特別企画

壮大なる風景を目指して――新雪の燕岳撮影紀行

D810と最新レンズ、そしてベルボンの三脚とともに

D810 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 15秒 / F2.8 / ISO800 / マニュアル露出 / 34mm

11月19~21日、小屋締め間近の北アルプス燕岳へ行ってきました。稜線に立つ燕山荘の情報によると今年も昨年に引き続き、11月末だというのに雪が少ないらしく、しかも入山日はかなりの雨が降る予報。この日は山麓の有明荘に泊って温泉を満喫し、天候の回復が予想される夜中の1時に山荘を出発することにしました。できれば森林限界を越えた稜線付近まで登り、朝焼けから撮影しようともくろみます。

初日は山麓の有明荘に入るだけなので東京をゆっくり出発し、安曇野インターで高速を降りて中房温泉方面へ向かいます。山が近づくと猿の群れに出合いました。車で近づいてもあまり逃げる様子もなく、仕方ないから退くと言う感じ。早速、発売になったばかりのAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRで試し撮りしました。

D810 / AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR / 1/100秒 / F2.8 / ISO400 / マニュアル露出 / 200mm

サポートが良いベルボンの三脚

自分の肩で撮影機材や装備を担ぎあげなければならない山岳写真では、できれば少しでも機材を軽くしたいところですが、カメラがデジタル時代になっても三脚は必要不可欠です。

感度を上げることができるデジタルカメラでは日中はそれほど三脚を使わなくても撮影できる機会が増えつつあることは確かですが、2,000万画素以上の高解像度タイプのカメラでは手ブレの影響が大きく、三脚を出しておけばよかったと後悔することもしばしばです。ましてやスローシャッターになりがちな朝夕、そして夜間ともなれば三脚は必須アイテムです。

私はもう10年以上、ずっとベルボンのカーボン三脚を使っています。大、中、小と3種類のカーボン三脚を行く山、登るスタイルに応じて使い分けています。ベルボンを使い続ける理由は、十分な性能を持ちながらも何かあった際にはスピーディに対応してくれるから。

以前は見栄もあって有名な海外メーカーの三脚を使っていましたが、ハードな使い方をする山岳写真の撮影では故障はつきもので、その度に修理に出すのですが、なかなかタイムリーに修理してもらえませんでした。その点、ベルボンはメーカーに直接持ち込めばすぐに対応してくれました。これが決め手でした。

今回の相棒はベルボンのプロフェッショナル・ジオV630。ロックナットを約90度回すだけで伸縮・ロックができる新ロック機構「Vロック」を採用し、スムーズな伸縮が可能になっています。エレベーター駆動部にスクリューギヤを採用しており、クランクハンドルで高さを調節できます。これに軽量設計のマグネシウム製3ウェイ雲台「PHD-65Q」を組み合わせました。

プロフェッショナル・ジオV630
PHD-65Q

カメラボディは3,635万画素FXフォーマットセンサーを搭載したニコンD810、レンズはAF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR、そしてAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRの3本。

D810
AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED
AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR
AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR

さて予報通り、夜には雨がやんで雲が切れ、木立の上にはオリオン座が輝くなか、ヘッドライトを灯しながら山荘を出発して中房温泉の登山口へ向かいます。

登山口からいきなり急斜面をジグザグに登って一気に高度を稼いで第1ベンチへ。その後、第2、第3そして富士見ベンチと標高を上げ、合戦小屋へと上がるころには少しずつ空が白み始めました。

急いで森林限界に近い合戦ノ頭まで登ると展望が開け、燃えるような朝焼けに染まる東の空と富士山が目に飛び込んできました。西側にはそれなりに雪をかぶった槍ヶ岳が天を突いています。

稜線まではもう少し時間がかかりそうなので、ここで撮影することにしました。早速三脚を立てて、カメラを乗せてスタンバイ。手前のブッシュが気になるため、三脚を目いっぱい伸ばし、さらにエレベーターを使って高さを稼いでうまく前景を処理していると真っ赤な太陽が上がってきました。

D810 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 1/20秒 / F14 / ISO200 / マニュアル露出 / 27mm

まずは感動的なご来光を撮ってからすぐに方向を変えて、今度は朝焼けに染まる槍ヶ岳と大天井岳を撮影しました。

D810 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 1/20秒 / F16 / ISO200 / マニュアル露出 / 60mm
D810 / AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR / 1/100秒 / F16 / ISO200 / マニュアル露出 / 170mm

山における三脚の使いこなし

朝の撮影が一段落し、さらに稜線に立つ燕山荘をめざして高度を上げ、やっと小屋に着いてしばらく休憩しているとさっきまで快晴だったはずが一気にガスが流れてきて、北アルプスの山々を隠してしまいました。

結局、この日は夕日が見れないどころか、夕方には雪まで降ってきましたが、それでも予報通り天候の回復は早く、夜の10時頃には満点の星が輝きだし、燕岳の左上空には天の川も見ることができました。

D750 / AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED / 30秒 / F2.8 / ISO2000 / マニュアル露出 / 14mm

そして待望の月の出を迎えました。まるで雲の絨毯のような雲海から昇る月は薄雲があってか眩しすぎず、ほんのりと雲海も照らして、オリオン座をはじめとする冬の星座たちとの相性も良い感じで撮影ができました。

D750 / AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED / 25秒 / F2.8 / ISO1600 / マニュアル露出 / 18mm
D750 / AF-S NIKKOR 14-24mm f/2.8G ED / 30秒 / F2.8 / ISO1250 / マニュアル露出 / 14mm

ところで山の稜線は風が強いことが多く、軽い三脚では飛ばされてしまう危険もあります。しかし、あまりに重い三脚は今度は担ぎあげるのに苦労します。そこで三脚のストーンバックに使わない機材をスタッフバック等にくるんで置き、(手頃な石が無かったために)重し代わりに使ってブレ防止をします。

三脚の伸ばし方
まず1本伸ばす。
それを支点にしてほかの2本も伸ばす。
脚は太い方から伸ばす。
ストーンバッグの使用例

ところでその三脚の立て方ですが、普通、三脚のうち1本を前に出す三角形を作り、底辺に入って撮影するというのが一般的です。しかし、これでは崖や柵などがある場合、あまり寄りきれず、手前に入れたくはいものが入ってしまうこともしばしばです。そんな時は三脚の2本を並行でギリギリに並べ、手前に突き出た1本の左に入り込むというやり方がよいでしょう。

風景写真に必須のPLフィルター

最終日の朝、残念ながら雲が多くて山が焼けることはありませんでしたが、視界は良好で、槍ヶ岳方面を撮影していると面白い雲が湧き上がってきました。

早速PLフィルターを装着して青空を引き締めて雲の輪郭を立たせます。デジタル時代になってカラーフィルターはほとんど要らなくなりましたが、やはりPLフィルターは風景写真にとって必要なアイテムです。

PLフィルター無し。D810 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 1/40秒 / F8 / ISO200 / マニュアル露出 / 26mm
PLフィルター使用。D810 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 1/40秒 / F8 / ISO200 / マニュアル露出 / 26mm

さて、せっかくだからとカメラを首からぶら下げて燕岳を往復することにしました。しばらく行くと有名なイルカ岩があるので記念撮影。その後無事に登頂を果たしてから帰路につきました。

D810 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR / 1/250秒 / F13 / ISO320 / マニュアル露出 / 46mm

制作協力:ベルボン株式会社

菊池哲男

山岳写真家。1961年東京生まれ。立教大学理学部物理学科卒。山岳・写真雑誌での執筆や、写真教室・撮影ツアーの講師、アウトドアメーカーのアドバイザーとして活躍。2016年7月に山と溪谷社より新しい写真集『アルプス星夜』を上梓。東京都写真美術館収蔵作家、 日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。