パナソニック LUMIX 15周年特別企画
パナソニックはいかにしてデジカメ業界をリードしてきたのか? LUMIX 15周年記念インタビュー第1弾
手ブレ補正と高倍率ズームレンズを広めた功績をたどる
2016年12月2日 08:00
15年前の2001年10月27日、パナソニックのデジタルカメラブランド「LUMIX」が初めて発売されました。その15周年を記念し、パナソニックのキーマンとともにLUMIXの歴史を振り返る連載の第1弾をお届けします。
お話をうかがったのは、パナソニック株式会社AVCネットワークス社イメージングネットワーク事業部の山根洋介事業部長です。
スリムコンパクト「LUMIX FX」の快進撃
−−LUMIX 15周年おめでとうございます。
他社のカメラメーカー様に比べると15年という時間は短いのですが、非常に濃密な15年であったと思います。
−−15年前、山根様のご担当は?
AVC商品開発センターで、デジタルカメラやムービーの要素開発をしていました。同じチームの3割はLUMIX 1号機のエンジン開発にも携わっており、私も要素開発と並行して、AFの信号処理の設計を担当しました。
−−発表当初、ライカとの協業が大きなニュースになりました。その理由は?
参入したときは周回遅れというより、3週遅れの状態でした。当時のパナソニックにはムービーのプロ機材を始めとして、カメラに対する築き上げた技術はありました。しかし、基本的には動画機に対する技術の蓄積であり、静止画・写真に対する造詣が不足していました。デジタル時代のレンズ性能基準を設定し発展させるために、ライカカメラ社に協業の提案をさせていただきました。
−−その関係は今も続いていますね。
はい。その頃から現在まで、ライカの経営トップは8名も変わりましたが、ブランド力は脈々と受け継がれ、その思想に変化はありません。さすがだなと感じます。
−−ライカの光学技術に加え、そのときパナソニックとしての強みは他に何がありました?
私は手ブレ補正の開発についてもムービーの頃から担当しており、これをスチル系のデジタルカメラにも使えるのではないかと考えていました。当初は手ブレ補正=望遠撮影のときに効果を発揮するものという考えが主流でしたが、ひょっとしてコンバクトカメラの3倍ズームレンズでも効果あるのでは、と思いついたのです。
とはいえ、ムービーはパン・チルトに合わせた補正であり、メインの被写体が止まれば良い。一方スチルの場合は、画面全体を止める必要がある。FX1でコンパクトカメラ初の手ブレ補正を搭載しましたが、デジタルカメラのための手ブレ補正を研究して搭載したのが、ヴィーナスエンジン2を搭載したFX7(2004年発売)になります。AFについてもFX7でかなり速くなるなど、完成度が上がっています。FX7のヒットにより、LUMIXの国内シェアは17%という成果を出しました。
−−この頃はスリムコンパクトの市場も大きく、FX系に勢いがありましたね。
レンズの進化も後押ししています。光学式手ブレ補正を内蔵しつつ、FX1で27.5mm程度あった鏡筒の長さが、FX7では20.25mmになりました。山形工場製の超偏肉非球面レンズの採用を始め、光学設計やイメージセンサーの鏡筒へのつけ方など、かなり研究を重ねた結果です。その差約8mmが、いまみてもバランスの良いFX7のスタイリングにつながり、その後FX40まで機種別でNo.1のシェアを獲得しました。
スリムコンパクトのスタイリングに寄与した要素はもうひとつあります。ファインダーを外したことです。手ブレ補正を搭載することで、背面モニターを見ながらの撮影でも、ブレのない写真を十分撮れる。コンパクトカメラは年配のカメラユーザーだけではなく、若い方々も使われるだろう。そうするとファインダーがなくても十分使っていただけるのでは? という考えから実現しました。そういった仮説の集合体がFX7だったのです。
−−FXといえば、28mm広角化も業界に先んじていました。その背景を教えてもらえますか。
ユーザー研究の成果として、集合写真時に両側の人が入らず、かつ被写体との距離の取れないシチュエーションが多くあることがわかりました。また、旅行で風景撮影時に全景がうまくフレーミングできないことも。それまで35mmは第2標準の画角ですからね。セミプロだけでなくアマチュアの方でも、28mmがあれば違った写真になるだろうとは考えていました。レンズの材料、成型技術など苦労しながら実現したのが、FX01の28mmレンズです。
−−手ブレ補正にしても広角化にしても、その後各社が追随しています。コンパクトデジタルカメラの世界では、パナソニックは業界をリードする存在でした。
3週遅れなのもあり、「先進性がないと生き残れない」という意識が源泉になっていました。常に危機感を持ち、独創性の発揮を唱え続けてやってこれた15年だったのかと思います。
まさに新しい発明。トラベルズーム「LUMIX TZ」シリーズ
−−レンズといえば、高倍率のFZ系が登場したときも一世を風靡した印象があります。
コンパクトなボディに全域F2.8の12倍ズームレンズを搭載したFZ1は、かなり業界にインパクトを与えたモデルだと自負しています。三脚なし、手持ちで400mmを超える望遠撮影が実現できたのですから。いまもその系譜はFZH1などに続いています。
−−私の周りでも、取材記者がこぞってFZ1を使っていたのを思い出します。時代は下って、薄型ボディに10倍ズームレンズを搭載したTZ1も衝撃的でした。これも歴史に残る機種ですね。
FZシリーズは多くの記者の皆さんにお使いいただいて、本当にうれしかったですね。
TZ1ですが、私の苦労した商品のうち3本の指に入ります(笑)。沈胴式の変倍レンズと屈曲光学系のレンズをプリズムで組み合わせて倍率を稼いだモデルで、当時他にありませんでした。発売にこぎつけるまで苦労したのを思い出します。
TZは文字通りトラベルズームの略名です。旅行にこの1台という考えで、10倍ズームは不可欠と企画したものです。10倍ズームレンズをこのサイズに収めるのは、当時はこの方法しかなかったと考えて実現しました。結果的には次のTZ3で一般的な沈胴レンズになりましたが……大変な苦労はありましたが、このあとこのスタイルのカメラがスタンダードになるだろうという予感もありました。
−−確かに、他社も含めてトラベルズームが続々と出ました。
その後は倍率競争になります。高倍率ズームレンズをどれだけ小型のボディに収めるか。27.5mm程度の鏡筒で、30倍まで実現しよう!という掛け声もありました。そうした倍率競争も限界がきて、改めて高画質を目指す動きに着目していたのがその頃です。それが現在のトレンドでもある、1インチセンサーにいきついたのではないでしょうか。
先進技術をユーザーのために
−−先進性といえば、おまかせiAも話題になりました。画像認識を撮影モードに応用したもので、これも他社より早かった印象があります。
当時我々は顔認識技術を研究しておりまして、それをうまくお客様に伝えるものの一つとしておまかせiAを世に出しました。手ブレ補正と高感度に動き認識を加えた「トリプルブレ補正」搭載のFX30をベースに、認識技術の集大成としてFX33に搭載したのが「おまかせiA」です。「動き認識」「シーン認識」「顔認識」を加えることで、様々なシーンを自動で見分け、最適な設定をするというものです。
正直いうとバリバリの技術者である私としては、回答が100%ではないこういう機能を採用することがお客様蔑視につながるのでは、と考えていた頃がありました。企画側と何度も喧嘩をしたモデルでもあります(笑)。いまとなっては、考えが青かったなと思いますが。すべてのお客様が100%を望むものではなくて、少しでも便利なものにお金を払っていただけるというのを、思い知らされたのがこのモデルでした。
−−実は当時、私も「そんなにうまくいかないだろう」と、考えていましたが、使ってみたら逆光補正や顔認識などが複合で動作し、今までのオートとは違うものだというのはわかりました。
認識技術を使って成功したことを全社にアピールすると、いろんな部署から転用の話がきました。人命を左右するような製品部門に内容を話すと「うちには使えないな」と言われることも多かったのですが、その後、シビアな回答結果が求められる監視系や車載系の認識技術を見ると、かなりの確度で合うようになっています。やはりあのとき、認識技術をやっていたのが大きかったのではと思います。おまかせiAは現行の最新モデルにも搭載されており、機種を重ねるごとにその精度も高上しています。
将来的にはディープラーニングをカメラにどう搭載するかを考えています。ディープラーニングがお客様に伝わるには、人命に関わらないカメラのような領域で導入し、試行錯誤するのが早いと思うからです。
−−今までうかがってきたのは、ヴィーナスエンジンの歴史でもあります。いま、ヴィーナスエンジンは何世代目なのですか?
最初のLUMIX 1号機のエンジンは、R3Yというそっけない名前で、エンジンの名前に価値があるとは考えていない頃でした。2002年の第2世代モデルF1/FZ1からヴィーナスエンジンの名前で展開してきていまして、その後GH3までは9世代を数えます。といってもヴィーナスエンジンには派生バージョンがいくつもあり、例えばヴィーナス7にはHD、フルHDなど3バージョンがあるため、9世代とはくくれないものがあります。ヴィーナスエンジン9では、プロ向けモデルとの共用を発表しましたし、ヴィーナスエンジンは今後、まだまだ進化します。
(第2弾に続く)