ハイエンドスキャナー2機種のフィルムスキャン性能を試す

Reported by 種清豊

 カメラボディやプリンターなどに比べると、フィルムスキャナーはやや地味な存在であることは否めない。最近、SDメモリーカードスロットを備えた低価格フィルムキャナーを見かけるようになり、トイカメラなどで撮影したフィルムをパソコンなしでデジタル化する潮流がでてきたものの、本格的な利用を考えると、現状ではフラットベッドタイプでフィルムスキャン機能を備えたものを利用するのがベターだろう。国内コンシューマー向けのフラットベッドスキャナーでメジャーなメーカーはエプソンとキヤノンの2社に絞られ、フィルムスキャン機能を備えたものはキヤノンで3機種、エプソンで4機種となっている。

エプソンGT-X970。実勢価格は5万4,980円前後。光学解像度6,400dpi。35mmから4×5インチまでのスキャンに対応するキヤノンCanoScan 9000F。実勢価格は2万5,980円前後。光学解像度は9,600dpi。35mmフィルムとブローニーフィルムに対応

 当然スキャン速度などについては数年前のスキャナーに比べれば格段に速くなり、操作性も簡略化され機械に不慣れな人でも使いやすくなっている。またスキャン時に重要になってくるゴミおよびキズ処理も進化を遂げている。

 フィルム資産がある人や、現在進行形で増えている人にとって、フィルムスキャナーは必要不可欠な存在なのかもしれない。フィルムでの撮影を多く行なう写真愛好家にとって、スキャナーは明室で手軽にネガやポジをサムネイル化し、プリントを楽しめるアイテムだ。聞くとスキャナーを導入してから、昔撮影した写真を改めてデジタル化し作品作りを行なっているカメラマンもいるようだし、銀塩フィルムで撮影した過去の作品をデジタルデータ化するニーズも多い。

 今回、エプソン「GT-X970」とキヤノン「CanoScan 9000F」の2機種を試用する機会に恵まれた。ともにフラットベッドスキャナーのフラッグシップであり、フィルムスキャン機能についても充実している。操作性、画質、速度などにポイントを絞って検証してみたい。


4×5インチまで対応するエプソン「GT-X970」

 エプソンGT-X970は2007年9月に発売された同社A4フラットベッドスキャナーの最上位モデル。35mmフィルムやブローニーフィルムに対応するのはもちろん、4×5インチフィルムにまで対応する点が特徴だ。また、連続スキャンコマ数が多い点もメリット。具体的には35mmスリーブ24コマ、ブローニー8コマ(645)を一度にスキャンできる。

エプソンGT-X970。USB 2.0のほかにIEEE 1394a端子も備えている

 フィルムホルダー使用時の光学解像度は6,400dpi、ライバルCanoScan 9000Fの9,600dpiに見劣りする数値に見えるが、A3程度が一般的な最大プリントサイズとすると、実用上は充分すぎるスペックである。なお、蛍光ランプのウォームアップがあるので、スキャン開始までに約30秒程度の時間が必要。高速起動を売りとするCanoScan 9000Fに、この点は一歩リードされた格好だ。

フィルムホルダーの使用例。35mmストリップ35mmマウント
ブローニーフィルム4×5インチフィルム

 スキャンは「EPSON SCAN」というアプリケーションから行なう。こちらも「スキャン」アイコンをクリックすれば自動で読み取り且つ保存を実行してくれる。フィルムサイズなど細かな設定を行なう場合は、ホームモードもしくはプロフェッショナルモードに切り替える。画像の調整も両モードから行なう。

 フィルムスキャンに必須ともいえるゴミ処理技術には、赤外線を利用したコダックのDigital Iceを使っている。また個別にカラーバランス、濃度調整などが可能。逆光補正やアンシャープマスクなどの項目もあり、またDigital Iceとは別に、「ほこり除去」機能による処理も可能である。

 ブローニーに関して、一度にスキャン処理するコマ数がCanoScan 9000Fに比べて多いのはメリット。大量のフィルム資産をデジタル化したい人には重要なスペックだろう。また、最大枚数をスキャンした場合はもちろんCanoScan 9000Fより遅くなるが、同じコマ数、同じフィルムで比較した場合、1コマ当たりほぼ似たような時間での処理が確認できた。今年発売されたCanoScan 9000Fと違い、発売から約3年経つ機種であることを考えると優秀な結果といえる。

スキャンの設定と操作はEPSON Scanから行なうホームモードでの設定画面プロフェッショナルモードでの設定画面
プレビュー画面
調整項目の例

9,600dpiのCanoScan 9000F

 今年7月に登場したCanoScan 9000Fは、光学解像度がフィルム読み取り時9,600dpiとハイスペック。また、高輝度白色LEDの採用でスキャン前のウォームアップが不要になったため、スキャン開始までの時間が大幅に短縮されたのも特徴だ。

キヤノンのCanoScan 9000F。パソコンとの接続はUSB 2.0で行なう

 スペック上、解像度9,600dpiでのスキャンが可能であるが、当然データ容量も大きくなり、そこまでの高解像度かつ高精細をフルに発揮できるフィルムを使うことがあるのか疑問だが、スキャン後のレタッチ本位での諧調度優先を意識したスペックなら納得できる。35mmフィルムスリーブで最大12コマ、ブローニーフィルムで4コマ(645)を連続スキャンできる。GT-X970より少ないのは残念だ。

 ゴミ・キズ除去にはキヤノン独自のFARE Level3という技術が導入されている。Digital Iceと同様に赤外線を使う方式。フィルムを赤外光でスキャンして凸凹を探し、ゴミを凸、キズを凹と認識。凸凹は周りの色を解析して自動で消す。物理的に赤外光をあててゴミを探している分、高精度に処理ができるという。

フィルムホルダーの使用例。35mmスリーブ35mmマウント
ブローニースリーブ

 スキャンはキヤノンのアプリケーション「MP Navigator EX」から行なう。アイコンなども簡略化され、反射原稿、35mmフィルムのスキャンは画面の指示通りに進むことで、簡単にスキャンが可能。シンプルな操作になっている。

MP Navigator EXの起動画面細かい設定は行なえないが、とにかく簡単に35mmフィルムをスキャンできる

 ただ、ブローニーフィルムのスキャンを行なう場合や、画像処理やゴミ・キズ処理の可否など、細かな設定を行ないたいときは、スキャナドライバーとして提供されている「ScanGear」からの処理となる。反射原稿をスキャンするだけならMP Navigatorでいいが、フィルムがメインであれば、ScanGearを使ってスキャンするのが良いだろう。

 Scan Gearの操作は複雑ではなく、項目ごとのチェックボックスをクリックする作業がメイン。また個別にカラーバランス、コントラスト、ヒストグラムなど5つのパラメーターボックスを呼び出すことも可能なので、スキャン時にある程度補正した状態で写真を保存できる。輪郭強調や褪色補正、逆光補正も個別に操作でき、後に別のソフトを使わずとも細かな画像処理が行なえるのは便利だ。ただ各パラメータを操作してのスキャンは、単純にスキャンを行なう場合に比べ処理速度がかなり増してしまうところは注意が必要である。

ScanGearの設定画面。こちらは詳細な設定が可能
プレビュー画面調整項目の例

甲乙付けがたい画質

 参考までに実際のスキャン速度の比較結果を記しておく。いずれも同一のフィルムを使用し、1,200dpiでスキャンした。GT-X970はスキャンと同時に保存も実行している。

フィルム種別機種名スキャン速度
モノクロネガ120GT-X970(6コマ)約3分30秒
CanoScan 9000F(3コマ)約1分20秒
カラーリバーサル120GT-X970(6コマ)約4分
CanoScan 9000F(3コマ)約50秒
モノクロネガ135GT-X970(12コマ)約6分30秒
CanoScan 9000F(12コマ)約6分20秒
カラーネガ135GT-X970(12コマ)約8分15秒
CanoScan 9000F(12コマ)約3分30秒

 また、実用上35mmフィルムでA3程度まで引き伸ばしを考えた場合に充分であろう、4,800dpiで比較を中心に行なってみた。いずれもJPEGファイルに再保存している。

  • 作例のサムネイルをクリックすると800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
GT-X970(リバーサル35mm)4,800dpiCanoScan 9000F(リバーサル35mm)4,800dpi
GT-X970(モノクロネガ35mm)4,800dpiCanoScan 9000F(モノクロネガ35m)4,800dpi
GT-X970(リバーサル6×6cm)4,800dpiCanoScan 9000F(リバーサル6×6cm)4,800dpi
GT-X970(モノクロネガ6×6cm)4,800dpiCanoScan 9000F(モノクロネガ6×6cm)4,800dpi

 この条件で甲乙をつけるのは難しく、筆者個人としてはどちらも満足いく結果になった。スキャン速度とともに、インクジェット複合機のスキャン機能に対して、確かな差を感じる部分だ。

 次はゴミ取り機能の比較。

GT-X970(Digital Iceオフ)1,200dpiGT-X970(Digital Iceオン)1,200dpi
CanoScan 9000F(FARE Level3オフ)9,600dpiCanoScan 9000F(FARE Level3オン)1,200dpi

 両者ともフラッグシップスキャナーということで、その画像再現性は大変優れている。また、自分では綺麗にしたつもりでもフィルムには静電気などで細かなゴミが付着していることも多く、それらをしっかり除去してくれるのもありがたい。速度についても1コマ単位でのスキャンであればそれぞれかなり高速といえるだろう。一度にスキャンできるコマ数、サイズやデザイン性、速度などいろいろな要因が両者の比較対象になるが、現在のところ、少なくとも両者にはっきりとした優劣をつけるのは難しいのが正直な感想だ。

 なお現在、店頭での実勢価格に3万円ほどの開きが見られ、CanoScan 9000Fの方が廉価に入手できる。ブローニーフィルムの現行ユーザーや、ブローニーフィルムのデジタルアーカイブを考えている人は、一度にスキャンできるコマ数が多いGT-X970の価値をどうとらえるかが重要になりそうだ。

 たくさんのフィルムをスキャンするのは面倒で時間のかかる作業ではある。しかし今回実際に使ってみることになり、改めて昔のフィルムを見返していくと、今一度フィルム資産での作品作りができるのではないかと思えてきた。今までのフィルムが眠っている写真愛好家はもちろん、最近フィルムで撮影をはじめたという方にも、ここはインクジェット複合機のスキャン機能ではなく、フラットベッドスキャン専用機での処理をぜひともおススメしたい。

フィルムスキャン対応の下位モデル、エプソン「GT-X820」。6,400dpiでブローニーまで対応。実勢価格は2万9,800円前後4,800dpiのキヤノン「CanoScan 5600F」も35mmのスキャンに対応している。実勢価格は1万9,980円前後




種清豊
(たねきよ ゆたか)1982年大阪生まれ。京都産業大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、写真家竹内敏信氏のもとで約3年間のアシスタントを経て、2007年よりフリーランスに。主に日本各地に残る明治、大正、昭和初期のクラシックな素材から現代の街まで幅広く撮影中。また人物撮影や、東京の下町の祭も撮影。キヤノンEOS学園講師、NPO法人フォトカルチャークラブ講師。ブログはこちら

2010/12/24 16:08