特別企画

【航空写真家に聞く】ブルーインパルスを撮るには?

入間航空祭で撮影した作品を多数掲載

課目名「デルタ・ロール」
会場の左側から進入し、大きく回転していく「デルタ・ロール」は6機がそろう最初の課目。スモークを入れながら機体を撮ると、奥行きを出しやすい。
EOS 6D/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/400mm/絞り優先AE(1/1,600秒、F6.3、+0.67EV)/ISO 400

全国各地で飛行イベントを開催しているブルーインパルス。11月3日(日)には、5年ぶりの一般公開となる「令和6年度 入間航空祭」でも展示飛行が行われます。

今回、航空写真家の粒木友香里さんにブルーインパルス撮影の入門編としてインタビューを行いました。未経験だけども興味がある、といった読者にもぜひ航空祭での撮影に挑戦していただければ幸いです。まるで音まで聞こえてくるような、臨場感あふれる粒木さんの作品もお楽しみください。(編集部)

粒木友香里(つぶき・ゆかり)さん

航空写真家、グラフィックデザイナー。1979年、山形県生まれ。2014年からブルーインパルス写真の第一人者・黒澤英介カメラマンに師事。『ブルーインパルスガイドブック』の制作メンバーとなる。2021年、『ブルーインパルスガイドブック』の企画で日本の女性航空写真家として初めてブルーインパルスに搭乗し空撮を行った。写真集『BLUE SKY』(イカロス出版)。

デジタルカメラマガジン2024年11月号では、粒木さんの解説による撮影入門特集を掲載しています。

航空祭撮影に向けて押さえておきたいポイント

機材選びについて

——航空祭の撮影に挑むのに、どのような機材が望ましいですか?

望遠レンズと広角レンズ、そしてできればカメラは、それらを常時装着しておけるように2台あるといいと思います。ブルーインパルスは機体をアップで捉えたときの迫力と、引いたときに写せるスモークが描く美しさというそれぞれの魅力があります。望遠と広角を素早く切り替えられると理想的です。

もしカメラが2台なくても問題ありません。最近はスマートフォンでもきれいに撮れるので、広角側をそちらに任せるという手もあります。あとはコンパクトカメラなどを活用してもよいでしょう。

——望遠レンズの焦点距離は何mmくらいまで用意しておきたいですか?

できれば400mmから600mmくらいあるといいと思います。300mmだと少し足りないかな、という印象です。今回の作例(この後登場)では主に「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」を使っています。

ここは好みにもよるのですが、600mmなどの単焦点レンズを使っている人もいます。ただしブルーインパルスの場合、スモークを入れた構図など100mmくらいまで引くと綺麗な写真が撮れるので、私の場合はズームレンズを使用しています。

——航空祭は機材の持ち込みに制限がありますね。

はい、例えば入間航空祭は本体+レンズ(フード含む)の長さが40cmを超える機材の使用がNGになっています。超望遠レンズの場合、フードを外して対応するといったことが必要になってくるものもあるでしょう。

この長さ制限のルール、会場で子どもにぶつからないために設けられたものでもあります。肩から下に向けてカメラをぶら下げていると、ちょうど子どもにとっては危険な高さになります。

粒木さんの機材セット。航空祭のイベントなどは、事前にWebサイトで制限事項を確認しておきましょう

撮影のコツは?

——撮影設定で意識していることはありますが?

私の場合は絞り優先AEで撮影しています。絞りは主に開放、もしくはそこから1段程度絞るくらいです。ブルーインパルスは動きが速いので、なるべくシャッタースピードを稼ぎたい。最低でも1/1,000秒以上にはしたいところです。

望遠レンズで機体をアップで狙うときは、追尾AFの設定にしています。

——航空祭を“うまく撮るコツ”があれば教えてください。

まずは課目構成を覚えてみるのが1番良いと思います。こう飛んで来たら、次はどのように回転するのか。その課目がどういう風に飛ぶのかを理解できていれば、予測やイメージもできるというわけです。

そうはいっても、いきなり全部の課目を覚えるのはとても大変です。例えば他の人が撮った写真を見て、「こういう写真を撮ってみたい」と思った課目を1・2個覚えて行ってみるというのもいいでしょう。ただし、その日にどんな課目をやるかというのは気象条件などもあり事前に分かるものではないので、お目当ての課目が見られるかは運も必要です。

——出来れば青空をバックに撮影したいところですよね。

曇ってしまうとスモークはほとんど見えなくなってしまいます。そういう場合はもう、機体のアップを狙うことにシフトするなど考え方を変えていった方が撮れ高は良いでしょう。天気が悪くてもそういう楽しみ方もあると思います。実は先日行った浜松航空祭も天気は曇りだったんです。下の写真がその時に撮ったものです。

5・6番機による「オポジット・コンティニュアス・ロール」のクロスする瞬間です。曇りの場合は暗いため露出補正を2/3程度プラスに、ISO感度も高めにしてシャッタースピードを稼ぎましょう。
EOS R6 Mark II/RF100-500mm F4.5-7.1L IS II USM/500mm/絞り優先AE(1/2,500秒、F8.0、+0.67EV)/ISO 800
雲が低い時は背面や宙返りなどのアクロバット飛行が出来ず、6機の様々な隊形で真っ直ぐ飛ぶローパスになる場合があります。写真は「スワン・ダーティー・ローパス」で脚を出して飛ぶためスピードがやや遅く撮りやすい課目です。
EOS R6 Mark II/RF100-500mm F4.5-7.1L IS II USM/500mm/絞り優先AE(1/2,500秒、F8.0、+1.0EV)/ISO 2000
こちらは脚を出さずに速さと迫力を重視したハイスピードローパスと言われる課目の1つ「ダブルライン・ローパス」です。一瞬で駆け抜けていくため広角レンズで地上も入れて構えておき、低さや速さを表現してみましょう。
EOS 6D Mark II/EF17-40mm F4L USM/17mm/絞り優先AE(1/1,600秒、F8.0、+0.33EV)/ISO 400

あと光の具合としては、順光の方が機体が綺麗に見えるわけですが、入間基地に関してはそのあたりの条件はかなりいいです。基地によってはどうしても逆光になってしまう場所もあるので。

場所どりどうする?

——航空祭の会場では、どういう場所で撮影するのが良いですか?

基本はメインエリアに、会場の中心にいることが1番いいと思います。ただ、地上に展示機が置いてある場合、それらと飛行中の航空機を絡めて撮ろうと思うとサイド寄りのポジションから、かつ最前列から狙うといったこともあります。展示機は基地によって様々ですが入間は端の方に予定しています。

ブルーインパルスの場合、最前列にいれば機体のエンジンスタートから見られるということもありますね。

観客も多いので最前列を確保するのは難しいのですが、後方からでも十分に展示飛行は撮影できるので安心してください。

入間航空祭のマップ

航空祭のここが楽しい!

——まだ航空祭に行ったことがない人に向けて、楽しいポイントを教えてください。

航空祭は出店があったりグッズを売っていたりで、賑やかなお祭りの雰囲気を楽しめると思います。今年はキッズスペースも設けられているので、お子さんと一緒にいくのも良いのではないでしょうか。

あと今回の入間航空祭では、C-1輸送機がラストフライトとなるためセレモニーも行われます。展示飛行以外のそうしたイベントも見どころがあります。

作品を見ながら……

5番機のローアングル・キューバン・テイクオフ/6番機のロールオン・テイクオフ
EOS 6D Mark II/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/153mm/絞り優先AE(1/1,250秒、F6.3)/ISO 200

5番機と6番機が同時に離陸するシーンです。本来、離陸課目は別々に行われるのですが、風が弱い日などには同時に実施するケースもあります。6番機に関しては地上からスモークを出していくので、なかなか迫力があって見どころです。

これを撮ったのは事前訓練時に報道カメラマンとして入ったときなので、航空祭の観覧エリアよりはもう少し距離感の近いところになるかもしれません。航空祭の時であれば、最前列でないとこのようには見れない可能性もあります。


課目名「ファン・ブレイク」
EOS 6D Mark II/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/400mm/絞り優先AE(1/1,600秒、F6.3)/ISO 200

このシーンは、自分の正面というよりは左斜め前、10時方向に来た瞬間をとらえたものです。正面に来るときちんとしたダイヤモンド隊形が見られるようになるので、そのタイミングでは横構図に切り替えます。航空機の位置の変化とともに縦→横位置に変化させながら撮影している感じです。

隊列がきちんと広がって見える正面に来た時は横構図でバランスが良いのですが、このように角度があるときは隊列もぎゅっとして見える分、横構図にすると両脇に空の青が多く配分されることになります。おさまりの良い構図を模索するのも楽しいと思います。


課目名「ダブル・ナイフ・エッジ」
EOS 6D/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/400mm/絞り優先AE(1/1,600秒、F6.3、+0.67EV)/ISO 400

この課目は5・6番機が綺麗に動きをシンクロさせるもので、とてもカッコいいんです。ちょうど正面に来たぐらいのタイミングで、2機が重なっているように見えてきます。

順光で気候も良く、機体の白と空の青がとても綺麗に表現できていると思います。実際の展示飛行では、この「ダブル・ナイフ・エッジ」と「ハーフ・スロー・ロール」「バック・トゥ・バック」「カリプソ」の4種類の中から1つが披露されます。


課目名「デルタ・ループ」
EOS 6D/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/400mm/絞り優先AE(1/2,000秒、F6.3、+0.67EV)/ISO 400

向かって右側から進入してきて上昇し、ループ(宙返り)する課目。この写真はループの頂点から降り始めたくらいのタイミングですね。デルタ隊形の三角形も綺麗に収められています。手前にスモークが入っていることで、奥行きも感じられる構図になったと思います。


課目名「フェニックス・ループ」
EOS 6D Mark II/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/100mm/絞り優先AE(1/1,600秒、F6.3)/ISO 200

地上に展示してあるC-1輸送機は順次退役しており、今年の航空祭ではラストフライトとセレモニーが行われます。この写真ではその展示機とフェニックス・ループを絡めて撮影してみました。先ほどのデルタループと動きは同じですが、隊形が異なります。デルタ隊形よりも両端が広がり、後方の4番機がフェニックスの尾っぽをイメージしています。

このフェニックス隊形は東日本大震災の後にできたもので、復興への願いが込められています。


課目名「フェニックス・ループ」
EOS 6D Mark II/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/400mm/絞り優先AE(1/1,600秒、F6.3)/ISO 400

続いても「フェニックス・ループ」の課目から。先ほどのシーンからループするために上昇していったところですね。最初は展示機と絡めるために引いて撮って、こっちはアップに切り替えて撮るといった感じです、ブルーインパルスは動きが速いので、ズームレンズだとこういう切り替えもやりやすいです。

フェニックスはデルタに比べて少し横に広い隊形です。なので、少し引かないと全体が入らない可能性もあります。フェニックスかデルタか、というのはその日のパイロットのブリーフィングで決まるので、見られるのはどちらかになります。

もっと言うと、このように上昇したりと高度が変わる課目については、雲の状況によっても実施可否が変わります。気象条件もイベントの中で常に変わる可能性のあるものですから、そういった部分も楽しんでもらいたいです。


課目名「インバーテッド&コンティニュアス・ロール」
EOS 6D/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/400mm/絞り優先AE(1/1,600秒、F6.3、+0.67EV)/ISO 400

こちらは5番機の単独課目です。普通の飛行機はしない背面飛行をたくさんするため、5番機の代名詞とも言われています。ずっとこの背面のまま会場前を通り過ぎて、右側で急上昇。そこから降りてきてまた会場に戻ってくる。そして戻ってきた時にまたぐるんっと回転して抜けていきます。5番機の見所です。


課目名「バーティカル・クライム・ロール」
EOS 6D Mark II/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/400mm/絞り優先AE(1/1,000秒、F6.3)/ISO 200

こちらも5番機の単独課目。左から進入してきて、会場正面で急上昇しながら回転します。単独課目があるのは5番機と6番機のみです。何番機かによってそれぞれ役割やポジションが決まっているので、そういうのを覚えていくのも面白いですよ。そうしてどんどん深みにハマっていく……。


課目名「コーク・スクリュー」
EOS 6D Mark II/EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM/153mm/絞り優先AE(1/1,600秒、F6.3)/ISO 200

「コーク・スクリュー」は5番機と6番機による課目です。これも雲の位置によってどこを飛ぶかが多少ズレる場合があります。横になる場合もあれば、真正面に来ることもある。必ずしもこのように飛ぶ、ということが言いきれないので難しいのですが、状況を見て構図を決めていきたいところです。


見上げる人々とキューピッド
EOS 6D Mark II/EF8-15mm F4L FISHEYE USM/15mm/絞り優先AE(1/800秒、F8.0、+0.67EV)/ISO 250

キューピッドやスタークロスといった描きものは、広角で会場の雰囲気を絡めながら撮るのがおすすめです。家族やお友達と行った場合は、こういう雰囲気で記念写真も撮れますよ。

F値は開放よりも少し絞った方が、風景としてくっきり写せるでしょう。この広角の場合は、機体をアップするときほどシャッタースピードを速くする必要もありません。


入間航空祭開催概要

  • 開催日:2024年11月3日(日)
展示飛行(予定)
  • EC-1:09時30分~09時40分
  • CH-47J:09時50分~10時10分
  • U-680A:10時15分~10時35分
  • T-4:10時45分~11時05分
  • C-2&C-1&U-4:11時10分~11時30分
  • BLUE IMPULSE:13時00分~14時10分
  • C-1(#31) LAST FLIGHT:14時10分~14時25分
本誌:宮本義朗