新製品レビュー
TAMRON 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD
コンパクトながら高い描写力を備えた7倍ズーム
2020年7月3日 12:00
タムロンからソニーEマウント・フルサイズ・ミラーレスデジタルカメラ用の交換レンズとして6月25日に発売されたばかりの高倍率ズームレンズ「TAMRON 28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」(Model A071)のレビューをお届けする。
外観と操作部のデザイン
本レンズは広角端28mmから望遠側200mmまでの焦点距離をカバーするズームレンズだ。ズーム比は約7倍と高倍率ながら、絞り値がF2.8からのスタートとなっている点、軽量コンパクトに仕上げられている点がポイントだといえる。サイズと重量は、全長が117mm、質量は575gだ。
構成レンズには特殊硝材のレンズが贅沢に使われており、諸収差を大幅に抑制するとともに、画面周辺部まで高画質な描写を実現しているという。
最短撮影距離は広角端で0.19m、望遠端で0.8mと近接撮影も可能。フィルター径は、同社が展開する他のEマウント用レンズと同じ67mmで統一されている。
AF駆動にはステッピングモーターユニット(RXD)が用いられており、高速かつ精密なAF制御に対応している。鏡筒は簡易防滴構造を採用しており、レンズ前面には防汚コートも施されている。
レンズ繰り出し量の比較。左から28mm、70mm、100mm、200mmの順番。約7倍の高倍率ズームレンズとしては繰り出し量が比較的少ない。
移動時などで不意にレンズが繰り出してしまうことがないように、ロックスイッチが設けられている。広角端28mm側で固定できる。
作例
それでは、さっそく作例を見ていただこう。なお、撮影は緊急事態宣言解除および移動制限解除後に実施している。
梅雨の晴れ間に訪れた鎌倉の名刹にて。逆光での撮影だったが、前ボケも背景のボケも美しく色にじみも見られない。自然な描写だ。望遠側200mmで最短撮影距離は80cmなので、近接撮影にも向いているレンズだと感じる。
開放F2.8で紫陽花の額に思いっきり寄ってみたが、この条件でも描写力は高い。
中間焦点距離で撮影。光の角度によっては若干二線ボケに見える部分もあるが、これだけの難しい逆光状態であれば、むしろキラキラした美しい玉ボケとして捉えられるので気になることはないだろう。
子どもたちのポーズがかわいくて撮影。スナップでは小さいレンズの使い易さは、やはり大きい。自粛解除されたばかりの浅草寺の参道だが未だ人出は少なく、土産物屋の幼い子どもたちにとっては良い遊び場となっていた。
開放から1段だけ絞ったF4で撮影したが、暗い場所の手持ち撮影でも充分見応えある解像力があると感じる。本レンズは手ブレ補正機構を搭載していないが、今回組み合わせたα7R IVでは、しっかりとボディー側が手ブレを抑制してくれた。
F16まで絞って画面全体をパンフォーカスに近い状態にした。近距離にある石灯籠から奥に見える本願寺本堂の壁面に至るまで克明な描写となっており、α7R IVの解像性能を十分に引き出していることがわかる。
手前にある壺の蓋部分にフォーカスし、28mmで絞りを開放にしてボケの効果を引き出した。後方になるほど大きなボケで奥行き感のある表現ができる。
木の葉の間から午後の強い陽射しへ向けて逆光撮影してみたが、BBARコーティングのおかげかフレア・ゴーストの影響も少なく、耐光性能も充分に高いレンズだと実感される。
錠前にフォーカスを合わせ、標準域となる約50mmでF5.6まで絞って撮影。錠前と錆びた扉板のピントがビシっときている部分はカリッと克明だが、離れるにしたがって豊かなグラデーションを描いてボケていくのが確認できる。
開放F5.6で室内のランプにフォーカス。室内外の双方を1枚の画面に収めているため、明暗差の大きい条件だが、こうした場面でも暗部から明るい場所までのディティール表現は見事だ。
橋の上から広角で隅田川を撮ろうとしてカメラを構えたところに絵になる人たちが乗ったクルーザーが高速でやってきた。すかさず望遠側にズームしてシャッターを切った。AFの合焦も速く、レンズ交換などする時間もない、こうした場面では高倍率ズームの利便性を強く感じる。
佃小橋は昔から何度も撮影して来た昭和と平成(令和)が混在する風景。赤くペイントされた欄干から高層マンションまでをパンフォーカスで収めた。色・質感ともにリアルな描写だ。
久しぶりに訪れた佃島は古い家屋の建て替えが進んでおり、昔ながらの懐かしい昭和のイメージが失われつつあった。そんな中、路地の片隅にひっそりと取り残された消火器を見つけた。
逆光は高倍率ズームレンズのウイークポイントとなる場合が多いけれども、本レンズはそうした心配が少ない。安心して構図に集中できるところがうれしい。
かわいい灯台は湘南海岸。ほぼ無限遠に近い遠景にある赤い灯台をブロック塀の隙間から捉えた。手前にある塀もソフトな前ボケで味わえる。
鎌倉・鶴岡八幡宮へとのびる若宮大路の参道を散策する人々。動く被写体であっても素早いAF動作で、しっかりと捉えてくれる。今回はスナップだが、全身のポートレートだとこのくらいの距離感なのでボケ具合などを参考にして頂ければと思う。
最短撮影距離が19cmであるため、28mmでもしっかり寄った撮影が可能だ。明るい開放F値とのあわせ技で背景を大きくボカしながら、蕾の先端部分をグッと立体的に見せることも容易である。
焦点距離を100mmにセットし、逆光となる条件を試した。若干のフレア・ゴーストは見られるものの、レンズ特性を考慮すれば充分に合格ラインだろう。
ワイドな画角をいかしつつ画面全体をボかして人物だけを立体的に描写しようと、絞りを開放F2.8にしてフェンスにもたれた男性だけにフォーカス。
1日の終わりの空を美しく染めあげる光の線にレンズを向けた。人と鳥と夕暮れ時の逆光を遠く富士山の見えるいつものあの場所で。
まとめ
質量575g、全長117mm。最初に手にした瞬間に感じたのは高倍率ズームでありながら、掌にフィットする感じの心地よさだった。筆者の手は男性としては小さな方なのだが、それでも左手の中にちょうど良いサイズで包み込めたので、おそらく女性でもそこまで大きいと感じることはないのではないか、と思えるほどコンパクトなサイズ感でまとまっている。冒頭の製品比較カットでも確認できるように、焦点距離を広角端28mmから望遠端200mmまで繰り出してもそれほど長くは延びない。このことは、撮影時のホールディングのしやすさにも直結していて、使い勝手の良さを引き出すことにつながっている。以下、本レンズのポイントをあらためてピックアップした。
筐体の構造
ズーミングした時のレンズ繰り出し量が少ない設計だからなのか先端部が軽いからなのかは分からないが、高倍率ズームレンズの弱点としてありがちな「望遠側へズーミングするとガタツク」という現象もなく、組み立て精度の高さの良さは特筆すべきだと感じる。
フィルター径も他の同社Eマウント用ズームレンズと共通の67mmが採用されているため、シリーズで揃えていく場合でも、フィルターをサイズ違いで用意する必要がなく経済的なメリットが得られる。レンズ交換時にキャップの装着に戸惑うことがない、というところもポイントだ。
描写性能
特殊レンズとしてLDレンズやXLDレンズを使用することで諸収差の抑制と高い画質性能を実現したという同社のアナウンスにあるとおり、高倍率ズームとは思えないくらい、その画質は高い。今回、かなり厳しい逆光条件での撮影も試しているが、BBARコーティングの採用もあってか、通常使用レベルでは、こうした厳しい状況でも描写力に不満を感じることは少ないと言えそうだ。
AF性能
AF駆動にはステッピングモーター「RXD」(Rapid eXtra-silent stepping Drive)が使用されている。駆動音を感じることなくスムーズかつ正確に合焦するAF制御は、操作音が憚られるシーンでも強い味方になってくれることと思う。速度面でも、ほとんどの場面で合焦が遅いと感じることはなかった。
今回は時期的に新型コロナウイルスの関係でなかなか人物撮影が出来ずスナップショットの作例となったが、開放絞り値は最も暗い200mm側でもF5.6でのボケ味も充分素晴らしいことが確認出来たので、標準域50mmでF3.5、中望遠の100mmでF4.5といった風に、旅行先でのポートレート撮影などに使っても楽しいと思う。
高倍率ズームといえば昔からタムロンのお家芸のような部分もあるのだが、本レンズもまた「世界初のF2.8スタート、高倍率ズーム」と謳っているだけあって、F2.8と明るい開放F値スタートでありながら望遠側は200mmまでの焦点距離を持つ7倍ズームでありながら高い描写力、かつ小型軽量で近接撮影にも強いという、良いところがこれでもかと詰め合わされた、豪勢な幕の内弁当のような高倍率ズームレンズとしてまとめあげられている。