮影後の時間も短縮したい

これまでの話から、奥井さんはメモリーカードに対して「絶対的な速度」をそれほど重視していないようだ。

自分の撮影スタイルに合った速度があれば十分という考えで、何十秒も何千枚も連写し続ける速度はオーバースペックと考えている。

では、奥井さんが重視している、または、メモリーカードに求めている要件とはどのようなものなのか?

奥井:メモリーカードからパソコン(に接続した外付けSSD)にバックアップする速さです。僕のレベルだと、Angelbirdのメモリーカードは連写で撮影がもたつくことがありませんから。

桐生:バックアップ速度を重視するのは意外でした。スポーツ写真というと、連写枚数や速度が重要だと思っていたので。

奥井:早く作業を終わらせたいじゃないですか。大きな大会だと、競技が終わるのが夜の11時とかになることもあるんです。次の日は朝の8時や9時から始まったりするので、その前には会場にいなければならない。だから、意外と時間がないんです。

ちなみに、奥井さんが使っているカードリーダーはAngelbird製の「CFexpress Card Reader MK2」。USB-C 3.2 Gen 2×2仕様で、AV PRO CFexpress MK2と相性がいい。

ほかのカードリーダーと比較した結果、この製品が高速だったので選んだとのこと。

Angelbird純正の「CFexpress Card Reader MK2」。Angelbrid製CFexpressのファームウェアをアップデートする機能も有する

また、このカードリーダーはケーブルの接続部分を本体の奥深く差し込む形状になっているため、不意に抜けたり、接続口に無理な力がかかり断線する不安がない点も気に入っているという。

ケーブルの接続部分を本体内に収納するAngelbird独自のSolid Connect™️

慌ただしい現場で作業していても、接続不良などのトラブルは生じていないと教えてくれた。

奥井:撮った後の処理や時間は短いほどいい。連写速度が上がると撮影したデータも増え、それをバックアップする時間も増えますよね。それに、フィルム時代は(コストや撮影枚数の制限で)無駄打ちできないので撮らなかったシーンでも、今なら撮れるじゃないですか。無駄打ちの中から生まれる作品もあると思うし、そういう意味でも撮るものは増えましたから。

ちなみに、同時撮影しているJPEGデータは使うことがほとんどないらしい。保管のためのバックアップも作らないという。

それなら、カメラの入れている2枚のメモリーカードに同じRAWデータを保存すればより安心な気もするのだが……。

奥井:RAWは閲覧ソフトで読み込みに時間がかかることもあるし、同じカードにRAWとJPEGを記録すると、ソフトによってはRAWを読み込みに行くことがあるので、だから、RAWとJPEGはメディアを分ける必要があるんです。ニュース速報ですぐに写真が必要なときは、軽いJPEGだけを記録したSDカードから写真を選び、撮って出しのまま即座に納品できますから。

撮影後の写真の扱いに関しては、RAWデータはすべて外付けのSSDに「二重にバックアップ」し、さらにセレクトしてRAW現像した写真も別途バックアップしている。つまり、1つの大会で3つのバックアップを作っていることになる。
それらは最終的にHDDに保存され、作業用としている1台のHDD以外はアクセスすることはないという。

管理やRAW現像に使っているソフトはというと、Photo Mechanic(ブラウジングソフト)でザっと整理して、LightroomでRAW現像しているとのこと。
続けて、使用しているメモリーカードの容量についてお聞きすると――

奥井:容量はどんどん大きくなっていて、今は1TBを使ってます。動画を撮影したら話は別ですが、スチルならさすがに十分ですね。3台のカメラを使っていますけど、撮影するのはそれぞれ100GBくらいじゃないかな。

1TBの容量を使う理由は、撮影の途中でメモリーカードの交換をしなくて済むから。

動作が不安なメモリーカードだと小容量タイプを使い、トラブル時にデータがすべて損失しないように守る必要があるが、Angelbirdのメモリーカードは不安がないため大容量タイプが使えるとのこと。

と、ここで奥井さんが訂正を入れる。

奥井:先ほどはバックアップ速度が重要といいましたけど、よく考えたら「信頼性」ですよね。(Angelbirdの製品は)問題が起きないので忘れていましたが、信頼できることが大前提。その上で、バックアップ速度が速いことが理想です。

今も活きるフィルム時代の勘とテクニック

写真の撮り方はフィルム時代と変わっているが、当時のテクニックや経験は今でも活きているし、機材が進化したことで「プラスαの効果」が得られているという。

奥井:スピードスケートとか、すごく速いんですよ。そういうときは連写に頼って、“ここだ”っていう瞬間にジャジャジャって撮るようになりました。対照的にスキーのジャンプだと、置きピンしておいて選手を追いかけて、ピントが合ったらバシャっとシングルショットで集中して撮る。連写モードになっていると絶対に数コマ余分に撮っちゃうんですよ。そうすると、(当時は)怒られましたよね。先輩がポジ(フィルム)を見に来て、コレいらないだろうって。36枚撮りのフィルムを使っていたのですが、次のシーンをちゃんと撮ろうと30枚とかで交換してしまうと、6枚無駄にするわけじゃないですか。地味に怒られましたね……。

ちなみに、連写とシングルショットの使い分けは「競技の流れ」の中で判断しているとのこと。

したがって、どちらの撮り方がよいかは「その瞬間」がくるまで決められないらしい。

奥井:連写に頼らず、1枚でパチッと撮ったほうがいいときもあるので。流し撮りとかもそうですよね。連写をせず、1枚のモードにしてパシャっと撮ります。でも、昔と比べると撮影枚数は増えているので後が大変です。選んだりする作業とか。後は大変ですけど、撮れるものは増えました。

桐生:撮影後は具体的にどのようなことをしているのかも教えてください。

奥井:競技が終わってたらプレスルームに戻って、写真を外付けのSSDに取り込んで、セレクトして必要な写真をフォルダーに分けて、それをRAW現像してその場でクライアントさんに送る。そんな感じです。それを何分で終わらせられるかが重要!

バックアップに要する時間はクライアントに納品する時間にもかかわるため、書き込み速度以上に「メモリーカードの読み出し速度」を重視したい気持ちになるのだろう。

そして奥井さんは、メモリーカード単体の速度だけでなく、相性のよいカードリーダーを使うことでシステム全体の速度アップを図っているというわけだ。

撮影:奥井隆史
EOS R3/EF400mm F2.8L IS III USM/マニュアル露出(1/1,250秒、F2.8)/ISO 1600

作業時間を短縮するという点では、写真のセレクトに要する時間も気になってしまう。

1日当たり3,000枚くらい撮影するらしいが、それらの写真を見るだけでも膨大な手間と時間が必要な気がするのだが……。

奥井:使いそうな写真は現場で目星を付けてます。「これは使える」みたいな写真にタグ打ったり、レーティングしたりして。パソコンで開くとタグやレーティングが確認できるので、それらをセレクトしてフォルダーに移して、みたいな感じです。

たとえ大量に撮影しても、使う写真は1日当たり10枚程度とのこと。それを3,000枚の中から探すとなると重労働だが、撮影時に大まかにでも決めておけば、その時間が大幅に短縮できるわけだ。

システマチックに考えて撮影したり、作業したり、機材を選ぶスタイルは、ほかのジャンルの写真家と異なっていて興味深い。

メモリーカードのトラブルは出したくない

奥井さんがAngelbirdのメモリーカードを使いはじめたきっかけは、「使ってみたらよかったから」と非常にシンプル。

最初こそ速度に魅了されたようだが、使っていくうちに信頼性の高さにも惹かれたようだ。

奥井:紹介されて試してみたら、当時使っていたものと比べて速かったので、全部Angelbirdに交換しました。今までいくつかのメーカーの製品を使ってきましたけど、書き込めなくなったものもあるし、長年使っているとトラブルがゼロということはあまりないんです。メモリーカードのトラブルは怖いじゃないですか。書き込めていなかったら終わりですから。

改めて、メモリーカードで大切なのは「トラブルが出ないこと」だと力説。

そして、カメラにバックアップ用のメモリーカードを入れていても、スポーツ写真の現場ではあまり意味のないことも教えてくれた。

奥井:僕はRAWとJPEGでメモリーカードを分けてカメラに入れていますが、どちらか1枚でも壊れると、その段階で撮れなくなることもあります。1枚のカードが壊れたために一瞬のシーンを逃しちゃうんですよ。実際にそういうことがあって。

ご自身以外にも、メモリーカードのトラブルで肝心なシーンを撮り逃した写真家を結構見ているという。

万が一の際に写真を失わないためのダブルスロットだが、2枚のメモリーカードを使うということはトラブルの確率も倍になる。そして、トラブルが出ると撮影が止まってしまう。

もしそのトラブルが、世界陸上の決勝で生じたとしたら……。

メモリーカードに必要以上の信頼性を求めたくなる気持ちがひしひしと伝わってくる。

奥井:トラブっちゃうと、撮れなくなっちゃいますからね……

陰りのある表情でポツリと落とす言葉が、ことの重大さを物語る。

重苦しい雰囲気になってしまったが、気を取り直して、現場に持ち込むメモリーカードの枚数について尋ねてみた。

話題転換のつもりで軽く聞いてみたのだが、思いのほか面白い話題につながっていくので紹介しておきたい。

奥井:3台のカメラに2枚ずつ入れているほかに、予備として2枚ずつ用意しています。万が一とか、そういう場面に備えて。とはいっても、Angelbirdを使いはじめて2年になりますけど、その機会はありません。それに、1TBの容量を使っているので足りなくなるということもありませんし。

奥井さんは、Angelbirdのメモリーカードはトラブルが生じないので大容量の1TBタイプを使っていというが、新聞社のカメラマンは反対に小容量タイプをこまめに入れ替えて撮影しているらしい。

トラブルを想定しての安全策かと思いったがそうではなく――

奥井:新聞社のひとたちはどんどん写真を送らなきゃいけないので、小さな容量のカードを入れ替えながら使っているひとが多くて。32GBとか16GBとかを使って軽めのJPEGで撮ってたり。撮影現場では横にノートパソコンを置いて、撮ったらパソコンに取り込んでキャプションを付けつつ、別のメモリーカードで撮影してと。彼らは写真を撮るだけでなく、写真にキャプションを打ってから送信してるんですよね。

スポーツ写真家といっても、立場によって仕事の内容が大きく変わる点が意外に思えた。

カメラが音を上げてもメモリーカードは問題なし

奥井さん曰く、最近は動画の依頼も増えているとのこと。対照的に、写真を掲載する媒体が少なくなったため、スチルの依頼は減っているともいう。

ちなみに、奥井さんはスポーツ写真だけでなく釣り具メーカーの仕事もしていて、動画に関してはそちらのほうが「過酷な状況」なのだそう。

奥井:動画はEOS R5で撮ります。メモリーカードは高画質の動画にも対応できるAV PRO CFEXPRESS MK2を使いますが、4Kの映像を撮る分にはAV PRO CFEXPRESS SEでも十分ですね。釣り関係の動画撮影は、真夏の炎天下に4Kの120fpsとかで撮るときもあるので、熱停止に備えて2台のカメラを用意してます。

桐生:熱停止するほどの環境となると、メモリーカード内の撮影データが不安になりませんか?

奥井:カメラが持てないくらいに熱くなって、メモリーカードもガンガンに熱くなっていても、カードのデータは問題ないですね。メモリーカードよりも心配なのはカメラです。やばいくらいに熱くなるので、様子を見ながらしか撮影できない。

釣り具の撮影では、たとえばルアーが着水するシーンなどでスローモーションがほしいため、どうしても4Kの120fpsで撮りたくなるという。

しかしながら着水する位置は予想とズレやすい上、飛沫が格好よくなかったりするため撮り直しの回数も多くなる。そして、撮影を繰り返すうちにカメラが熱停止、という過酷な状況に陥ってしまうらしい。

奥井:カメラにヒートシンクを付けたり、冷えピタみたいなのを付けたりしましたけど、「ないよりはまし」くらいにしかならない。それでも、メモリーカードに関してはトラブったことがないですからね。

これは本当に余談になってしまうが、個人的に気になるのは、ずっとスチルを撮ってきた奥井さんがどのように動画の撮り方を覚えたのかという点。

スチルと動画ではカメラワークが異なるし、プロとして撮影(納品)するにはそれなりのクオリティーが必要に思えるのだが……。

奥井:動画の撮り方は勉強というか、練習しましたよ。たとえばズーミングするにしても、スチルはレンズの下に手を添えて回転しますが、動画は違う。それだと安定しないから、レンズの上を持って回転する。動画撮影中は、ズームが行き過ぎて戻ったりしたらダメじゃないですか。だからズーム中も安定する持ち方をして、ズーミングしながら被写体をセンターにもっていく練習をしたり。

桐生:そういう知識はどこで得るのでしょう?

奥井:僕は動画の先輩とかいないので、現場で知り合いになったテレビのカメラマンの動きを見たり、ちょっと教えてもらったり。あと、最近はやっぱりYoutubeですよ。みなさん親切に教えてくれるから(笑)。

ただし、ビデオカムを使う動画のカメラマンとは機材が異なるし、その世界は出来上がっているので真似ても仕方がないと奥井さんは語る。

デジタルカメラで撮るスタイルや、スチルを専門とするカメラマンならではの映像を撮るようにしているとのことだった。

取材後記

話の節々から、奥井さんはAngelbirdのメモリーカードに大きな信頼を置いていることが伝わってきた。

記事には記していないが、アクションカメラ用のmicroSDカードも含め、すべてのメモリーカードをAngelbird製にしているというのだから相当のものだと思う。

使用するカードリーダーやメモリーカードケースもまた、Angelbird製だ。

奥井さん曰く、性能のよさもあるが「デザインも洒落ている」とのこと。

メモリーカードを含め、カードリーダーもカードケースも堅牢で、ラフに扱ってもトラブルが生じない工夫がされている点も気に入っているようだ。

奥井さんも愛用するAngelbirdのメモリーカードケース「Media Tank」

そして、スポーツ写真の世界は厳しい。

プロになるためのハードルが高くて、プロになってからも「限られた枠」に入らなければ写真が撮れないなど、スポーツ選手さながらの世界なのだと実感した取材でもあった。

撮影:武石修

桐生彩希