特別企画
あのペッツバールレンズで撮ってみた
盛大な「ぐるぐるボケ」が楽しめる!
Reported by 本誌:武石修(2014/1/14 08:00)
ロモジャパンが5月に発売する一眼レフカメラ用レンズ「Lomography x Zenit New Petzval Art Lens」の試作品をお借りできた。EOS 5D Mark IIに装着して試写した実写画像をお届けする。
本レンズは“Petzval”とあるように、19世紀に誕生したペッツバール型レンズを現代に蘇らせたというレンズだ。クラウドファンディングで開発資金を募っていたが、無事目標金額をクリアし製品化にこぎ着け、来春より一般販売が開始される見込み。製造を手がけるのはロシアのZenit(ゼニット)で、作っている様子はこちらで見られる。
現代の交換レンズとしては珍しい真鍮製の鏡胴とあって、手に取るとずしりと重さを感じる。Lomographyというと低価格フィルムカメラのイメージがあるが、このレンズはこれまでのLomography製品とは異なる高品位な仕上げであることに驚いた。金管楽器のような美しさとでも言えばいいだろうか……。
原型がオリジナルのペッツバール型レンズのため、現代のレンズと大きく異なる部分が2つある。
1つはフォーカスの調整をピントリングではなく鏡胴から横に出ているノブで行なうという点。手持ちで使う際の操作性が気になっていたが、実際にはレンズに手を添えたまま左手の親指を当てて回せるので、思ったほど使いにくいものではなかった。回転量も十分あり微妙なピント調整も問題ない。
もう1つは絞りで、一般的なレンズの虹彩絞りではなくウォーターハウス絞りと呼ばれる方式を採用している。これは、大きさが異なる穴の空いた板を差し込むことで絞り値を変えるもの。絞りを変更する度に入れ替えなければならない。
焦点距離は85mmで開放F2.2。ポートレートなどに適したレンズということになるだろう。
ペッツバール型レンズは、背景のボケが渦巻き状になるという特徴がある(いわゆる「ぐるぐるボケ」)。今回試写したところ、このぐるぐるボケが大いに発生した。
ぐるぐるボケは、現代のレンズではどちらかと言えばマイナスの要素だが、このレンズのように盛大に発生するとその個性を活かした作画で楽しみたくなる。特にポートレートでは最新のレンズでは味わえない不思議な描写が楽しめるだろう。
ぐるぐるボケは絞り開放で最も発生し、F8まで絞るとほとんど解消する。ぐるぐるボケを楽しむには、絞り開放付近で撮影するのが良いだろう。
なお、お借りしたレンズは試作品だが、光学系に関してはほぼ完成している個体とのことだ。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
解像力という点では、現代のレンズとは大きな隔たりがあり、非常に柔らかい描写となっている。特に絞り開放では周辺の流れも多めで実にソフトなものとなる。一方、F8程度まで絞るとかなり描写はすっきりしてくる。絞り値による画質変化が大きいのもまたおもしろい。
絞り開放では周辺減光がそれなりに見られるが、これもこのレンズの味として楽しみたいところ。またコマフレアは比較的多く発生しており、画面周辺の点像は鳥が羽を広げたような形状に写っている(上記作例の下から2段目にある歩道の写真がよくわかる)。一方、遠方のビルなどを見る限りでは歪曲収差は少ないようだ。
◇ ◇
ところで、今回このレンズを使っていてもう1つ気になったことがある。それは“金色に輝いている”ということ。美しいのだが実に目立つのだ。
このレンズを付けて歩いていると多くの人の視線を感じた(笑)。興味を持った子どもが話しかけてくることもあった。目立ちたい向きにはこれでよいが、もっとひっそりと使いたいという場合にはブラックバージョンをお勧めしたい。
歴史的なレンズを現在のデジタルカメラで使えるようにするというLomographyの取り組みは非常におもしろいもので、今後も継続的に昔の名レンズを蘇らせて欲しいと思った。また多くのユーザーのためにミラーレスカメラなど対応マウントの拡大もお願いしたいところである。