REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡

寄り引きの組み合わせがいつもの帰省を変えた…広角ズームで再発見する故郷・福岡

RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM

本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。

RFレンズはその眼差しを写真として昇華させてくれる。旅の中で表現の可能性を切り拓いてゆく写真家の軌跡(ルート)を、そのままトレースしながらローケションと撮影テクニックを解説する。注目すべきは各スポットで撮影した記録枚数だ。撮影に対する写真家のこだわりを感じとれるだろう。

第8回目の旅人は、連載「あとで買う」でおなじみの岡嶋和幸さん。最新の軽量広角ズームレンズRF15-30mm F4.5-6.3 IS STMとEOS R6を手に、故郷の福岡の海辺を巡ってもらった。

旅人08/岡嶋和幸

1967年福岡市生まれ。東京写真専門学校卒業。スタジオアシスタント、写真家助手を経てフリーランスとなる。世界を旅して詩情豊かな作品を発表。写真集『風と土』(インプレス刊)のほか著書多数。写真展も数多く開催している

※本ページは「デジタルカメラマガジン2022年10月号」の「REAL FOCUS RFレンズと行く小さな旅 写真家の眼差しとその軌跡」を再構成したものです。

軽快なコンビで巡る慣れ親しんだ故郷の海辺

生まれ故郷の福岡には盆と正月に帰省している。実家に滞在し、カメラを手にぶらり出掛けることもある。足を運ぶのは博多湾を望むなじみのある場所で、昔を懐かしんだり、埋め立てや整備による変化に驚きながらその光景を写真に収めている。

今回は子どものころの夏休みの思い出を胸に、両親に連れて行ってもらったり、友達と遊びに行った場所を巡ることにした。バスや鉄道のほか、近くの離島へはフェリーを利用と、移動中の撮影も楽しみの1つ。距離や時間はたいしたことはないが、旅の気分を十分に味わえる。

相棒はEOS R6と新登場の超広角ズームRF15-30mm F4.5-6.3 IS STM。コンパクトな組み合わせなので身軽になれて好奇心も高められる。行く先々で出合う被写体との距離を縮めやすく、超広角ならではのダイナミックな遠近感を生かしてみるのも面白い。

慣れ親しんだ海辺の今を撮り歩きながら、子どものころの記憶と照らし合わせてみよう。

キヤノン RF15-30mm F4.5-6.3 IS STM

15mmの広い画角から30mmの自然な画角まで1本でカバーできるスタンダードクラスの超広角ズーム。

2枚のUDレンズと1枚のプラスチックモールド非球面レンズを含む11群13枚のレンズ構成で、コストを抑えながら優れた描写力を実現している。カメラのレンズ光学補正で諸収差も良好に補正可能。

レンズ内光学式手ブレ補正機構により5.5段、ボディ内手ブレ補正機構を搭載したEOS R5/R6との組み合わせでは協調制御により7段の手ブレ補正効果が得られる。

鏡筒側面にAF/MFスイッチはないが、代わりにコントロールリングの機能を切り替えるスイッチが備わる。

SPECIFICATION
レンズ構成:11群13枚
絞り羽根枚数:7枚
最小絞り:F22〜F32
最短撮影距離:0.28m(15mm/AF)、0.128m(15mm/MF)
最大撮影倍率:0.09倍(15mm/AF)、0.16倍(30mm/MF)
フィルター径:φ67mm
最大径×全長:約φ76.6mm×88.4mm
質量:約390g

発売日/価格:2022年8月26日/オープン
※キヤノンオンラインショップ参考価格:8万5,800円

プラスチックモールド非球面レンズを効果的に配置して少ない枚数で光学系を構成することで、最大径約76.6mm、全長約88.4mm、重さ390gの小型・軽量化を実現した
AFでの最短撮影距離は15mmの広角端で28cmだが、MFに切り換えると12.8cmまで被写体に近づけるようになる。最大撮影倍率0.52倍のハーフマクロ撮影ができるのだ

撮影地01:相島(491枚撮影)

新宮漁港から船で約50分ほどで到着する相島は野良猫がたくさん暮らしている。猫の姿を求めて島へと向かった。

09:30|島へと向かう船(36枚目)

相島へ向かうフェリーで一緒だった母娘。航行中は海や空の表情を夢中になって撮ることが多いが、人が入っている方がドラマチックだ。ゆがみなどは良好に補正され、画面内のラインが真っ直ぐ捉えられていて気持ち良い。

EOS R6/30mm/プログラムAE(F9、1/160秒、+0.7EV)/ISO 100/WB:オート

10:14|猫との出合い(127枚目)

日陰から出てきた猫と遭遇。バリアングルモニターと動物優先AFでローポジションで追いかけたが、こちらの様子に見向きもせず木陰に移動してしまった。超広角だが、猫目線での臨場感がダイレクトに伝わってくる絵作りだ。

EOS R6/15mm/絞り優先AE(F4.6、1/800秒、±0EV)/ISO 100/WB:オート

13:20|日陰で昼寝する猫(434枚目)

いつも冬に訪れるので日なたぼっこをする姿を目にしていたが、真夏なのでみんな日陰でぐったり。超広角で接近しても微動だにせず。毛の質感をリアルに捉え、思わず手でなでたくなる。

EOS R6/15mm/絞り優先AE(F6.4、1/125秒、-0.7EV)/ISO 100/WB:オート

撮影地02:海の中道海浜公園(211枚撮影)

相島から船で戻り向かった先は、博多湾に向かって伸びる砂州にある海の中道海浜公園。広大な敷地では1年を通して季節の花が楽しめる。

16:17|美しく咲く白い花(589枚目)

広大な敷地に咲き乱れる花々を切り取るだけでなく、15mmでMFに切り替えてハーフマクロで一輪一輪の表情にも迫った。AF時の最短撮影距離では、白い花を主役にするのは難しい。

EOS R6/15mm/マニュアル露出(F5.6、1/1,000秒)/ISO 100/WB:オート

撮影地03:シーサイドももち海浜公園(12枚撮影)

海の中道からフェリーで博多湾をショートカット。フェリーの発着所があるシーサイドももち公園から福岡タワーに向かいがてら撮影を楽しんだ。

18:29|西日を浴びるビーチ(703枚目)

シーサイドももち海浜公園は埋立地で、子どものころにはなかった景色が広がる。近景から遠景まで西日を浴びるその様子がシャープに捉えられている。

EOS R6/30mm/プログラムAE(F10、1/160秒、±0EV)/ISO 100/WB:くもり

撮影地04:福岡タワー(211枚撮影)

海浜タワーとして日本一の高さを誇る福岡タワー。展望室からは福岡の街並みや博多湾などを一望できる。

18:53|夕日に輝く都市を望む(729枚目)

展望室から見える街並みは、超広角とはいえその全てを1枚に収めきれないため、室内の様子を絡めつつ遠近感を生かし、眼下に広がる眺望をダイナミックに捉えてみた。

EOS R6/15mm/プログラムAE(F7、1/160秒、-0.3EV)/ISO 100/WB:くもり

撮影地05:姪浜渡船場周辺(129枚撮影)

2日目は能古島に渡るため、姪浜渡船場から撮影を開始した。フェリーの時間まで姪浜渡船場近くで散策を楽しむ。

13:22|港の午後(779枚目)

30mmの望遠端はスナップ撮影で使いやすい。自然な画角で、係留されている船と対岸に見える観覧車の遠近感もバランス良く表現。肉眼での印象に近い素直な描写が得られた。

EOS R6/30mm/プログラムAE(F13、1/250秒、±0EV)/ISO 100/WB:オート

撮影地06:のこのしまアイランドパーク(338枚撮影)

姪浜渡船場から約10分で能古島に到着。海を背景に四季折々の花が楽しめる自然公園・のこのしまアイランドパークへと向かった。

16:03|赤い花畑と青い海(907枚目)

青い海にぽつんと浮かぶ小島と、真っ赤に染まった花畑で作業する人を対比。逆光による透明感あふれる光景で、その色彩豊かな様子を隅々までシャープに描写している。

EOS R6/15mm/プログラムAE(F9、1/250秒、-0.3EV)/ISO 100/WB:オート

16:10|人懐っこいヤギ(1,019枚目)

ミニ動物園でヤギに餌やり。レンズを向けても嫌がらなかったので、15mmのAF時の最短撮影距離28cmまで接近。ローアングルからデフォルメ効果を狙ってみる。近距離での撮影だがAFの動作もスムーズだった。

EOS R6/15mm/プログラムAE(F11、1/400秒、-1.0EV)/ISO 100/WB:オート

16:56|花びらが輝くヒマワリ(1,157枚目)

ヒマワリ畑は、午前なら順光だったが、夕方に訪れたため逆光での撮影を強いられる。酷暑で自分にとっても厳しい条件だったが、すっきり透明感のあるシャープな描写が得られた。

EOS R6/15mm/絞り優先AE(F6.4、1/500秒、±0EV)/ISO 100/WB:オート

撮影地07:能古渡船場周辺(59枚撮影)

撮影を終え、ふたたび博多に戻るため、渡船場へ向かう。船が来るまでの間、この旅の最後の撮影を楽しんだ。

18:13|入道雲と夏の海(1,226枚目)

能古島から海越しに望む福岡の街並みと入道雲。超望遠レンズなら圧縮効果で夏らしい景色を大胆に切り取るところだが、超広角ズームで奥行きを生かす。濃い海の色が画面を引き締め、空や街の様子を浮かび上がらせる。

EOS R6/30mm/絞り優先AE(F11、1/200秒、-0.7EV)/ISO 100/WB:オート

セオリーを覆す広角ズームで故郷の新たな表情を発見

作品制作では単焦点の標準レンズを使うことがほとんどだ。通常は帰省のときもRF50mm F1.2 L USMの1本しか携行しないのだが、今回はRF15-30mm F4.5-6.3 IS STMを選んだ。

単焦点でのシンプルな撮影が好きとはいえ、15mmまたは30mmのどちらか1本だったら持て余していただろう。広角系はあまり得意ではないのだが、2つの焦点距離の使い分けが訪れた場所や出合った被写体の魅力の発見につながり、表現の幅を大きく広げてくれた。

望遠系より広角系のレンズの方が1mmの画角の違いが大きい。15-30mmはほかの焦点域の2倍ズーム以上の絵作りの変化が楽しめるが、小さな被写体は豆粒みたいにしか写らない。うまく距離を詰められないと散漫な絵になりがちである。

特に15mmは大胆なフットワークが決め手となるが、相島と能古島では猫やヤギの人懐っこさに助けられた。画角が広いため、望遠系でアップで撮るより情報量が多く表現力も豊かだ。MF時は0.52倍までの接写が可能と、花のマクロ撮影も通常のレンズで近接するのとはひと味違った面白さがある。

寄りは望遠、引きは広角という使い分けが一般的だが、このレンズは寄りは15mm、引きは30mmという組み合わせが楽しい。普段の撮影とは被写体へのアプローチが極端に異なるため撮れる絵も大きく変わる。何度も訪れたことのある場所でたくさんの新しい発見があるなど、これまでとは違った故郷・福岡の夏を楽しめた。

合計撮影枚数:1,262枚

現場写真:HARUKI
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社

1967年、福岡県生まれ。東京写真専門学校卒業。スタジオアシスタント、写真家助手を経てフリーランスとなる。作品発表のほか、セミナー講師やフォトコンテスト審査員など活動の範囲は多岐にわたる。写真集「風と土」(インプレス)など、著書多数。主な写真展に「ディングルの光と風」(富士フイルムフォトサロン)、「潮彩」(ペンタックスフォーラム)、「学校へ行こう! ミャンマー・インレー湖の子どもたち」(キヤノンギャラリー)、「九十九里」(エプソンイメージングギャラリー エプサイト)、「風と土」(ソニーイメージングギャラリー)、「海のほとり」(エプサイトギャラリー)などがある。