REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
マクロレンズ1本で捉えた初夏の表情…北八ヶ岳の湖・森・植物
RF100mm F2.8 L MACRO IS USM
2021年7月27日 10:00
本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。
RFレンズはその眼差しを写真として昇華させてくれる。旅の中で表現の可能性を切り拓いてゆく写真家の軌跡(ルート)を、そのままトレースしながらローケションと撮影テクニックを解説する。注目すべきは各スポットで撮影した記録枚数だ。撮影に対する写真家のこだわりを感じとれるだろう。
第一回目の旅人は、山梨県在住の八木千賀子さん。セレクトしたレンズはRFシリーズでは初となる等倍以上のマクロレンズ、RF100mm F2.8 L MACRO IS USMだ。
愛知県生まれ。山梨県在住。写真家・辰野 清氏に師事。東京カメラ部2013に選出され、2016年に会社を退職し風景写真家に。日本全国の風景、八丈島をテーマに撮影活動をおこなう。八丈島ふるさと観光大使。
※本ページは「デジタルカメラマガジン2021年8月号」の「REAL FOCUS RFレンズと行く小さな旅 写真家の眼差しとその軌跡」を再構成したものです。
RF100mm F2.8 L MACRO IS USMをたずさえて初夏の森を撮りに行く
しばしば足を運ぶ長野県の北八ヶ岳周辺には、レンゲツツジが咲き誇る白樺林や足元に水が流れる苔むした森など、多様な表情を持つ森が点在している。長野県には壮大な自然風景が多く、つい広めの風景を撮影してしまいがちだが、足元や風景の細部に目を向けると、一味違う奥深い世界が広がっている。
キヤノンから新たに発売されるRF100mm F2.8 L MACRO IS USMでそれらに目を向けてみる、というのが今回の旅のコンセプトだ。マクロな世界でどんな発見があるのか。6月中旬の梅雨の晴れ間に、ワクワクしながら旅に出た。
最大撮影倍率は1.4倍と等倍以上で撮れる本格マクロレンズが今回のおともだ。
最短撮影距離は26cm、ワーキングディスタンス8.6cmと被写体にしっかりと寄ることができる。特筆すべきはSAコンロールリングの存在で、球面収差を調整することでボケの描写特性を変化させられる。これにより、ソフトフォーカスのような効果を得たり、ボケを固くして玉ボケの輪郭をはっきりさせたりと、多彩なボケ表現が可能だ。
手ブレ補正はレンズ単体で約5段分、EOS R5/R6と組み合わせた場合は最大約8段分の補正効果となり、近接撮影で気になる手ブレの影響もしっかりとケアされている。
SPECIFICATION
・レンズ構成:13群17枚
・絞り羽根枚数:9枚
・最小絞り:F32
・最短撮影距離:0.26m
・最大撮影倍率:1.4倍
・フィルター径:67mm
・最大径×全長:約81.5×148mm
・質量:約730g
オープン価格:181,500円(税込)
※キヤノンオンラインショップ参考価格
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撮影地01:八千穂レイク(125枚撮影)
夜明け前から撮影を開始して、まず訪ねたのが八千穂レイクだ。元は農業用水用のため池として作られた人造湖だが、八千穂高原の白樺林に囲まれた美しい場所だ。貯水面積も4haと広大で、湖の西側から撮影すると湖面に朝焼けの色が映り込み、色彩美を楽しめる。
撮影地02:八千穂高原(508枚撮影)
朝焼けの撮影を終えて訪ねたのが、北八ヶ岳の東麓に広がる八千穂高原だ。標高約1,800mにあり手つかずの自然が残っている。
この時期は、渓流沿いの湿地にはクリンソウが咲き誇っていた。雨上がりの晴れた朝ということもあり、花や草木には朝露がつき、それが朝の光に照らされてきらめいていた。
05:25|光り輝く朝露のしずく(250枚目)
朝露をまとった草花に朝日が差し込み輝いている。浅い被写界深度で朝露をぼかすと美しい玉ボケを表現できるが、さらにSAコントロールリングをプラスにすると、玉ボケの輪郭が硬くなり、美しいリングボケを表現できる。
解説 SAコントロールリングの効果
ここで、SAコントロールリングの効果についてあらためて解説しておこう。
球面収差を変化させる機能でボケ味をコントロール可能。プラス側に回すとフォーカス位置から後ろのボケは硬い描写となり、前ボケは柔らかく描写される。
逆に、マイナス側に回すとフォーカス位置の後ろ側のボケは柔らかく描写され、前ボケは硬い描写となる。
また、プラスとマイナスどちらに回した場合も、フォーカス位置の被写体はソフトフォーカスのような描写になり、少しにじんだ柔らかな画質となることも特徴だ。表現のオプションとして活用することで、レンズ1本で多様な表現が可能となる。
05:43|しずくをまとうクリンソウ(285枚目)
前ボケと後ろボケができる状況での撮影ではSAコントロールリングの効果がわかりやすい。プラス側に回すことで手前のクリンソウは柔らかな前ボケに、後ろの水滴はリングボケになり、強いアクセントとなる。
撮影地03:白樺群生地(326枚撮影)
高原での撮影を終え、森の中に朝の光が届き始めるころ、八千穂レイク周辺に広がる白樺林に向かった。約200haの森には50万本の白樺が群生しており、白樺林としての広さが日本最大級だ。ここはレンゲツツジやミツバツツジなどの群生地でもあり、白樺林の白とツツジの赤のコントラストが美しい。
06:43|ツツジに華を添える木漏れ日(718枚目)
時折やってくる薄雲が太陽の光をさえぎると、森は優しい光に包まれる。曇り空の場合でもツツジから距離のある木々の木もれ日は玉ボケになるので、SAコントロールリングをプラス側にして玉ボケを強調した。
同時にツツジにはソフトフォーカスがかかり、優しく柔らかな印象の1枚に仕上がった。
07:00|透き通るセミの抜け殻(865枚目)
森の中のフラットな光で撮影すると平面的な描写になりがちだが、RFレンズなら、その高い解像力によってセミの抜け殻や水滴の中に映る風景の細かなディテールまで鮮明に描写される。
触ると崩れてしまいそうな抜け殻の繊細なイメージが再現された。
撮影地04:麦草峠(495枚)
メルヘン街道(国道299号)を北八ヶ岳から茅野市方面へと向かう峠にあるのが麦草峠だ。麦草峠に広がる原生林の中に一歩踏み出すと苔の森が広がっている。一面の苔もマクロレンズを通して見ると、1つ1つ造形やたたずまいが異なることがよくわかる。
08:17|苔が作り出す小さな原生林(1,047枚目)
ふかふかとした苔に近づいてみるとそれぞれ形や大きさが違い、まるで小さな森のようだった。俯瞰して撮影するとドローンを使い原生林を撮影しているかのような気分になる。俯瞰撮影の際は自分の影が写り込まないように注意しよう。
撮影地05:hardy rose garden(294枚撮影)
太陽が高い位置に上り、スッキリと晴れ渡ったころ、メルヘン街道(国道299号)沿いにある入場無料のローズガーデンに立ち寄った。
ここでは、個人の方が大切に育てたさまざまなバラを自由に見ることができる。咲き誇るバラには、テントウムシやミツバチなどの虫たちがひっきりなしにやってくるにぎやかな場所だ。
09:29|おしべとめしべの造形(1,510枚目)
イヌバラの花に近づいてみると、めしべを取り囲むおしべの影がまるでひそひそと会話をしているようだった。高い解像度でおしべ1本1本まで繊細に描写されている。最大撮影倍率が1.4倍なのでかなり小さな被写体も、迫力ある1枚になる。
09:46|来客を出迎える黄色いバラ(1,607枚目)
1.4倍という最大撮影倍率を生かして、バラの花びらで休息するテントウムシの姿を捉えた。柔らかなボケ味で花びらがベールのように写されて、幻想的な世界に変化する。
テントウムシは常に動き回っているが、ナノUSMによる高速AFとフルタイムマニュアルフォーカスのおかげで、狙った場所に素早くピント合わせがしやすい。
撮影地06:蓼科大滝(561枚)
蓼科大滝は落差こそ小さいが、横に広く豊富な水量を誇る滝だ。滝までは遊歩道が整備されており、その道中には苔むした岩や原生林が広がる。
渓流は水深が浅い箇所が多いので、長靴で入ると、水の流れやきらめきに注目した撮影が可能だ。
10:32|そっとのぞき込む茂みに隠れたカタバミ(1,840枚目)
シダの茂みに隠れたとても小さなミヤマカタバミ。開放絞りでレンズを手前のシダに近づけて撮影することで柔らかな前ボケが生まれる。そっとのぞいているような構図になり奥行きが生まれた。マクロレンズで撮影するからこそ見えてくる造形美だ。
10:38|樹齢を感じる木肌の質感(1,918枚目)
マイナス補正して露出アンダーで撮影すると、木肌のごつごつとした質感やしっとりとした様子を引き出すことができる。柔らかなボケ味も魅力だが、被写体に合わせて、かたい描写も可能なレンズだ。
自然風景の解像感を高めてくれるマクロレンズとの旅
マクロレンズ1本だけで撮影に出るということは少ないので、旅に出る前はどんな被写体と出合えるのかドキドキしていた。
だが、RF100mm F2.8 L MACRO IS USMを通して森をのぞくと、普段は見逃してしまうような樹木の一葉に、あるいは花びらの1枚に、自ずと目が向き始めるようになる。目前の風景を構成するひとかけらもまた、美しい輝きを放っていることに気が付く。その発見が心地よく、のめり込むように写真を撮り進めた。
最大撮影倍率1.4倍の迫力ある描写は、「もう一歩被写体に迫ればどんな世界が広がるのだろう」という興味を駆り立ててくれるし、強力な手ブレ補正機能はその衝動のままに被写体にカメラを向ける手助けをしてくれる。
SAコントロールリングによって得られるボケの描写変化は、時に朝露のキラメキをリングボケに仕立てたり、しっとりとした苔やキノコの質感にソフトフォーカス効果をかけたりするのに役立った。もちろん、SAコントロールリングの効果をオフにすればピント面はしっかりと解像し、ボケは滑らかに描写される。
夏の北八ヶ岳周辺は、次々と雲が湧いては流れていき、そのたびに光線状態が変化するが、高い解像感からくる繊細さは、光線状態を選ばずにその場の空気感までをも表現してくれる。気が付くと、撮影枚数は2,000枚を超えていた。
マクロレンズは、小さなスケールの被写体をクローズアップするレンズだが、被写体を構成するディテールまで認識するようになることで、風景に対しての解像感が高まるレンズとも言える。RF100mm F2.8 L MACRO IS USMだけにこだわって撮影したこの旅は、風景を見る目を養うための旅ともなった。
合計撮影枚数:2,309枚
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社