トピック

ハイエンドCFexpress「Atlas Ultra」1TB/2TBを投入した“OWC”とは一体?

創業者ラリー・オコナー氏に聞く“ユーザー本位”の企業理念

OWC Asia簡易日本語サイトの「Atlas Ultra」CFexpress紹介ページ(OWCグローバルサイトの多言語化が完了するまで、OWC Asiaが一時的に簡易日本語サイトを提供している)

Other World Computing(以下OWC)の新製品、CFexpress Type Bカード「Atlas Ultra」の1TBモデルと2TBが6月27日に発表された。

容量・速度ともにハイスペックな「Atlas Ultra」だが、そもそもOWCの知名度自体、日本市場ではまだ高くないのが現状。またOWCを知る人にとってもMacの周辺機器メーカーのイメージが強く、メモリーカードとOWCが今一つ結び付かないのではないだろうか。

そこで今回は、OWCの創業者でありCEOのラリー・オコナー(Larry O'Connor)氏と、CROのジョン・フッド(John Hood)氏に、OWCブランドの歴史、「Atlas Ultra」の強み、今後の展開などを聞いてみた。

創業者兼CEOのラリー・オコナー氏
CROのジョン・フッド氏

創業のきっかけは……プリンターのインクリボン再生

——OWCのルーツは1988年まで遡るとうかがっています。その創業のエピソードなどお聞かせください。

ラリー・オコナー(以下ラリー) :私が14歳の時です。最初の事業はプリンターのインクリボンを再生するというものでした。「捨てるのはもったいないし、お金の無駄だなあ」という思いが切っ掛けです。

その後、アップル社のコンピューターのアップグレード関連の事業へと移行しました。自分のApple ⅡGS用にメモリーを購入・増設した際に、これは「他のユーザーも同じようなことを感じているのでは?」ないかと思ったのです。

自分でやれば10分もかからないであろう作業に対して、地元のサービス会社に持ち込んでの作業となると、作業費や往復の交通費がメモリー代より高くなりましたから。皆に「DIYで出来るよ」と伝えていかなければ、と思ったわけです。

取材はオンラインで実施した

——なるほど、ユーザーに寄り添う理念を持ってビジネスをスタートしたのですね。

ラリー: そうです。当時(2001年頃)、色々な会社からメモリーが出回るようになってきました。その中でもOWCは、Mac用を中心として「質の良い物を提供していきたい。自分達できちんとテストをして、自分達で信頼できるものだけを市場に出していきたい」という考えでいました。これは今でも変わりません。

世の中にはPCとハードウェアの組み合わせが色々ありますが、そのハードウェアとの適合だけではなく、さらに「使いたいプログラムがちゃんと動く」かが重要です。そういう細かい部分まで見るため、色々なテストをやっています。ユーザーにとって一番重要なのは「新しいものをきちんと使える」こと。そこを重視していますね。

メモリーカード市場に参入した理由

——OWCというと、個人的にはThunderbolt製品のイメージが強くあります。メモリーカードを扱っていることについて、今一つピンとこないのですが……

ラリー: 我々はもともと、メモリーカードについて技術的な素養を持っていました。というのも、OWCは2010年にフラッシュ製ストレージ市場へ参入した初期メーカーのひとつです。そのため、NANDに関する経験と専門知識がありました。データの取り込みから出力という流れの中で、それまでOWCが提供していたソリューションの中で足りなかったのがメモリーカード。それを提供しようというのは、自然な流れでした。

OWCのメモリーカード関連製品。CFexpress Type Bだけでなく、UHS-II対応のSDXCもラインアップする

ジョン・フッド(以下ジョン): 私たちは、メモリーカードというハードウェア単体を売っているとは考えていません。なぜなら当社のメモリーカードは多くのプロの方にも使われており、ピーク性能でプロの使用に適うものを提供しないと意味が無いのです。単に製品提供というだけでなく、ユーザーにとって必要なワークフローをソリューションとして提供したい。そのためにはメモリーカード事業への参入も必要だったということです。

——OWCは、CFA(CompactFlash Association)とSDA(SD Association)のメンバーに入っていますよね?

ジョン: はい。OWCのメモリー開発のSVP(Senior Vice-President)は、現在CFAのボードメンバーでもあります。彼は大手メモリーカードメーカーの出身です。

今、メモリーカードの市場は非常に混沌としていて、色々な市場から様々な製品が溢れています。そういった中で我々は「製品として信頼できるものをお客様に届けなければならない」という思いがあります。メモリーカード市場での歴史という点ではOWCは歴史が浅く見えるかもしれませんが、そのためのバックグラウンドの整備は整っていると断言できます。

容量アップだけではない「Atlas Ultra」1TB/2TB

——いよいよ「Atlas Ultra」1TB/2TBのについてお聞きします。ベンチマークをとったのですが、平均書き込み速度の印象などは予想を超えた好印象でした。従来のラインナップよりも高速化した理由をお聞かせ願えますか?

ラリー: 細かいことは秘密なのですが……実際にカメラを使っての膨大なテストも含めて、とにかく大変な労力をつぎ込みました。カメラの性能も向上し、8K動画の制作も普通になりつつある。そしてそれらへの対応として大容量のカードが必要になってくる。それに伴い要求されるスピード性能も上がる……ということで、1TB/2TBモデルは開発プロセス自体を見直しています。そのため、単に大容量化しただけに止まらないものとなっています。

——「Atlas Pro」「Atlas Ultra」について、カメラとの動作確認チャートが公開されています。その中で各製品ごとに“Recommended”(推奨)と“Compatible”(動作確認済)が記載されていますが、両者の違いを教えていただけますか? カメラによっては下位シリーズの「Atlas Pro」が“推奨”で、上位シリーズの「Atlas Ultra」が“動作確認済”になっていたりしますが……

CFexpress製品の動作確認チャート

ラリー: 我々は実際にカメラで数多くのテストをしています。その結果がこの動作確認チャートになります。“推奨”と“動作確認済”の違いですが、どんな状況でもカメラの最大スペック設定で動作するものが“推奨”、最大スペック設定では動作が不安定な可能性があるものの、基本的な使用に問題ないものを“動作確認済”としています。

それに加えて“推奨”には、「ユーザーにとってベネフィットが高い物」という考え方も含まれます。例えば「Atlas Pro」でカメラの最大スペック設定で十分に動作するのであれば、あえて高価な「Atlas Ultra」を求めなくても良いとの判断から、下位シリーズの「Atlas Pro」に“推奨”をつけているケースもあります。

ジョン: ただし、より高性能なカメラを使う予定があったり、今後進歩していくカメラに対しても対応できるメモリーカードをお求めなら、迷わず上位の「Atlas Ultra」を買ってください。それで完璧です(笑)

純正カードリーダーもラインアップ

——OWCはメーカー純正でCFexpress Type B用のカードリーダーもリリースしています。今回「Atlas Ultra」1TB/2TBと同時に、CFexpress×SDのダブルスロット仕様を採用した「Atlas Dual CFexpress Type B/SD カードリーダー」(以下Atlas Dual)が発表されました。ただし接続はThunderboldではなくUSB 3.2 Gen2です。Thunderboltを見送った理由は何でしょう?

Atlas Dual CFexpress Type B/SD カードリーダー

ラリー: 多くのPCやタブレットがまだThunderboltに対応しきれていないということもあり、利便性も考慮してUSB 3.2 Gen2接続を採用しました。「Atlas Dual」はCFexpressとSDのダブルスロット仕様のリーダーですが、SDに限ればUSB 3.2 Gen2で速度は十分と考えています。

CFexpressでより高度なワークフローということであれば、CFexpressシングルスロットでThunderbolt接続の「Atlas FXR」がお勧めです。とはいえ、現状では価格とパフォーマンスのバランスを考慮すると、「Atlas Dual」もユーザーのベネフィットに十分応えるものと判断しています。

Atlas FXR

——将来的にUSB 3.2 Gen2×2(20Gbps)採用のカードリーダーを発売される予定はありますか?

ジョン: USB 3.2 Gen2×2は比較検討の選択肢から離れるかもしれません。なぜなら、20Gbpsモードを利用できるPCやMacがほとんど無いからです。将来に向けてはUSB 3.1/3.2互換のUSB4ソリューションを検討しており、USB4対応ホストでのフルスピード読み込み機能も提供する予定です。

ユーザーによるファームウェアアップデートにも対応

——ところで、OWCのメモリーカードとリーダーの組み合わせでは、OWC提供のカード管理ソフト「Innergize」が使えます。これが無料なのはユーザーとしてはありがたい限りですが、あえて無料にしたのはなぜでしょう。

ラリー: 私たちは単にハードウェアを売るのではなく、ワークフローそのものや、その体験を提供したいのです。メモリーカード、カードリーダー、ソフトウェアをあわせて使うことで、それを実現させるという考えです。

InnergizeでAtlas Ultra 1TBをチェック

Innergizeダウンロードページ

https://www.owc.com/solutions/innergize

Innergizeの主な機能:その① ヘルスチェック

——「Innergize」の機能を細かく見ていきましょう。「ヘルスチェック」「デバイスのサニタイズ」、そしてメモリーカードの「ファームウェアのアップデート機能」の3つが「Innergize」の主な機能ですね。

ラリー: 「ヘルスチェック」は、フラッシュメモリーを管理するコントローラが使用するメモリ領域と、ユーザー領域のエリアの寿命をチェックし、メモリーカードの健康状態を報告するものです。メモリーカードの健全性が50%以上の場合には緑、25~49%までは黄色、25%未満は赤の表示となり、カード買い替えの判断をユーザーへ伝えます。もっとも、メモリーカードの本来の寿命が尽きるまでには何年もかかるでしょうが。

Innergizeの主な機能:その② サニタイズ

——「デバイスのサニタイズ」とはどんな機能でしょうか。

ラリー: 想定よりも早くユーザーがメモリーカードを使わなくなるのを防ぎ、メモリーカードを無駄なくどこまでも快適に使えるようにする。そこに「Innergize」の存在意義があります。

メモリーカードは、実は使っていくうちにデータのゴミが溜まり、それが疲弊につながります。なにもケアせず使い続けると、遅くなったり全く使えない事態をも引き起こします。それが原因で新しいメモリーカードに買い替える方が日常的に発生しているのですが、それは使えなくなったのではなく「疲弊しているだけ」の可能性があります。

そこで「Innergize」のサニタイズ機能を使うことでその疲弊を取り除き、初期の状態の性能を取り戻せます。活用することで、ユーザーにメモリーカードをなるべく長く使ってもらえるのではと考えています。

Innergizeの機能:その③ ファームウェアのアップデート機能

——次は「ファームウェアのアップデート機能」です。メモリーカードのファームウェアを更新できる機能ですね。あまり例を見ないのですが、ユーザーにとって大きなメリットを感じます。

ラリー: そうです。将来新しいカメラが出たとき、メモリーカードが対応できなくなるかもしれません。使えたとしてもパフォーマンスを引き出せないこともあるでしょう。そうした場合、これまではユーザー側で対処するすべはなく、カメラに合わせて新しいメモリーカードに買い替えるしかありませんでした。しかし、メモリーカード自身のファームウェアを書き換えられるとなると、新しいカメラに対応させられる可能性が出てきます。より良いパフォーマンスで長く使っていただけるわけです。

日本市場での展開は

——今回の発表が、OWCのメモリーカードにおける日本市場への本格参入になると捉えています。日本の市場をどのように考えておられますか?

ジョン :とても重要だと考えています。今、OWCでは全世界で製品を販売している地域を増やしているところすが、その全体を大きくすることとは別に、日本は地政学的な意味でも個別のマーケットとして力を入れています。

日本はテクノロジーおよびテクノロジーリーダーとして常に重要な市場です。OWCはメモリーカードにおいて世界的なブランド構築を目指しているので、日本のテクノロジーに敏感なユーザーに受け入れられることは、製品を開発していくことも含めて重要だと考えています。また、そのような日本のユーザーへ、製品単体ではなく、その使用体験も含めたソリューションという形でサービスを提供していくことが重要であるとも考えています。

——OWCの製品についてWebで調べたり購入を検討しようと検索すると、代理店が運営する複数のサイトがヒットします。OWCの公式サイトの日本語対応が進んでいないこともあり、利用者は混乱するのではないでしょうか。

ジョン: その問題点は認識しており、年内の改善を目指して調整中です。OWC本社が主導するAmazon.co.jpのストアを強調していく活動を始めたところです。今後は代理店様の協力も得ながら、OWC直営ストアが前面に出てくるような形にし、エンドユーザーが混乱する状況を改善していきたいです。

OWCオフィシャルサイトに関しては、中長期的にはマルチランゲージ対応を進めていきますが、その前段階としてスタンドアローンなものとしてスタートする予定です。

一部日本語化が進むOWC ASIAサイト

OWCならではの強みとは

——メモリーカードで著名なブランドとしては「SanDisk」「Lexar」などがあり、最近は「ProGrade Digital」などもプロやハイアマチュア層に認知されています。それに対し後発となるOWCの強みは何でしょうか。

ラリー: それら先行するプレイヤ-とは違う価値観で、ユーザーとの関係を築きたいと考えています。製品単体での提供を私たちは意図していません。世の中で必要とされるデータ容量が多くなったので、大容量のカードを提供する。これで完結するあり方でも良いでしょう。

しかし我々はそれだけではなく、「大容量のカードの提供によって何が起こるのか」「ユーザーは次にどのような問題に突き当たるのか」という全体像を把握し、その全体像を「エコシステムソリューション」として提供しており、それこそが我々の強みだと考えています。

当初のMac用のメモリーから始めた積み重ねの結果でもあり、そのエコシステムとしてのソリューションを提供していくことでユーザーへ受け入れられてきました。

ジョン: テクノロジーを主軸として製品を開発し、マーケットへ投入する……ということに我々はフォーカスしていません。あくまでもユーザーとの会話があり、ユーザーのニーズを見て、そこへテクノロジーを乗せることで製品となる。技術先行型ではなく「ユーザーが本当に必要としているもの、ユーザーの困難を解決するもの」が我々の目指しているところです。

——なるほど、ユーザー本位の姿勢こそがOWCの理念であることが、さまざまな面から理解できました。CFexpressの盛り上がりとともに、日本市場での積極的な展開をこれからも期待しています。

まつうらやすし