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CFexpress界に新たな挑戦者現る!OWCのハイエンドシリーズ「Atlas Ultra」新製品の実力を見る

純正カードリーダーでのファームウェアアップデートも

Other World Computing(以下OWC)という、国内ではあまり聞き慣れないブランドから、CFexpress Type Bカードが発売されているのをご存じだろうか。

CFepxressといえば、デジタルカメラ上位機種に採用が進む次世代メモリーカード。ここ数年で著名なブランドが国内でも覇を競う注目の製品ジャンルだが、ここに新しい選択肢になり得るブランドが登場したわけだ。

ということで、6月27日に発売されたOWCの新しいCFexpress Type Bカードとカードリーダーを試してみた。

OWCとは?

OWCは、Thunderbolt3接続の外付けストレージやドック、Mac用に最適化された設計のメモリーをはじめとしたアップグレードキットなどを要する米国のブランド。1985年に創業し、世界的な認知は高い。

映像制作者向けの高速サーバーの分野でも魅力的な製品を送り出しており、5月30日から開催された台湾・台北でのイベント「Computex 2023」にも出展していた。

そんなOWCだが、以前からSDメモリーカードとCFexpress Type Bをラインナップしている。共に「OWC Atlas Pro」シリーズと、ハイエンドな「OWC Atlas Ultra」の2グレードで展開中だ。ただしECサイトのみで取り扱われ、現時点での国内での知名度はいまひとつ。

そんな中、CFexpressType Bの「OWC Atlas Ultra CFexpress」(以下Atlas Ultra)に、1TBモデルと2TBモデルが新たにラインナップされた。同じく新製品となる「OWC Atlas Dual CFexpress + SD Card Reader」(以下Atlas Dual)を試してみた。

「Atlas Ultra」ラインナップ

容量アップ、さらに転送速度が高速に

従来の「Atlas Ultra CFexpress」には165GB〜650GBがラインナップされていた。今回、ここに加わったのが1TBおよび2TBモデル。容量がアップしたのと同時に、転送速度も強化されていることに注目したい。

具体的には、最大読出速度が1,700MB/秒から1,850MB/秒に、最大書込速度が1,500MB/秒から1,700MB/秒へと高速化。そして最低継続書込速度も、1,300MB/秒から1,500MB/秒へと向上している。

【従来製品】
Atlas Ultra
165GB〜650GB
【新製品】
Atlas Ultra
1TB〜2TB
最大読出速度1,700MB/秒1,850MB/秒
最大書込速度1,500MB/秒1,700MB/秒
最低継続書込速度1,300MB/秒1,500MB/秒

メモリーカードの性能といえばどうしても読出/書込の最大速度に目が行くが、最低継続書込速度にも注目したい。「これ以下には書き込みは遅くならない」といういわば保証値なので、近年では重視されているスペックだ。特に動画記録での安心感が高まることから、1TB/2TBという大容量とあわせて、「Atlas Ultra」の魅力を押し上げるポイントになっている。

純正カードリーダーも用意

OWCのCFexpress Type B対応のカードリーダーとしては、すでにThunderbolt 3およびUSB 3.2 Gen2 接続で、最高1,600MB/秒の転送速度を持つ「OWC Atlas FXR(以下、Atlas FXR)」が存在していた。

OWC Atlas FXR

そこに新たに追加されたのが、CFexpress Type B×SDカードのデュアルスロット仕様となる「Atlas Dual」だ。近年CFexpress Type BとSDのデュアルスロットを採用するカメラも増えており、そのようなユーザーには最適だろう。

OWC Atlas Dual CFexpress + SD Card Reader

スクエアなスタイルは、その金属筐体(底面は樹脂)の質感も含めてMac miniを小さくしたような洒落た雰囲気を醸しだしている。MacBookやiPadと組み合わせても雰囲気的に違和感のないデザインだ。適度な重量があり設置の安定性やカードの抜き差しの際の快適性にも配慮されている。ただし、接続はThunderbolt3ではなくUSB 3.2 Gen2になる。

接続インターフェースはUSB Type-Cのみ。別途ケーブルを介しての接続に加えて、本体底面に短いUSB Type-Cケーブルが実装されている。「スッキリ収まる&程よく短い」内蔵ケーブルのスマートな使い心地は、特にノートPCとの組み合わせで都合が良いだろう。

PCとの接続はUSB 3.2 Gen2対応のUSB Type-Cコネクタを使用。左には書き込み防止用スイッチも見える
さらに底面にUSB Type-Cコネクタ付きのケーブルが本体じか付けで仕込まれている

2種のカードに対応というだけでなく、2スロット同時に使用可能というのもポイント。一方のカードを読出中に、もう一方のカードを交換というようなケースもありうるので、カードの抜き差しの容易さを考慮してか、スロットインの状態でSDカードのほうが突き出し量が多くなるように設計されている。

USB-Cポートの脇には書き込み防止のスイッチも備えている。活用すれば、意図しない書き込みやフォーマットといった事故のリスクを排除することができる。

無償提供の管理ソフト「Innergize」

Atlasシリーズのメモリーカードとカードリーダーの組み合わせで使える、メモリーカード管理ソフトが「Innergize」だ。別途料金を必要としていないのはユーザーにとっては嬉しい。

Atlasシリーズのメモリーカード管理ソフト「Innergize」。「Atlas Ultra」1TBを装着して起動した状態

Innergizeでできることは、主に「ヘルスチェック」「デバイスのサニタイズ」、そしてメモリーカードの「ファームウエアのアップデート機能」の3つ。

「ヘルスチェック」はカードの状態をチェックして、カードの推定残り寿命をパーセント表示で予告・警告してくれる機能だ。

「サニタイズ」は、簡単にいえば、カード上のデータの完全消去とあわせて、カードの性能を初期の性能にリフレッシュする機能。8Kや12Kの動画撮影などカードの性能が限界まで要求されるような用途での信頼性確保のために、特に必要とされる機能といえる。

最後の「ファームウエアのアップデート機能」は、カメラ側のファームウエアのアップデートによる仕様や設定の変更、さらには将来登場するカメラへの対応のために、メモリーカードのファームウエアをアップデートする。

この機能は、より新しいファームウエアがある場合にのみ画面上に現れる仕様なので今回は試せなかったが、インターフェイス上では他の機能と同列に扱われており、そのときが来たら容易にアクセスできる点は評価できる。

繰り返しになるが、メモリーカードのファームウェアをアップデートできる強みは、購入したメモリーカードの性能を最新に保てることにある。使用カメラのパフォーマンスを引き出すことにもつながるので、更新が今から楽しみだ。

ベンチマークテスト① X-H2で連写書き込み

スペックアップした「Atlas Ultra」を使い、デジタルカメラでどこまで連写が続くかテストしてみた。

テストに使用するカメラは「FUJIFILM X-H2」(以下X-H2)。製品ページで「Atlas Ultra」の動作確認が取れていることが公表されている。

FUJIFILM X-H2

連続撮影が途切れる(カメラ側のバッファが切れて連写速度が遅くなる)までの撮影枚数から、「Atlas Ultra」1TBへの書込速度の速さを推し量るという趣向だ。

結果はこの通り。

画質モード富士フイルム公称値実測値
電子シャッター
(最大約13コマ/秒)
RAW(ロスレス圧縮)1,000+枚18,977枚
メカシャッター
(最大約15コマ/秒)
RAW+JPEG108枚138枚

RAW+JPEGでは、電子シャッター、メカシャッターともに富士フイルムの公表値を2割前後上回る記録枚数となった。

ここまでは予想の範疇だったが、圧倒的だったのがRAW(ロスレス圧縮)の結果だ。メーカーの公表値が1,000+枚なのに対して、なんと1万8,977枚! RAWで連写した時のデータ量と、Atlas Ultra 1TBへの平均書込速度が拮抗しているが故の結果だが、これは最低継続書込速度が平均速度を押し上げている結果かもしれない。

ベンチマークテスト② 純正カードリーダでの計測

次に「Atlas Ultra」と「Atlas Dual」の組み合わせで、PCでの転送速度を計測してみた。

「Atlas Dual」はUSB 3.2 Gen2 接続なので、USB 3.2 Gen2(10Gb/秒)のポートを持つWindowsマシンを用意。「Atlas Dual CFexpress + SD Card Reader」の読出速度は最大で1,032MB/秒となっている。

  • 使用PC:DAIV FX-I7N2A(マウスコンピューター)
  • OS:Windows 11 Home 64ビット
  • CPU:インテル Core i7-13700KF プロセッサー
  • チップセット:Z790
  • グラフィックス:NVIDIA RTX A2000
  • メモリー容量:DDR5 32GB(16GB×2/デュアルチャネル)
  • M.2 SSD:1TB(NVMe Gen4×4)
DAIV FX-I7N2A
Atlas Dual
Atlas Ultra 1TB×Atlas Dual

ご覧の通り、公表値の1,032MB/秒前後がしっかりと出た。

続いて「Blackmagic Disk Speed Test」での結果を見てみる。

Atlas Ultra 1TB×Atlas Dual
Atlas Ultra 2TB×Atlas Dual

1TBと2TB共に、READとWRITEが約900MB/秒で並んでいる。これはカード自体の性能ではなくカードリーダーあるいはUSB 3.2 Gen2環境の限界だろう。

参考までにThunderbolt接続の「Atlas FXR」とMacBook Airの組み合わせでは、READは1,500MB/秒を、WRITEは1,100MB/秒を超えた。

Atlas Ultra 1TB×Atlas FXR
Atlas FXR

この差をどう評価するかは難しいところだが、注目してほしいのは、どのビデオフォーマットまで実用域か判断する目安となる下半分の項目。いずれも8Kまでは全クリアで、「×」は12K DCIの2カ所のみだ。

撮影時のみならずワークフロー全体でユーザーをサポート

メモリーカードに求められるものは何なのか。耐久性は当然として、カメラの性能を引き出す書き込み性能、ストレージへの高速な読み出し性能などが挙げられる。

OWCの「Atlas Ultra」は、カード自体の高速性能に加え、信頼感のある純正カードリーダーが用意されていることもポイントだろう。さらにOWCが提供する無料ソフト「Innergize」を利用すれば、サニタイズやファームウェアアップデートも可能になるなど、将来にわたってのケアも期待できる。こうしたシステム全体でのサポートが「Atlas Ultra」の大きな魅力といえるだろう。

まつうらやすし