【新製品レビュー】キヤノンEOS 7D
キヤノンEOS 7Dのリリースが去る10月2日に開始された。同社APS-Cサイズ機の最上位に位置し、価格帯も含めニコンD300Sと真っ向勝負のカメラだ。
これまで最上位を担っていたEOS 50DをはじめとするEOS二桁機は、突出したところこそないものの、そつのないスペックや操作性、デジタル一眼レフカメラとしては比較的手頃な価格であることなどから多くのユーザーから長年支持されている。しかし、ライバルのD300S/D300にくらべると、AFやAEなどの機能やカメラとしての作り込みにやや物足りなさを感じ得なかったのも正直なところ。機能の出し惜しみなどといわれることが多いのも否めなかった。
EOS 7Dは、持てる技術のすべてを惜しげもなく搭載し、道具としての官能性にまでこだわったカメラである。執筆時の大手量販店におけるボディ単体価格は、18万8,000円。
■大幅に機能アップしたAF周り
まず、機能的に目新しさをはっきりと感じるのがAFだろう。フォーカスフレームは19点。全てF5.6対応の縦横クロスセンサーで、中央はさらにF2.8斜めクロスセンサーが加わりデュアルタイプとなる。
測距エリアの選択は「1点AFモード」と「自動選択モード」のほか、フォーカスフレームをゾーンとして5分割し、その中から任意でひとつを選択する「ゾーンAFモード」が加わる。ゾーンは上下左右と中央に分けられ、使用するフォーカスフレームの数は上下左右のゾーンを選択したときが各4点、中央のゾーンが9点となる。1点AFモードよりも広い範囲で測距を行なうため確実な被写体補足を可能としており、スポーツや鉄道などAIサーボAF(=コンティニュアルAF)を使用した動体撮影ではたいへん具合のよいモードだ。なお、AIサーボAFはカステム機能で、フォーカスエリアを横切るような被写体に対し、AFの敏感度を5段階に設定できるようになった。
1点AFモードでは、「領域拡大AF」と「スポットAF」の選択も可能だ。領域拡大AFは選択したフォーカスエリアから被写体が外れても上下左右のフォーカスエリアがアシストを行なうもので、スナップや風景などの撮影では非常に便利に感じられる。ちなみに、作例の撮影のほとんどはこの領域拡大AFで撮影している。スポットAFは通常の1点AFモードよりもさらに狭い範囲で測距を行なう。檻のなかにいる動物のような被写体の撮影に適している。
さらに、領域拡大AFとスポットAFを含む1点AFモードおよびゾーンAFモードでは、カメラのタテ位置とヨコ位置で、それぞれあらかじめ設定しているフォーカスエリアに自動的に切り換わる機能も備えている。ポートレートなどタテ位置とヨコ位置とでは使用するフォーカスフレームの位置が違うような撮影では重宝しそうだ。これらのAFシステムはこれまでのキヤノンデジタル一眼レフカメラになかったもので、従来からのEOSユーザーは大きく進化したことを真っ先に実感するはずだ
フォーカスフレームを横切るような被写体に対し、AFの追従度の調整が可能となった。「遅い」に設定すると元々狙っている被写体を捕捉し続ける確立が高く、「速い」に設定すると横切った被写体を捕捉する確立が高くなる | 実際に使うと複雑怪奇に思える「測距エリア選択モードの限定」設定画面。もう少し分かりやすくする工夫が必要だろう |
カメラをタテ位置に構えたときとヨコ位置に構えたときの場合で、それぞれあらかじめ設定しているフォーカスエリアに自動的に切り換えることも可能としている |
直接目で確認することはできないが、AEも大きく変わった。iCFL測光システムと銘打ったそのデバイスは、縦2層構造による63分割の測光センサーを備え、19点AFによる測距情報と色情報も加味した露出制御を行なう。フォーカスエリアからの位置情報を露出に反映した測光システムは何ら珍しいものではないが、EOS 50D/40Dの35分割測光などよりも正確で安定した露出が得られるという。
実際、作例をはじめとする撮影で、被写体と背景の明暗比が大きく異なるようなシーンに幾度となくカメラを向けているが、露出補正をしなくても思ったような濃度の画像が得られたことには驚かされた。これまでのつもりで露出補正を行なうと、却って失敗してしまうこともありそうだ。なお、露出補正は±5段まで可能としており、多彩な撮影意図に対応する。
■視野率100%、倍率1.0倍のファインダー
スペック的に魅力ある光学ファインダーを備えるのもEOS 7Dの特長のひとつ。視野率100%、倍率1.0倍を誇る。パソコンでの鑑賞やプリントを考えると、このクラスのカメラでも100%の視野率は正直欲しかったところ。倍率は、EOS 50D/40Dのファインダーと数字的には 0.05倍と僅かな違いしかないが、アイピースを覗くと意外にもその差は大きい。フルサイズのファインダーには到底およばないものの、これまでのAPS-Cサイズ機よりも広々と感じられる。
また、ファインダーにはキヤノンでは初となる透過型液晶を採用しており、フォーカスフレームやグリッドラインなどを表示する。特にグリッドの表示は、これまでのEOSシリーズでは専用のスクリーンを別途用意する必要があったが、その手間も費用もかからない。同じく透過型液晶のフォーカスフレームを応用した水平・前後の傾きの「2軸水準器機能」も搭載される。ファインダーを覗いたまま、水平が合わせられるのは便利だ。前述の多彩なAFモードの搭載も、この透過型液晶なしには成り得なかったといえる。
数字的には完成度の高いファインダーだが、このカメラの一番のウィークポイントもこのなかに存在する。フィルムのEOSシリーズ時代から綿々といわれ続けているピントの山の掴みづらさが相変わらずなのだ。ピント位置の確認しやすいスクリーンであるほうがAF、MF問わず使いやすい。また、AFに頼ることがほとんどでも、合焦後にMFで微調整を行なうこともあるだろう。そんなときピントの合っている部分がキリッと際立ち、デフォーカスとなった部分が明確にボケるキレのよいスクリーンでなければならない。官能性にもこだわったというEOS 7Dだが、なぜかスクリーンの見え具合には無頓着。悔やまれてならないというより、またかと個人的には落胆してしまったところだ。
EOS-1D系と同じタイプのアイカップ。ファインダーの見え具合にこれまでのものとさほどの違いはない。APS-Cサイズのフラッグシップモデルであることの証し!? | ファインダーの透過液晶の採用により、グリッド表示がメニューからできるようになった。使い勝手は実によい。 |
液晶モニターは3型約92万ドットだが、これまでと異なるのがソリッド構造を採用していることである。これは表面の強化ガラスと液晶パネルの隙間に光学弾性体といわれる特殊な樹脂を充填し、空気の層を無くすことで反射を抑え外光下での見やすさを向上させている。ソニーの一部のデジタルフォトフレームにも採用されており、デジタル一眼レフカメラへの搭載は初となる。もともとコントラストの高い液晶だが、明るい屋外でもクッキリとしてたいへん見やすく感じられた。また、外光に合わせて液晶モニターの輝度を調整する「液晶明るさ自動調整機能」を搭載。再生画像確認では最初に検知した環境で明るさが固定されるので、閲覧の途中に指などが外光センサーを塞ぎ、輝度が変わってしまうことがないのは便利だ。
内蔵ストロボには、トランスミッター機能が装備される。これまでカメラから離れたところにあるストロボを発光させるには、専用のトランスミッターST-E2かトランスミッター機能を内蔵するスピードライトをカメラ本体に装着しなければならなかったが、その必要が無くなり最小限スピードライトが1灯さえあればちょっと凝ったライティングを手軽に楽しめる。内蔵ストロボの照射角は焦点距離15mmをカバーするととともに、調光補正の範囲も内蔵ストロボ、外付けストロボともこれまでの±2段から±3段に広がった。
内蔵ストロボにはトランスミッター機能が備わる。カメラから離れた位置にあるスピードライトを発光させるためにトランスミッターST-E2や同機能を内蔵するスピードライトをカメラに装着しなくて済むようになった。 |
■強力なカスタマイズ性能
操作系はEOS 5D Mark IIをベースにしながらもいくつかのボタンが変更および追加されている。まず、それまでサブ電子ダイヤルのロック機能と兼用であった電源ボタンが独立しモードダイヤル脇に移動。視認性がたいへんよくなった。カメラを構えファインダーを覗いてはじめて電源がOFFになっていることを気づくようなこともなくなるはずだ。
ライブビューON/OFFと動画録画スタート/ストップを兼用するボタンを一体とするライブビュー/動画撮影専用スイッチも新たに搭載され、こちらも操作性が向上している。EOS 7Dを初めて手にした人でもライブビューや動画撮影に迷うことはないだろう。クイック設定専用ボタンも独立したものとなり直感的に操作することができる。
JPEGもしくはRAW設定時に、パートタイムでRAWとJPEGどちらも撮影するワンタッチRAW+JPEGボタンも備わる。露出やホワイトバランスの決定が難しくRAWで撮影しておきたいときや、手離れのよいJPEGフォーマットが急遽必要なときなど重宝しそうである。さらに、シャッターボタンとメイン電子ダイヤルに挟まれた位置にあるマルチファンクションボタンは、FEロック/ワンタッチRAW+JPEG機能/電子水準器のいずれかの機能を割り当てることができる。他のボタンも同様だが、今後EOSシリーズ全体に波及していくはずだ。
シャッターボタンとメイン電子ダイヤルの間にマルチファンクションボタンが新たに備わる。FEロック/ワンタッチRAW+JPEG/電子水準器のいずれかを割り当てることが可能だ。液晶パネル脇に並ぶ4つのボタンもこれまで以上に外装部より飛出している | モードダイヤル。当然のことながらピクチャーモードは、ない。電源のON/OFFボタンは適度な大きさで操作性、視認性ともよい |
“Q”と書かれているのはクイック設定ボタン、その右横はワンタッチRAW+JPEGボタン、アイピースのラバー下部にある3つの穴は動画再生用のスピーカー。アイコンは直接ボタン上に印刷される | 画面左上にあるのはライブビュー撮影/動画撮影スイッチ。その中にスタート/ストップボタンを備える。AFスタート、AEロック、AFフレーム選択の各ボタンはこれまでよりも大きく、外装面より大きく飛出している |
画面中央下はサブ電子ダイヤル専用となったスイッチ。サブ電子ダイヤルはこれまでよりもかなり右に寄った位置に配置される。その斜め左上の丸いボタンのようなものは液晶モニターの明るさを調整するための外光センサー | 操作ボタンのカスタマイズも可能。キャプチャーはカスタムファンクションボタンの割り当てを水準器に設定した際の画面 |
絞り優先AEおよびシャッター速度優先AEの露出設定時のダイヤル回転方向を変えられるようになった。ニコンデジタル一眼レフと同時に使用することを考えてのことなのだろうか | これまでカスタム機能のなかにあったオートライティングオプティマイザの設定項目は、撮影メニューへ移動している。ちなみに高輝度側・階調優先は変更がなくカスタム機能の中となる |
細かなことだが、ボタンの形状などもEOS 7Dでは変更されている。カメラ背面部のメニュー系ボタンは大きくかつ外装面と同じ高さとなる。背面部右上とカメラ上部液晶パネル周囲に並ぶ撮影系ボタンはこれまで以上に外装面より突出しており、差別化と操作性の向上が図られている。なお、ボタン、レバー類の周りなどにはシーリング部品を組み込むなどEOS 5D Mark IIに準じた防塵防滴構造ボディを採用する。
動画記録は最大1,920×1,080ピクセルのフルHDに対応する。最大フレームレートはフルHD時が30fps、1,280×720ピクセルおよびSD時が60fpsで、いずれも外部マイクを使用すればステレオによる音声記録も可能。マニュアルによる露出制御にも対応しており、大口径レンズによるボケ味をフルに活かした撮影やハイキー、ローキーな映像表現を可能としている。動画機能をおまけ程度に考えてしまうにはもったいないほどのカメラである。
不思議に感じられたのが、高輝度側・階調優先とオートライティングオプティマイザの同時使用ができなくなっていることだ。EOS 5D Mark IIは発売当初、両機能を同時に使用するとオートライティングオプティマイザの効果が大幅に低下する現象が現れ、その後ファームアップで改善された経緯があるだけに残念。どちらの機能ともダイナミックレンジが拡大される反面、ノイズレベルが低下するなどのデメリットを持ち合わせていることや、コントラストの調整が上手くいかないことが理由のように思われるが、真実は不明である。
■ユーザーの想いを具現化したカメラ
最後に主要スペックを改めて紹介したい。まず、撮像素子は有効約1,800万画素の新開発CMOSセンサーを搭載。現時点でのAPS-Cサイズのセンサーのなかではもっとも多画素で、ニコンD300S/D300の有効約1,230万画素を大きく凌ぐ。是非はともかくとして、画素数競争により拍車がかかりそうだ。画素ピッチは4.3μmとなる。画像処理エンジンには、こちらも新開発のデュアルDIGIC 4を採用する。多画素化によるデータの増大に対応するとともに、最高8コマ/秒のコマ速を実現している。RAW(14bit)でもこのコマ速に変更はない。最高感度は常用でISO6400、拡張機能でISO12800まで可能としている。
EOS 7Dは、これまでのEOS二桁機ユーザーがあったらいいなと思っていたことを実現したカメラである。AFやAE、ファインダーなど、ライバルとするニコンD300S/D300にまったく引けをとらないといってよい(ピントの山の掴みやすさだけはニコンに明確なアドバンテージがあるが)。同社の持つ技術の粋を集め官能性にもこだわったつくりは、長く愛着を持って使えるとともに、EOSシリーズの今後の在り方を示唆するものといえる。このクラスのAPS-Cサイズデジタル一眼レフが俄然面白くなってきそうだ。
スロットは従来どおりシングルタイプとなる。ニコンD300Sのようにデュアルタイプであったならカメラの完成度は増したことだろう | バッテリーはEOS 5D Mark IIと同じくLP-E6を使用。CIPA準拠による撮影可能枚数の目安は、光学ファインダー使用時で約800枚(常温時)となる |
インターフェースにはHDMI端子も備わる。外部マイク端子はステレオ対応だ。音声サンプリング周波数は48KHz | RAWのサイズはこれまでの「RAW/sRAW1/sRAW2」から「RAW/M-RAW/S-RAW」と表示が変わった。こちらのほうが分かりやすい |
水平と前後の傾きに対応する2軸電子水準器を新たに装備する。ライブビューおよびEOSムービー撮影時にも表示することが可能。また、ファインダー内にはフォーカスフレームを応用した水準器も搭載される。 |
■作例
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
●ISO感度
・高感度撮影時のノイズ低減:しない
・高感度撮影時のノイズ低減:弱め
・高感度撮影時のノイズ低減:標準
・高感度撮影時のノイズ低減:強め
●オートライティングオプティマイザ
標準 EOS 7D / EF-S 15-85mm F3.5-5.6 IS USM / 約5.4MB / 5,184×3,456 / 1/40秒 / F8 / 0EV / WB:オート / 15mm | 強め EOS 7D / EF-S 15-85mm F3.5-5.6 IS USM / 約5.5MB / 5,184×3,456 / 1/40秒 / F8 / 0EV / WB:オート / 15mm |
●高輝度側階調優先
●自由作例
EOS 7D / EF-S 15-85mm F3.5-5.6 IS USM / 約5.1MB / 5,184×3,456 / 6秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 15mm |
2009/10/19 19:09