旅とカメラ、旅とレンズ
柔らかく自然なボケ味で優しい描写…「NIKKOR Z 35mm f/1.4」で山陰・山陽をスナップ旅
2024年9月30日 07:57
この夏、久しぶりの広島への帰省にあわせて山陰地方と山陽地方を旅した。せっかくならと、7月に発売したばかりのニコンの単焦点レンズ「NIKKOR Z 35mm f/1.4」と、同じく7月発売のフルサイズミラーレスカメラ「Z6III」で旅先スナップ撮影を試みた。
旅の行程は夕方に東京を出発し、東名~名神~中国自動車道で西へ向かい、佐用ジャンクションから北上して鳥取へ。深夜3時過ぎに鳥取砂丘に到着した。
日の出までの2時間弱を車内で仮眠して、鳥取砂丘の夜明けから撮影をスタート。鳥取県米子市、境港市、島根県松江市、安来市、出雲市を経由し、山陰から南下して山陽道に入った。数日滞在後に呉市、竹原市を経由して東京へ戻るという途中でさらにあちこちと立ち寄り、普段あまり運転をしない筆者にしては延べ約2,000㎞というロングドライブ旅となった。
旅の要所で出会った風景などを、NIKKOR Z 35mm f/1.4で撮影した中から一部の写真をピックアップしてみた。
絞り開放時の自然なボケ味が好印象
深夜に到着した鳥取砂丘。陽が昇る直前まで駐車場で仮眠して、海へ出たら真夏とはいえ日本海らしい早朝の冷たい風と波が出迎えてくれた。誰かが砂に立てたであろう流木を見つけたので、開放F1.4で遠くの島にピントを合わせ前ボケで立体感を出してみるが、柔らかい描写となった。
青空を背景に、横たわる人物のようにも見える砂丘風景。陽が昇り青空と白い砂が太陽光を反射して増幅し、強いコントラストだが克明に描写している。シュールレアリストの描いた真夏の絵画みたいな印象を受けた。
街道沿いに突然現れたヒマワリ畑に夏らしさを感じる。普通の民家と隣接している場所で、観光用ではなく花農家さんの栽培地のようだ。風に揺れる大輪にフォーカスを合わせ、一輪だけを浮き立たせる。
斜めの店名の先に居るカラスが撮りたくてクルマをとめた。順光で建物が克明に再現されている。筆者の個人的意見としては、店の造りや店名から想像すると昭和の終わり頃、1980年代ぽい喫茶店。店の周りも綺麗に掃除されていてかき氷の暖簾がはためいていた。
広島市から竹原市へ向かう途中、呉市の戦艦大和ミュージアム近くの住宅街に銀色カバーに覆われてとまっていたクルマ。いったん通り過ぎるが、無性に気になってしまいUターンして撮影。写真には写っていないが、近くにとめてあったバイクにも銀色のカバーがかかっていたので、UFOと交信している持ち主のようだ(笑)
商店街で撮影したあと、呉のお好み焼き屋で初めて食べた「呉焼き」。広島のお好み焼きにも似たような種類はあるが、具材が違うのか? 味も若干違うみたい。それはともかく、高感度に強いZ6IIIとの組み合わせは、暗い店内でのテーブルフォトにも強い味方になりそうな大口径レンズである。
竹原には江戸時代末期から昭和の頃の懐かしい建物が残る地域がある。ニッカウヰスキーの創業者、竹鶴家もこの地の出身だ。前回来たのは40年前で高校生の時。中古で買ったニコンF2フォトミックに24mmのレンズを付けて、雨の中を濡れながら蔵の街並みを撮影したのが懐かしい。西陽を浴びた、右からの横書き看板の時計店はおそらく昭和初期頃の建造だろう。暗部のディティールも克明に再現されている。
旧広島市内では今も路面電車が市民の足として活躍している。撮影場所は「江波車庫前」という電停で、実はボクの通った中学校のグラウンド横にある。後方に見える三角屋根が母校の体育館である(笑)。F値を少し絞るだけで車両の塗装、石畳のサビ、植物などそれぞれの質感を克明に描写してくれる。
広島に住んでいた頃には、毎年のように撮影に訪れた日本三景のひとつ宮島(厳島)。修復工事を終えた島のシンボルでもある、厳島神社の大鳥居の近くは観光客で賑わっていたが、夕方になると店も閉まり人もまばらになった。軒先にさがった提灯の鳥井絵に開放F1.4でフォーカスを合わせて商店街をボカしてみるが、玉ボケも自然な描写で好印象。
帰りのフェリーから見た美しい日没風景。瀬戸内海特有の「凪」という現象で、湖のように見えるがフェリー自体はエンジンなどの振動があり、スローシャッターだとブレる可能性が高い。しかし、F1.4だとISO感度をあまり上げることなく、高速シャッターが使えるというメリットも大きい。
まとめ
NIKKOR Zレンズの35mm単焦点には、2018年発売の「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」がある。今回使った「NIKKOR Z 35mm f/1.4」はS-Lineではないが、“35mm f/1.8 S”より2/3絞りも明るい大口径になりながら、筐体の大きさはほとんど変わらない。質量の増加も僅か45gに収まり、415gと軽量である。
作例にもあるように開放でのボケ味も自然な描写でS-Lineと遜色なく、絞り込むことによって被写界深度が深くなるとともにシャープな描写となっていく。
“35mm f/1.8 S”との大きな違いとしては、AF/MFのフォーカス切替スイッチが省略されていること。そのかわりに、フォーカスリングの手前にコントロールリングが搭載されている。最初に手に取った時にはフォーカス切替えスイッチが無いことに躊躇したが、コントロールリングを使えば簡単に切替えが出来るので問題無し。勿論、その他の様々な機能を割り当てられるのでユーザーの好みで設定すれば利便性が増す。
同じ焦点距離ではないが筆者所有の「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」と比較すると、絞りを開け気味ではやや優しい描写のようなので、ポートレートなど人物撮影にも向いているかなとも感じた。
旅の相棒としてはコンパクトかつ質量760g(バッテリー、メモリーカード含む)のZ6IIIに装着してのハンドリングバランスは素晴らしく、他のカメラやレンズ機材などと一緒に首からぶら下げて1日中持ち歩いていたのだがまったく苦にならない快適なセットだった☆