新製品レビュー

撮影後にアングルが変えられる…360°カメラ搭載ドローン「ANTIGRAVITY A1」の表現力を検証

“まるで鳥になる”圧倒的な没入感の飛行体験

ANTIGRAVITY A1(以下、A1)は、世界初の8K 360°カメラを搭載したドローンで、Insta360が関わる新ブランド「Antigravity」から登場したモデルだ。今回、A1を試す機会をいただいたので、使用感についてお伝えする。

筆者は2014年からドローンにさまざまな可能性を感じ、撮影用として大型機から小型機まで使ってきた。現在も複数のドローンを仕事用に所有し、撮影に使用している。物理的に地上からは撮影が難しい大きな建物の撮影はもちろん、屋外から建物全景を撮って、そのまま屋内に入っていくようなイメージ映像なども、ドローンのおかげで簡単に行えるようになった。今ではドローンなしではなかなか仕事にならないこともあるほど、その恩恵を感じている。

360°カメラを搭載したドローン

今回試用したA1は、筆者が所有しているようなジンバルとカメラを搭載した一般的なドローンとは異なり、機体自体に360°カメラを搭載している。

重量は249gで、2種類のバッテリーが用意されている。39分飛行可能なものと24分飛行可能なもので、サイズは同じだが容量が異なる。機体は手のひらサイズで持ち運びもしやすく、一般的なカメラバッグにも収まるサイズだ。専用バッグには、機体やコントローラー、充電器、ゴーグルを含めてすべて収納できる。

機体の底面
容量は異なるが、外形寸法が同じ2種類のバッテリー
専用バッグ
ドローン収納ケース
専用バッグに1式を収めた様子

基本的にA1はVISIONゴーグルを装着して飛行する。そのVISIONゴーグルは340gと軽量で、片目あたりの解像度は2,560×2,560と非常に高精細だ。パンケーキ型の光学系と1インチのマイクロOLEDディスプレイを搭載しており、これを装着すると200インチ相当の大画面を体験できる。さらに視度調整は+2D~-5Dに対応しており、普段メガネを掛けていても追加レンズを購入せずに使えるのはうれしい。ちなみに筆者は-4.25Dだが、そのまま対応できた。

VISIONゴーグル
VISIONゴーグルのレンズ部
視度調整ダイヤルがついている。ゴーグルの外側には、操縦者が見ている風景が表示される
microSDカードスロットを搭載しているため、自分が見ている映像を記録することもできる

コントローラーは、いわゆるラジコン型の送信機ではなく、ジョイスティックタイプのグリップコントローラーを採用している。このグリップコントローラーについては、後ほど操作感も紹介したい。

グリップモーションコントローラー

操作は“感覚的”

実際にA1を飛行させた感想だが、これまで体感したことのないような感覚に驚かされた。まるで鳥になったような気分で、かつて飛ばしてきた一般的なドローンとはまったく異なる感覚があり、表現の幅も広がると感じた。

まず、没入感が素晴らしい。360°カメラとVISIONゴーグルにより、ドローンのあらゆる方向をリアルタイムで確認できる。加えて、VISIONゴーグルのOLED表示が非常に美しく、映像に強く引き込まれる。操作感もこれまでのドローンとは大きく異なり、筆者にとってジョイスティックでの操作は初めてだったが、驚くほど簡単だった。

一般的なドローンでは、機体の上昇・下降、前後左右の移動、回転などを両手のスティックで操作するため、難しくはないがある程度の慣れは必要になる。その点、A1は離着陸も自動で行え、2つのスティックモードで操作できる。

操作風景

フリーモーションモードでは、進みたい方向を指し示すだけでその方向へ飛んでくれる。トリガーを引きながら、画面に表示される枠の方向を変更するだけだ。飛行中も頭を動かすだけで好きな方向を見ることができる。

FPVモードでは、もう少し「自分で操縦している」感覚が得られる。手首を少しひねるだけで機体の制御が可能で、こちらも直感的だ。どちらのモードも、初めてドローンを飛ばす人でもすぐに習得できるだろう。ドローン撮影でここまで簡単に複雑な飛行操作をこなせるとは思わなかった。感覚的に自由に飛ばせるのは本当に驚きだった。

ドローン経験のない人向けには、フライトシミュレーターでトレーニングできるのも良い点だ。さらに、360°の全方位確認に加え、前方障害物センサーも備えるため、実際の飛行でも安全性に配慮されている。障害物が近づくと警告表示に加え、障害物までの距離も表示されるので安心感がある。メニュー構成も分かりやすく、直感的にさまざまなセッティングが可能だ。

多彩な映像表現が可能に

飛ばすこと自体はとても簡単だが、シネマティックな表現や被写体追尾には多少のテクニックが必要になる。しかしA1には、自動で設定した撮影を行う「スカイジーニー」機能も搭載されている。アークショットやスパイラル上昇など、8種類の空撮ムーブを使うことが可能だ。実際に「遠ざかり飛行」を試してみたが、被写体を指定し、「遠ざかり飛行」のパラメーターで高度と速度を決めるだけで、自動で飛行してくれた。

遠ざかり飛行

螺旋飛行は一般的なマニュアル操作ではテクニックが必要だが、A1であれば、螺旋上昇パラメーターで時計回りか反時計回りを決め、速度を設定するだけで簡単に行える。

また、「スカイパス」を使えば、ウェイポイントを決めるだけで同じルートを飛行することも可能だ。時間帯を変えて同じルートを飛ばしたい人にも役立つ機能だろう。

スカイパス

さらに、被写体を追従する機能もしっかり搭載している。ディープトラックモードでは、コントロールグリップを使って被写体を選択すると、あとは自動で追従してくれる。そのため、操縦者は360°ビューを楽しむことも可能だ。精度も高く、被写体との距離をしっかり保ちながら追従してくれるので、便利だと感じた。

トラッキング

難しいとされるドローンの離着陸も簡単だ。特に着陸は慣れが必要な操作だが、A1は自動着陸が可能。別売のランディングパッドを使うことで、A1が自動でパッドを認識し、正確な自律着陸ができるようになる。実際に使用してみたが、とても便利だった。

A1がパッドを認識すると「着陸脚パッドを認識しました」と表示されるので、「着陸脚パッドに着陸」を選択すれば自律着陸してくれる。精度も高く、しっかりと中央に降りるので、機体を傷つけることなく着陸できる。機体が小さいA1は、芝の上ではプロペラと草が接触する可能性もあるため、ぜひ使ってほしいアイテムの1つだ。

動画だけでなく、静止画撮影にも対応している。360°の静止画撮影は簡単で、ワンショットで全周囲を記録できる。撮影した静止画は専用ソフトのANTIGRAVITY STUDIOを使うことで、編集時にさまざまな表現が可能だ。通常のパノラマはもちろん、360°ならではの全景表現など、用途に合わせて見せ方を変えることができる。

静止画の切り出し工程

撮影した動画も静止画もANTIGRAVITY STUDIOで手軽に編集でき、360°ならではの機能を活かした表現が可能だ。被写体を追尾したり、一方向のビューにしたり、シーンに合わせてビューの方向を変えたりと、自由自在に調整できる。説明書を読まなくても扱えるほど、シンプルで直感的に操作できるソフトウェアだと感じた。

動画のアングルも自由に調整

まさに“新時代のドローン”

今回、新時代の幕開けに等しいANTIGRAVITY A1を試用し、ドローンの未来を感じることができた。撮影後に自由にフレーミングをしたり、没入感のある飛行を体験したりと、これまでにない楽しみ方ができる機体だと感じた。

一方で、A1を日本で自由に飛ばすには、現状ではかなりハードルが高い。まず、100g以上の機体になるため、機体登録が必要だ。そして、リモートIDを発信する必要もある。ここまではDIPS(ドローン情報基盤システム)で登録・設定を行えばよく、それほどハードルは高くない。だが、飛ばせる場所も限られるため、どこでも飛ばせるわけではない点には注意が必要だ。特に、飛行ルート下に第3者がいないことの確認や、道路、住宅などの周辺環境の確認は重要になる。今回はドローン飛行場のあるキャンプ場で飛行させた。

最もハードルが高いのは、ゴーグルを装着して飛ばすA1が目視外飛行にあたり、許可が必要になる点だ。DIPSで申請を行い、補助者を付ける必要もある(一部例外あり)。そのため、1人で飛ばすのはかなり難しい。筆者の場合は、全国包括許可と目視外飛行の許可があり、さらに補助者を立てたうえで管理された土地だったため、飛行させることができた。

とても魅力的な機体だからこそ、安全面への配慮は当然必要だ。ただ、もう少し飛ばしやすい環境が整えば、この素晴らしい体験をより多くの人が味わえるようになるのではないかと感じた。

作例動画
作例動画の編集工程
上田晃司

フォトグラファー/映像作家。米国サンフランシスコに留学し,写真と映像を学び,CMやドキュメンタリーを撮影。帰国後,写真家塙真一氏のアシスタントを経て,フォトグラファー,映像作家として活動開始。新しい技術をいち早く取り入れ,写真や映像表現に活かしている。2014年頃からはドローンを取り入れた撮影も行っている。現在は,雑誌,広告を中心に,ライフワークとして世界中の街や風景を撮影。講演や執筆活動も行っている。YouTubeチャンネル「写真家上田晃司の旅とカメラ」でカメラや旅について情報を発信中。ニコンカレッジ講師、LUMIXアカデミー講師、Hasselbladアンバサダー2015、プロフォトトレーナー。