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12月14日(土)に見頃を迎える「ふたご座流星群」撮影ガイド

星景写真家・北山輝泰さんが教えてくれた撮影テクニック

E-M1MarkIII/M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO/12mm/マニュアル(15秒、F2.8)/ISO 1600

冬の天体イベントの代名詞の1つといえば「ふたご座流星群」。国立天文台によると12月14日(土)に極大を迎え、1時間あたり60個の流星が現れるという。

カメラを持っているものの、流星群撮影は初めてという人に向けて、天体写真家の北山輝泰さんに、ふたご座流星群の撮影テクニックについて詳しく話を聞いた。

今年の特徴と撮影タイミング

今年のふたご座流星群は満月に近い月齢となり、特徴的な年となるという。一般的に月明かりは星空撮影の大敵とされるが、これを活かした撮影プランを立てることで、独特の表現が可能とのこと。「22時頃、月は東南の空に位置するため、北西方向を撮影することで月光の影響を最小限に抑えられます。逆に月を画角に入れることで、幻想的な雰囲気も演出できます」と北山さん。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO/8mm/マニュアル(10秒、F1.8)/ISO 1600(撮影:北山輝泰)

撮影するには21時からが好条件になるとのこと。3時間ほどの撮影で、インターバル撮影を活用すれば約1,000枚程度の写真が撮影可能。ただし月明かりの影響も鑑みると、実際に流星が写るのは1時間に1枚程度と見込まれる。

OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO/8mm/マニュアル(10秒、F1.8)/ISO 1600(撮影:北山輝泰)

天気に応じて移動できるように、撮影場所は複数箇所に目星を付けておくとよいという。北山さんの場合は自宅を中心に500km圏内で複数の撮影場所を選択。当日の天気を見つつ撮影場所を決めるそうだ。

推奨の撮影機材

使用するレンズは広角域のものが推奨される。14〜24mm程度の焦点距離が理想的で、特に14mm F1.8クラスの明るいレンズであれば、より多くの光を取り込めるため、低感度でノイズの少ない写真が撮影できる。

α7S III/FE 14mm F1.8 GM/14mm/マニュアル(15秒、F1.8)/ISO 1600(撮影:北山輝泰)

三脚も重要な装備の1つで、場所によって使い分けているとのこと。車で行ける場所なら重量級の安定した三脚、登山が必要な場所なら1kg未満の軽量モデルを使用しているという。

冬場の撮影で特に重要なのがレンズヒーター。2時間ほどの撮影で、レンズに露や霜が付くことは珍しくない。ヒーターなしでは、300枚撮影して290枚が使い物にならない、といった事態も起こりうるため、準備しておこう。

カメラの基本設定

流星群の撮影では、インターバル撮影が必須となる。シャッタースピード8秒で撮影した場合、1分間に約6枚、1時間で360枚の撮影が可能となる。このように大量の写真を連続して撮影することで、流星の瞬間を捉えられる確率が高まる。

α7 III/タムロン 28-75mm F/2.8 Di III VXD G2 (A063)/31mm/マニュアル(10秒、F2.8)/ISO 1600(撮影:北山輝泰)
OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO/7mm/マニュアル(15秒、F2.8)/ISO 3200(撮影:北山輝泰)

露出設定は、基本的に絞りを開放とする。月明かりがある場合でも、暗部のデータを確保するため、通常より明るめの露出設定を推奨とのこと。シャッタースピードは8〜10秒、ISO感度は現場の明るさに応じて調整する。

「インターバル撮影中はカメラから離れがちですが、定期的な確認は欠かせません。特にピントのズレやレンズの結露などをチェックすることで、より確実な撮影が可能となります」と北山さんは指摘する。

電源管理も重要な要素となる。冬の夜間撮影では、低温によるバッテリーの消耗が激しい。ミラーレスカメラの場合、モバイルバッテリーを使用して給電しながらの撮影が効果的だ。予備バッテリーは体温で温められるポケットなど、保温された場所での保管が推奨される。

撮影テクニックのポイント

意外なことに、「必ずしも明るい星でピントを合わせればベストというわけではありません」と北山さん。やや暗めの星(3等級程度)を使うことで、ピントが合っていないと星が見えなくなるため、正確なフォーカシングが可能となるとのこと。冬場だと東の空に見える「アルデバラン」がおすすめだという。

構図については、空だけを撮影するのではなく、特徴的な地上風景を入れることで、その場所でしか撮れない1枚になる。ただし、月明かりがある場合は、光と影のコントラストが強くなるため、露出設定に特に注意が必要だ。

E-M1MarkII/M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO/8mm/マニュアル(10秒、F1.8)/ISO 1600(撮影:北山輝泰)

強い輝きを放つ流星「火球」が流れた際は、すぐに撮影を中断せず、最低10分は継続することを推奨する。火球の通過後に残る「流星痕」は貴重な天体現象の1つで、インターバル撮影を継続することで、この神秘的な現象を記録できる可能性がある。

流星と人工衛星の見分け方

夜空には流星以外にも、様々な光の軌跡が記録される。北山さんによると、現在地球の周回軌道上には約1万2,000機の人工衛星が存在するという。そのため、撮影した写真に写る光跡が流星なのか、それとも人工物なのか、見分けることが重要になってくる。

「流星は線の太さに強弱があり、色味を帯びているのが特徴です。また、光の軌跡に濃淡が見られることも。一方、人工衛星は均一な明るさと太さの線として写ります」と北山さんは説明する。

流星
α7S III/FE 14mm F1.8 GM/14mm/マニュアル(15秒、F1.8)/ISO 3200(撮影:北山輝泰)

国際宇宙ステーション(ISS)の場合は、非常に明るく、長い時間かけて空を横切る。人工衛星よりもさらに明るく、その軌跡も長くなる特徴がある。

国際宇宙ステーション(ISS)
OM-1/M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO/8mm/マニュアル(15秒、F1.8)/ISO 3200(撮影:北山輝泰)
人工衛星
右上に移る細い直線的な線が人工衛星
α7S III/FE 20mm F1.8 G/20mm/マニュアル(15秒、F1.8)/ISO 3200(撮影:北山輝泰)

飛行機の場合は断続的な点滅光として記録される。点滅するストロボ光の連続として写るため、他の天体や人工物とは明確に区別できる。

飛行機
EOS R/タムロン SP 35mm F/1.4 Di USD/35mm/マニュアル(13秒、F1.4)/ISO 3200(撮影:北山輝泰)

星空撮影における安全管理とトラブル対策

夜間の星空撮影において、北山さんは複数人での行動を強く推奨するという。その背景には、機材管理から安全確保まで、様々な理由がある。

長時間の撮影中、トイレ休憩や機材の交換時など、一時的に撮影場所を離れる場面は避けられない。また人気スポットでは、撮影者以外の見学者も多く訪れ、モニターを覗き込まれたりすることも珍しくないという。

冬場の夜間撮影では、防寒対策も重要となる。「寒さによる体調管理や機材トラブルが発生した際も、複数人であれば対応がスムーズです。また不審者への抑止力としても、グループでの行動は効果的です」と北山さんは説明する。

特に初心者は経験者との同行を推奨。撮影技術の向上だけでなく、現場でのトラブル対応のノウハウも学ぶことができる。

α7 III/タムロン 17-28mm F/2.8 Di III RXD/17mm/マニュアル(15秒、F2.8)/ISO 3200(撮影:北山輝泰)
E-M1MarkII/M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO/7mm/マニュアル(30秒、F2.8)/ISO 3200(撮影:北山輝泰)
本誌:佐藤拓