特別企画
“重ね付け”に強い!ケンコーZX NDフィルターの実力を探る
「フローティングフレームシステム」がもたらす解像力を検証してみた
2017年4月26日 08:00
ケンコー・トキナーの「ZX(ゼクロス)」フィルターが登場したのは2016年11月のこと。その特徴はフローティングフレームシステムにある。
それまでのフィルターはリングによってガラスを固定していたが、ガラスに負荷がかかるため平面性を保つことができなかった。しかし、ZXフィルターは特殊弾性緩衝剤を採用したフローティングフレームシステムにより負荷を大幅に軽減。無駄な力でガラスを挟み込まないことから平面性が向上、ゆがみの少ないクォリティーの高い画像を得ることができるようになった。
最初に発売されたZXフィルターは、レンズ保護用のプロテクタータイプだった。そして2017年4月14日、そのZXフィルターに、自然風景撮影に欠かせないNDフィルターがラインナップに加わった。
実際にフィールドに持ち出してその実力を試してみたのでご報告させていただこう。
フード干渉はどうなった?
最初に発売されたZXプロテクターでは、一部のレンズでレンズフードにフィルタ枠が干渉する問題が起きた。特殊な構造ゆえのことで、その後、干渉が起きないよう改良された「ZXプロテクターSLIM」が登場している。
ZX NDフィルターは、ZXプロテクターSLIMと同様、レンズフードへの干渉が起きにくい設計となっている。(編集部)
改めてNDフィルターとは?
NDフィルターとは光の量を減らすためのフィルターで、ニュートラル・デンシティー(Neutral Density)フィルターの頭文字をとってこの名がついている。光の波長を問わず均等に光量を減らすことができるフィルターだ。
風景撮影では日中の滝や渓流など水の流れをぶらして撮影したいシーンで、絞りやISO感度などのカメラ機能だけで十分なスローシャッタースピードが得られないときに使用する。
また、ギラギラと光が照りつけるような真夏の浜辺や晴天の雪景色などで撮影するとき、単焦点レンズや大口径ズームレンズで開放絞りを選択すると、シャッタースピードが頭打ちとなり撮影できないケースがある。そのようなケースにもNDフィルターは有効だ。
NDフィルターに付けられている番号は光の量を何分の1に減光するかを示している。ND2は1/2、ND4は1/4、ND8なら1/8、ND16なら1/16に光量を落とすことができることをあらわしている。絞り段数なら、ND2は1段、ND4は2段、ND8は3段、ND16は4段分に相当する。
たとえば、ISO100、F11、1/125秒で撮影できるシーンがあったとすると、ISO感度とF値を変えずに撮影した場合、ND2を装着すれば1/60秒、ND4なら1/30秒、ND8なら1/15秒、ND16なら1/8秒のシャッタースピードで撮影できることになる。
ZX NDフィルターを使ってみる
ZX NDフィルターの外枠は、内面反射を抑える効果のある艶消し黒アルマイト処理が施されており質感も良好だ。ゴールドの文字が品の高さを感じさせてくれる。
フィルターの先端はローレット加工が施されており、指がかりがよく装着時の操作性は高い。
加えて取付けねじ部分にドライルーブ加工が施されていることもあり、レンズへの装着もスムーズに行うことができた。急いで装着したい現場で、もたつくことなく機敏に装着できるのはありがたい。
ZX NDコートが採用されており、水や油分を強力に弾いてくれることは自然風景撮影ではとてもありがたい。
今回の撮影では滝に近づいて撮影しているが、滝から飛沫が飛んでフィルターに付着したものの、ブロアーで吹き飛ばすだけで簡単に水滴が弾かれクリーンな状態にすることができた。滝に限らず雨や霧など過酷な気象条件での撮影でも快適に撮影することができるだろう。指紋などがついても簡単にふき取ることができるので、撮影中のメンテナンスも容易だ。
重ね付けに強いのは本当か?
ZX NDフィルターは従来のフィルターに比べて平面性が高い。フィルターそのもののゆがみが少ない分、重ね付けにしても有利であると考えられる。そこで実際にフィールドに持ち出して検証することにした。
使用したのは、ZX NDフィルターのND8とND16の2種類。フィルター未使用、使用、重ね付けでそれぞれ撮影している。
重ね付けとは?
重ね付けとはレンズ先端に装着するフィルターを複数枚かさねて装着することをいう。
たとえば、ND16フィルターを装着したけれど、それでは十分に光量を落とすことができず、欲しいシャッタースピードが得られない、そこでND8フィルターを重ねて付ける、そんな場合だ。
NDフィルターを重ね付けするときの数値は、足し算ではなく掛け算で計算する。つまりND8とND16フィルターを重ねて使用する場合、8×16=128でND128相当となり、7段分相当の効果が得られる。前出したISO100、F11、1/125秒で撮影できるシーンなら1秒のシャッタースピードとなる。
濃度の異なるフィルターを重ね付けする際には、先に濃度の薄いフィルターを装着して、次に濃いフィルターを取り付けることがセオリー。
ふつう、入ってくる光が多ければ多いほど反射する光も多くなる。つまり被写体からの光を、先に濃いフィルターを通してできるだけ減らしておけば、それだけ通過する光量が抑えられることで内部反射を抑えることができる。
なお、重ね付けする場合、レンズを通して入ってくる被写体の明るさが極端に暗くなる。そのため、多分割測光では薄暗いシーンで撮影していると判断し、暗めに露出を選ぶ場合がある。そのため、必要に応じて露出補正を行うほうが良い。
重ね付けによる解像力の低下を見てみる
フィルターを装着しない画像と、ND8とND16を2枚重ね付けして撮影した画像を、パソコンのディスプレイで画像を交互に切り替えながらチェックしてみた。その結果、ゆがみ由来と思われる解像力の低下や偏りを明確に見出すことはできなかった。
一方、ガラスを2枚レンズの前に重ねていることによると考えられる解像力の低下はわずかにある。だがひどく目立だつものでなく、一般的な風景撮影では気になるレベルではない。重ね付けをせずにF22などの小絞りを選択したときの回折現象のほうがよほど解像感が消失する。重ね付けすることで、高解像感が得られるF8ないしF11を維持したまま、必要なスローシャッタースピードが得られることは高解像度のカメラにとっては大きなメリットだ。
なお若干色転びがあり、重ね付けするとその傾向が強まる。RAW現像時にホワイトバランスですこし調整すると改善される。
まとめ
検証結果からみても平面性の優れたZX NDフィルターは重ね付けによる撮影に有利であることは明白だ。
ND16だけでは十分にぶらすことができなかった被写体も、ND8と重ね付けすることで7段相当のスローシャッタースピードが得られるのだから使わない手はない。ND200などのフィルターもあるが、高濃度NDフィルターは使うシーンが限られてしまうことが多く稼働率は低い。むしろ汎用性の高いND8やND16フィルターを必要に応じて使い分け、あるいは重ね付けしたほうが使用効率は良いともいえる。
より緻密な描写を楽しみたい高解像度カメラの場合、画像をクォリティーを可能な限り維持できるZX NDフィルターの存在はありがたいといえるだろう。
ZX NDフィルター “重ね付け” ギャラリー
日中の渓流は光量も多い。そこで、重ね付けして1.6秒のシャッタースピードを得ている。画像周辺に至るまでゆがみ由来と思われる解像感の低下は感じられない。
広角単焦点レンズにND8とND16フィルターを重ね付けして使用してみたが、ケラレることなく撮影することができた。レンズにもよると思うので、一度確認したほうがよい。
光が強くあたる流れを綿のように表現したいと考えて撮影。フィルター単体では十分なスローシャッター速度が得られないが、重ね付けすることで1秒を確保することができた。
シャッタースピードによって流動感は大きく変化する。滑らかさと軌跡の美しさを両立させるためには1/6〜1/2秒程度。そこでND16を使い1/3秒を選択している。
緻密な描写に天敵の強い風も、味方につけると躍動感を表現できる。風で大きく揺れる桜をND8とND16フィルターを重ね付けして撮影。ダイナミックな躍動感が感じられるだろう。
制作協力:株式会社ケンコー・トキナー