REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
135mmでしか撮ることができない美しい世界…多彩なイメージを実現できた横須賀ポートレート撮影
RF135mm F1.8 L IS USM
2022年11月24日 14:00
本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。
RFレンズはその眼差しを写真として昇華させてくれる。旅の中で表現の可能性を切り拓いてゆく写真家の軌跡(ルート)を、そのままトレースしながらローケションと撮影テクニックを解説する。注目すべきは各スポットで撮影した記録枚数だ。撮影に対する写真家のこだわりを感じとれるだろう。
REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/realfocus2/
第9回目の旅人は、ポートレートや旅の写真撮影で活躍されている福井麻衣子さん。2023年1月下旬に発売予定のRF135mm F1.8 L IS USMとEOS R5を手に、横須賀エリアを巡ってもらった。
1983年、大阪生まれ。写真家・内池秀人氏に師事。現在、東京を拠点に雑誌や広告でのタレント(人物)・旅・ライフスタイルの撮影を中心に活動している。時折、写真展を開催するなど、創作活動も行っている。
Instagram: @caby_maiko
HP: https://www.fukuimaiko.com/
※本ページは「デジタルカメラマガジン2022年12月号」の「REAL FOCUS RFレンズと行く小さな旅 写真家の眼差しとその軌跡」を再構成したものです。
美しく優しいボケ味が不思議の国へと誘う
撮影旅の相棒はRF135mm F1.8 L IS USM。ポートレートで人気の焦点距離135mmだ。
ボディは使い慣れたEOS R5で、持ち前の解像力で存分にレンズの写りを表現してくれる。
とはいえ、普段135mmはここぞという場面でのアクセントとして使用するイメージ。1本でどこまで撮影できるのかという挑戦の旅でもあった。「不思議の国に迷い込むような」と「旅らしさ」を合わせたイメージで、撮影場所は横須賀・猿島エリアに決めた。
猿島は東京湾に浮かぶ唯一の自然島でありながらアクセスが良く、観光客にも人気の場所だ。旧日本軍の要塞のレンガ積みのトンネルや砲台跡などの旧軍施設が美しく深い緑の中に残り、物語の中へ迷い込んだかのような世界を体感できる。
島から戻った後は、バラが美しいヴェルニー公園やアメリカンな雰囲気のドブ板通りを巡る。横須賀は1日で異なる雰囲気を味わえるエリアだ。
中望遠域の135mmと大口径開放F1.8の組み合わせによって非常に浅い被写界深度を得られるレンズ。135mmのレンズとしては1996年に発売されたEF135mm F2L USMぶりの登場となる。
スペックなりのサイズ感ではあるものの、女性でもギリギリ手持ち撮影が可能で、手ブレ補正も最大8.0段分効くので安心して撮影できた。
ほかのレンズには変えがたい美しく豊かなボケ描写とピント面の解像感は感動を覚えるほど。立体的でゆがみのないクリアな写りと、全身が入る撮影距離でも驚くほどぼける描写性能は、このレンズだけが見せてくれる特別な世界だ。
SPECIFICATION
レンズ構成:12群17枚
絞り羽根枚数:9枚
最小絞り:F22
最大撮影倍率:0.26倍
フィルター径:φ82mm
最大径×全長:約φ89.2mm×130.3mm
質量:約935g
発売日/価格:2023年1月下旬/オープン
※キヤノンオンラインショップ参考価格:33万8,800円
撮影地01:猿島(529枚撮影)
東京湾内にある唯一の自然島で、横須賀の三笠桟橋から約10分の船旅でたどり着くことができる。島内には旧日本軍の要塞跡が残っており、独特の景観を楽しむことができる。
12:08|横須賀の街を背に立つ(83枚目)
猿島公園の海辺、曇り空の下でアンニュイな1枚を。少しの前ボケと背景ボケで平面的になり過ぎないように意識した。大口径単焦点レンズならではのボケとゆがみのないまっすぐな描写が魅力的だ。
12:32|降り注ぐ木漏れ日(209枚目)
差し込む光のきらめきを逆光で捉えた。木漏れ日が玉ボケとなってキラキラと背景を彩り、逆光が人物を浮かび上がらせて幻想的に。昼の玉ボケは木漏れ日や水面のきらめきなどで作ることができる。きれいな玉ボケは大口径レンズの醍醐味だ。
12:41|トンネルの中の世界(291枚目)
開放F1.8と手ブレ補正、EOS R5の高感度の信頼度によって、暗いトンネルの中でも手持ちで撮影できた1枚。トンネル内の照明で顔が照らされるように、ポーズにもこだわって撮影している。暗いシーンも諦めずにチャレンジできるシステムだ。
12:55|遺構の歴史に触れる(398枚目)
トンネルを抜けた先にある遺構の壁は美しい苔と緑に覆われていた。どこかに迷い込んだかのような雰囲気で緑をしっかりとぼかして、ややローアングルで撮影。逆光を生かしてふんわりと仕上げているが、ピント面はしっかりとシャープに写る。
13:11|新しい世界をのぞく(481枚目)
しっかりと顔に寄って目にピントを合わせ印象強い1枚に。顔の印象を強めたかったので絞りはF2.2と開放より絞っている。赤系の衣装とメイクを引き立てるブルーの望遠鏡のボケが主役を引き立てるポイントに。
撮影地02:ヴェルニー公園(253枚撮影)
ヴェルニー公園は、横須賀港に面した美しい公園で、自衛隊やアメリカ海軍の船が停泊する様子を眺められるなど、海辺の街らしい風景が広がっている。園内はバラの花壇がたくさんあり、開花の時期は美しい花々を見ることができる。
15:46|港を望む公園(627枚目)
奥行きを生かした1枚にしたくて、離れた位置から全身を入れる構図に決定した。開放F1.8で撮影すると、被写体と背景がしっかりと分離される写りはさすがの一言。なだらかな前ボケとしっかりとした背景ボケに135mmの醍醐味が感じられる。
16:02|バラの咲く彩りの世界(681枚目)
花壇のバラを前ボケにして構図に華やかな彩りを添えた。顔がはっきりと見えない後ろ姿で想像力を掻き立てる1枚に。こういうカットのために後ろ姿もかわいいデザインの衣装を用意した。
撮影地03:ドブ板通り商店街(227枚撮影)
異国情緒たっぷりなドブ板通り商店街は、日本とアメリカの文化が融合したような場所で、アメリカンダイナーやミリタリーショップなどが建ち並ぶ。
16:35|異国を感じる街並み(831枚目)
アメリカンなショーウインドーが魅力的なお店の前で望遠らしいアプローチで撮影。引いて撮るとストリートスナップも撮影できる。店の前での撮影はお店の方に声を掛けて迷惑にならないよう配慮しよう。
夢中になれる美しい写りが撮影のリズムも晴れやかにする
場所の雰囲気が伝わる写真も、モデルの魅力を引き立てる写真も、なんならスナップだって撮りたい! と欲張りな思いを胸に横須賀・猿島エリアへと向かった。モデルは「不思議の国に迷い込んだ」というテーマに合いそうな人にお願いし、衣装もイメージに合う色とデザインのものを用意した。
強風かつ曇天の中、一抹の不安を抱えながら猿島へと降り立ったが、カメラを構えるとすぐに不安は消え去った。
「ここで撮りたい!」と願っていた古い電信柱にモデルに寄りかかってもらうと、圧縮効果で引き寄せられた横須賀の街並みがにじむようにぼけて、モデルの印象的な立ち姿が浮かび上がった。
島を歩き進めると時折日差しも顔を出すようになり、島の遺構には陰影が浮かび、生い茂る緑も輝き始めた。木漏れ日や緑はとろけるようなボケへと変貌し、その中にモデルの眼差しや仕草が存在感を持って描かれる。135mmでしか撮ることができない美しい写りに、すぐに夢中になった。
島から戻り向かったヴェルニー公園では季節外れのバラを生かし、不思議の国の主人公のようなイメージで赤い彩りと絡める。ドブ板通り商店街では、いつもの女の子に戻ってもらいストリートスナップ。
135mm1本でここまで多彩なイメージが撮れるとは驚いた。50mmでも85mmでもなく、135mmだけが描ける世界が間違いなく存在する。撮影するのがうれしくなってしまう美しい写りのレンズは、自身の撮影の幅をいや応なく広げてくれるのかもしれない。
合計撮影枚数:1,009枚
モデル/木村ユリヤ(@yuliyan1018)
ヘアメイク/川口陽子
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社
※猿島公園、ヴェルニー公園、ドブ板通り商店街および各店舗の許可を得て撮影しています。