REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡

135mmでしか撮ることができない美しい世界…多彩なイメージを実現できた横須賀ポートレート撮影

RF135mm F1.8 L IS USM

本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。

RFレンズはその眼差しを写真として昇華させてくれる。旅の中で表現の可能性を切り拓いてゆく写真家の軌跡(ルート)を、そのままトレースしながらローケションと撮影テクニックを解説する。注目すべきは各スポットで撮影した記録枚数だ。撮影に対する写真家のこだわりを感じとれるだろう。

REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/realfocus2/

第9回目の旅人は、ポートレートや旅の写真撮影で活躍されている福井麻衣子さん。2023年1月下旬に発売予定のRF135mm F1.8 L IS USMとEOS R5を手に、横須賀エリアを巡ってもらった。

旅人09/福井麻衣子

1983年、大阪生まれ。写真家・内池秀人氏に師事。現在、東京を拠点に雑誌や広告でのタレント(人物)・旅・ライフスタイルの撮影を中心に活動している。時折、写真展を開催するなど、創作活動も行っている。
Instagram: @caby_maiko
HP: https://www.fukuimaiko.com/

※本ページは「デジタルカメラマガジン2022年12月号」の「REAL FOCUS RFレンズと行く小さな旅 写真家の眼差しとその軌跡」を再構成したものです。

美しく優しいボケ味が不思議の国へと誘う

撮影旅の相棒はRF135mm F1.8 L IS USM。ポートレートで人気の焦点距離135mmだ。

ボディは使い慣れたEOS R5で、持ち前の解像力で存分にレンズの写りを表現してくれる。

とはいえ、普段135mmはここぞという場面でのアクセントとして使用するイメージ。1本でどこまで撮影できるのかという挑戦の旅でもあった。「不思議の国に迷い込むような」と「旅らしさ」を合わせたイメージで、撮影場所は横須賀・猿島エリアに決めた。

猿島は東京湾に浮かぶ唯一の自然島でありながらアクセスが良く、観光客にも人気の場所だ。旧日本軍の要塞のレンガ積みのトンネルや砲台跡などの旧軍施設が美しく深い緑の中に残り、物語の中へ迷い込んだかのような世界を体感できる。

島から戻った後は、バラが美しいヴェルニー公園やアメリカンな雰囲気のドブ板通りを巡る。横須賀は1日で異なる雰囲気を味わえるエリアだ。

キヤノン RF135mm F1.8 L IS USM

中望遠域の135mmと大口径開放F1.8の組み合わせによって非常に浅い被写界深度を得られるレンズ。135mmのレンズとしては1996年に発売されたEF135mm F2L USMぶりの登場となる。

スペックなりのサイズ感ではあるものの、女性でもギリギリ手持ち撮影が可能で、手ブレ補正も最大8.0段分効くので安心して撮影できた。

ほかのレンズには変えがたい美しく豊かなボケ描写とピント面の解像感は感動を覚えるほど。立体的でゆがみのないクリアな写りと、全身が入る撮影距離でも驚くほどぼける描写性能は、このレンズだけが見せてくれる特別な世界だ。

SPECIFICATION
レンズ構成:12群17枚
絞り羽根枚数:9枚
最小絞り:F22
最大撮影倍率:0.26倍
フィルター径:φ82mm
最大径×全長:約φ89.2mm×130.3mm
質量:約935g

発売日/価格:2023年1月下旬/オープン
※キヤノンオンラインショップ参考価格:33万8,800円

縦・横位置両方で使えるようにレンズファンクションボタンを上面と側面に2つ搭載。初期設定のAF停止機能に加えて、瞳検出のオン/オフなど、さまざまな機能を割り当て可能だ
レンズ前面にはフッ素コートを採用。水や油分をはじきやすく、付着してもクロスなどで容易にふき取れる。また、内部には逆光に強いASCも施され、フレアやゴーストの発生を抑制する

撮影地01:猿島(529枚撮影)

東京湾内にある唯一の自然島で、横須賀の三笠桟橋から約10分の船旅でたどり着くことができる。島内には旧日本軍の要塞跡が残っており、独特の景観を楽しむことができる。

12:08|横須賀の街を背に立つ(83枚目)

猿島公園の海辺、曇り空の下でアンニュイな1枚を。少しの前ボケと背景ボケで平面的になり過ぎないように意識した。大口径単焦点レンズならではのボケとゆがみのないまっすぐな描写が魅力的だ。

EOS R5/135mm/絞り優先AE(F1.8、1/1,600秒、+0.7EV)/ISO 100/WB:オート

12:32|降り注ぐ木漏れ日(209枚目)

差し込む光のきらめきを逆光で捉えた。木漏れ日が玉ボケとなってキラキラと背景を彩り、逆光が人物を浮かび上がらせて幻想的に。昼の玉ボケは木漏れ日や水面のきらめきなどで作ることができる。きれいな玉ボケは大口径レンズの醍醐味だ。

EOS R5/135mm/絞り優先AE(F1.8、1/160秒、+1.0EV)/ISO 400/WB:オート

12:41|トンネルの中の世界(291枚目)

開放F1.8と手ブレ補正、EOS R5の高感度の信頼度によって、暗いトンネルの中でも手持ちで撮影できた1枚。トンネル内の照明で顔が照らされるように、ポーズにもこだわって撮影している。暗いシーンも諦めずにチャレンジできるシステムだ。

EOS R5/135mm/絞り優先AE(F1.8、1/160秒、-0.3EV)/ISO 3200/WB:オート

12:55|遺構の歴史に触れる(398枚目)

トンネルを抜けた先にある遺構の壁は美しい苔と緑に覆われていた。どこかに迷い込んだかのような雰囲気で緑をしっかりとぼかして、ややローアングルで撮影。逆光を生かしてふんわりと仕上げているが、ピント面はしっかりとシャープに写る。

EOS R5/135mm/絞り優先AE(F2、1/60秒、+0.3EV)/ISO 800/WB:オート

13:11|新しい世界をのぞく(481枚目)

しっかりと顔に寄って目にピントを合わせ印象強い1枚に。顔の印象を強めたかったので絞りはF2.2と開放より絞っている。赤系の衣装とメイクを引き立てるブルーの望遠鏡のボケが主役を引き立てるポイントに。

EOS R5/135mm/絞り優先AE(F2.2、1/1,600秒、+0.3EV)/ISO 100/WB:オート

14:01|離島からの船旅(526枚目)

猿島フェリーの運転席をのぞく。ガラス越しに見える機器が魅力的だったので計器にピントを合わせて開放絞りで撮影。旅の情緒を伝えるスナップを、組写真のときに差し込むと、ポートレートも全体の雰囲気が伝わりやすくなる。

EOS R5/135mm/絞り優先AE(F3.5、1/60秒、+0.7EV)/ISO 640/WB:オート

撮影地02:ヴェルニー公園(253枚撮影)

ヴェルニー公園は、横須賀港に面した美しい公園で、自衛隊やアメリカ海軍の船が停泊する様子を眺められるなど、海辺の街らしい風景が広がっている。園内はバラの花壇がたくさんあり、開花の時期は美しい花々を見ることができる。

15:46|港を望む公園(627枚目)

奥行きを生かした1枚にしたくて、離れた位置から全身を入れる構図に決定した。開放F1.8で撮影すると、被写体と背景がしっかりと分離される写りはさすがの一言。なだらかな前ボケとしっかりとした背景ボケに135mmの醍醐味が感じられる。

EOS R5/135mm/絞り優先AE(F1.8、1/640秒、+1.0EV)/ISO 100/WB:オート

16:02|バラの咲く彩りの世界(681枚目)

花壇のバラを前ボケにして構図に華やかな彩りを添えた。顔がはっきりと見えない後ろ姿で想像力を掻き立てる1枚に。こういうカットのために後ろ姿もかわいいデザインの衣装を用意した。

EOS R5/135mm/絞り優先AE(F1.8、1/500秒、+1.0EV)/ISO 250/WB:オート

16:16|赤いアクセント越しの眼差し(777枚目)

前ボケもきれいにとろけてくれるので、バラの花を顔の前に大胆に配置。赤いボケのアクセントに美しい瞳が引き立つ1枚を目指した。前ボケで写真に立体感が生まれ、瞳に吸い寄せられるような1枚に。クールな視線と情熱的な赤の対比も意識した。

EOS R5/135mm/絞り優先AE(F2.5、1/500秒、±0EV)/ISO 320/WB:オート

撮影地03:ドブ板通り商店街(227枚撮影)

異国情緒たっぷりなドブ板通り商店街は、日本とアメリカの文化が融合したような場所で、アメリカンダイナーやミリタリーショップなどが建ち並ぶ。

16:35|異国を感じる街並み(831枚目)

アメリカンなショーウインドーが魅力的なお店の前で望遠らしいアプローチで撮影。引いて撮るとストリートスナップも撮影できる。店の前での撮影はお店の方に声を掛けて迷惑にならないよう配慮しよう。

EOS R5/135mm/絞り優先AE(F3.5、1/60秒、+0.7EV)/ISO 640/WB:オート

16:57|レンガ色の舞台(997枚目)

平面的な背景でファッション撮影のようなかっこいい1枚に。F5.6まで絞り、人物も背景もシャープに表現。夕方の暗い時間だったがシャッター速度1/25秒でも手ブレ補正のおかげできっちり撮影できた。

EOS R5/135mm/絞り優先AE(F5.6、1/25秒、-0.3EV)/ISO 3200/WB:オート

夢中になれる美しい写りが撮影のリズムも晴れやかにする

場所の雰囲気が伝わる写真も、モデルの魅力を引き立てる写真も、なんならスナップだって撮りたい! と欲張りな思いを胸に横須賀・猿島エリアへと向かった。モデルは「不思議の国に迷い込んだ」というテーマに合いそうな人にお願いし、衣装もイメージに合う色とデザインのものを用意した。

強風かつ曇天の中、一抹の不安を抱えながら猿島へと降り立ったが、カメラを構えるとすぐに不安は消え去った。

「ここで撮りたい!」と願っていた古い電信柱にモデルに寄りかかってもらうと、圧縮効果で引き寄せられた横須賀の街並みがにじむようにぼけて、モデルの印象的な立ち姿が浮かび上がった。

島を歩き進めると時折日差しも顔を出すようになり、島の遺構には陰影が浮かび、生い茂る緑も輝き始めた。木漏れ日や緑はとろけるようなボケへと変貌し、その中にモデルの眼差しや仕草が存在感を持って描かれる。135mmでしか撮ることができない美しい写りに、すぐに夢中になった。

島から戻り向かったヴェルニー公園では季節外れのバラを生かし、不思議の国の主人公のようなイメージで赤い彩りと絡める。ドブ板通り商店街では、いつもの女の子に戻ってもらいストリートスナップ。

135mm1本でここまで多彩なイメージが撮れるとは驚いた。50mmでも85mmでもなく、135mmだけが描ける世界が間違いなく存在する。撮影するのがうれしくなってしまう美しい写りのレンズは、自身の撮影の幅をいや応なく広げてくれるのかもしれない。

合計撮影枚数:1,009枚

モデル/木村ユリヤ(@yuliyan1018
ヘアメイク/川口陽子
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社

※猿島公園、ヴェルニー公園、ドブ板通り商店街および各店舗の許可を得て撮影しています。

福井麻衣子