特別企画
EOS Rシステムで使うSIGMAレンズ【スナップ編】
日常の中で見つけた初夏の彩り…12-24mm F4 DG HSM | Art・24-35mm F2 DG HSM | Art・70mm F2.8 DG MACRO | Art
2021年6月29日 17:00
「EOS R5」「EOS R6」が昨年発売され、キヤノンのフルサイズミラーレスカメラが改めて注目されました。
同時に、キヤノン純正のRFレンズにも魅力的な製品が揃ってきました。ただ、隆盛を誇った一眼レフEOS(EFマウントレンズ)のラインナップにはまだ達していないのも確かです。
この連載は、EOS RシリーズのボディにSIGMAのEFマウントレンズを装着して、その画質や作品表現について確かめるものです。定評あるSIGMAレンズが、最新のEOS Rシステムでどのような魅力を見せてくれるのでしょうか。
第1回は「スナップ編」として、フォトグラファーの鈴木さや香さんに撮影と解説をお願いしました。
東京都出身。東京造形大学環境造形学部卒業。写真家 山岸伸に師事し独立。広告写真を撮る一方で、日常で空白になってしまう記憶にやわらかく焦点をあてた写真作品の発表をしている。
また写真プリントを暮らしに溶け込ませる独自の活動を行うため、一般社団法人 写真と暮らし研究所を立ち上げ、鎌倉にて写真と暮らしの店Atelier Piccoloを営む。
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今回登場するのは 「12-24mm F4 DG HSM|Art」「24-35mm F2 DG HSM|Art」「70mm F2.8 DG MACRO|Art」 の3本です。
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使い勝手の良さで日常スナップの主役に……24-35mm F2 DG HSM|Art
「非常に使い勝手がいい」——このレンズに抱いた感想だ。純正のキヤノンRFレンズにはない広角域のF2通しという点で、ほどよい俯瞰視点や距離感をより強調して撮れたように思う。ただアダプターを着けると尚更だが、わたしの手にはちょっと大きいし重い。けれどもその重さを抱えてでも、撮りたい画が撮れるのなら集中できる。画質がそれ以上の期待を超えてくれれば重さの問題はさほどないのだ。自分は焦点距離50mmで広さや俯瞰の目線をだそうとしていることが多いが、今回このレンズを使用してみて、ゆがみの少ない広角なので、50mmよりも素直な気持ちで広い画を意識できることがわかった。嬉しい発見だった。
使用したボディは「EOS R6」。このカメラは手に馴染むし使い心地が良い。そこにやや大きめのレンズを装着するのだが、バランスはそんなに悪いと感じなかった。キヤノン純正のRFレンズ達もそれなりの重さがあるので、それに慣れているということもある。また、このレンズだけを持ち歩いてみたが、自分のような作風には物足りなさはなかった。欲張りにならないで撮るという意識や、SIGMAレンズを以前から使用しているので描画力に頼りがいがあることを心に留めていたからかもしれない。AFに関してはアダプターを介していることもあり、純正RFレンズの速さと比べるとワンクッションあるとは思ったが、自分の作風的にあまり気にはならなかった。
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ファーストショット。35mm端でいつもの日常を撮ったが、他愛のない景色を作品に仕上げられるレンズとカメラの可能性を感じた。
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最短撮影距離は28cmということもあり、小さなものにもしっかり寄れる。広角側で寄ったがゆがみが少ないので実際の見た目っぽくていい。
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急に現れたトンビを広角端で捉える。風にのる様を気持ちよく捉えるのに焦点距離24mmは丁度よい。この程度の撮影なら、マウントアダプター経由でもAFにタイムラグは感じられない。
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自生する紫陽花を煽りながら撮影。背景の玉ボケが美しい。西日が強くややフレアが入るが臨場感の延長だと思う。
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このレンズの広角端は気持ちよく写る。誇張されたような違和感がないので、構えずに楽に広角を使える。
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このレンズの柔らかいヌケは、ずっと見ていられる。逆光でも被写体をちゃんと捉える力があるので安心して任せられる。
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夕立の後の日が暮れていく様子をシャープに。こういった写真の黒にノイズが目立つと気になってまうが、特に感じない。
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夜まで一日使い倒して見ると、この一本で満足のいく写真が多く撮れていることに気づく。ゆがみの少ない明るい広角レンズは重宝できる。
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新鮮な感覚を呼び起こすレンズ……12-24mm F4 DG HSM|Art
次に紹介するレンズ「12-24mm F4 DG HSM|Art」は、焦点距離12mmからという超広角域をカバーするズームレンズだ。こちらも純正のレンズのラインナップにはない焦点域のレンズになる。超広角を使う場所は絶景や風景などを思い描く人も多いかもしれないが、日常の景色に使うと一気に旅感や、新しい目線を発見できるという楽しいレンズだ。広角は被写体を省くのが難しいため、散漫になりやすく、更にパースがつきやすい。けれども、人の目にはないスケール感が旅先のような新しさを見せているように思う。12mm端では、パースがかなりつくため斜めの切り取り方で奥行きをだそうとすると、誇張しすぎてしまう。そうならないよう、被写体とは正対し、その場所の空気を撮るように使用した。
正直いってスナップで使うには、なかなかの大きさ・重さだった。けれども、ひたすら待つような瞬間の撮影ではなく、自分の気持ちに添ってカメラを動かしていたのもあって、大きさ・重さよりも超広角のなかで風が流れていくような感覚が楽しかった。レンズの写りがしっかりと見せる在り方なので、コントラストを下げてややハイキーにすると、力強さがぬけた夏っぽい画になった。
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緑と黄色の色が連なって可愛らしい電車を超広角12mmの画角でおもちゃのように撮った。こういう連続性のある被写体にはぴったりだ。
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自分の足元をタイトに切り取る写真は多くの人が撮っている。けれども12mmの超広角で撮ると、小さなこじんまりした世界ではなく、空間が続き大らかな世界が生まれる。
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何気ない景色に、超広角は旅先で見つけたようなはっとした瞬間を発見させてくれる。パースが派手につかないよう主役は真ん中に。
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マクロと日常風景を切り替えて撮る……70mm F2.8 DG MACRO | Art
70mm F2.8 DG MACRO | Artは抜け感のよいマクロレンズだが、接写ばかりではなく、通常の中望遠レンズとしても使用できる2WAYレンズだ。レンズの側面にある切り替えスイッチで、0.258〜0.5m/0.5m〜無限遠/FULLにフォーカスレンジを変えることができ、これによりあるときはマクロレンズ、あるときは中望遠レンズといった具合に使い分けられる、機動力に優れたアイテムだ。
例えば家の中やごちゃごちゃした物がある場所では、画角は少しタイトのほうが洗練した世界観をつくりやすい。70mmという焦点距離が上品な切り取り方をさせてくれる。加えて静物だけではなく、子どもやペットなどを撮る人にもかなりおすすめできる理由は、スイッチ1つ切り替えるだけで被写体をパーツから空間へと移行でき、バリエーションがいろいろと増えるので、撮り逃がす瞬間が少なくなるからだ。動き回るような被写体に、この使い勝手の良さは嬉しい。
このレンズは鏡筒自体が細いので、圧迫感がない。EOS R6にぴったり合う大きさと重量感だ。今回使用した3本のレンズのなかでいちばんしっくりくる感触だった。ただ気になる点といえば、レンズの駆動音がそれなりに大きいので、静かな場所で集中しているときにはちょっと気になる音量だが、今回のように普通の家の中や、散歩の途中での使用であれば全く問題ないと思った。
「カミソリマクロ」というその愛称から、自分のテイストとデジタル的なシャープな鋭い写りが合うだろうかと不安に思っていたが、シャープである一方、柔らかいトーンやボケが繊細に表現できるので、幅広いスタイルの写真で活躍できそうだと思った。
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レンズ横のフォーカスレンジ切替スイッチは、0.258〜0.5m、0.5m〜∞、FULLと3段階あるので、接写だけにとらわれずに、バランスの良い画角を探せる柔軟なレンズだ。
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ピントの合っている部分ではかなりシャープでありながら、柔らかいボケと質感の描画力によってアナログ感のある懐かしいテイストにもなる。
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雑多な家の中にある季節を感じさせる物を、写真の中になにげなく入れ込むには70mmは使い勝手が良い。まずはこのレンズから日常写真をはじめるのは現実的だと感じた。
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まとめ
EOS Rシリーズは新しいシステムということもあり、まだレンズのバリエーションはゆとりがあるわけではない。そんな中、自分にあうレンズを探しだす楽しみは、純正ラインナップからはもちろんだが、互換性のしっかりしている他メーカーのレンズバリエーションに広げてもいいように思う。
SIGMAは多くの人がすでに知っている通り、描画力に優れ、ぼけの美しさはとくに素晴らしい。そこに目を向けつつ、やっぱり値段がリーズナブルであることも選ぶポイントとなるだろう。
レンズとは、後処理ではどうしようもできない臨場感を表現する大事なアイテムのひとつ。そのアイテムの種類を増やすことは、新しい目線や概念の発見に結びつく。今回の3本のレンズを使用して、わたしも新たな発見がいくつもあった。普段どうしても50mmを愛用するのに慣れていることもあって、思いつきが偏りがちになってしまう。このSIGMAのレンズをバリエーションの一つに加えることで、さらなる作品作りの土台に安定感を持たせていきたい。
制作協力:株式会社シグマ