【新製品レビュー】ニコンD300S
D300Sは、有効1,230万画素のCMOSセンサーを搭載するDXフォーマット機。名前からも想像できる通り、2007年11月から発売されているD300のマイナーチェンジモデルだ。D300からの主な変更点を列挙すると、動画撮影機能の搭載、ライブビューボタンの装備、カードスロットがCFカードとSDメモリーカードのダブルスロットになったこと、カメラ本体での連写速度が6コマ/秒から7コマ/秒へとアップしたことだろうか。ほかにも、細かな変更点が多数見られるが、これについては後ほど紹介していきたい。
また、画質に関してはメーカーのリリースを見る限り、D300から特に高画質化したという記述は見られない。
■新たに動画機能を搭載
動画撮影機能はD90やD5000に搭載されているものと同じ、1,280×720ピクセルの720pのハイビジョンムービーで、記録形式はAVIとなっている。コントラストAFに対応しており、新たに動画撮影中でもAF作動ボタンを押すことで、AFによるピント合わせを行なうことができるようになった。
ただし、コントラストAFの合焦速度は決して速いとはいえず、ピント合わせ中にフォーカスレンズが大きく前後に動くこともあり、あまり快適とはいえない。かといって、撮影中はフレームの一部を拡大表示することもできないので、MFによる正確なピント合わせは至難の業だと感じた。できることなら、動画に特化したレンズをラインアップするとともに、コントラストAFの高速化を望みたいところである。
またD300Sでは、外部マイクを装着することでステレオ録音もできるようになった。本格的な動画撮影なら外部マイクを取り付けるという手もあるだろうが、どうせなら、内蔵マイクでもステレオ録音してくれればと思うのは筆者だけだろうか。
ライブビュー機能に関しては、液晶モニター右部にライブビューボタンを装備したことで、グッと使いやすくなっている。D300、D700、D3、D3Xなどは連写や単写などの切り替えを行なうレリーズモードダイヤルを回すことでライブビューへの切り替えができるようになっていた。D700ではファンクションボタンへライブビューの切り替え動作を割り当てることができるようになったのでまだ良かったのだが、それ以外のモデルでは、通常撮影とライブビュー撮影を行ったり来たりするような使い方ではかなりまどろっこしさを感じた。やはりライブビューは専用のボタンで切り替えるのがベストだ。
ニコンのライブビューで一つ気になるのが、MFで正確なピント合わせをするために、画面の一部を拡大した際、シャッターボタン半押しで通常の全画面表示に戻ってくれない点だ。拡大したままシャッターボタンを押すと、フレーミングを確認することなく撮影を行なうことになってしまう。拡大をやめて通常表示に戻すためには、縮小ボタンを押さなくてはならない。この縮小するというワンアクションが筆者にはどうもなじめない。
ライブビューモードで便利になったと感じる点は、水平方向の確認ができる水準器機能の搭載だ。残念ながら垂直方向は確認することができないが、それでもライブビュー中に構図を確認しながら、水平をきっちりと取れるのは便利だ。
動画撮影の画面表示。16:9での撮影では、上下にトリミングされ記録されない部分も暗転表示されている |
動画の記録形式はMotion JPEG(AVI形式)。1280×720ピクセル(16:9)のほか、640×424ピクセルと320×216ピクセルが用意されている。また、録音設定も内蔵マイクの感度設定などを行なえるようになっている |
ライブビュー撮影ではフォーカスエリアを拡大表示できる。ただし、拡大表示時にシャッターボタンを半押しにしても全画面表示には戻らないため、フレーミングを確認してシャッターを切りたい場合には、OKボタンを押して全画面表示に戻す必要がある | ライブビュー撮影時にも水準器を表示することが可能。infoボタンを押すことで、表示内容が切り替えられる |
■CFとSDHC/SDメモリーカードのダブルスロットに
D300SではカードスロットがCFとSDHC/SDメモリーカードとのダブルスロットになった。D3系はCFカード2枚差しが可能なダブルスロットだが、D300SはCFとSDHC/SDメモリーカードのダブル。ダブルスロットをフル活用するためには、2種類のカードを持ち歩かなくてはならないことになるが、逆にいえば、どちらか一方のカードがあれば、撮影には困らないということになる。
ダブルスロットでは、順次記録のほか、両方に同じデータを書き込むバックアップ記録、RAWとJPEGを別々のカードに書き込むRAW+JPEG分割記録も選べる。さらに、動画撮影時は空き容量の多いカードに書き込むという設定も可能だ。また、細かな変更点ではあるが、D300には存在したスロットカバーの開閉レバーがなくなっている。
ボタン周りの変更点では、ほかにもインフォボタンが独立装備されていたり、マルチセレクターの形状変更がなされていたりする。マルチセレクターは、D700やD3と同じタイプとなり、中央ボタンが独立したものとなった。急いでマルチセレクターを操作したときなどでも確実に中央押しができるのはありがたい。
D300SとD300を並べたところ。前面だけ見るとほとんど変わりがないように見える |
だが、背面に関してはマルチセレクターのボタン形状やライブビューボタン、infoボタンの新設など細部に違いが見られる |
HDMI出力端子はD300(右)のType Aから、D300S(左)ではHDMIミニ端子へと変更された | CFとSDHC/SDメモリーカードのダブルスロットを採用 |
2種類のメモリーカードを差した場合、どちらを主スロットとするかをメニューから選択しておける。また、副スロットをどのように利用するかの設定もできる |
ダブルスロットの採用により、ボディ上面の表示パネルにおけるカード表示もダブルになっている。もちろん、どちらか一方だけを差している場合は、そのカードのマークが点灯する | 使い勝手が一番変わったと感じるのは、ライブビューボタンの装備だろう。ボタンを押すことで通常撮影とライブビュー撮影が切り替わる。動画の撮影を行なうときも、ライブビュー表示にしておく必要がある |
連写速度に関してだが、D300の約6コマ/秒からD300Sでは約7コマ/秒になっている。筆者はあまり連写をすることはないのだが、露出ブラケティングを行なうときなどは、連写モードにしてシャッターボタンを押しっぱなしにしたりする。手持ちでブラケットをすることも多いので、そういうときには、少しでも連写速度が速いほうがありがたい。といっても、D300の6コマ/秒でも不満を感じることはなかったのだが。ちなみに、別売のマルチパワーバッテリーパック「MB-D10」を装着した場合の最高速度はD300SもD300も8コマとなっている。
撮影モードにはQモードというものが新設された。いわゆる静音モードである。シャッターボタンを離すまではミラーダウンが行なわれなわれないため、少しでもカメラの動作音を小さくしたいというシーンでは有効だろう。
細かな変更点としては、内蔵スピードライトが16mmまで対応となった。D300では18mmだったが、わずかに広角に強い照射角となっている。これはAF-S DX NIKKOR 16-85mm F3.5-5.6 G ED VRを採用したレンズキットをラインアップしたことによる対策なのだろう。
バッテリーはLi-ionリチャージャブルバッテリーEN-EL3e 1個とD300から変更はない | レリーズモードダイヤルを「Q」の位置にセットすると静音撮影モードとなる。Qモードでは、レリーズ後、シャッターボタンを離すまではミラーダウンの動作が行なわれない |
D300と同様、内蔵ストロボのガイドナンバーは12(ISO 100相当・m)。だが、照射角が16mmまでと拡大された(D300は18mmまで) |
また、アクティブD-ライティングの設定に「オート」と「より強め」が増え、「しない」も含め6種類から選べるようになった。カメラ任せで気軽に撮影したいというユーザーにとってはオートが追加されたのは喜ばしいことだろう。
さらに、シーン認識機能を利用して、画像再生時に人物の顔を自動拡大してくれる機能も搭載された。人物を撮影した場合の多くは、顔にピントを合わせるだろうから、顔を一発で拡大してくれるのは便利だ。
D300からの変更点ではないのだが、ピクチャーコントロールの種類は初期設定で「スタンダード」、「ニュートラル」、「ビビッド」、「モノクローム」の4種類となる。D300などと同様、「ポートレート」と「風景」はWebサイトからダウンロードして、追加することもできる。だが、D300発売当初はポートレートも風景も用意されていなかったのだから、ダウンロードによる追加はいたしかたないと思うが、D300Sなら最初から搭載してくれていてもいいのではないだろうか。現に、D90、D5000、D3000など最近のモデルは、ポートレートも風景も初期設定に含まれているのだから。メーカーのアナウンスによると、D300Sの絵作りはD300から変更はないという。この一環として、ピクチャーコントロールの種類もD300の初期設定に準じているのかもしれないが、ちょっと腑に落ちないという気もする。
最後に画質についてだが、今回の撮影では貸し出し期間も短く、D300との比較は夜景の感度別撮影しか行なっていない。感度ごとの画像を比較して見る限り、基本的な絵作りには共通点を感じるが、D300Sの画像のほうがわずかにノイズが少なくなっているように見える。特にISO200から1600では夜空の描写がきれいになっていると感じる。といっても、ごくわずかな違いで、別モデルの画質というレベルではない。
アクティブD-ライティングの設定に「オート」と「より強め」が増え、6種類から選択できるようになった | ピクチャーコントロールはスタンダード、ニュートラル、ビビッド、モノクロームの4種類。風景とポートレートはニコンイメージングのWebサイトからダウンロード、インストールすることとなる |
■まとめ
D300というカメラはDXフォーマットのフラッグシップ機として鳴り物入りで登場したモデルだ。それだけに、現役モデルとして画質にもなんら不満のないカメラといえる。だからこそ、D300Sの画質もこれと同じレベルか、わずかな進化でもいいのかもしれない。とはいえ、1年半以上経ってリニューアルされるモデルとしては、画質に関してももう少し明確な進化が感じられる仕上がりになっていてもよかったのではという気もする。
まとめになるが、D300Sというモデルは、絵作りなどの基本性能に関してはD300と同じで、それに動画機能が付加され、さらにライブビューやアクティブD-ライティングなどがより使いやすくなったカメラということだろう。D300SとD300、どちらがよいかと聞かれればもちろんD300Sということになるが、D300ユーザーが買い換えをするほど劇的な変化はないというところかもしれない。
縦位置グリップを兼ねるマルチパワーバッテリーパック(MB-D10)。縦位置でも操作しやすいように、マルチセレクターやメイン/サブコマンドダイヤルも縦位置用に装備されている |
マルチパワーバッテリーパック「MB-D10」には、Li-ionリチャージャブルバッテリー EN-EL3e1個を装着できるカートリッジと単3形電池8本用のカートリッジの2種類が付属する。EN-EL4aを装着するには、別売のバッテリー室カバー「BL-3」が必要 |
■作例
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
・ISO感度
D300SとD300のどちらも、ISO800まではほとんど目立ったノイズはない。だが、同じ感度で比較をしてみると、D300Sのほうが夜空にみえるノイズの量が明らかに少ないことが分かる。
メーカーの発表によると、両機種の画像処理、画質に違いはないということなので、もしかすると個体差なのかもしれない。だが、今回のテスト結果によると、D300Sのほうがわずかに高感度ノイズが少ないということがいえそうである。
・長秒時ノイズ低減
長秒時ノイズの低減に関しては「する」と「しない」の2種類が用意される。金属部分のグラデーションを見ると、「する」に設定した画像のほうが明らかにノイズは少ない。ただし、少しシャドー部の締まりが弱くなっているようにも感じる。
・アクティブD-ライティング
D300SのアクティブD-ライティング機能は、「しない」、「弱め」、「標準」、「強め」、「より強め」、「オート」の6種類。
「しない」と「弱め」の画像を比べると、露出値は変わらないが、「弱め」のほうがわずかにハイライトがねばる描写となっている。また、「標準」から「強め」、「より強め」となるに従って、露出値は低めとなる。つまり、露出量でハイライトの飛びを抑える方向に働くということ。ちなみに、この作例では「オート」は「強め」と同じ露出値となった。
・ピクチャーコントロール
ピクチャーコントロールの種類は、初期設定で「スタンダード」、「ニュートラル」、「ビビッド」、「モノクローム」の4種類。
スタンダードに比べると、ニュートラルは彩度が低いだけでなく、コントラストも低くなる。逆にビビッドは彩度、コントラストともに高めとなる。今回の作例では、アクティブD-ライティングの設定を「オート」にしてあったが、「しない」に設定すれば、カスタムピクチャーコントロールとして、コントラストと明るさも微調整できるようになる。
※共通設定:D300S / AF-S DX NIKKOR 16-85mm F3.5-5.6 G ED VR / 約8.9MB / 4,288×2,848 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 16mm
ピクチャーコントロール:スタンダード | ピクチャーコントロール:ニュートラル |
ピクチャーコントロール:ビビッド | ピクチャーコントロール:モノクローム |
・自由作例
D300S / AF-S DX NIKKOR 16-85mm F3.5-5.6 G ED VR / 約4.5MB / 4,288×2,848 / 1/50秒 / F5.6 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 85mm |
・Dムービー
ライブビューボタンを押し、背面液晶にライブビュー映像を映し出している状態で、マルチセレクターの中央ボタンを押し込むと動画撮影がはじまる。撮影開始前に被写体にピントを合わせるには、コントラストAFでも十分に感じるが、撮影中のAFはかなりフォーカスが前後に行き来するのが気になってしまう。レンズのAF駆動音も録音されてしまうので、撮影中の基本はMFと考えておいたほうがよいだろう。
136.avi(クリックするとダウンロードを開始します) 1,280×720 / 24fps / 35.4MB /AVI(Motion JPEG) |
137.avi(クリックするとダウンロードを開始します) 1,280×720 / 24fps / 18.3MB /AVI(Motion JPEG) |
2009/8/11 00:00