コンパクトデジカメのGPS機能を試す
LUMIX DMC-TZ10(左)とサイバーショットDSC-HX5V(右) |
夏を前にして旅行ガイドを眺めていると、写真と地図の親和性の高さを実感する。自分で撮影した画像にも撮影地の情報を付加できれば、旅行の思い出はリアルさを増し、アルバムや作品づくりにも役立つだろう。そこで、GPSデータと撮影画像の連携は以前から試みられていた。
これまでデジタルカメラの撮影画像とGPSの位置情報を組み合わせる場合は、一部のデジタルカメラにオプションとして用意されているGPSユニットを利用するか、「GPSロガー」などと呼ばれる機器をカメラと一緒に携行するのが主な手段だった。前者はGPSユニットを用意している機種が限られ、後者は撮影後に画像とGPS情報を組み合わせる作業が必要だった。写真の用途に限定するのであれば、やはりカメラに内蔵するタイプが適するだろう。
GPS内蔵タイプのコンパクトデジタルカメラはニコンの「COOLPIX P6000」しかなかったのが現状だが、2010年春は前述のニコンに加え、ソニー、パナソニック、ライカからも内蔵タイプのコンパクトデジタルカメラが登場。いよいよGPS内蔵の時代が到来しそうだ。
今回は2010年春に発売されたGPS内蔵タイプのコンパクトデジタルカメラの中から、ソニー「サイバーショットDSC-HX5V」とパナソニック「LUMIX DMC-TZ10」の2台をお借りし、実際にGPS周りの機能を試してみた。
■GPSの仕組み
GPS(グローバル・ポジショニング・システム)は、米国が高度約2万kmに打ち上げた約30台のGPS衛星が発信する信号を利用した測位システム。それぞれの衛星が、搭載する原子時計に基づいた時刻情報や、同じ軌道上にいる衛星の位置情報を発信している。
いっぽうGPS機器は、3個以上(LUMIX DMC-TZ10の場合)のGPS衛星から信号を受け取り、各信号の発信と受信の時間差から現在位置を決定。撮影画像のExif情報に緯度・経度情報を埋め込むという仕組みだ。
サイバーショットDSC-HX5VのGPSマーク | LUMIX DMC-TZ10は上部にGPS受信機を備える |
GPSといえば一般にカーナビのイメージがあるかもしれないが、一般的なGPSロガーはカーナビよりも精度が劣る。理由は、カーナビのほうが多くのGPS衛星からデータを受信し、アシストデータも持っている。加えて、自車の移動との連動も行なっているからだ。
すると、使い勝手としてはアシストデータが重要になってくるだろう。さらにGPS衛星を補足するまでに時間がかかれば、撮影ごとに電源を切るのがためらわれる。また、GPS受信機を内蔵するため、電池の持ちも気になるところだ。
ここからは以上の点もふまえて、サイバーショットDSC-HX5VとLUMIX DMC-TZ10、それぞれの特徴を紹介する。GPS機能以外の使い勝手や画質については、記事末に設けた関連記事リンクから参照してほしい。
■サイバーショットDSC-HX5V
サイバーショットDSC-HX5V |
暗所に強いとする裏面照射型CMOSセンサーと、広角24mm相当からの光学10倍ズーム「ソニーGレンズ」を搭載した機種。AVCHD動画の記録に対応し、動画撮影時に手ブレ補正機能「アクティブモード」を利用できるのも特徴だ。発売は3月5日。実勢価格は3万5,000円前後。
DSC-HX5Vは、撮影画面にアイコンでGPSの状況を表示する。初回の利用時は空の開けた屋外で測位完了まで少し待つ必要があるが、測位が完了した直後は電源オンから数秒でGPSアイコンの横に電波のマークが表示され、正しい位置情報を記録できるようになる。電波マークが表示される前に撮影した画像には、最後に測位した位置情報を記録するようだ。
GPS状況アイコンと方位を表示 | 再生時に緯度、経度、方位を表示可能 |
GPS衛星は時刻データとともに衛星の軌道情報も送信しており、その情報に基づいた予測から測位時間を短縮することができる。まったくデータを持たない状態は「コールドスタート」と呼び、予測を行なえないためもっとも測位に時間がかかる。
以前に取得した衛星の情報を持っている状態は「ウォームスタート」または「ホットスタート」といい、より新しい情報を持っているホットスタート時は数秒で測位が完了する。持っている情報が古くなるほど衛星の位置予測精度は下がる。
DSC-HX5Vでは、通常の測位に加え、PCソフトの「PMB」から最新の「GPSアシストデータ」を転送しておくことで、測位時間を短縮できるとしている。GPSアシストデータの有効期間は30日で、カメラ本体のメニュー画面などから確認できる。アシストデータの更新は、PMBをインストールしたPCにDSC-HX5VをUSB接続すると自動的に行なわれた。今回は最初から転送済みの状態で試用したため、GPSアシストデータを持たない状態との差はわからない。
GPSアシストデータの更新画面。自動更新時はタスクバーに表示が出るだけ |
また、DSC-HX5VはGPSのほかに電子コンパスを内蔵しているのも特徴である。緯度・経度情報に加え、撮影時に向いていた方角も一緒に方位情報としてExifに記録される。PMBのマップビューを利用すると、撮影位置に加え、カメラが向いていた方向も一緒に表示されるのだ。
マップビューの画面。撮影時のカメラの向きを示すアイコンが出る | 同一地点から異なる向きで撮影すると、それぞれ表示される |
ちなみに、パノラマ撮影機能「スイングパノラマ」の撮影画像は、シャッターボタンを押した振りはじめの方向を示すようだ。パノラマの画角が表示に連動すればさらに面白かったと思うが、縦位置横スイングや斜めのスイングも可能であることを考えると、難しそうである。
ともあれ、マップビューの表示を眺めていると、現地で撮影している自分を上空から俯瞰で見ているような感覚で楽しい。移動中の方位磁針としても使用できそうだが、どちらかというと撮影を振り返る楽しみが多い機種といえるだろう。
■パナソニックLUMIX DMC-TZ10
LUMIX DMC-TZ10 |
1/2.33型有効1,210万画素のCCDセンサーと25~300mm相当の12倍ズームレンズ「LEICA DC Vario-Elmar」を採用した機種。AVCHD Lite動画記録に対応するほか、高画質化テクノロジー「超解像技術」も搭載した。発売はDSC-HX5Vと同じく3月5日。実勢価格は3万7,800円前後。
DMC-TZ10の特徴は、本体内に地名やランドマーク名のデータを持ち、GPSの位置情報に基づいて地名やランドマーク名をリアルタイムで画面に表示する点だ。再生時も地域ごとにスライドショーが可能で、PCと組み合わせなくてもGPSの機能を楽しめる。AVCHD Lite動画にも任意で撮影開始時の地名情報を記録できるため、ルートを振り返りながら旅を続けるといった楽しみ方もできそうだ。
ランドマーク名を表示 | 画像再生時にも表示する |
地名別の再生も可能 |
最寄りのランドマークは距離で判断しているため必ずしも被写体と一致しないが、画面上に地名が表示されていると、GPSがちゃんと測位できていることが直感的にわかる。
もし撮影時に目当てと異なるランドマーク名が表示されていても、撮影前にQ.MENUから「GPS地名変更」の画面に入り、正しいランドマーク名を選択できる場合もある。また、撮影後に「GPS地名編集」から直接文字入力をすることも可能だ。
周辺のランドマーク候補を表示する | 撮影後の地名編集 |
地名入力画面 |
同様の地名編集は同梱ソフトの「PHOTOfunSTUDIO 5.1 HD Edition」でも、画像を右クリック→「画像のプロパティ」で行なえる。カメラ内再生のように撮影画像を国名、県名、市町村名での分類表示もできるほか、右クリックで「地名情報の消去」を選択すると、位置情報を削除した画像を新規に作成するようになっている。うっかり位置情報を失ってしまうケースへの配慮だろう。
PHOTOfunSTUDIOで撮影画像を地名別に表示したところ | 地名情報の確認・編集画面 |
DMC-TZ10はGPSのアシストデータを利用する機能は持たないが、コールドスタート時も通常は2分以内で測位できるとしている。1カ所で立ち止まって数枚撮影していると、あるタイミングからランドマーク名が表示された。マニュアルには、屋外の空のひらけた場所でGPSアンテナを上空に向けるよう記載がある。
DMC-TZ10は電源オフ時でも15分おきに自動的に測位しているため、飛行機内や病院などではGPS設定をオフにするか、電源オン時のみ測位する飛行機マークのモードにしておく必要がある。その場合は電源オフ時の電池消費を抑えられる。
LUMIX DMC-TZ10のGPS設定メニュー。飛行機のアイコンは電源オフ時の測位を行なわない | GPSステータスの表示画面 |
さすがに都市部の電車移動中に測位するのは難しいようで、前日に撮影した場所のランドマーク名が起動時に表示されることもあった。そのまま撮影すると、以前のランドマーク名が画像に記録される。
今回は国内で試用したため試すことはできなかったが、DMC-TZ10は「トラベルモード」の新機能として、撮影情報の時刻データを旅先の現地時間に自動で合わせる機能を備えている。元祖“旅カメラ”「LUMIX TZシリーズ」の最新機種として、旅先での使い勝手にも抜かりはないようだ。
■Google Earthで楽しむ
撮影後の楽しみ方として、無償配布の地図ソフト「Google Earth」も試してみた。同じくGoogleの提供する「Picasa 3.6」(Windows版)と組み合わせ、撮影画像をまとめてGoogle Earthに表示させてみる。
Picasaで撮影画像を読み込み、Google Earth上に表示したい画像を選択(複数でも可)する。メニューバーの「ツール」から「ジオタグ」→「Google Earthで表示」を選ぶと、Google Earthの「場所」に「Picasa Link」というネットワークリンクが自動的に作成され、地図上に撮影画像が並んだ。
Picasaの画面。「場所」を押すとマップ上に画像が並ぶ | Google Earthに歩いたルートが浮き上がる。DSC-HX5Vの方位情報には対応していないようだ |
また、Picasaの共有アルバムを利用している場合は、「オンライン表示」ボタンを押すとWebブラウザが起動するので、画面上の「Google Earthで表示」を押す。KMLファイルがダウンロードされ、Google Earthが開いた。
共有アルバムとの連携は、一緒に旅したメンバーに共有アルバムを伝えるなどの利用シーンが考えられる。いずれの手順でも、Googleのアカウントさえあれば面倒な作業は必要なかった。
■動画記録や手ブレ補正に続く機能に
GPS搭載コンパクトデジカメが現在確認できるだけで4社から発売されている状況は、GPS内蔵デジカメの普及の兆しにも見える。携帯電話やスマートフォンでは、GPSもしくはWiFiの測位を基に位置情報を埋め込む機能も珍しくないが、デジタルカメラにおいてはまだまだ「GPS内蔵」は珍しい存在だからだ。
旅行や記念撮影などの大事な思い出を写すシーンでは、普段こそ携帯電話の内蔵カメラで十分というユーザーも、デジタルカメラを持ち出すことが多いと聞く。そうしたシーンで使用するデジタルカメラにこそ、GPS機能はお似合いだと思う。
かつては珍しかった動画記録や手ブレ補正機能のように、いずれGPS機能も標準装備として搭載されるようになることを期待したい。今回の試用で強くそう感じた。
2010/6/3 12:30