新製品レビュー
キヤノンEOS-1D X Mark II(外観・機能編)
デジタル一眼レフ最速の“秒間14コマ”連写を体感
Reported by 礒村浩一(2016/5/25 08:00)
キヤノンから発売されたデジタル一眼レフカメラ「EOS-1D X Mark II」は、同社が展開するデジタルカメラのなかでも最上位に位置するフラッグシップカメラだ。主にプロカメラマンが使用することを想定し、過酷な撮影状況にも耐えうる堅牢性や防塵防滴、40万回のシャッター作動耐久など信頼性の高さに秀でる。キヤノンのフイルム一眼レフカメラの頃のフラッグシップ機「EOS-1」の正統な後継機といえる。
EOS-1D X Mark IIの撮像素子には、前機種となるEOS-1D Xと同じく35mm判フルサイズ相当のCMOSセンサーを搭載している。ただし画素数はEOS-1D Xの約1,810万画素から約2,020万画素へとアップされた。またEOS 80Dにも採用されているデュアルピクセルCMOSセンサーを、フルサイズセンサー搭載機として初めてこのEOS-1D X Mark IIにも採用。ライブビュー時のAFの高速化を図っている。
EOS-1D X Mark IIの外寸と重量は約158.0×167.6×82.6mm、約1,530gと、EOS-1D Xのそれら(約158.0×163.6×82.7mm、約1,530g)とほぼ同等(CIPA基準。電池・記録メディアを含む)。手に持った時のサイズや重さの違いはほとんど感じられない。ただグリップ形状が若干細めへと変更になったことで、手の小さい人でもより深く握りこめるようになった。
デジタル一眼レフカメラ最高速の連写スピード
EOS-1D X Mark IIでは、最高秒間12コマを誇ったEOS-1D Xをさらに凌ぐ、最高秒間14コマのAF/AE追従での高速連写を可能としている(ライブビュー撮影時は最高秒間16コマ。AF/AEは1コマ目に固定)。これは新開発の低ショックミラー駆動方式、CMOSセンサーからの高速な信号読み出し、および新映像エンジンDIGIC 6+の2基搭載といった、先進的な技術を惜しみなく投入したことによる成果だ。
高速連続撮影時の様子
まるで何かの羽音のようにも感じる軽やかなシャッター音。相対的にEOS-1D Xの高速連続撮影時のシャッター音よりも静かに感じる。これだけの高速連写にも関わらず手に伝わる振動も少ない。また、RAW+JPEG同時記録での撮影だがCFast 2.0カードへの書き込みは驚くほどの速さだ。JPEGラージのみであればカードの容量がいっぱいになるまで途切れることなくシャッターを切れる。(高速連写のテスト目的のためマニュアルモード、MF、レンズ絞り開放、シャッター速度1/2,500秒、ISO100)
新センサー採用によるAF機能の強化と測距エリアの拡大
EOS-1D X Mark IIはAF機能の面でも、EOS-1D Xより強化されている。AFセンサーは新開発されたものとなり、光学系とアルゴリズムを再構築することで、基本性能を大幅に向上させたという。
測距点の数は61点と以前と変わりないが、測距エリアは上下に拡大された。これによりファインダー内における測距可能なエリアが、EOS-1D Xに比べ周辺測距点が最大約24%、中央部が最大約8%広がり、より構図の自由度があがった。
AFの進化は測距可能なレンズの開放絞り値にも反映されている。EOS-1D Xでは開放F8になるレンズに対応できるのは中央1点のみ(ファームウェアVer.1.1.1以降)だったが、EOS-1D X Mark IIでは全測距点で開放F8になるレンズでのAF測距が可能となった。これは、例えば開放絞りF4のレンズに2倍エクステンダーを合わせることで、開放絞りがF8となる場合などに有効だ。なお中央の21点はF8でのクロス測距に対応している。
61点の測距点のうち、最大41点(F4.0+F5.6:20点、F5.6+F5.6:21点)のクロス測距が可能。さらに中央部の5点はF2.8レンズを使用すればより敏感なAFが可能となるデュアルクロス測距点となっている。また、中央部の測距点1点は-3EVの低照度でもAFが可能となった(EOS-1D Xは-2EVまで)。
測距エリア選択モードでには、これまでの「スポット1点AF(任意選択)」「1点AF(任意選択)」「領域拡大AF(任意選択上下左右)」「領域拡大AF(任意選択周囲)」「ゾーンAF(ゾーン任意選択)」「自動選択AF」に加え、全測距点を中央ゾーン、右ソーン、左ゾーンの3ゾーンに分割する「ラージゾーンAF(ゾーン任意選択)」が追加された。
高速連写&AIサーボAF作例
自転車ロードレースにて、直線の下りコースを全速力で向かってくる選手。おそらくおよそ時速60kmにも達していると思われる。これをAIサーボAFで捉えながら秒間14コマの高速連写で撮影。時間にしておよそ1秒ちょっとの間に16コマを撮影できた。フォーカスもほぼ追尾している。測距エリアはラージゾーンAF(中央)。
このように更なるAF測距点選択の自由度が広がったEOS-1D X Mark IIだが、これに加えて被写体を個別に認識、判別することでより効果的にフォーカスを行う仕組みが搭載されている。そのひとつが、被写体の色や人物の顔を認識することで優先的にフォーカスを行う「EOS iTR AF」である。
EOS iTR AFはEOS iSA System(後述)が検知した被写体の色や形・人物の顔を認識することで、その動きに合わせて測距点を乗り移らせてフォーカスを合わせ続けるようにするものだ。EOS-1D Xにも搭載された機能であったが「10万画素RGB測光センサー」で認識していたものが、EOS-1D X Mark IIでは「約36万画素RGB+IR測光センサー」に刷新された。これにより従来より小さな顔でも検知することが可能となり、「自動選択AF」と「ラージゾーンAF」「ゾーンAF」 において威力を発揮する。顔を認識できない場合には色や形を認識してフォーカスするという。
これに加えてEOS-1D X Mark IIでは被写体の動きに合わせてAFを駆動するAIサーボが、AIサーボAF IIIからAIサーボAF III+へと進化した。AF駆動アルゴリズムを見直すことで、近付いてきた被写体が急速に離れていくといった動きに対応できるようになったという。
さらに手ブレ補正機構(IS)が搭載されたキヤノン純正の対応レンズを使用した際には、レンズのIS用ジャイロの加速度センサーによって、カメラの動きが被写体を追いかけている挙動なのか、そうでないのかを判断し、AF測距点の乗り移りを制御するという。まさにプロの撮影現場の声を反映させた結果といえる。
撮影シーンを解析し、最適な設定を自動選択
EOS-1D X Mark IIには撮影シーンや被写体の種類を色、形、輝度の情報からリアルタイムで解析する「EOS iSA System」が搭載されている。約36万画素RGB+IR測光センサーから得られる情報をもとに、最適なオートホワイトバランス、オートピクチャースタイル、オートライティングオプティマイザをカメラが自動的に選択することで、より魅力的と思われる画像を記録することができる。
白熱電球などの光の赤みを活かす「オート(雰囲気優先)」のホワイトバランスも、温かみのある表現には効果的だ。また、蛍光灯などの光源下で撮影する際に、蛍光灯の明滅によるフリッカー現象を検知して、それによる露出ムラや色ムラを抑制してくれる「フリッカーレス撮影」も搭載されている。
次回、フィールドでの実写レポートをお届け
前機種であるEOS-1D Xが発売されたのが2012年6月。それから約4年の期間が経ち、オリンピックイヤーである今年2016年4月に発売されたEOS-1D X Mark IIには、驚くほどの高速連写や新開発のAFセンサーが惜しみなく搭載されている。それは今更語るまでもなくリオデジャネイロオリンピック・パラリンピックでの活躍を想定して作られたものだ。それだけに、ライバルであるニコンD5ともどもメーカーの渾身の1台であることは間違いない。
次の実写編では、新しくなったAFおよび高速連写の実力を実践的なフィールドテストで検証。EOS-1D X Mark IIの約2,020万画素へとアップされた解像度や、高感度特性に迫る実写レポートをお送りする。