REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡

28mm単焦点1本で挑む街歩きポートレート…夏の終わりを感じる三浦海岸ショート・トリップ

RF28mm F2.8 STM

本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。

RFレンズはその眼差しを写真として昇華させてくれる。旅の中で表現の可能性を切り拓いてゆく写真家の軌跡(ルート)を、そのままトレースしながらロケ―ションと撮影テクニックを解説する。注目すべきは各スポットで撮影した記録枚数だ。撮影に対する写真家のこだわりを感じとれるだろう。

REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/realfocus2/

第10回目の旅人は、主にポートレートの分野で活躍されている山本春花さん。7月に発売したばかりのパンケーキレンズ「RF28mm F2.8 STM」と軽量フルサイズ「EOS R8」を手に、三浦半島の海辺を巡ってもらった。

旅人10/山本春花

雑誌、CDジャケット、広告の撮影などで幅広く活動中。2014年よりポートレートシリーズ「乙女グラフィー」の連載を開始。自らの老いに向き合うことをテーマとしている。2023年4月、『乙女グラフィー2』を上梓。

※本企画は『デジタルカメラマガジン2023年9月号』の「REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡」より転載・加筆したものです。

軽やかに半島を巡る夏の終わりのポートレート

今回の撮影で使用したレンズは、7月に発売されたばかりのRF28mm F2.8 STM。質量約120gと超小型・軽量の広角単焦点レンズだ。組み合わせるボディもフルサイズのEOS Rシリーズの中で小型かつ最軽量のEOS R8。今回のように丸一日の撮影に最適な機動力のある組み合わせで臨んだ。撮影地は三浦半島周辺。テーマは夏の終わりのショート・トリップで、晩夏の情景を少し広い28mmの画角に収めていく。

三浦半島の南端・城ヶ島まで向かえば、海産物が食べられる食堂やお土産店もあって旅の情緒を深めてくれると考え、北西にある燈明堂海岸から徐々に南下して撮影を進めた。開始時は晴天だったが、撮影が進むにつれて雲がモクモクとわき出して、終盤にはスコールにも見舞われた。スタート時と終了時では空の表情が大きく変わり、移ろいゆく季節の様子を運良く演出することができた。

キヤノン RF28mm F2.8 STM

RFレンズでは初となるパンケーキタイプのレンズで、その質量は約120gと非常に軽量。高精度PMo非球面レンズを効果的に用いつつ、ショートバックフォーカスであるRFマウントの特徴を生かしたレンズ構成によって、コンパクトながら単焦点レンズらしい優れた描写力を発揮する。

28mmの広い画角を生かせば旅先の風景を織り交ぜたポートレートやスナップが楽しめるし、近接すれば開放F2.8の明るさを生かしたボケ表現も可能。小さなサイズながら多様な表現が楽しめるレンズだ。

今回はフルサイズ機と組み合わせているが、APS-C機に装着すると35mm換算で約45mmの標準域となり、落ち着いた自然な画角で使用できることもポイントだろう。そして何より、どこにでも気軽に連れ出せるサイズ感が、撮影チャンスを大きく広げてくれる。

SPECIFICATION
レンズ構成:6群8枚
絞り羽根枚数:7枚
最小絞り:F22
最短撮影距離:0.23m
最大撮影倍率:0.17倍
フィルター径:55mm
最大径×全長:約φ69.2×24.7mm
質量:約120g

発売日/価格:7月7日/オープン
※キヤノンオンラインショップ参考価格:4万8,400円(税込)

EOS R8に装着するとボディのグリップ部分とほとんど厚みが変わらず、とてもスッキリとした見た目になる。バッグからの出し入れも引っ掛かりがなくスムーズで、空いた隙間で持ち運べる
EOS R8との組み合わせで約581g(バッテリー、メディア含む)。片手でも楽々取り回せる重さなので、1日中使用していても疲れにくく、最後まで撮影を楽しむことができる

撮影地01:燈明堂海岸(639枚撮影)

撮影は三浦半島の東にある燈明堂海岸でスタート。貝殻交じりの砂浜は美しく、東京湾に位置する砂浜とは思えないような場所だ。江戸時代に建てられた灯台が地名の由来だが、今も沖合には湾内を航行する船を望むことができる。

11:01|麦わら帽子の夏(63枚目)

28mmは広角域のレンズと言えど、ここまで人物にグッと近づけば豊かなボケを得ることができる。開放F2.8によって麦わら帽子の緩やかな前ボケが立体感を生み出していて、画面に引き込まれる。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/800秒)/ISO 100/WB:オート

11:04|夏の日差しを浴びる(99枚目)

広角レンズでしっかり表情を写そうと思うと、自然とモデルと近い距離で撮影することになり、コミュニケーションが取りやすくなる。そのぶんモデルの自然な表情を引き出しやすく、親密さを表現したい場合にはうってつけだ。

モデルに草の上に寝っ転がってもらい、その隣に同じように横たわる。自然と距離が近くなるので、会話をしながらバリアングルモニターを駆使して楽しそうな表情を捉えた。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/1,600秒)/ISO 100/WB:オート

11:15|季節が移ろう空模様(258枚目)

バリアングルモニターを生かして地面すれすれのローアングルから人物を狙うと、パースがついて人物は伸びやかに見え、背景も広く写せる。ここでは、開けた場所を生かして背景を一面の空に。アングルに気を使うことで、開放的な写真が撮れる。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/3,200秒)/ISO 100/WB:オート

11:24|草を渡る夏の風(392枚目)

モデルが風を受けて佇む様子を、バリアングルモニターを使用してローアングルから撮影した。上方に広がるように空間ができ、広大なイメージになった。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/3,200秒)/ISO 100/WB:オート

11:38|遥かなる入道雲(467枚目)

青い海とともに、空一面に広がる夏らしい雲の形を同時に残しておきたいと思った。モデルを主役としながらも風景まで広々と写せる広角レンズでのポートレートはとても面白い。28mmならではの夏の一片となった。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/3,200秒)/ISO 100/WB:オート

11:51|海を見つめる(586枚目)

モデルだけでなく周辺状況も読み取れるような1枚を写し出せるのは28mmという画角ならでは。モデルとどこに行ったのか、どこを歩いたのかをしっかりと伝えられるのは強力な武器だ。

この写真は表情こそ写っていないが、モデルの後ろ姿から感情が読み取れるような美しい描写の1枚。空の面積を多めに撮ることで余白を残し、ストーリー性を感じられるように描いた。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/2,500秒)/ISO 100/WB:オート

撮影地02:城ヶ島周辺(505枚撮影)

続いて向かったのは、三浦半島の先端に浮かぶ自然島・城ヶ島だ。海食崖による風光明媚な景観を楽しめる公園のほか、漁業や水産業の施設が建ち並ぶエリアとなっている。

14:27|鮮烈な赤い花(873枚目)

色鮮やかな花とモデルのアンニュイな表情。背景情報を残したかったので少し引いて撮影した。この距離感でも背景が適度にぼけて、モデルが浮き出るような描写は見事だ。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/400秒)/ISO 320/WB:オート

14:33|花びらを抱えて(920枚目)

最短撮影距離は23cm。手に持っているものや、椅子に座ったままテーブル上のものを撮れる距離感なので、小物や料理の撮影も1本でこなせる。開放F2.8を選べば広角ながら被写界深度も浅くなり、ボケを生かして主題を引き立たせられる。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F5.6、1/60秒)/ISO 400/WB:オート

14:49|海風を感じる港(1,021枚目)

近距離での撮影も美しく描写する。広角域ながら、ピントの合っている右目から左目にかけてゆるくぼけている。強く吹く風を生かして髪の毛に動きをつけた。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/1,000秒)/ISO 200/WB:オート

14:57|ビーチへの誘い(1,049枚目)

広角レンズは画面周辺に向かってパースが強くなるので、空に向かってオブジェが伸びていくイメージで撮影。動きを出すため少し斜めにオブジェを配置した。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/1,000秒)/ISO 200/WB:オート

撮影地03:三崎港周辺(259枚撮影)

最後の撮影地は、三浦半島の南端、三崎港周辺だ。国内有数のマグロ基地でもある漁港で、街中にはマグロ料理のお店が建ち並ぶ。レトロな街並みも魅力的な場所だ。

15:58|乙女のクリームソーダ(1,173枚目)

喫茶店トリムで撮影。28mmなら全体を写すことができる。クリームソーダを前ボケに配置することで、食べるのを楽しみにしているようなワクワク感を表現した。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/50秒)/ISO 3200/WB:オート

16:23|煌めくレトロガラス(1,184枚目)

喫茶店のガラスがキラキラしている様子に引かれ、近距離で撮影した。被写界深度が浅過ぎないので全体が良く見えて、リアリティーのある描写に。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/800秒)/ISO 640/WB:オート

16:30|帰路につく時間(1,262枚目)

夕暮れ時、モデルがバス待ちしている旅の終わりを感じさせるような一幕。正対して撮影すると、パースが抑制されて落ち着いた仕上がりになる。

EOS R8/28mm/マニュアル露出(F2.8、1/1,250秒)/ISO 640/WB:オート

旅の高揚感も季節の移ろいも丸ごと捉えて写真に残せる

私のメインの活動は女性を被写体としたポートレートスナップ。モデルの豊かな表情を引き出し、躍動感のある写真を撮ることを目指しているため、撮影中、密にコミュニケーションを取ることがとても大切だ。また、撮影の思い出を残すために周辺状況も捉えるように心掛けていて、普段から広角レンズを使って撮ることが多い。

RF28mm F2.8 STMだけで挑む今回のショート・トリップは、撮影場所を計画している段階からとてもワクワクしていた。さまざまな候補地の中から、夏という季節を生かすために海を目指すことに。細かい貝殻の砂からできた白い砂浜を持つ美しい燈明堂海岸を目的地に決めた。

海岸へ到着すると、空一面に広がるドラマチックな夏雲が出迎えてくれた。私もモデルも気分が高揚する。その高揚感を至近距離でモデルとコミュニケーションを取りながら写真に収めていく。海や雲、草木や花など、夏らしい欠片が画角の端々に写り込み、季節感を演出してくれた。

後半は、城ヶ島や三崎港などの街に舞台を移した。立ち寄った小さな喫茶店でのテーブル越しの撮影や建造物を生かした写真も、28mmだから難なくこなせる。モデルの立ち位置を限定しなくて済むから、写る姿も自然体だ。

なにより酷暑の中でもRF28mm F2.8 STMを使った撮影は疲れ知らず。1日中撮影をしていても笑いが絶えない空気が続くというのも小型・軽量レンズならではだ。描写も使用感も私にぴったりなレンズだと感じた。

合計撮影枚数:1,403枚

モデル:美季(@miki_66v)
現場写真:鈴木文彦
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社

(やまもとはるか)東京都生まれ。雑誌・書籍の撮影を中心にフリーランスで活動中。写真雑誌「snap!」の企画・編集にも参加。2014年より自身のブログで、女性モデルを被写体としたポートレートシリーズ「乙女グラフィー」の連載を開始。若い女性に対するコンプレックスの解消や、自らの“老い”に向き合うことをテーマとしており、同年開催されたアートフェア「台湾フォト」に出展された。2018年8月、スタンダーズより同タイトルで写真集を上梓。