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「COBALT」と「GOLD」の違いは? メモリーカードでよくあるトラブルとは?…中の人に聞いた「プログレードデジタル」のアレコレ(CFexpress/SD編)

高速連写が可能なミラーレスカメラが当たり前となり、さらに動画対応も進んだデジタルカメラの世界。それにあわせて、メモリーカードの世界もめまぐるしく変わっています。

そんな中、ハイエンドユーザーに人気のメモリーカードブランドとして知られるのが「ProGrade Digital」。いちはやくCFexpressを投入、SLCタイプのCOBALTシリーズが高評価を受けるなど、ユーザーより高い支持を得ています。

そこで今回はProGrade Digitalの日本代表 大木和彦氏にユーザー代表として筆者が日頃感じているメモリーカードやカードリーダーに関するアレコレをインタビューしました。その結果を全2回にわたって紹介していきます。

メモリーカードに対する愛が深すぎて一度話し出すと止まらない大木氏。計4時間以上にわたるディープなロングインタビューをご覧下さい。まずはCFexpressやSDカードなどメモリーカード全般に関するアレコレについてです。

“ProGrade Digital”とはどんなブランド?

——まず、ProGrade Digitalはどのような会社なのですか?

当社は2017年12月に米国で創業したメモリーカード専業メーカーです。創業者兼CEOのWes Brewer(ウェス・ブリュワー)は元レキサーの副社長兼ゼネラルマネジャーでマイクロンのレキサーブランド売却を機にProGrade Digitalを立ち上げました。その前はサンディスクのメモリーカードおよびアクセサリー部門の副社長も勤めており、長年メモリーカード業界の中心にいる“業界のレジェンド”ともいえる存在です。

プログレードデジタルの創業者兼最高経営責任者、Wes Brewer(ウェス・ブリュワー)氏

私(大木)も以前サンディスク、レキサーに在籍しておりWesと共に仕事をしていました。彼と一緒であれば、「メモリーカードの進化と普及」のスピードアップを成し遂げ、デジタルカメラ業界やメモリーカード業界を盛り上げることができると考え、2019年から日本代表を務めています。

——最近あらゆるものが値上がりしていますが、先日メモリーカードの国内価格の値下げが話題になりましたよね。

当社の企業理念には世界中のすべての地域で公正で同等の製品価格を設定する『世界共通価格』と、世界中のどこで購入しても同じ保証サービスが受けられる『世界共通保証』があります。昨年(2022年)は急速に円安が進んだため国内価格も値上げせざるを得ませんでしたが、年末から円高が進んだため米国価格に合わせて値下げさせていただきました。

当社ホームページでは米国価格と国内価格を併記したリストを公開していますのでぜひチェックしてみて下さい。

「COBALT」と「GOLD」の関係とは?

——先日発表になったCFexpress TypeB GOLD (512GB/1TB)を一足先に使わせていただきましたがすごい性能ですね。これを出してしまうとCOBALTが売れなくなってしまうんじゃないかと心配になってしまうほどです。

2月17日に発表されたCFexpress Type B GOLD 512GB/1TB

現在のカメラは連写速度が向上しているだけでなく動画撮影でもRAW動画など超高ビットレートな撮影が出来る機種が増えています。一人でも多くのお客さまにカメラ性能を十分引き出せるメモリーカードを使っていただきたいという想いで、コストを抑えられるTLCメモリーで高速性能を発揮できるGOLDカードを開発しました。例えばNikon Z 9のN-RAW 8.3K 60p撮影(約700MB/s)でも問題なくご使用頂けます。

メモリー構成はpSLCのCOBALT 165GBと同等のため、価格もCOBALT 165GBとGOLD 512GBは一緒で、COBALTの3分の1の価格を実現しています。正直私も今回のGOLD 512GBはバーゲンプライスだと思っています(笑)

——ユーザーがCOBALTではなくGOLDを選ぶメリットはどこにあると考えていますか?

GOLDカードの大きなメリットはTLCメモリーを採用したことによってコストパフォーマンスが優れることです。これは単に安いというだけでなく、このあとで紹介するカードリーダーやRefreshProなどソフトウェア、サポートも含め、ワークフロー全体で見た時の性能に対する価格です。

さらに、消費電力が少ないのもメリットです。カメラメーカーはメモリーカードの速度と同じくらい、カードの消費電力も気にします。弊社のGOLDカードはTLCカードとしては最も消費電力の低いものの一つとしてカメラメーカーからも高い評価をいただいています。

——高性能で廉価なGOLDカードが発売された今、それでもCOBALTカードを使う意味はどこにあると考えていますか。

新しいGOLDカードは現在のカメラに対して非常に高性能なカードですが、pSLCを採用しているCOBALTカードが弊社のカードの中で最高性能である点に変わりは無く、多くのカメラメーカーでテストに使用していただいています。

例えばNikon Z 9のRAW 1,000コマ連写はCOBALTでは可能ですが、新しいGOLDカードでは途中で止まってしまうなど極限性能を見ると差が出てきますし、TLCメモリーのカードよりも低発熱なのも大きなメリットです。

左からCFexpress Type B COBALT 165GB、同325GB、同650GB

新しいGOLDカードは現在のカメラの性能をしっかり引き出すためのスペックを実現していますが、COBALTカードはさらに先を見据えた性能のため、CFexpressの仕様が大きく変わらない限り将来発売されるカメラの性能もしっかり引き出してくれるはずです。

——SDカードのCOBALTとGOLDの関係性もCFexpressと同じですか?

同じと考えていただいて問題ありません。SDカードでもCOBALTシリーズにはpSLCメモリー、GOLDにはTLCメモリーを採用しています。そのため同じUHS-IIカードでもCOBALTカードの方が特に書き込み速度で大きな優位性があります。さらに、書き込みが早く終わるということはカメラのエンジンが使う電力も少なく済みますから、pSLCメモリーの低消費電力性能と合わせてバッテリー持ち時間も多少伸びるかもしれません。ちなみにSDカードの売れ筋容量はCOBALT/GOLD共に128GBですね。

SDXC UHS-II V90 COBALTシリーズ

メモリーカードとカメラメーカーの関係は?

——メモリーカード開発ではどのように製品スペックを決めているのでしょうか。例えば、カメラメーカーからメモリーカードメーカーに対して要求スペックが提示されたりするのですか?

一般的に、カメラメーカーは主要なメモリーカードメーカーと開発段階からコミュニケーションをとっており、様々なメモリーカードをテストします。カメラメーカーはメモリーカード性能を超えるものを作る事ができない(作っても意味が無い)からです。

CFexpress対応機が出始めたころ、私たちはその前から4Kや8KのRAW動画が撮影される未来は近いと考えていたため、それを撮影可能にするカードとしてカメラメーカーにpSLCを搭載したCOBALTカードを提案し高い評価を得ました。

弊社はイメージングの世界で求められるメモリーカードの性能はどうあるべきかを常に考え、それを実現するための性能を持つメモリーカードを開発しています。それによってカメラができることの幅が広がった部分がきっとあると自負しています。

CFexpressの「熱」は大丈夫?

——CFexpressを初めて使うとSDカードよりも熱くなっていることに驚く人も多いと思います。熱くなることでカードへのダメージなどはあるのでしょうか。

転送速度が非常に大きいためSDカードに比べて発熱しやすいというのは事実ですが、カメラで使用される温度域でカードにダメージとなるということはありません。

例えば、パソコンのSSDは低負荷時でも50~60℃前後となることは普通ですし、高負荷時は70~80℃に達します。CFexpressの構造はパソコンのNVMe SSDとほぼ同じですのでこのくらいの温度域で壊れるということはありません。CFexpressの規格としても70℃までは問題なく動かなければいけないと定められています。

さらに、一定以上の発熱があった場合に転送速度を下げて発熱を抑制するサーマルスロットリング機能も搭載されているので安心していただければと思います。

また、CFexpressはカードリーダーに刺すと熱くなって心配という声も聞きますがこれも上と同じ理由で問題ありません。CFexpressは一般のSSDと同じくパソコンからは外付けストレージとして認識されてしまうため接続中は常に通電され何らかの処理がバックグラウンドで行われることもあり、ある程度の発熱があります。

ただし、カードメーカーやモデルによって発熱しやすい/しにくいの差があるのも事実なので購入する場合は発熱しにくさについても検討いただければと思います。弊社のCFexpressは低発熱にもこだわって開発されています。

PCI-Express Gen4採用の可能性は?

——現在のCFexpressの規格はインターフェイスにPCI-Express Gen3を使用していますが、パソコンのように今後PCI-Express Gen4に拡張する可能性はありますか?

可能性は十分あると考えています。CFexpress規格のコンセプトにはパソコンの世界の技術進化に追随していくというものがあり、これがインターフェイスに汎用性の高いPCI-Expressを採用した理由の一つです。パソコンのSSDではすでにPCI-Express Gen5対応した製品も出ています。

ただし、PCI-Express Gen4をメモリーカードで実現するためには発熱や消費電力の問題があり、現在はPCI-Express Gen3の規格(Type Bで2,000MB/s)で十分対応出来ていますから喫緊の課題というわけではありません。

これまでのメモリーカードの進化と同様にカードメーカーとカメラメーカーが協力してこれらの問題を解決していくと考えています。

CFexpress Type Aは普及する?

——ソニーαシリーズで採用が進むCFexpress TypeAはCOBALTシリーズのみのラインナップですが、今後GOLDシリーズの投入はあるのでしょうか。

CFexpress TypeA対応のαシリーズでは高ビットレート動画を撮影する場合、カメラの要求する速度を「VPG(ビデオパフォーマンスギャランティ)200以上」(最低200MB/s)としています。現在の規格でVPG200以上とするには(VPG200という規格が存在しないため)VPG400を達成する必要があります。このVPG400を達成するための方法が現状pSLCを使うCOBALTしか無いためCOBALTのみのラインナップとなっています。

CFexpress Type A COBALT 160GB

私たちはコンパクトなCFexpress TypeAはSDカードの後継として考えています。今後、エントリーや中級機でもCFexpress TypeAの採用が広がり、VPGなどの縛りがなくなればよりカジュアルに利用頂けるTypeAのGOLDも投入したいと考えていますし、そうなることを願っています。

ちなみに、TypeAはアダプターを介してTypeBカードとして使う事も技術的には可能です。TypeAの利用が広まればそのような拡張性も産まれてきます。

物理フォーマットとは? 「RefreshPro」とは?

——SDカードで動画撮影する場合に注意するべきポイントはありますか?

SDカードの場合はビデオスピードクラス(V60やV90)を意識して頂ければ問題ありません。ただし、使用を繰り返したカードの場合カードの書き込み性能が低下してしまい撮影が止まってしまう可能性があります。

SDカードに限らずCFexpressカードにも言えることですが、動画撮影の場合は特に撮影前に毎回物理フォーマットを行ってカードをクリーンな状態にしてから撮影することを強くお薦めします。

弊社のメモリーカードでラベルに「R」マークが付いている製品であればRefreshProでサニタイズして出荷状態の完全にクリーンな状態に戻すことも可能です。

対応するメモリーカードをサニタイズにして「きれいに」するRefreshPro。ProGrade Digitalが供給するソフトだ

——物理フォーマットをするとメモリーの寿命が縮まると聞いたことがあるのですが大丈夫ですか?

書き込みを繰り返すほどメモリーカードの寿命が縮まるというのは事実で、カードの情報を上書きしてフォーマットを行う物理フォーマットは危険ではないかと考える人もいますが、常識的なカメラの使用において、毎回物理フォーマットを行うことによる寿命の低下は無視できる程度です。それよりも、クイックフォーマットを繰り返して書き込み速度が低下してしまう問題の方が遙かに大きいと私たちは考えています。

弊社のRefreshProではヘルス機能でカードの健康状態を測定する事ができますが、今まで一般のお客様が使用して健常状態が90%を下回ったカードを見たことがありません。監視カメラなど常に記録し続けるような特殊な環境でない限り、メモリーカードの寿命は簡単にはなくなりません。

SDカードの耐久性は?

——SDメモリーカードは薄くて壊れやすいイメージがありますがProGrade Digitalのカードは大丈夫ですか?

SDカードにはカードの機械強度や落下耐性など様々な項目にしっかり規格が定められているため、きちんとしたメモリーカードメーカーのものであれば実用上問題ありません。端子を分離するリブの部分が壊れやすいという話も聞きますが、これは端子が直接別のものに触れないようにする役割があり、静電気の発生を防ぐ役割もあります。弊社のSDカードはこれらの規格を厳密にクリアしていますのでご安心ください。

microSDカードがなぜ「UHS-II」?

——ProGrade DigitalのmicroSDカードはUHS-II仕様ですが、microSDのUHS-IIに対応するカメラは見たことがありません。なぜUHS-IではなくUHS-IIなのでしょう。

これもお客さまのワークフローを最適化するという考え方によるものです。弊社のmicroSDカードはアクションカメラで使用されることを想定していますが、これらはUHS-Iにしか対応していないため弊社のUHS-IIカードを使用してもUHS-Iとして認識されます。

しかし、撮影後のデータ読み取りでは弊社カードリーダーを使うことでUHS-IIの速度で素早くデータ転送が行えます。プロユーザーが少しでも快適に作業を行えるためにUHS-IIの仕様としているのです。

現状、microSDにはUHS-IIの高速書き込み性能は必要とされていないため、COBALTシリーズではなくGOLDシリーズのみのラインナップとなっています。

トラブルで多いのは?

——国内の製品サポートにはどのようなトラブルが多く寄せられますか?

多いのは「カードがカメラで認識できなくなった」という問い合わせです。

原因は大きく2通りあり、1つはファームウェアが何らかの原因で損傷してしまい、通常の方法では読み出せなくなってしまったケース。ただし、これはごくわずかです。

多くの場合は特定の使用方法の組み合わせによってデータが上手く読み出せなくなってしまったケースです。例えば、カメラがメモリーカードにアクセスしている途中でカードを抜いてしまうとこのようなケースに陥ることがあります。

また、意外に多いのがカードリーダーとの組み合わせによるトラブルで、多くはオールインワン系のカードリーダーで読み出せないというケースです。なお、後者の場合は一般的なデータリカバリーソフトでほとんどのデータを復旧できます。

サポート体制は?

——ProGrade Digitalならではのサポート体制があったら教えてください。

ProGrade Digitalの企業理念として弊社の製品は撮影体験だけでなく、取り込みや編集などを含め、イメージングのワークフロー全体を最適化させるという考えがあります。それはサポートにも同じことがいえます。

CEOのWesが定めた弊社社員向けのカンパニーポリシー(全20項)の6つめに、以下のような記述があります。

6. DELIVER LEGENDARY SERVICE.

It’s all about the experience. With every experience, do the little things, as well as the big things, that surprise people. Make every interaction stand out for its helpfulness. Create the “WOW” factor that turns customers into raving fans. This includes both internal and external customers.

ここでいう「Legendary Service」とは伝説となるようなサービスのことで、サポートでは常にお客さまの期待値以上のサービスを行うことを心掛けています。内容をお客さま向けに意訳すれば次のようになります。

「小さなことでも、大きなことでも、お客様の”プログレードデジタル体験“の満足度を最高度に高めるための努力を惜しまないこと。」

なにかトラブルが起こってしまった場合にもサポートとして、できるだけ迅速に代替製品をお送りするなどお客さまのワークフローを止めないことを重視しています。

——国内の製品サポートはどのような体制で行っているのですか?

現在の国内カスタマーサポートは代表である私がすべて行っています。それはお客さまの多くが(イメージングの)プロフェッショナルだからです。サポートもメモリーカードに精通した人間がやるべきと考えています。どこまでこの体制を続けられるか分かりませんが、サポートもメモリーカードのプロが行うことはProGrade Digitalの理念の一つです。

ちなみに、弊社のメモリーカードの保証期間は3年となっていますが、そろそろ3年の期間が過ぎた製品が多く出始めます。弊社ならではの保証として、保証期間経過後にもしカードにトラブルが起こってしまった場合は、新品を15%オフで購入できるクーポンを配布する制度を新たに作る予定です。万が一トラブルが起こってしまった場合でもまたProGrade Digitalを選んで頂けるようなサポートを行っていきます。

※購入証明と現品の交換が条件

制作協力:プログレードデジタル