REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
小型軽量な望遠ズームが撮影の幅を広げる…中国地方4県で見出した豊かな情景
RF100-400mm F5.6-8 IS USM
2021年9月28日 10:00
本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。
RFレンズはその眼差しを写真として昇華させてくれる。旅の中で表現の可能性を切り拓いてゆく写真家の軌跡(ルート)を、そのままトレースしながらローケションと撮影テクニックを解説する。注目すべきは各スポットで撮影した記録枚数だ。撮影に対する写真家のこだわりを感じとれるだろう。
第二回目の旅人は、鳥取県在住の柄木孝志さん。セレクトしたレンズはコンパクトな超望遠ズームRF100-400mm F5.6-8 IS USMだ。
JR西日本の各種媒体でキービジュアルを担当するなど、写真家として幅広く活動しているほか、国や地方自治体などと連携しながら、写真を通じた地域活性化事業にも注力し、プロデュースなども行う。東京カメラ部2013年10選。
※本ページは「デジタルカメラマガジン2021年10月号」の「REAL FOCUS RFレンズと行く小さな旅 写真家の眼差しとその軌跡」を再構成したものです。
RF100-400mm F5.6-8 IS USMとともに、中国地方を巡る
RFレンズシリーズに新たな仲間入りを果たすRF100-400mm F5.6-8 IS USMは、機動力を犠牲にせず、超望遠域を手に入れられるレンズだ。
このレンズと、愛機EOS R5との組み合わせによる撮影旅へと出かけ、晩夏の望遠風景を切り撮ってみた。
舞台は、私の地元・鳥取を起点に、岡山、島根、山口といった中国地方一体。ここは、抜けの良い自然や田舎の風景が数多く広がるため、望遠レンズの特徴でもある遠くの被写体を大きく捉えたり、距離のある被写体を圧縮効果によってインパクト大に写したりするには絶好のエリアだ。
普段から撮影のメインフィールドでもあるこの場所にて、自然風景はもちろん、仕事柄撮影することの多い鉄道風景も追いかけた。
機動力の高さと超望遠性能を生かせば、フィールドの特徴や被写体のフォルムに着目した世界を切り出せる。このレンズだからこそ見出せる未知の発見や新たな写真表現の世界がそこには存在した。
解説:キヤノン RF100-400mm F5.6-8 IS USM
全長は約16.4cmで質量は635g。小型バッグに収容可能なコンパクトさが最大の特徴の望遠ズームだ。
ズーム全域で色収差を補正することで、にじみのない繊細でクリアな描写性能を実現しており、普及価格ながら、高解像度に被写体を切り撮ることが可能だ。
さらに、キヤノン独自のリアフォーカス+ナノUSM(高速AFを実現する小型の超音波モーター)の採用によりAFのレスポンスも優秀で、動体撮影においてもワイドエリアで高速かつ滑らかなフォーカスを実現している。
また、レンズISを搭載し、ボディ内IS搭載のEOS R5/R6との組み合わせでは最大6段の手ブレ補正を得られるので、望遠端の400mmであっても安心して手持ち撮影が楽しめることも魅力的だ。
SPECIFICATION
レンズ構成:9群12枚
絞り羽根枚数:9枚
最小絞り:F32~45
最短撮影距離:0.88m(200mm時)
最大撮影倍率:0.41倍(400mm時)
フィルター径:67mm
最大径×全長:約79.5×164.7mm
質量:約635g
発売予定日:2021年10月下旬
オープン価格
※キヤノンオンラインショップ参考価格90,500円(税込)
◇ ◇ ◇
撮影地01:美保湾展望ビーチ(271枚撮影)
撮影のスタートは、お気に入りスポットの1つでもある美保湾展望駐車場。前の砂浜から見る海越しの大山にこれまで幾度となく魅了されてきた。この日は、前日までの曇天が嘘のように晴れたため、水平線より昇るご来光、そして朝日に照らされる大山を望遠レンズならではの描写で狙ってみた。
撮影地02:江島大橋(81枚撮影)
次は、望遠レンズの特性が最大限に引き出される“映えスポット”へ。向かった先は、鳥取県と島根県の県境、CMの舞台になるなり一気に名所となった“べた踏み坂”こと江島大橋だ。
この場所がよく取り上げられる構図は、実は橋のたもとではなく、中海の対岸へと移動しての撮影が必要となる。その場所は橋から数km離れているため、当然のことながら超望遠レンズが必須となるのだ。
07:25|べた踏み坂の迫力(239枚目)
ポイントは、対岸の土手を歩きながら橋の真正面に移動すること。そこから望遠端の400mmで狙うも、実は画角的に被写体は非常に小さい。
そこで、EXTENDER RF2xを活用し、800mmで撮影。高解像度を誇るEOS R5であれば、そこから画角いっぱいに橋をトリミングしても画質が劣化しないのがうれしい。
撮影地03:伯耆の郷 ひまわり畑(58枚撮影)
夏らしいイメージを求め移動した先は、鉄道写真の撮影スポットとして近年多くのカメラマンが訪れるひまわり畑だ。
普段は、標準や広角で撮影することが多いスポットだけに、このレンズの特性、機能を生かし、望遠レンズならではの新たな切り撮り方を模索した。
09:24|ヒマワリで休息するキアゲハ(318枚目)
一輪のヒマワリにとまるアゲハ蝶。羽を広げた瞬間を画角いっぱいに捉えた1枚。最大撮影倍率0.41倍(400mm時)を誇り、超望遠だけなく、小さな生き物や花などのテレマクロ的撮影にも便利なだけに、活用の幅の大きさを感じたシーンだ。
撮影地04:恩原湖(79枚)
にぎやかな夏のひまわり畑から一転静寂の湖畔へ。岡山県北、山懐にある恩原湖は、四季の表情を様々な視点で撮影できる場所。ここでは、ピンポイントで撮影できる白樺並木を、この日のべた凪の天候を生かし、水辺のリフレクションともに撮影した。
撮影地05:鳥取砂丘(293枚)
今回どうしても撮影したかった鳥取砂丘。日本最大級の広大な砂丘では、工夫次第で望遠レンズの圧縮効果を使ったダイナミックな作品を撮ることができる。時は夕暮れ。馬の背に立つ人をシルエットにて捉え、ファンタジーな1枚を狙った。
16:45|砂の壁と戯れる人々(498枚目)
鳥取砂丘の馬の背を駆け上がる観光客。遠く離れた場所から超望遠レンズの圧縮効果を生かすことで、より急激な斜面を駆けあがっているかのようなトリックフォトが生み出された。面として捉えることで丘を登る人との対比が面白い。
撮影地06:水島コンビナート(139枚撮影)
夕景撮影後、夜の撮影地に選んだのは工場夜景。鳥取砂丘から車で約3時間半。ここ岡山県の水島コンビナートは西日本有数の工場夜景の聖地だ。暗闇に包まれた空の下、工場群のメタリックな明かりが、運転で疲れた私を元気づけるかのようにきらびやかに出迎えてくれた。
撮影地07:JR江崎駅~須佐駅(139枚)
翌日の撮影エリアに選んだのは、日本海側、山陰本線の鉄道風景。日の出前の時間帯、最初のスポットにスタンバイ。中国山地の山懐、のどかな田園風景に囲まれたローカル線ならではのロケーションを一番列車が駆け抜けていく。
撮影地08:折居海岸(24枚撮影)
鉄道撮影における名所から名所へ。ここ折居海岸も、真っ青な海岸線を走る列車を撮影できる人気スポットだけに、望遠レンズを使って、個性的な作品作りにチャレンジ。PLフィルターを生かして色を引き出し、一瞬で通り過ぎる車両をいかにぶらさず撮影するかがポイントとなる。
かなりのスピードでフレームインしてくる車両を、素早い反応で認識。AF性能の良さを実感できた瞬間でもある。近距離での撮影になるので、通過する列車がぶれないようシャッター速度を1/1600秒以上に設定しておくことも重要だ。
◇ ◇ ◇
切り取ることで感じてもらう私の世界観と風景のスケール
イメージした風景をひたすらに追いかける私の撮影スタイルは、状況に応じて撮影プランがどんどん変化していき、日々体力勝負になることが多い。山を登り、海辺を走り、緑の中でじっと粘る。一歩先に踏み込むことで見える世界が変わり、そうして生まれた作品が私自身の個性を作り上げてきた。
そんな私の機材選びでは、解像感に加え、小型・軽量という要素は大切なポイントの1つ。機材の機動力があったからこそ、生み出せた作品も数多く存在する。
RF100-400mm F5.6-8 IS USMを持った際、想像以上の軽さに驚いた。EFマウントからRFマウントへと機材を乗り換えていく過程で、ミラーレスEOSの軽量化への恩恵は十分に感じていたが、レンズとボディ(EOS R5)で約1.4kgのサイズで超望遠域の400mmまで使えることに、あらためて驚きを感じた。同仕様のEFレンズと一眼レフボディでの組み合わせに比べて約1kgも軽くなる計算だ。
さらに気に入ったポイントはエクステンダーに対応していること。AF撮影が可能で、強力な手ブレ補正機能も有するので、RF2x使用時の800mmでも気軽に手持ち撮影ができることは、撮影の幅を大きく広げてくれるように感じる。
風景の撮影で超望遠を使うメリットは、ロケーションの持つユニークな地形を強調できることにある。鳥取砂丘の起伏や、大山のシルエット、日本海に沈みゆく夕日など、大きく引き寄せることで見出せる特徴的なフォルムは、時に広角で捉えた風景の全景よりも、見る人にその場所の持つ魅力を訴える。足を使って自分の感じた土地の印象を切り出す。RF100-400mmはそんな超望遠撮影の楽しみを、その手軽さでもってあらゆる人に届けてくれるレンズではないだろうか。
また、仕事柄撮影することが多い鉄道風景も、被写体まで数百mから数km離れた場所から撮影することが大半なだけに、望遠レンズは必須だ。この軽さと手持ち撮影で切ることの自由度を考えると、どんどん撮影イメージが膨らんでいく。EOS R5とRF100-400mm F5.6-8 IS USMは超望遠の撮影フィールドが広がる感覚になるシステムだ。それを実感する1泊2日の撮影旅だった。
合計撮影枚数:971枚
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社
現場写真:八木千賀子