特別企画

手元の露出計でモノブロックストロボを楽々操作…broncolor+セコニックL-858Dの使い勝手を試してみた

株式会社セコニックのフラッシュメーター「スピードマスターL-858D」は、同社の最上位モデルの単体露出計だ。入射光式、反射光式(スポット受光角1度)の両方で測光ができる。他にも、フラッシュ閃光時間の測定やハイスピードシンクロの露出測定が可能。プロの現場で広く使われている。

セコニック「スピードマスターL-858D」。カメラ系量販店での販売価格は7万4,000円前後(税込)。

11月6日、そのL-858Dに組み込む専用トランスミッター2機種が発売された。broncolor(ブロンカラー)RFS2.1対応の「RT-BR」とGodox(ゴドックス)2.4GHz対応の「RT-GX」の2種類だ。希望小売価格はいずれも税別1万3,600円。

L-858Dにbroncolor対応トランスミッター「RT-BR」(税別1万3,600円)を取り付けることで、broncolor RFS2.1対応ストロボのコントロールが可能になる。

専用トランスミッターをL-858Dの電池ボックスに装着すると、L-858Dから対応するストロボ製品の発光や光量調整といったワイヤレスコントロールが可能となる。なお、同様のトランスミッターはElinchrom/Phottix用の「RT-EL/PX」が既に発売されている。

※なおすでにL-858Dを所有していて「RT-BR」もしくは「RT-GX」を購入する場合、使用前にファームウェアの更新が必要となる。

筆者はブロンカラーユーザーなので、今回は、所有しているL-858Dにブロンカラー用の「RT-BR」を組み込み、使用してみた。L-858Dでコントロール可能なブロンカラー製品は、RFS2.1/2.2受信機を搭載したブロンカラーストロボだ。

ブロンカラー製品は、スイスに本社を構えるブロン社が製造している。そのフラッシュシステムは、素早い閃光時間を実現するカットオフ技術や、全ての出力で安定している色温度などの高いテクノロジーに支えられており、長いあいだプロの世界で親しまれてきた。

筆者は1年ほど前にライティング機材をすべてブロンカラーに変えた。光がきれい、というのが大きな理由だ。直当てしただけでも色や質感が美しく描かれる。ブロンカラーに変えてから、ストロボライティングがとてつもなく楽しくなった。今後絶対に手放せない機材のひとつだ。

現場では、ブロンカラーのモノブロックストロボ「siros」を使用している。今回撮影で使ったのは、sirosの中でもバッテリー内蔵型の「siros 400L」だ。

ブロンカラーには「bron Control」という、ストロボを無線で遠隔操作できる無料アプリがある。Wi-Fi対応のスマートフォンかタブレットがあれば、インターネット接続がなくても利用できる。

スマートフォン用のアプリ「bron Control」。手元からストロボを遠隔操作できるアプリだが、L-858Dからの操作で代用できるようになった。

今までの現場では、「bron Control」で光量調節と発光テストを行い、その結果を露出計で測る、という流れで進めてきた。

ただ、現場で最も大切なのはストロボの光量そのものではなく、露出の測定値がどうなっているか、である。だから、光量調節のできるL-858Dが出ると聞いたときは、本当に嬉しかった。L-858Dが1台あれば光量調節もでき、露出も測れる。これを待っていた! という気持ちでいっぱいになった。

◇   ◇   ◇

例1:Octaboxを装着したsiros 1灯での撮影

基本カット

EOS R / Otus 55mm F1.4 ZE / マニュアル露出(1/125秒・F8.0) / ISO 100

使用機材・ライティング

broncolorのバッテリー内蔵型モノブロックストロボ「siros L」。400Wsの「siros 400L」、800Wsの「siros 800L」が用意されている。
Octaboxは75cmと150cmから選べる。

まずは、150cmのOctaboxを付けたsiros400Lをモデルの左斜め前に置き、ライティングしてみる。人物撮影における非常にスタンダードな手法だ。150cmのOctaboxは瞳に丸いキャッチがきれいに入るので重宝している。

ではL-858Dを使い露出を測ってみる。無線でsirosを操作するには以下の手順が必要になる。

①測定画面で[測定モード]にタッチし、[フラッシュ光電波トリガーモード]を選ぶ。

②測定画面に戻り、[ツールボックス]アイコンをタッチする。

③ツールボックス画面2ページ目の[電波スタジオ/ランプ]をタッチする。

④使用する「Studio」と「Lamp」を選択し[OK]を押す。

⑤測定画面に戻り[フラッシュパワーコントロール]アイコンをタッチする。設定したランプチャンネル(ここでは「1」)を選択し、測定ボタンを押すとストロボが発光し、露出の測定ができる。

⑥発光量を増やしたいときは「+」を、減らしたいときは「-」を押すと0.1ステップずつ調節できる。一気に1段分変更したいときは「+」か「-」を長押しする。

⑦モデリングランプを点灯/消灯させたいときは、左下の[モデリングランプオン/オフ]アイコンをタッチする。

測光した場所は?

今回はわかりやすい入射光式で測光した。向かって左側の頬がF8.0になるよう調整した。そのままほかの場所も測ると、右頬はF5.6、背景は4.0 5だった。顔の左右で1段の露出差があるので、右側にうっすら影が出る。また、メインの左頬と背景の露出差は1段半なので、背景はややグレーになる。ということが、撮る前にすでにわかる。

カラーメーターも使ってみる

ちなみに、撮影前に「スペクトロマスターC-800」を使用してストロボの色温度も測定した。筆者は色温度が5500Kのsirosを使用している。実際の測定値も5500Kだったので、カメラ側の色温度は「5500K」に設定した。

L-858Dからの操作について

タッチパネル式のL-858Dは操作も直感的に行えて使いやすい。それに加えて1台のL-858Dで露出+ストロボの発光量を設定できるのは「便利!」の一言に尽きる。ストロボが手の届きづらい場所にセッティングされているような場合でも、遠隔操作ができるので大変ありがたい。間違いなくスタジオワークの効率が飛躍的に向上する。

siros本体のインジケーターもほぼ遅延なく連動して動いてた。

バリエーション

150cmOctaboxで顔の左右の露出差が1段くらいのライティングを行うと、良い意味でフラットなので、どんな人にも応用しやすい。

EOS R / Otus 55mm F1.4 ZE / マニュアル露出(1/125秒・F8.0) / ISO 100

モノクロにすると顔の陰影感がわかりやすい。左右の露出差が1段くらいだと、この程度の陰影感がつく。

EOS R / Otus 55mm F1.4 ZE / マニュアル露出(1/125秒・F8.0) / ISO 100

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例2:Octabox 1灯+後ろからグリッド1灯

基本カット

EOS R / Otus 55mm F1.4 ZE / マニュアル露出(1/125秒・F8.0) / ISO 100

(使用機材とライティングの意図)

先ほどのライティングに後ろから1灯を加えた。

次は、向かって左斜前に置いたOctaboxに加え、右斜め後ろにもう1灯追加し、モデルの右後頭部を狙うような角度にセッティングした。これは、モデルの髪の毛にハイライトを入れるためだ。光が広がりすぎないよう、グリッド(2番)を装着している。なお、追加したストロボは「Studio1 Lamp2」に設定してある。

この画面で[1]を押し、さきほどと同じように向かって左側の頬で測定し、F8.0になるように調整する。

次に、[2]を押し、モデルの髪の毛のハイライトが入るあたりを測定する。メインライトの+1段くらいの露出だとハイライトが自然に仕上がるので、F11になるように調整する。

この状態で別の場所を測定すると、右頬はF5.6、背景は4.0 5だった。ハイライト部以外の露出の値は、最初のカットと同じである。

正面からの1灯だとのっぺりした印象になりやすいが、ハイライトを入れることによって絵にわかりやすい立体感が生まれ、生き生きとした雰囲気に仕上がる。

2灯になったときの注意点

ここで、ひとつだけ注意することがある。2灯以上を測定する場合、測光時にすべてのストロボが発光してしまう。今回でいうとLamp2を発光させると、Lamp1も光ってしまう、ということだ。これはブロンカラー側の仕様らしい。したがって、測光時は、他のストロボの光が入らないよう、手などで遮って測光する必要がある。

また、「bron Control」と併用し、そちら側でストロボのオンオフを切り替える、という手もある。

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例3:Para 1灯

基本カット

EOS R / Otus 55mm F1.4 ZE / マニュアル露出(1/125秒・F8.0) / ISO 100

Para(パラ)とは

深さが特徴のPara。独特の表現を好むフォトグラファーは多い。

今度はParaを付けたsirosでライティングしてみる。Paraは、パラボラ型をした大型リフレクターだ。24面の反射面から得られる直進性のある光が特徴的。被写体の輪郭がくっきりと浮き上がるような描写が魅力だ。sirosの灯体の位置によって光の柔らかさを変えられるため、サイズ自体は大きいが、Paraそのものを動かさなくても良いので意外とセッティングは楽だ。筆者もプロフィールや舞台のフライヤー撮影でよく使う。

Para133にsirosを装着し、モデルの向かって左斜め前に置きライティングする。sirosの灯体の位置はParaの真ん中あたり。光はややかためになる。

露出は、向かって左側の頬がF8.0になるよう調整した。右頬はF5.6、背景はF2.8だった。顔だけ見ると、左右で1段の露出差がある。これは最初のカットと同じだ。ただ、比べてみると印象はだいぶ違う。光の量が同じなので陰影感は似ているが、光の質が違うので印象は異なる。

バリエーション

Paraを使うと直進性のある光がモデルに当たり、くっきりと、肌が光るような描写になる。メイクもそれに負けないように強めにしてもらった。

EOS R / Otus 55mm F1.4 ZE / マニュアル露出(1/125秒・F8.0) / ISO 100

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例3:Para 1灯+ブロアー

基本カット

EOS R / SP 85mm F/1.8 Di VC USD / マニュアル露出(1/125秒・F8.0) / ISO 100

風を使って髪に動きを出す

ライティングはさきほどと同じPara1灯で、顔の露出も同じ。モデルにしゃがんでもらい、サイコロに手を置くポージングをとってもらった。さらに、ブロワーでモデルの髪をなびかせ、動きのある一枚に仕上げてみた。

バリエーション

モノクロにしてもかっこいい。Paraの唯一無二な質感がとても好きだ。男性の撮影でもよく使う。

EOS R / Otus 55mm F1.4 ZE / マニュアル露出(1/125秒・F8.0) / ISO 100

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例5:Para 1灯+後ろから1灯+ブロアー)

基本カット

EOS R / Otus 55mm F1.4 ZE / マニュアル露出(1/125秒・F8.0) / ISO 100

動いた髪に光を入れる

向かって左斜前に置いたParaに加え、右斜め後ろにモデルの髪の毛にハイライトを入れる1灯を追加した。大胆にハイライトを入れたかったので、グリッドは装着していない。なお、追加したストロボは「Studio1 Lamp2」に設定してある。

メインとなる左頬をF8.0にし、ハイライトはしっかりと入れたかったのでメインの+2段であるF16となる調節した。

さらにブロワーでモデルの髪を動かした。動いた髪の毛にハイライトが入り、キラキラとした印象になった。

基本カットの部分拡大。短い閃光時間により、激しく動いていた髪の毛が止まったように描写されてる。

L-858Dは、測定モード選択画面で[フラッシュ光解析電波トリガーモード]を選ぶと、露出だけではなく、ストロボの閃光時間も測定できる。

閃光時間を波形グラフと数値で表示し、光のピークをビジュアルで確認することもできる。

sirosは、設定した出力に到達するとすぐに発光を切る独自のカットオフ機能を備えているため、従来ならば長い時間をかけて出す光量を、短時間で出せる。ゆえに閃光時間が短くなり、高速で動くものもピタリと止めて写すことができる。この場合だと、ブロワーで揺れる髪の毛もしっかりと止まっていることが確認できる。

L-858Dは閃光時間をグラフで表示できる。

バリエーション

モノクロにすると髪のハイライトがより強調されて見える。

EOS R / SP 85mm F/1.8 Di VC USD / マニュアル露出(1/125秒・F8.0) / ISO 100

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撮影を終えて

いままで、「bron Control」で光量調節を行い、L-858Dで露出を測る、という流れで撮影を進めてきた。ただ、ワガママかもしれないが、撮影中に2つの道具を使うのはやや面倒である。L-858D 1台で光量調節と露出の測定ができたらどんなにいいだろうと、何度思ったかわからない。

そんな夢が急に叶ってしまった。撮影中はずっと「この製品を待っていた!」と心の中で叫び続けていた。露出計があればストロボを用いた撮影はスムーズに進むが、光量調整まで1台で済んでしまうと、さらに倍くらいの速度で撮影を進められるように感じた。実際に今回の撮影も相当早く終わり、スタッフに「早いですね」と言われた。

RFS2.1/2.2受信機を搭載したブロンカラーストロボをお持ちの方は、この製品を買わない理由がない。私は絶対にこのL-858Dを機材のスタメンにする。

もともと楽しかったブロンカラーストロボを用いた撮影が、新しいL-858Dのおかげで、さらに快適で、充実したものになりそうだ。

モデル:川口紗弥加
ヘアメイク:TOSHI-O

大村祐里子

1983年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。有限会社ハーベストタイム所属。雑誌・書籍での執筆やアーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動。